反ホムンクの強襲 (SF)
(クラーク・ダールトン&ハンス・クナイフェル / ハヤカワ文庫SF 2005)
“ペリー・ローダン・シリーズ”の第309巻です。
相変わらず銀河ではPAD病(心身性アブストラクト変形)が蔓延しています。
前半のエピソードでは、PAD病に侵された“200の太陽の星”の救援ドラマが展開されますが、ここで脇役として出てくるクレールというハチのような知性体は、そのメンタリティからしてもいかにもダールトンが好みそうなキャラです。なかなか謎も多く、今後も登場するとすれば大きな意味を持ちそうな存在ですが、さてどうなることか。
しかし、ついにPAD病は最終段階に移行し、銀河の知性体すべてに死と滅亡の危機が迫ります。救済の鍵を握る存在と、それを抹殺しようとする存在の死を賭けた暗闘が後半のエピソード。でも、作品のタイトルで正体がバレバレなんですけど(笑)。
<収録作品と作者>「ポジトロニクス争奪戦」(クラーク・ダールトン)、「反ホムンクの強襲」(ハンス・クナイフェル)
オススメ度:☆☆☆
2005.3.10
とむらい機関車 (ミステリ)
(大阪 圭吉 / 創元推理文庫 2001)
ちょっと間が空きましたが、戦前探偵小説シリーズ。でも今回は出版社が違います。春陽文庫ではなくて創元推理文庫。
大阪圭吉さんは初読みです。というか、この本を読むまで名前も知りませんでした。
でも、これはなかなかのものです。
本人もドイルのホームズものを意識して書いたという短篇の数々。探偵役の青山喬介はホームズほどは個性が強くはないですが、快刀乱麻を断つ推理で事件を解決するのは同じ。題材や舞台も、戦前らしく炭鉱や工場、鉄道といったプロレタリア的なものから、モダンなデパート、ヨットを所有する金持ち、砂金で一山当てようという山師など、現代ミステリではあまりお目にかからないものが多く、かえって新鮮です。
特筆すべきは、蒸気機関車を主人公に据えた「とむらい機関車」(なぜか轢死事故を頻繁に起こす機関車にまつわる、奇妙で切ない事件)と「気狂い機関車」の2作。俗に言う“トラベル・ミステリー”は、交通機関は手段であって描かれるのは旅情や旅の風物詩なのですが、こちらは機関車なしには成立し得ない物語なわけです。汽車が主役のミステリと言えば、個人的にはドイルの「消えた臨急」(実はこれはホームズものではない)のインパクトが強いのですが、この2作は同じくらい強い印象を残しました。もしかすると、「気狂い機関車」はドイルのこの作品を意識しているのかも知れません。
他にも、「赤髪連盟」を思わせる奇想天外な犯罪を描く「あやつり裁判」、海底炭鉱が舞台の鬼気迫る犯罪劇「坑鬼」、意外な犯人(?)が明かされる「デパートの絞刑吏」など。探偵小説各誌に掲載されたエッセイも収録されています。
姉妹編「銀座幽霊」も近日登場。
<収録作品>「とむらい機関車」、「デパートの絞刑吏」、「カンカン虫殺人事件」、「白鮫号の殺人事件」、「気狂い機関車」、「石塀幽霊」、「あやつり裁判」、「雪解」、「坑鬼」、「我もし自殺者なりせば」、「探偵小説突撃隊」、「幻影城の番人」、「お玉杓子の話」、「頭のスイッチ――近頃読んだもの」、「弓の先生」、「連続短篇回顧」、「二度と読まない小説」、「停車場狂い」、「好意ある督戦隊」
オススメ度:☆☆☆
2005.3.19
M・R・ジェイムズ怪談全集1 (怪奇)
(M・R・ジェイムズ / 創元推理文庫 2001)
19世紀末から20世紀初頭にかけての英国怪奇小説文壇の重鎮、M・R・ジェイムズの全短篇を2巻本にまとめた第1巻。かつて同じ創元推理文庫から出ていた「M・R・ジェイムズ傑作集」(17篇収録)の拡大完全版です。
ジェイムズの怪奇小説は、まさに古典的な怪談というべきもので、安心して読めます(という表現も妙ですが(^^;)。
舞台はは17世紀から同時代までの英国やヨーロッパ大陸の片田舎。古ぼけた寺院や遺跡や宿屋や屋敷で、司祭や旅の好事家が因縁めいた事物に関わり合うことで怪異に巻き込まれるというのが定番です。「なんか怪しいな・・・。おかしいぞ、出るぞ、出るぞ・・・ほら出た!」というオーソドックスな展開ですが、題材の選び方や小道具の使い方、雰囲気の盛り上げ方が非常に上手いので、オチがわかっているにも関わらず、何度読み返しても楽しめます。
いくつものアンソロジーに収録されている「マグナス伯爵」や「笛吹かば現れん」、古びた銅版画が過去の悲劇を暗示する「銅版画」、あるはずのない部屋が出現する「十三号室」、魔女に呪われた一族の悲劇「秦皮の樹」、黒魔術の使徒の恨みを買った学者の暗闘「人を呪わば」、迷路怪談「ハンフリーズ氏とその遺産」など佳篇ぞろい。
