「Bloody Hope」

第三部

No.1 No.2 No.3 No.4 No.5 No.6 No.7 No.8

やっと出てきた場面の挿絵です^^; これガライ君火の手前に立ってるんですけど、見えないね(笑)ちなみに下の文はIceman「Edge of the season」より。毎回恒例にしていくつもりです(爆)
―運命から抜け出せる 強い理由がきっとある―

No.1 瓦礫と化した街の中で

 

 体中を、鋭いようで鈍く、小さいようで大きい衝撃が走り抜けた。
今まで自分のいた世界とは異なる感覚が全身を包み込み、頼りない自分の体をゆっくりと呑み込んでいく。
目の前は闇。さっきまで頭上で輝いていたはずの月は、ここにはその光を差し込んでくれないようだ。
 自分は何とか今まで自分のいた世界へ戻ろうともがき始めた。
綺麗な月の輝く、あの大地。さっきまでは忌み嫌い、逃げたがっていたはずのあの場所へ。
しかし、いくら手足を動かしても、体は全く動いてくれない。ただ、腕がずきんと疼くだけだ。
  …目が痛い。体が寒い。息が…苦しい……
     でも、諦めない…諦めたくない………………絶対、諦めるもんか!!
そう強く念じたときだった。
 何も見えないはずの目に、ぼんやりとした光が映った。
どことなく不安定なそれは、内側からとてつもなく不気味で邪悪な何かを発しているようにも感じられた。
 何だろう? そう思おうとした。
しかし、もはや一つのことしか考えられないほど、すでに自分の意識は闇に染まりつつあったのだ。
  ……負けたくない……だって………………………………――――――――
かすかな余韻を残し、意識は完全に消滅した。

「本当に行くのか?」
クライドの言葉に、セツラははっきりとうなずいた。
「残念だな。目的は同じなのに」
「同じじゃないわ。確かに私もあなたたちも、魔王という邪悪を滅ぼすという点では一致している。
 でも、私にはもっと強くならなければならないという目的もあるの。
 それにこれ以上アールなんかと一緒に行動するのは、私のプライドが許さないのよ」
「そんな何の得にもならないプライドにしがみついてるようじゃ、永遠に英雄になんかなれないぜ。
 それどころか、逆にアンタの言う邪悪にそいつを利用されちまう可能性の方が高いくらいだ。
 おれと一緒にいるのと、魔王に利用されてヤツの復活に一役買っちまうのと、どっちがいいのかな?」
アールは半ば呆れたような視線をセツラに送る。しかしセツラは言葉ごとそれを無視した。
「…それじゃあ、ちょっと名残惜しいけど、もう行くわね」
 肩から下がったショルダーバッグを軽く叩き、セツラはアレリア傭兵隊の皆に向き直る。
「また会いましょう」
それだけを言うと、セツラは傭兵たちの別れや励ましの言葉を背にして歩き始めた。
「死ぬんじゃねぇぞ、ここでお前に死なれたらおれ悲しいからな〜」
心にもないことを。そう呟く声が、彼女の足音と重なりながら、アリテノンの街に微かに響いた。

