No.1 No.2 No.3 No.4 No.5 No.6 No.7 No.8

No.8 全ての真相、新たなる予兆


 アレリア王国首都アリテノンは、かつてない喧騒に満ちていた。
ゾロム帝国竜銃士団の突然の襲撃により、アレリア聖騎士団、魔道隊、傭兵隊の連合軍が大打撃を受け
ほとんど敗走と言える状態で、アリテノンへ帰還してきたのだ。
「確かに相手はたった5騎だった。だが見てみろ、俺らの受けた損害がどれくらいのものかはわかるだろう!」
 早速開かれた緊急会議の中で、古参の貴族に憶病者と蔑まれたロニーはそう叫んだ。
「これが敵の実力なんだ! このままではアレリアがゾロムに滅ぼされるのもは時間の問題だ!!
 それでも貴公らが何も対策を行わないというのなら、俺一人だけでも奴等と戦ってやる!!!」
「お待ち下さいロニー様!!」
 制止するラッツの声を無視し、ロニーは会議室を出ていってしまった。
「ロニーも疲れてるんだよ。少し休ませてあげよう。それに、彼だってただ負けて戻ってきただけじゃないんだし」
国王ファレスの落ち着いた声が会議室に響く。
「捕虜を捕らえ、敵の武器を持ち帰ってきただけではありますが、ロニー様の行いは勲章ものでしょう。
 もし私がロニー様と同じ立場だったなら、何も出来ずにただやられるだけだったと思います…」
クライドがふぅっと息を吐いた。彼の率いる傭兵隊は、連合軍のなかで一番被害が大きかったのだ。
直接的な被害より、逃亡者が多く出た事の方が痛手だったのだが。
「……しばらくゾロム帝国が攻めてこないことを祈るのみだな」
ラッツが忌々そうに吐き捨てた。
「…ところで、もう一つの問題の方はどうなったのだ?」
「派遣した別動隊とは、昨日の夕方から連絡が途切れたままなのです。何かあったとは思いたくありませんが…」
 モルナが少し沈んだ口調で説明した。
そのとき、
「お〜〜いモルナさまぁ〜〜〜〜!!!!」
 モルナが首から下げている水晶球から黄色い声が響く。通信の魔力を秘めた品物だ。
「ユリナ! 今までどうしていたんですか、連絡は毎日朝夕忘れずにと言ったでしょう!?」
「てへっ、ごめんなさぁ〜い♪」
 ユリナの声に会議室の緊張はすっかり解けてしまったようだ。
「でもねでもね、ねぇ聞いて! アタシら、魔王倒したんだよぉ!!! エライと思わない〜????」
「…ユリナ、冗談もほどほどにしなさい」
「ホントだってばぁ〜〜!!!」

 その場ではユリナの言葉は受け入れられなかったが、それから一日後にアリテノンへと戻ってきた別動隊が
彼女と全く同じ報告をしたため、国の重鎮もさすがにその言葉を無視することは出来なくなってしまった。
「ファーズ、本当に魔王だったというのか?」
 ロニーが別動隊に派遣した聖騎士二人のうちの一人に話を聞いている。
もう一人はあまりの重傷を負っていたため、とても話が出来る状態ではなかったのだ。
「はっきりとしたことはわかりません。しかし、傭兵隊の者の話によると、間違いなく魔王だと…」
 ファーズと呼ばれた聖騎士は苦々しい表情をした。
彼は魔王の召喚した魔物との戦いの中で負傷し、思わずその場から逃げ出していたのだ。
その場に残り戦った者の誰もがそのことに気づかなかったのが幸いだったが。
「確信が持てる事柄ではないな……。傭兵隊の者にも話を聞かないと」
「お言葉ですがロニー様、あのような者の話を信用してもよろしいのでしょうか?
 現にガライという者とアールという者は、我らに逆らおうとしたのですよ!」
「お前とロイドこそ、魔王に惑わされてヤツの陰謀に加担してしまうところだったのではないか?」
「そ、それは…」
 二の句が継げなくなってしまったファーズを置いたまま、ロニーは傭兵宿舎へと足を向けた。
ついでに、今まで自分が疑問に思っていたこと全てを彼らに問うつもりだった。

「まだ目を覚まさないのか…」
 傭兵宿舎の一室に、二人の人間が寝かされていた。
アールとセツラだった。二人とも『自分殺しの崖』で気を失ってから、一度も目を覚ましていなかった。
「傷は僕が治したから大丈夫だよ。あとは…気力の方かな。こればっかりは治せないもん」
 少し笑いながらセロカがロニーに話しかけた。仕方ないから諦めなよとその顔は語っていた。
「そうか、ならお前たち二人だけでも問いに答えてくれるか?」
「いいよ、なんでも答えてあげる。ね、ガライ?」
 (見透かされてやがる…)
意地悪そうに自分を見るセロカに、ガライは苦笑せざるをえなかった。

