誓いのとき (ファンタジー)
(マーセデス・ラッキー / 創元推理文庫 1999)
「女神の誓い」、「裁きの門」の名コンビ、女剣士タルマ&女魔法使いケスリーが活躍する“剣と魔法”のヒロイック・ファンタジー短編集。前出の二部作の裏話ありサイドストーリーあり後日談ありと、バラエティに富んだ作品が楽しめます。
特に、パターンにはまった冒険譚ではなく、リアルな冒険者の日常を描いているのが特長。
“竜を退治し王女を救う英雄譚”の裏にひそむ醜い真実を暴いた(でもハッピーエンド)「英雄の話」、「裁きの門」にも出てきた吟遊詩人レスラックとの腐れ縁の始まりを描いた「伝説はこうして生まれる」、ひょんなことから呪いの銅貨を手に入れてしまったふたりを襲う災難をユーモラスに描いた「同士討ち」、ミステリ風味の「毒薬」、タルマの部族が馬を扱う秘伝を明かす異色篇「フォルスト・リーチの春」、そして極めつけはケスリーの長女(「裁きの門」で結ばれたさる男性との間で儲けた娘。弟妹もたくさんいます)、12歳のジャドリーが親友を救うために母親や師匠(タルマのこと)と初めての冒険に出る「誓いのとき」(←この中篇1作を読むためだけでも、この本を買う価値はあります)。
若干のネタバレ要素があるため、できれば長篇二部作を先に読むことをお勧めします。
<収録作品>「護符」、「英雄の話」、「伝説はこうして生まれる」、「同士討ち」、「毒薬」、「炎の翼」、「フォルスト・リーチの春」、「誓いのとき」、「竜の嘆き」(エリザベス・ウォーターズと合作)
オススメ度:☆☆☆☆☆
2004.11.4
故郷から10000光年 (SF)
(ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア / ハヤカワ文庫SF 2001)
これを読んで、ハヤカワ文庫から出ているジェイムズ・ティプトリー・ジュニアの作品はコンプリートしたことになりますが、実はこの「故郷から10000光年」が彼(彼女?)の第1作品集なのだそうです。順番まちがえた(^^;
なるほど、確かに他と比べてユーモラスだったり、極論するとスラップスティックに分類されるような作品も収録されています。どちらかというと、そちらの傾向の作品の方が気に入りました。
事実上のデビュー作で、遠未来にいかにもありそうな貿易上のしちめんどくさいお役所仕事のドタバタと悲哀を描いた「セールスマンの誕生」、CIAの落ちこぼれスタッフが、異星人の侵略(?)から地球を守る(もちろん、ひとひねりもふたひねりもしてあり、銀河規模の壮大なビジョンが背景にあったりします)「愛しのママよ帰れ」と続篇の「ピューパはなんでも知っている」、あらゆる異星動物のレースが行われる宇宙規模の競馬場(?)を運営する種族の運命をペーソスを交えて描いた「われらなりに、テラよ、奉じるのはきみだけ」、タイム・ジャンプにまつわる恋の悲しい結末が心をえぐる「ハドソン・ベイ毛布よ永遠に」など。
<収録作品>「そして目覚めると、わたしはこの肌寒い丘にいた」、「雪はとけた、雪は消えた」、「ヴィヴィアンの安息」、「愛しのママよ帰れ」、「ピューパはなんでも知っている」、「苦痛志向」、「われらなりに、テラよ、奉じるはきみだけ」、「ドアたちがあいさつする男」、「故郷へ歩いた男」、「ハドソン・ベイ毛布よ永遠に」、「スイミング・プールが干上がるころ待ってるぜ」、「大きいけれども遊び好き」、「セールスマンの誕生」、「マザー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンズ」、「ビームしておくれ、ふるさとへ」
オススメ度:☆☆☆☆
2004.11.6
ロボットの夜 (ホラー:アンソロジー)
(井上 雅彦:編 / 光文社文庫 2000)
テーマ別書き下ろしホラー・アンソロジー『異形コレクション』の第17弾。
