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ドライヴ /
Drive /
Drive, el escape /
Drive: Acción a máxima velocidad /
Drive - Risco Duplo /
Sang-froid

Nicolas Winding Refn

USA 2011 100 Min. 劇映画

出演者

Ryan Gosling
(ドライバー)

Carey Mulligan
(Irene - 同じアパートに住む女性)

Kaden Leos
(Benicio - イレーネの息子)

Oscar Isaac
(Standard - イレーネの夫、刑務所からちょうど出所して来る)

Bryan Cranston
(Shannon - ドライバーが所属するガレージの所有者、ドライバーに映画の仕事を持って来る)

Albert Brooks
(Bernie Rose - マフィア、元映画制作者、ドライバーの出場するカー・レースの後援者)

Ron Perlman
(Nino - 偽名を使っているユダヤ人マフィア)

Jeff Wolfe
(Tan Suit - )

James Biberi
(Cook - アルバニア人のマフィア)

Christina Hendricks
(Blanche - クックの女)

Russ Tamblyn
(Doc - 怪我の手当てをする男)

Craig Baxley Jr.
(強盗)

Kenny Richards
(強盗)

Andy San Dimas
(ストリッパー)

Tim Trella
(殺し屋)

Jim Hart
(殺し屋)

Steve Knoll
(映画スター)

見た時期:2012年6月

要注意: ネタばれあり!

見る予定の人は退散して下さい。目次へ。映画のリストへ。

★ 逆輸出?

ドイツの映画は戦後長い間つまらなかったです。私も時々言及していますが、観客を楽しませることに関心の無い監督が長らく市場を独占していて、その世代が終わるまでじっと我慢。もしかしたらおもしろいテーマだったのかも知れませんが、音楽ほとんど無し、アクションなどは見たことも聞いたことも無し、眉の間に皺を寄せて深く考え込む映画ばかり作っていました。あんな事して商業ベースに乗らないのではと勝手に心配していたら、補助金がたっぷり出ていて、観客動員数などは全く眼中に無かったのです。

日本から来た私はアメリカはハリウッド映画の洗礼を受けていますし、日本のちゃんばら映画もおもしろいので、映画というのは楽しいものだと思い込んでいました。ドイツでは映画は教育のために作られているらしく、おもしろおかしくなくてもいいらしいのです。でも、日本の小学校や中学校で上映していた教育映画は結構楽しめ、私はそんな映画でも見るのが好きでした。

最近デトレフ・ブックを始め何人か優秀な若手の俳優、監督が出没し、過去のドイツ映画とは全く違う作品を作るようになり、中にはお腹を抱えて笑える作品もあります。近隣の国を見ると、デンマークも暫くラース・フォン・トゥリアが話題を独占していましたが、その後ドライなコメディーという新ジャンルを開拓し、楽しい作品が増えました。スウェーデンやノールウェイは犯罪物に力を入れるようになり、テレビのレベルと言えるかも知れませんがファンタに来るような作品は十分鑑賞に堪えます。

というわけでドイツはようやく楽しい映画作りに移行し始めたところ。で、私もたまにドイツの映画を見ようかという気になるのですが、何とあの長い戦後の時代のドイツの作風が最近アメリカに逆輸出されるようになったのです。何であんな作り方を真似たいの?と少し引いてしまいました。

1つの例はジョージ・クルーニー。彼はアメリカを代表するスターと言って構わないと思います。なので物凄いエンターテイメント作品、アクション映画などを撮りたければいくらでも脚本が見つかり、出資者も現われると思うのですが、本人はなぜか欧州志向が強く、時々ドイツの影響を受けたのかなというような作品を作ります。

先日ご紹介したラスト・ターゲットも、ドイツとは言いませんが欧州の影響が強く、エンターテイメント性は極力抑えてありました。そうなると私はあくびが出てしまい、DVD だと早送りしたいという衝動を抑えるのが大変。

今日ご紹介するドライヴも非常に欧州色が強く、なぜわざわざアメリカまで行って、スターの提供も受け、こういう作品を作るのだろうと考え込んでしまいました。欧州の作品の影響をダメと言っているのではありません。例えばデンマーク風のドライなユーモアはどんどん取り入れてもらっても結構です。北欧のスリラーも見ごたえがあるので「真似してもいいよ」と言おうと思ったら、早速やっています。ミレニアム・シリーズはミレニアム ドラゴン・タトゥーの女だけでなく、全部まとめてリメイクされるらしいです。