「まず、お前たちが殺した人物が本当に魔王だったという証拠が見たい。
 証拠がなければ、すまないが信用するわけには行かないんだ」
「証拠なんてないよ」
セロカがさらりと言ってのける。
「みんな、魔王っていうからにはすごく恐ろしい怪物とか悪魔とかだって思ってるみたいだけど、
 実際には外見は普通の人間と変わらない、むしろ貧弱そうな老人だったんだもんね。
 …もっとも、魔王の正体は人間だったと言えるかと言われると、そうじゃないんだけど」
「…何故そんな事を知っているんだ? 地下書庫にあった文献にすら載っていないのに」
 ロニーが想像した通り、アレリアの地下書庫には魔王に関する500年前の文献がいくつも残っていた。
それには、魔王の姿は普通の人間と変わらなかったと、はっきりと書かれていたのだ。
 しかし、魔王の正体までは書かれていなかった。
「僕くらいしか知らないよ。三英雄さんは気づいてたかもしれないけど、もう死んじゃってるしね」
「…マネチスの時もそうだった。お前ははじめから全てを知ってるような気がしてならなかったんだ。
 全てを話してくれ。どんなに現実離れしたことでも構わない。俺は…真実を知りたいんだ」
「……いいの?」
セロカはロニーを見上げた。
「後で後悔することになったとしても、構うものか」
「…ガライも、いいね?」
「これ以上何に驚けってんだ」
「…じゃあ話すよ。長いから、途中で寝ちゃわないようにね」

 今から1000年前、リージェンディ大陸全土は長期にわたる異常気象に襲われた。
雨期になっても雨が降らなかったり、夏なのにとても冷え込んだり、砂漠が豪雨に見舞われたりして
作物が取れなくなり、多くの人々が飢え死にしたり、土地を捨てて移動していったという。
 1000年経った今も、その原因は謎に包まれている。様々な説が飛び交ったが、どれも仮説の域を出ない。
「…本当の原因は、『仙人』たちによる儀式にあったんだ」
 『仙人』とは、人間の間からきわめてまれに生まれる、長命な種族のことだ。
外見は全く人間と変わらないが、その全員が魔法の素質を持っている、優秀な魔術師なのだ。
肉体的には人間に大きく劣るが、そのたぐいまれな魔力は、それを補って余りある。
 それが原因か、はたまた長い寿命を妬まれたのか、『仙人』は人間によって迫害され、
生まれればすぐに捨てられるか殺される、また奇跡的に生き残ったとしても、『仙人』であることが知られると
まるで魔物を見るような目で見られ、時にはやはり殺されてしまうこともあるという。
「…確かに、『仙人』が迫害されるのは、その魔力や寿命のせいでもある。
 でも、本当の原因は違う。それを…父さんは知っていたんだよ」

 1000年前、ちょうど現在のマネチス帝国領に、『仙人』達が隠れ住む村があったという。
当時は今ほど『仙人』は迫害されておらず、人間と共存して暮らしていたらしい。
 そんなある日、『仙人』たちはある儀式を試みた。自然の気候を自分たちの手で調節しようとする魔術だった。
儀式が成功すれば、大陸は厳しい暑さも寒さも、大雨も日照りも無い、穏やかな気候に常に包まれるはずだった。
「でも…『仙人』たちは、その儀式に失敗した」
 その結果、リージェンディ大陸全土は、長期の異常気象に襲われることとなってしまう。
「異常気象を収める儀式にはなんとか成功したけど、人間は『仙人』を許さなかった。
 それからなんだ、『仙人』が迫害されるようになったのは。原因は忘れ去られても禍根だけは残ったんだね」
そして、『仙人』達は人間の世界から、逃げるように姿を消した。人間と『仙人』の間に、深い憎しみだけを残して。

「…父さんは、参加はしなかったみたいだけど、その儀式を自分の目で見てたらしいんだ。
 それが引き起こした異常気象と、その結果起こった自分たちに対する迫害も、
 その儀式は、元々は人間が『仙人』に依頼したものであったことも、全部知っていた……。
 だから、父さんは人間を憎んだ。滅ぼそうと考えたこともあったみたい。
 人間を滅ぼすために、他の『仙人』たちの目を盗んで魔界の力を借りる魔術まで習得したらしいけど、
 その時は周囲の反対もあって思いとどまったらしいね」