 (マネチスで見た光景と同じだ)
灰燼と化したエリンの街を見回りながら、ガライはそう思わずにはいられなかった。
 国の上層部が、自国の抱えてしまった二つの大きな問題のうち、どちらから処理するのか決めかねている間
クライドを除くアレリア傭兵たちは、マネチスの侵攻によって甚大な被害を被ったここエリンの街の復興、
そして荒廃が原因として起こるであろう、犯罪やもめごとの解決を命じられていた。
 住民の四分の三が虐殺されたという現実は、ほんの数週間前までこの街で当たり前に見られていた光景を
もはや二度と戻って来ないかもしれない、過去の栄光にしてしまっていた。
幸いにも生き残った住民たちの顔は重く沈み、体だけがただ黙々と瓦礫を退け続けている。
まるで生ける屍のように。
 (ホントにマネチスで見た光景そのままだな…)
「父ちゃん!」
 突然子供の声がした。見ると10歳くらいの少年が、全身汗まみれにして瓦礫を運び続けている男性に
近くの森…おそらく、ミッドヘヴンの森だろう…で取ってきたと思われる木の実を差し出している。
体の疲れを少しだけ癒してくれる効果のある木の実だと、ガライは判断した。
「わざわざ取ってきてくれたのか!?」
「うん! だって、父ちゃんが街のために頑張ってるんだ。俺も頑張らなきゃ!」
 少年の明るくうなずく姿を見て、ガライは今度は自分の家族のことを思い出した。
エリンの街にほど近い場所に位置するB&Bを、マネチスの奴等は見逃してくれただろうか。
もし見逃していなかったとしたら、一体家族はどうなってしまったのだろう。
 (ダメだ。今は忘れるんだ)
いつもちっぽけだと思う良心に、そう言い聞かせてきた自分を冷たく思う。
「なんて家族不孝なんだ俺は」思わずそう小さく呟いた声を、なぜか快く感じた。
「ガライ何やってるのよぉ!」
 一体どれくらい物思いに浸ってしまっていたのだろう。気がついたら、ランフォの怒ったような顔が側にあった。
「何って……見回り」
「見回りにしちゃあずいぶん同じところに留まってるのね。何か見張ってでもいるの?」
「ああ。あそこの瓦礫、なんか気になってな」
 反射的にそう答え、ガライは先ほどの親子が退けている大きめの瓦礫の山をあごで指し示した。
そのときだった。
   ボォン!!!!
「!?」
 突然その瓦礫の近くで何かが爆発し、先ほどの父親を含む作業をしていた街民数名が吹き飛ばされた。
「父ちゃん!!」と叫びながら父親に駆け寄る少年を視界の隅に捕らえながら、
ガライは腰に吊された剣に手をかけ、瓦礫の方へ走り出した。
 瓦礫の中に爆発物があったとは思えない。となると、故意に爆発させた……何者かの襲撃!?
「瓦礫から離れろ! またバクハツするかもしんねぇぞ!!」
 クモの子を散らすように瓦礫から離れる街民に逆流し、ガライは瓦礫のすぐ側まで走り寄った。
「何者だ! どこにいる!!」
瓦礫に向かって大声で怒鳴るガライの耳に、不気味な言葉が頭上から伝わってきた。
「上かっ!!」
   ボォン!!!!
「っ!!」
 すぐ近くで起こった爆発の衝撃にガライは身じろいだが、なんとか吹き飛ばされずにすんだ。
「ガライ、大丈夫!?」
「俺の心配するヒマがあるなら、ティーテさんたちを呼んでこいよ!
 ……っ!!」
   ボォン!!!!
 次から次へと連続して起こる爆発に顔をしかめながら、ガライは瓦礫の上に立つ数匹の魔物の姿を認めた。
今まで見たことも聞いたこともない魔物だった。
「また魔王関係の魔物さんか………………上等だぜ!!」

 ガライとは逆に、人の流れに従ってランフォは走っていた。
今まで見たこともない魔物…十中八九、魔王の眷属だ。
ガライの腕は知っていたが、相手の得体が知れない上魔法まで使うとなっては、いくら彼でも無事ではすまない。
 (早くみんなを見つけなきゃ)
ランフォは走り続けた。しかし、いくら走っても仲間は見つからなかった。
焦る気持ちの中、ただただ彼女の頼りない体力だけが消耗されてゆく。
「…はぁ……はぁ………」
 たまらず立ち止まり、膝に手を置いて大きく息をつくランフォ。
そのとき、彼女の視界に黒い影のようなものがちらついた。
「…?」
 影の方に視線を移すと、一人の黒いローブのようなものを纏った老人がランフォの方をじっと見つめていた。
しかしランフォがそのことに気付くと同時に、老人はその姿を瓦礫の山の中に消した。
 (誰…?)
一瞬老人の後を追おうかと思ったが、次の瞬間ガライが魔物と闘っている姿が頭をよぎり
軽く首を振って老人のことを頭から消去させたあと、ランフォは再び駆け出した。

 ランフォの危惧は的中していた。
 次々と連続する爆発に瓦礫の上という足場の悪さが影響し、ガライは普段の実力を発揮出来ずにいた。
それでもガライは気力を振り絞って闘い続け、ランフォが仲間を見つけて戻ってきたときには、
すでにその数を残り一匹にまで減らしていた。
「遅ぇよランフォ………………」
ランフォの姿を認めるや否や、ガライは緊張の糸が切れたようにばったりと瓦礫の上に倒れてしまう。
しかし無防備となったガライを襲う間もなく、残った魔物はティーテとアーニによって全身に矢を受け、
慌てて瓦礫の山から逃げ出そうとした。
「逃がすか、魔物め!」
 ティーテが魔物を仕留めようとその後を追って走り出す。
満身創痍の魔物の逃げ足は遅く、すぐに追いつけるとティーテは確信していた。
 が……
「あれ…っ!?」
 かろうじて焼け残った石垣の陰に飛び込んだはずの魔物の姿が見当たらない。
「どこに消えたんだろう…すみません。この辺りに一匹の魔物が逃げてきませんでしたか?」
すぐ側を歩いていた黒い僧衣を纏った老人に訊ねるが、老人は首を横に振った。
「…逃がしたか」
 少し残念そうに呟き、ティーテは老人に礼を言うと、さっき走ってきた道を再び戻り始めた。

 帰路の途中、ティーテはなぜか妙に強い不安感に襲われていた。
魔物を一匹取り逃がしただけなのに、まるで悪の親玉を見逃してしまったかのような気分だった。
 (まさか、あんな魔物が魔王のわけないよ)
そう信じるのは早計かもしれなかったが、とにかくじゅくじゅくと沸き上がる不安を抑えるのが先だった。
 (…でも、何かを見逃している気が………)
しかし不安を抑えることは出来ても、この疑念を抑えることはティーテには出来そうもなかった。

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