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パンズ・ラビリンス /
El Laberinto del Fauno /
Pan's Labyrinth /
The Labyrinth of the Faun /
Pans Labyrinth /
Le Labyrinthe de Pan /
Il Labirinto del Fauno

Guillermo del Toro

2006 Mexiko/Spanien/USA 119 Min. 劇映画

出演者

Doug Jones
(Pan - 羊の妖怪)

Ariadna Gil
(Carmen Vidal - 大尉と結婚する仕立て屋の未亡人)

Ivana Baquero
(Ofelia - カルメンと仕立て屋の娘)

Sergi López
(Vidal - 大尉)

Maribel Verdú
(Mercedes - 大尉の女中)

Álex Angulo
(Ferreiro - カルメンの世話をする医者、民間人)

César Vea
(Serrano - 大尉の部下)

Roger Casamajor
(Pedro - 抵抗運動をする村民)

Juanjo Cucalón (村長)

Lina Mira (村長の妻)

Mila Espiga (医師の妻)

見た時期:2007年2月

残酷シーンがあるので、未成年には向きません。ネタはばらしません。

ここからSFを何本か入れるつもりだったのですが、急遽変更。ファンタジー映画になりました。メキシコ人監督の作品です。

★ デル・トロ監督と長年の友人たち

デル・トロは私のお気に入りの監督でこれまでに

・ ヘルボーイ
・ ブレード 2
・ デビルズ・バックボーン

を見ていました。パンズ・ラビリンス は4本目。

まだ抜けていて、そのうち是非にと思っているのが

・ ミミック
・ クロノス

さらに、制作だけですが

・ タブロイド

にも関わっています。デル・トロ・スタイルの出せない作品なので、恐らくは制作の主旨に賛同して制作だけに参加したのでしょう。

個性派俳優ロン・パールマンとデル・トロは、スコシージとデニーロのような関係で、ツーと言えばカーのようです。少なくとも1993年から知り合いで、クロノスブレード 2に次ぎ、50代のパールマンを遂に ヘルボーイでは史上最年長のスーパーヒーローにしてしまいました。私はパールマンのファンで、あの図々しそうな笑顔が大好きです。前に書きましたがその2人にまとめて会うことができ、言葉を交すという光栄な1日が私の人生にありました。2人の関係はまだ続きそうで、ヘルボーイの続編が予定されています。

デル・トロ監督は日本対する関心の高い人で、私と交した言葉の半分以上が日本語でした。というのはあるアニメの主題歌を日本語で歌い出したからです。私は呆気に取られてしまいました。挨拶もきちんと日本語でできる人でした。関心は単に日本語を話すというだけでは無く、映画に日本の要素を取り入れます。今回見たパンズ・ラビリンス(牧羊神の迷宮という意味)には音楽に日本の大きなお寺で聞かれるお経の合唱に似たものが取り入れられていました。

前評判のいい作品で、ラジー賞からは相手にしてもらえず、カンヌで1つノミネート、アカデミー賞では脚本、外国語映画賞(イーストウッドと争いになっていないので、受賞の可能性あり)、撮影賞、美術賞、メイク賞、音楽(作曲)賞の6つノミネート。何か1つぐらいは取れそうです。ゴールデン・グローブではイーストウッドに敗北してのノミネートですが、外国語映画賞、スペインのゴヤ映画祭では13部門ノミネート、7部門受賞と圧倒的な強さを示しています。なぜかベルリン映画祭には来ていません。

彼はファンタに好かれる監督で、クロノスが1992年にすでにファンタに参加、ヘルボーイの年にはわざわざ監督、主演2人をベルリンに連れて来て、そのおかげで私が3人と言葉を交すことができたというエピソードがあります。ファンタに出る作品の大半はベルリン映画祭からは相手にしてもらえないという事情があるので、先方の方でも承知していたのかも知れません。私個人としてはヘルボーイ 2 ができたらまた3人、あるいは4人でも5人でも招待してもらいたいところです。