今回のテーマは「ロボット」。もちろん電子頭脳を持つ金属製の機械という範疇にとどまらず、古代から中世のからくり人形に自動人形、フランケンシュタインの怪物に代表される人造人間、サイボーグまで、ネタは多岐に渡っています。そういえば、あるかと思ったド●●モンネタはなかったですな(笑)。
狭義の「ロボット」に絞った場合には、例のアシモフの三原則がどうしても関わって来るわけで、これをどう料理するかで力量が問われます。もうひとつは、ある種の叙述トリックによる視点の逆転でしょうか。これもアシモフ的な“人間とロボットの違いは何か”という命題に繋がってきます。
あくまで論理的に三原則を打ち破ってみせた「サージャリ・マシン」(草上 仁)、“寝たきり老人撲滅運動”という穏やかでない発端から暖かなビジョンで終る「自立する者たち」(斎藤 肇)、人間そっくりのロボットが開発されたことによる恐るべき行政手段を描いた「保が還ってきた」(菊地 秀行)、笑えるけどなんともブラックな落ちの「小壺ちゃん」(梶尾 真治)、機械よりも何よりも生身の人間が最も恐ろしいということを再認識させてくれる「夜警」(青山 智樹)、アシモフを意識するにしては異色のユニークな料理法が秀逸な「背赤後家蜘蛛の夜」(堀 晃)、あまりにも人間的なロボットが登場する「LE389の任務」(岡本 賢一)と「2999年2月29日」(渡辺 浩弐)、和製からくり人形の古典ネタ「木偶人」(横田 順彌)、フランケンシュタインネタを見事に換骨奪胎した「人造令嬢」(北原 尚彦)、優れた病院ホラー&虫ホラーでもある「虹の彼方に」(奥田 哲也)、いわゆる“夜中に勝手に動く人形”テーマの「角出すガブ」(竹河 聖)、わけがわからん分、もっとも気持ちが悪い(ほめてるんですよ)「蔵の中のあいつ」(友成 純一)といったのが主なラインアップです。
<収録作品と作者>「サージャリ・マシン」(草上 仁)、「卵男」(平山 夢明)、「自立する者たち」(斎藤 肇)、「保が還ってきた」(菊地 秀行)、「夜のロボット」(石田 一)、「小壺ちゃん」(梶尾 真治)、「夜警」(青山 智樹)、「MENTAL KINGDOM」(奥田 鉄人)、「サバントとボク」(眉村 卓)、「背赤後家蜘蛛の会」(堀 晃)、「LE389の任務」(岡本 賢一)、「KAIGOの夜」(菅 浩江)、「2999年2月29日」(渡辺 浩弐)、「錠前屋」(高野 文緒)、「ケルビーノ」(安土 萌)、「木偶人」(横田 順彌)、「人造令嬢」(北原 尚彦)、「上海人形」(速瀬 れい)、「蔵の中のあいつ」(友成 純一)、「缶詰28号」(江坂 遊)、「真夜中の庭で」(本間 祐)、「虹の彼方に」(奥田 哲也)、「カクテル」(井上 雅彦)、「角出しのガブ」(竹河 聖)
オススメ度:☆☆☆
2004.11.10
<星の時>作戦 (SF)
(H・G・エーヴェルス&エルンスト・ヴルチェク / ハヤカワ文庫SF 2004)
“ペリー・ローダン・シリーズ”の第305巻です。
前巻で並行宇宙から帰還したローダン一行ですが、奇妙な病気を持ち帰ってしまいました。
感染した人間は理性の抑制がゆるみ、義務や仕事をかえりみず趣味に没頭してしまうという奇怪な症状で、以前の痴呆化ほどではありませんが、太陽系帝国は深刻な危機に立ちます。
その隙をついて、アコン、アラス、スプリンガー、バアロル教団といった地球を目の仇にしているヒューマノイド連中が陰謀をめぐらしてきます。それがタイトルの<星の時>作戦。
それはなんとか未遂に終りましたが、そのことによって、疫病の第二の側面が明らかになります。ある種の人々には攻撃衝動を与え、また別の人々には狂気のような郷愁を抱かせ、驚くべき事態が出現します。
さて、この先どうなるのか――というところで、クリフハンガー状態は続きます。
<収録作品と作者>「<星の時>作戦」(H・G・エーヴェルス)、「テラへの巡礼」(エルンスト・ヴルチェク)
オススメ度:☆☆☆
2004.11.10
眼中の悪魔 (ミステリ)
(山田 風太郎 / 光文社文庫 2001)