★ ドライヴの場合

ドライヴはどういう風に欧州風かと言うと、まず監督がデンマーク人。アメリカ生活もしているのですが、作風は欧州風。ドイツ映画のフレーバーがありますが、完全にドイツ風というほどドイツ的ではなく、デンマークのコメディーとも違う作りで、内容のハードさはフランスの最近のフィルム・ノワールを思わせる部分もあります。音楽がほとんど無い、人物が沈黙するシーンが多い、カリフォルニアの話だけれど、色彩が全く違う趣味になっているなど、所謂ハリウッドの娯楽作品とは太い一線を画しています。

内容は違いますが、それでも欧州風で独特のスタイルの作品としてふとスパンを思い出しました。監督はスウェーデン人、作品はアメリカ製、使った俳優もアメリカ人、ジャンルはフィルム・ノワール系のギャングの話。そして独特の色彩が特徴になっていました。

両者に共通するのは外国(ここでは北欧)から監督を呼んで来て、アメリカ人の人材とお金を提供して、欧州風映画をアメリカで作らせている点です。もう1つ思い出したのが、ナイト・ウォッチ・シリーズの監督をアメリカに呼んで来て作ったウォンテッド。彼も色彩には凝る人です。

★ 予想が外れた

ライアン・ゴスリングとロン・パールマンが出ることしか知らず、それ以外の情報無しに見たのですが、タイトル、スターの名前からてっきりカー・アクション満載のポール・ウォーカー風ワイルドスピード的な作品だろうと思っていました。確かに車が重要で、主演の職業はスタント・ドライバー。そこそこ予想通りですが、映画全体のスタイルは全く違い、ゴスリングが性格俳優に見えるような作品です。原作はジェイムズ・サリスの小説。

★ 表の顔

冒頭から出て来るライアン・ゴスリング。昼間は映画撮影のカー・スタントを専門とするスタントマン。スタントを頼まれると代理をする俳優のスパイ大作戦風のゴムのマスクをつけて、危険な車の運転を担当します。ざっと彼の日常が描かれます。彼に仕事を周旋してくれる知り合いがいて、車の修理やチューンアップをするガレージに出入りしています。

私生活はシングルで目下家族も恋人もいません。非常に無口ですが、冷たい男ではありません。住んでいるのは比較的下層階級の人が住むアパート。住民は収入はあまり無いもののちゃんとした人たち。同じ階の女性と知り合いになります。まだ小さな子供がいて、彼女と子供両方と仲良くなります。間もなくそれまで刑務所に入っていた夫が出所。揉めるかと思いきや、彼の温和な性格が幸いして家族との交流は続きます。

★ 裏の仕事

名前が最後まで分からないゴスリングはドライバーということになっています。スタント・ドライバーなので間違っていませんが、彼には裏の顔があります。彼に裏の仕事が持ち込まれると、仕事内容はほぼトランスポーターのようになります。決められた時間に決められた場所で車で待機。たった今強盗や窃盗をして来た一味を車に乗せて警察を巻きながらどこかへ運ぶのが商売。町の地理に詳しく、警察無線を傍受しながら、危険な場所で危険なジャンプもこなします。彼自身は強盗の類には一切関わらず人を乗せて逃げるだけ。トランスポーターだけでなくドライヴのような作品も作られるということは、本当にこういう分業があるのでしょうか。腕はプロ級というか、本物のプロ。まるで犯罪者労働組合があるかのようにきっちり仕事内容が決まっています。映画のスタントでは彼自身の顔は画面に映らないので非常に都合がいいです。

★ 表と裏の接点

ドライバーは、同じアパートに住んでいて、ドライバーの裏の仕事は一切知らない子持ちの若い女性イレーネと知り合います。イレーネの夫は服役中。間もなく出所して来た夫は更正すると言っており、家族を守る気持ちは本物。イレーネが「ドライバーは車の修理工場で働いているだけ」と思っている・・・間は良かったのですが、ドライバーはその両方に別々にではなく、同じ人物を巻き込んで顔を突っ込んでしまいます。これまで裏と表の生活をきっちり分けていたのが、そうも行かなくなります。

イレーネの夫は服役中ギャングとの間で借金ができていて、埋め合わせとして出所後質屋に強盗に入ることを強要されます。そこに至るまでにイレーネの夫が殴られたりしているのを見て、この家族が崩壊の危機に瀕していると悟ったドライバーは、自分のイレーネに対する恋心を抑えて、家族を守るために夫の強盗の時のドライバーを引き受けます。