<収録作品>「アルベリックの貼雑帳」、「消えた心臓」、「銅版画」、「秦皮の樹」、「十三号室」、「マグナス伯爵」、「笛吹かば現れん」、「トマス僧院長の宝」、「学校綺譚」、「薔薇園」、「聖典注解書」、「人を呪わば」、「バーチェスター聖堂の大助祭席」、「マーチンの墓」、「ハンフリーズ氏とその遺産」
オススメ度:☆☆☆☆
2005.3.20
薫大将と匂の宮 (ミステリ)
(岡田 鯱彦 / 扶桑社文庫 2001)
実は小学生時代からタイトルだけ知っていて、ずっと探していたのに発見できず、これまで読めなかった作品です。それが、この『昭和ミステリ秘宝』で復刊されました。扶桑社さんありがとう。
さて、歴史ミステリというジャンルがあります。これらはさらにいくつかの小ジャンルに分けられると思います。ひとつは現在の登場人物が、過去の歴史的事件に秘められた謎を解き明かすもので、英国王リチャード3世の素顔を推理する「時の娘」(ジョセフィン・テイ ハヤカワ・ミステリ文庫)を嚆矢とし、日本でも「成吉思汗の秘密」(高木彬光)をはじめ、いろいろ書かれています。それのバリエーションとして、現代の事件とからめて過去の歴史的謎を解くという趣向のものがあります(斉藤栄の「奥の細道殺人事件」とか「イエス・キリストの謎」とか)。そしてもうひとつが、歴史上の舞台で歴史上の人物が事件に巻き込まれ、自らが探偵役となって事件を解決するというもの。シオドー・マシスンの連作短編集「名探偵群像」とか、カー「血に飢えた悪鬼」とか、日本の作品では「伯林―1888年」(海渡英祐)とか「猿丸幻視行」(井沢元彦)とか。
前置きが長くなりましたが、「薫大将と匂の宮」は、この第三のジャンルのバリエーションです。紫式部が書いた「源氏物語」の未発表の続編という形式を借り、「源氏物語」の登場人物、薫大将と匂の宮のモデルとなった貴族の間で起こった連続怪死事件の顛末を描く奇想天外な物語。しかも、女の意地を賭けて、紫式部と清少納言が推理比べをするという趣向(清少納言は、まるで細●●子みたいな猛女です)。身体からえもいわれぬ香りを発するという薫大将と、人間離れした嗅覚を持つ匂の宮という特異体質のふたりが事件の鍵を握り、現代と違って、死者の霊を呼び出して真相を聞き出すという手段が正当に扱われるなど、伝奇小説めいた小道具も散りばめられています。しかもフーダニットの本格ミステリの構図を崩していません。
実は「源氏物語」はまともに読んでいなかった(高校の古文の授業でちょっとかじっただけ)ので、どうなるかと思ったのですが、充分に楽しめました。もし読んでいたら、もっと興味深く読めたに違いありません。
これ以外にも、本書には「雨月物語」に題材を取った短篇5篇、皮肉の効いた新解釈の「竹取物語」、江戸の義賊・鼠小僧次郎吉の運命を描く「変身術」(タイトルでネタがバレてしまいますが)など、国文学者でもあった作者の特色が発揮された作品が収録されています。
<収録作品>「薫大将と匂の宮」、「妖奇の鯉魚」、「菊花の約」、「吉備津の釜」、「浅茅が宿」、「青頭巾」、「竹取物語」、「変身術」、「異説浅草寺縁起」、「艶説清少納言」、「コイの味」、「「六条の御息所」誕生」、「古典文学の現実的刺激 ―雨月物語に関して―」、「清少納言と兄人の則光」
オススメ度:☆☆☆
2005.4.7
下水道 (ミステリ)
(角田 喜久雄 / 春陽文庫 1996)
春陽文庫版、戦前探偵小説シリーズのひとつ。
角田喜久雄さんといえば、時代小説作家として有名ですが(読んだことはない)、デビューは探偵小説で、戦後すぐに名作「高木家の惨劇」を発表しています(これもずっと読みたいと思っている作品ですが、創元推理文庫版「日本探偵小説全集3」に収録されているので、やっと読むことができます・・・順番が回って来れば(^^;)。
これまでこの人の作品は、アンソロジーに収録された短篇をふたつ読んでいたのみで、今回ようやくまとめて読むことができました。
13篇が収録されており、表題作の中篇「下水道」は謎解きと怪奇、サイコサスペンスとSF的要素まで含んでいる、ある種異様な後味の作品。狂気のような復讐譚の皮肉な結末を凄絶に描く「発狂」ほか、トリッキーな謎解きあり、心理サスペンスあり、ユーモラスな悪漢小説あり、バラエティに富んだ作品が収められています。
<収録作品>「蛇男」、「ひなげし」、「豆菊」、「狼罠」、「ペリカンを盗む」、「浅草の犬」、「三銃士」、「発狂」、「死体昇天」、「密告者」、「ダリヤ」、「Q」、「下水道」
オススメ度:☆☆☆
2005.4.11