 しかし、悲劇はそれから500年後に起こった。
その頃『仙人』たちは、マネチス帝国ジオラスの街付近に存在していた「サイレンスの森」という深い森の中に
隠れ里を作り、外界との接触を断ってひっそりと暮らしていた。
 このまま人間達が自分たちのことなど忘れ去ってしまえばいい。彼らの多くはそう考えていた。
「でも、ある日森に、人間の軍隊がやってきた。当時その地方を治めていた、ルタクス王朝って国の軍だった」
 彼らは「サイレンスの森」に巣くう魔物を討伐する最中に、偶然隠れ里を発見したようだった。
隠れ里は外部から発見されないように、常に幻覚の魔術が施されていたのだが、
軍にはかなり優秀な魔術師が同行していたようで、見破られ解呪されてしまったのだ。
もしかしたら、外界にはすでに『仙人』たちの存在が、うわさとして広まっていたのかもしれない。
「そして、軍隊は『仙人』たちを、魔物として虐殺しはじめたんだ」
 いくら優れた魔術の使い手であっても、肉体的に劣る『仙人』が、人間の軍隊に肉弾戦で勝てるはずがない。
魔法を放つより先に、軍の放つ矢や振るう刃によって、『仙人』は倒れていった。
それだけではなく、軍はもうすでに事切れている死体にまで、止めとばかりに剣や槍を埋め込んでいったのだ。
「地獄絵図っていうのかな? そんな言葉がピッタリだった。ヤツらは女子供…多分見た目より長生きだろうけど、
 そういった人たちまで無差別に殺戮していったんだ。……………僕も、例外じゃなかった」

 その時セロカは、母に手を引かれて森の中を逃げ回っていた。
人間の寿命以上の年月をすでに生きてはいたが、肉体はまだ言葉も満足に話せない幼児にすぎなかった。
必死に逃げたが、とうとう人間に追いつかれてしまい、これまでかと覚悟を決めたその時だった。
「…物凄く大きな音がしたと思ったときには、目の前が真っ暗になってたんだ。
 気がついたら、森がなくなっていた。辺り一面焼け野原で、他には何にもなかった。
 …ううん、僕に覆いかぶさるように、母さんがいた。もう、ぴくりとも動かなかったんだけど…」
そして、自分も体のあちこちに火傷を負っていて、満足に動ける状態ではなかった。
それでも助かることが出来たのは、何も知らない人間が自分を発見し、傷の手当てをしてくれたからだった。

「けがが治って、それでもって手足が完全に自由に動くようになるまで随分時間がかかった。
 その間に、全部ウワサで聞いた…突然現れた魔王のことも、その特徴も。
 自分の父親だと気付くのに、さほど時間はかからなかったよ………………………………」
 一通り話を終え、セロカは大きく息をついた。
「…人間じゃなかったのか、お前は………」
「外見だけで物事を判断するのは良くないよ。大体僕は自分が人間だって言った覚えはないんだから」
 確かにそうだと、ロニーは苦笑した。
「それで、オマエホントは何歳なんだ? 少なくとも500歳以上だってのはわかるけど…」
「700歳くらいかな…詳しい数字なんかわからない。もう忘れちゃったよ」
 そう笑うと、セロカはロニーに、もう訊きたいことはないねと訊ねた。
「俺も一つ訊きたい」
「何? ガライはあのときの僕と父さんの会話を聞いてたと思うんだけど?」
「7年前、俺に『血塗られた希望』のハシバミの場所を教えてくれたのは、オマエだったんだな?」
「まさかやっと気付いたの? 僕はここでアンタに再会したときに、てっきり気付いてるもんだと思ってたけど」
「そりゃあ流石に気付いてたけどよ…言い出せるか? 俺は『仙人』なんて知らなかったんだぜ」
「まぁ、それは知らなかったガライが悪いね」
 すまし顔でさらりと言ってのけ、セロカはロニーに向き直った。
「…それで、僕に何か言うこととかあるんじゃない?」
 ロニーはしばらく腕を組み、眉間にしわを寄せて悩むような仕草をした。が
「何もない。俺に言えることは、別動隊が証拠はないが魔王と思われる危険を排除し、
 その働きによってアレリアが魔王の危険にさらされることは無くなったという事実だけだ」
そう断言し、ロニーは微笑を浮かべた。
「よくやってくれた。ゾロム帝国のことは我々に任せ、今はゆっくり休むがいい」

 あれから何日過ぎたのだろう。
勇気を振り絞って城を抜け出した、あの日から。
 あれから何人の人に救けられたのだろう。
城からの逃亡を助けてくれた、不思議な少年と変わった傭兵。
追っ手に追いつめられたとき助けてくれた、恐ろしい顔をした謎の男。
重傷を負っていたにもかかわらず、自分を庇って敵から逃がしてくれた優しい青年。
そして、自分を必死になって守ろうとしてくれた、あの少年。
 あのころの自分は、何も出来なかった。
ただただ絶望し、逃げたり、泣いたりすることしか出来なかった。
 だが、今は違う。
今の自分には力がある。自由がある。
必要とあれば非情になれる残虐さだってある。
あのころの自分には出来なかったことを、行うことが出来るのだ。
 自分には守りたい人がいる。助けたい人がいる。
そして彼らを守るために、倒さねばならない敵がいる。
 そうと決まれば、いつまでもこんなところで休んでいるわけにはいかない。
一刻も早く、彼に会いに行かねばならないのだから。

 次の日の朝、傭兵宿舎のベッドから、一人の人物の姿が消えていた。
城中のどこを探しても、もはやその人物の痕跡を見つけることは出来なかった…。

第三部 完

No.1 No.2 No.3 No.4 No.5 No.6 No.7 No.8

ホームに戻るの? 小説コーナーに戻るの? B・Hコーナーに戻るの?