★ 怒涛の番狂わせ

強盗一味は夫、話を持ちかけたクックというアルバニア人ギャングの女ブランチと、ドライバーの3人。ところが予定が狂って死人が出てしまいます。質屋が夫を射殺。負傷しながら命からがら金を取って逃げる2人。途中で見知らぬ車に追いかけられ危ないところでモテルに逃げ延びます。質屋にしてはやけに多い強奪金100万ドルに驚き、クックの女を問い詰めると、裏切りが計画されていて、「ドライバーと夫は死ぬことになっていた」と言うのですが、ちょうどそこへクックがよこした殺し屋が登場。撃ち合いになり、女は死亡。ドライバーはひどく負傷してお金を持って逃げ出します。

こんな展開でも冷静さを失わないドライバー。事情解明に乗り出します。質屋強盗 → 裏切りでドライバーと夫が死ぬ → 女とクックが金を持ってニーノの所へ行くことになっていたところまで突き止めます。ニーノもガレージに出入りしている男で、ユダヤ人マフィア。質屋が持っていた大金は東海岸のマフィアの所有。その金を奪ったことで東西戦争になりかねず、対策が必要になります。

裏でニーノと、ドライバーのレース出場の後援をしようとしていたマフィアのバーニーが話し合い、下っ端の関係者を消してしまうことで話がつきます。消されることに決まったのはクック、ドライバー、これまでドライバーに仕事斡旋していたシャノン。しかしお金はまだドライバーの手中。

ドライバーはニーノと取引し、イレーネ母子を助けるなら金は返すという条件で成立。しかしニーノは約束を守らず3人を殺そうとヒットマンを送ります。早々とヒットマンに気づいてドライバーはエレベーターの中で殺しますが、ドライバーの残虐な面が表に出て来ます。

取引がニーノの側から破談になったことを受けて、ドライバーはニーノを殺します。残るはバーニー1人。ニーのとしたのと同じ取引をバーニーとして、ドライバーは金を返しますが、自分はバーニーにその場で刺されてしまいます。バーニーをそこで殺し、金と死体を置いて逃亡。自分と息子の命を救うためにドライバーが何をしたかはイレーネには分かっていません。ドライバーはどこまで生きられるか分からないまま高速道路を運転中。今後一生イレーネの前には現われないでしょう。

★ アメリカ人の鑑賞に耐えるか

細かい所まで気を使って制作されているのでボロが出ない作品です。渋い俳優が役どころをよく理解して演じているので手堅いという印象です。インテリ層には受けるかも知れません。ただ、3億の人口の国でブロックバスターを作って儲けようというアメリカの映画界とどういう風な折り合いがつくのかが分かりません。経済危機の中株を売り抜けたりして大儲けをした人がスポンサーにでもなり、趣味で映画を作ってみたくなったというのなら話は分かります。それなら劇場公開して観客動員数300人というような結果でも全く関係ないのですから。

ライアン・ゴスリングのファンをだまくらかして上手く劇場に呼び寄せるという手だったのかも知れません。有名な映画サイトではかなり高い評価を受けていますし、オスカーとゴールデン・グローブではそれぞれ1部門ノミネートされています。カンヌは2つノミネートで監督が受賞。しかしカンヌは欧州ですからね。

採算は一応合っています。ただトム・クルーズが出るような作品と比べると桁が1つ違います。職人風にこつこつ作る作品がどのぐらいアメリカの映画産業で生き延びて行けるかが今後の課題。こういう地味で小ぶりな作品が続々とできる可能性はゼロではありません。サンダンスの映画祭が一定の評価を受けていることを見ても分かります。ただ、サンダンスの映画は派手な特殊撮影やアクションを避けてはいるものの、観客を楽しませようという意気は盛んで、プロットがひねってあったり、エンターテイメント性は重視しています。あまりあからさまに前世代のドイツ映画の手法を取り入れると楽しさに水を差す危険があります。

アメリカの力量のある俳優に取ってはこういう作品は大歓迎かも知れません。ロン・パールマンを始めとするマフィアや裏の仕事をしている男たちはここぞと渋さを競っています。ドライバーが淡い恋心を抱く女性もけばけばしい化粧をせず、自然な感じで演じており、ドライバーが守ってあげたいと思う気持ちを引き出せそうな女優です。

たまに1本こういう作品があるのはいいですが、全米がこういう作品ばかりになってしまうと、一気にアメリカ映画はつまらなくなってしまう危険があります(あり得ないか)。私は例えばウィリアム H.マーシーがファーゴに主演した頃から暫くの作品(それまで万年脇役だった人たちや、あまり大きな作品を手がけたことの無い監督の作品)やマッチスティック・メン(有名俳優、有名監督が大げさな特撮などを排して作った作品)が好きです。振り子が大ブロックバスターに振れた後、逆方向の極端に走らないことを祈っています。

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