山田風太郎さんといえば時代小説、とりわけ忍者小説の作家だと思っていたのですが(実は1冊も読んでない(^^;)、探偵小説・怪奇小説を初めとする現代小説もかなり書かれていたそうです。光文社文庫から「山田風太郎ミステリー傑作選」として全10巻が出ていますので、これから定期的に読んでいくことにします。
その第1巻目は本格ミステリ10編を収めたもの。
昭和20〜30年代前半にかけて書かれたもので、いずれも戦前の探偵小説の雰囲気を色濃く受け継いでいます。医学的なトリックあり、手紙や日記を作中に幾重にも挿入したメタフィクション的な叙述トリックあり、ホームズものを初めとする当時の英仏ミステリへのパスティーシュあり、いわゆる“奇妙な味”に分類されるような作風あり、バラエティに富んでいます。
中でも200ページのオムニバス長篇「誰にも出来る殺人」は、いわくありげな住人が集まるアパートの一室に残されたノートに書き綴られた代々の住人の記述を通じて、様々な動機と手段によるいくつもの殺人事件が描かれ、最終的に意外な(?)犯人と真相が暴かれるという凝ったつくりになっています。また、ヨーロッパを舞台にした「黄色い下宿人」と「司祭館の殺人」は、ラストで登場する意外な人物ににやりとさせられます。
<収録作品>「眼中の悪魔」、「虚像淫楽」、「厨子家の悪霊」、「笛を吹く犯罪」、「死者の呼び声」、「墓堀人」、「恋罪」、「黄色い下宿人」、「司祭館の殺人」、「誰にも出来る殺人」
オススメ度:☆☆☆
2004.12.5
玩具館 (ホラー:アンソロジー)
(井上 雅彦:編 / 光文社文庫 2001)
テーマ別ホラー・アンソロジー『異形コレクション』の第20巻。
今回のテーマは“おもちゃ”です。子供が遊ぶ玩具はもちろん、大人が大真面目でハマるホビーもあり、『おもちゃにする』という比喩的なイディオムあり、中には登場人物の名前がウォルフガングなんていうのも(笑)。
ただ、いつもに比べると感性が合わない作品が多かったのか、「これは!」というのと「なんだかなあ」という落差が激しかったような気がします。
「これは!」と思ったのは、オチはすぐに見当がつくのですが途中の描き込みが濃厚なためについのめりこんでしまう数学ホラー「フォア・フォーズの素数」(竹本 健治)、子供ならではの無邪気な恐ろしさがぞっとするラストの「猫座流星群」(皆川 博子)、ジグソーパズル(と、その購入手段)に潜む恐怖を描いた「来歴不明の古物を買うことへの警め」(雨宮 町子)、エキゾチック・人形ホラーの極致「象牙の愛人」(篠田 真由美)、西洋の妖精伝説が妖しく息づく「貯金箱」(北原 尚彦)、ノスタルジックな中の一瞬の恐怖「男の顔」(田中 文雄)、某ゲームをモチーフにしたノンストップ・スプラッター「怪魚知温」(飯野 文彦)、少子化の先にあるものを暗示して戦慄させる「綺麗な子」(小林 泰三)、怪奇・SF・スプラッター・オカルト趣味・意外な真相と更なるどんでん返しで満足させてくれる「救い主」(田中 啓文)、切なさが胸を打つ「オモチャ」(宮部 みゆき)と「のちの雛」(速瀬 れい)など・・・。こうしてみると、お気に入りはいっぱいあるじゃん(笑)。
<収録作品と作者>「お菊さん」(飛鳥部 勝則)、「猫座流星群」(皆川 博子)、「よくばり」(佐藤 哲也)、「弟」(加門 七海)、「チャチャの収穫」(青木 和)、「来歴不明の古物を買うことへの警め」(雨宮 町子)、「フォア・フォーズの素数」(竹本 健治)、「象牙の愛人」(篠田 真由美)、「男の顔」(田中 文雄)、「貯金箱」(北原 尚彦)、「喇叭」(朝暮 三文)、「ぼくのピエロ」(安土 萌)、「走馬燈、止まるまで」(久保田 弥代)、「怪魚知温」(飯野 文彦)、「タケオ」(太田 忠司)、「人形の家」(村田 基)、「愛されしもの」(井上 雅彦)、「綺麗な子」(小林 泰三)、「救い主」(田中 啓文)、「青い月に星を重ねて」(浦浜 圭一郎)、「未完成の怨み」(今野 敏)「瑠璃色のビー玉」(江坂 遊)、「オモチャ」(宮部 みゆき)、「女の館」(菊地 秀行)、「のちの雛」(速瀬 れい)