デル・トロ監督は行き当たりばったりに映画を作るのでなく、必ず《これはデル・トロ作品だ》と判子を押している人です。パンズ・ラビリンスにはクロノスミミックの流れをくむシーンがあるという記事を見かけましたし、ヘルボーイをはっきり思い出させるシーンも出ます。そういう視点で見るとデビルズ・バックボーンがやや例外的な作り方と言えるかも知れません。

出演者はほとんどがスペイン人。映画全体がスペイン語なので当然です。私はドイツ語の吹き替えで見ました。中でデル・トロ組からの出演をしているのがタイトルにもなっている羊の妖怪。ダグ・ジョーンズです。私は妖怪の体の動きを見て、おやっと思いました。妖怪の役ではジョーンズの顔は見ることができません。それなのにどこかで見覚えがあると思わせたのですが、後で調べて見ると何と、ヘルボーイでやはり顔を全く見せない役をやっていたのです。彼とデル・トロ監督の付き合いも少なくとも10年。そしてパンズ・ラビリンスでは主演にしてしまいました。無論オフェリアかメルセデスを主演と見る考え方もあるでしょうが、ダグ・ジョーンズの役はタイトルになっています。

ジョーンズは俳優活動を始めた初期の頃から比較的名の知れた作品に顔を出しています。ファンタジーやSFの出演が多いようで、私もいくつか見ています。おもしろいのは、最近 The Cabinet of Dr. Caligari でチェザーレの役を貰っている点。オリジナルの The Cabinet of Dr. Caligari は何度も見ましたが非常に個性のある作品です。その中でもチェザーレは特に目立ちます。

私が見たジョーンズの出演作はざっとこんなところで、

・ Doom/ドゥーム
・ ヘルボーイ
・ ふたりにクギづけ
・ アダプテーション
・ メン・イン・ブラック2
・ タイムマシン
・ Mystery Men

テレビ・シリーズCSIのラスベガス版にも顔を出しています。これを見ても分かるようにデル・トロ監督は初期の頃に協力してくれた俳優を大切にするようです。彼の作風にはやっつけ仕事というトーンが無く、隅々まで気配りがされているのですが、それは人脈でも言えるようです。デル・トロ作品に以前にも出演したスペイン語系の俳優も数人出ています。

物語はあまり詳しく言わない方がいいのですが、ティム・バートンのスリーピー・ホロウを思わせる大きな木が出て来ます。そして、その下に大きな地下の世界があるので、スリーピー・ホロウと似ているのですが、映画を見ると「絶対に真似してないぞ」と言える大きなスタイルの違いがあります。

日本人として欧州にいると、キリスト教の知識の無さも感じますが、ギリシア神話やローマ神話の知識の無さも感じます。パンと言うとこちらの人はすぐピンと来るのですが、私は乗り遅れます。

パン(Παν)というのはギリシア神話に出て来る神で、解釈によっては日本人が妖怪に持っているイメージと似ています。完全な人間ではなく、動物と人間が混ざったような姿。人間以上の能力を持っていて、それはファンタジーの世界。そしてキリスト教のような完璧な神ではなく、争ったり、しくじったり、欲張りだったり、怒りっぽかったりと、実に人間的な性格を持っています。

パンは上半分が人間、下は山羊の脚。頭、顔は山羊に似ていて、セックスが大好きな性格。午後は木陰で昼寝をするのが大好き。邪魔をされると切れて、神でない人間や動物を驚かせるので、パニックという言葉ができています。職業は羊と羊飼いの監視。ローマ神話ではファウヌスと呼ばれるので、スペイン語のタイトルではファウノとなっています。