オススメ度:☆☆☆
2004.12.22
浴槽の花嫁 (犯罪実話)
(牧 逸馬 / 現代教養文庫 1997)
今や絶版になってしまった、現代教養文庫版『世界怪奇実話』(全4巻)の第1巻です。高校時代に第3巻(「街を陰る死翼」)を読んだきり放置してあって、絶版になると知ってあわてて集めようとしたのですが、結局2巻と4巻は未入手のまま(先日、神保町の某古書店で見かけたら1冊1500円もしたので見送りました(^^;)。
内容としては、『怪奇』とは言ってもチャールズ・フォートだとかフランク・エドワーズの著作とは異なり、UMAだのUFOだのオカルトだの超自然ネタは少なく、犯罪実話が中心です。この巻でもタイトルとなっている「浴槽の花嫁」は結婚相手を次々に浴槽で事故に見せかけて溺死させたイギリスの連続殺人鬼G・J・スミスの話ですし、おなじみ“切り裂きジャック”ネタの「女肉を料理する男」、少年を次々に殺しては切り身やソーセージにして売っていた殺人肉屋、ドイツのフリッツ・ハールマンを扱った「肉屋に化けた人鬼」、第一次大戦で暗躍した女スパイ“マタ=ハリ”の記録「戦雲を駆ける女怪」の他、欧米を騒がせた誘拐事件や詐欺事件が並びます。
さて、この作品が雑誌「中央公論」に連載されたのは昭和4年〜8年にかけてですから、半世紀以上も昔のことです。だから今では伏字になってしまうような用語もぽんぽん出てきますが、それはまあ置いといて。とにかく事実関係をしっかり押さえて、構成もよく練られており、文章にリズムがあって面白いのです。まるで講談師の講釈を聞いているような感じで、最近似たような猟奇実話ものを量産している某二人組み女流作家さんなどには、爪の垢を煎じて飲ませたくなります。
扱われているネタがネタですから、万人にお勧めできるものではありませんが、この『世界怪奇実話』のエッセンスをお読みになりたい方は、光文社文庫から「牧逸馬の世界怪奇実話」という本が島田荘司さんの編集で出ています。こちらなら簡単に手に入るかと。
<収録作品>「女肉を料理する男」、「チャアリイは何処にいる」、「都会の類人猿」、「ウンベルト夫人の財産」、「浴槽の花嫁」、「戦雲を駆る女怪」、「肉屋に化けた人鬼」、「海妖」
オススメ度:☆☆
2004.12.25
無月物語 (時代・ミステリ)
(久生 十蘭 / 現代教養文庫 1997)
先日の「浴槽の花嫁」に続き、今や絶版の現代教養文庫2冊目。いずれも新刊書店から消えてなくなるギリギリで確保したものです。
『異端作家三人傑作選』(各作家5巻ずつ)と銘打たれていたうち、小栗虫太郎は中学・高校時代に全部揃えてしまい、夢野久作は角川文庫版を揃えていたので無視、そして久生十蘭は「魔都」と「地底獣国」だけ買い込んで、残りは放ってありました。でも先日の「昆虫図」と併せ、これで残り1冊になりました。「黄金遁走曲」、現在鋭意探索中〜。
さて、この「無月物語」は戦後、十蘭の晩年に近くなって書かれた時代小説を中心に編まれています。正直、時代小説は読み慣れていないので、こんなものかな〜という感じ。でも、歴史に名を残す大人物ではなく市井の浪人や弱小武士、おちぶれた貴族などを主人公として描いた諸作は味があります。最大の収穫は、戦前の短編探偵小説のベストテンに入ると言われる「湖畔」を初めて読めたこと。小学生の時からタイトルだけ知っていて読めなかったものです。箱根の芦ノ湖畔の別荘を舞台にした犯罪小説ですが、偶然と悪意の中で運命の皮肉に翻弄されていく人物像は凄絶です。
※追記:2005年夏、「黄金遁走曲」を入手しました〜♪
<収録作品>「遣米日記」、「犬」、「亜墨利加討」、「湖畔」、「無月物語」、「鈴木主水」、「玉取物語」、「うすゆき抄」、「無惨やな」、「奥の海」
オススメ度:☆☆
2004.12.28