ドビュッシーの牧神の午後への前奏曲はこのパンの音楽です。

★ ストーリー

第2次世界大戦があと1年弱で終わるという頃のスペイン。スペインは他の国と違い、1975年のフランコの死まで近隣の国と全く違う政権が続いたのですが、フランコは一筋縄では行かない人で、第2次世界大戦中はヒットラーの誘いを事を構えずに上手に断わり続け、スペインは参戦していません。戦後も外交が巧みで独裁政権と言われながら50年代に国連に加盟しています。とにかく世渡りの上手な人で、王家とも常識では考えられないような話のつけ方をし、70年代に入る直前にホワン・カルロスを後継者にするまで王室を牛耳っていました。結局国民の間に大きな不満がありながら、フランコが病死するまで誰も追い出すことはできませんでした。パンズ・ラビリンスで描かれるのはそのフランコがいる時代で、まだ戦後には入っていない時期。スペイン一般の人に取っては最悪の時代と言える時期です。

色々な事情があってカルメンという未亡人が村に駐屯している軍の大尉と再婚することになります。彼女は元々は仕立て屋の奥さんで、娘が1人。子供を抱えて暮らして行くのが大変と思い、お世辞にも優しいと言えない大尉との結婚を決意します。大尉の方は彼女にはほとんど関心が無く、関心事と言えば生まれてくる息子のことだけ。男か女か分かる時代でないのに、生まれて来る子供は男の子と頭から決めてかかっています。

村は貧しく、しかも現政権への抵抗運動が行われており、時折軍との間に銃撃戦も起きます。大尉は人柄が冷たく残酷で、容疑があるから殴ったり拷問をするのか、あるいは拷問を楽しみたいから容疑者を残酷に扱うのか、部下にもその辺がよく分からない・・・というか、部下にも距離を置かれてしまう男です。

直接銃を取って抵抗運動をする村人の他に大尉の近くにはこっそり物を持ち出したり、内情を探ったりする人がいます。そういう中に嫁いで来たカルメン。そして物語はその娘のオフェリアを中心に進みます。

オフェリアは大人たちの世界の冷たさ、残酷さを肌で感じ、夢の世界へ逃避をします。それは森の木の下に隠された迷路。そこへ入る方法を知り、そこで山羊の妖怪と知り合います。妖怪は彼女を王女様と崇めつつ、1つ、また1つと用件を果たすよう言いつけます。大人の世界で起きている村の戦闘や妊娠して状態が安定しないカルメンの母親とは別に、オフェリアの周囲にも不安と緊張が続きます。

それは徐々に悪い方向に行き、ある時オフェリアは思い切った行動が必要だと感じます。これ以上説明をすると、誰が死に、誰が助かるかなど重要なネタがばれてしまうので、この辺でやめておきますが、ハリウッドのブロックバスター映画とは違った展開になり、オトシマエのつけ方は観客は納得するものの最初の予想は上手に外されます。

デル・トロ監督作品の楽しみ方は色々あるでしょうが、1つはデビルズ・バックボーンをも越えた田舎の描写。もう1つはデル・トロ監督が心に描いている妖怪の世界。(もしかしてゲゲゲの鬼太郎を知っているのかも知れませんね。)それはパンズ・ラビリンスで堪能できます。どうやら監督は迷路好きらしく、ヘルボーイに出て来たような迷路の場面がパンズ・ラビリンスでも何度か示されます。

私にはスペインというのは乾燥した国だという印象があり、パンズ・ラビリンスを見て、撮影をしたのはチェコではないかと思っていたのですが、実際は全部スペインだったようです。森を使った描写もなかなかいいです。テーマから言うとパンズ・ラビリンスは特別にファンタ・ファン向きという作品ではなく、一般向きです。ただ、血を見ますし、拷問や弱い者を乱暴に扱うシーンがあるので、メルヘン風でありながら子供向きではありません。ヘルボーイのようにバンバン殴っても漫画だから安心という種類の作品でもありません。バンバン殴るとその人が本当にひどく傷ついて死んでしまうという点を強調してあります。グリムのメルヘンなども本の通りに映画化したら即R指定になってしまうでしょうが、その系列です。お子様連れの方は暫くお預けです。しかし数年待っても見る価値はあります。

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