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イクシーの書庫・過去ログ(2003年9月〜10月)

<オススメ度>の解説
 ※あくまで○にの主観に基づいたものです。
☆☆☆☆☆:絶対のお勧め品。必読!!☆☆:お金と時間に余裕があれば
☆☆☆☆:読んで損はありません:読むのはお金と時間のムダです
☆☆☆:まあまあの水準作:問題外(怒)


量子宇宙干渉機 (SF)
(ジェイムズ・P・ホーガン / 創元SF文庫 1998)

一発変換を試みたら、漁師右中間正気になりました。しっかりしてよ“ルイーゼさん”(汗)。
ホーガンと言えば「星を継ぐもの」とか「創世記機械」とか「未来からのホットライン」といったハードSFが定番だったのですが、最近は「ミラー・メイズ」とか「インフィニティ・リミテッド」などのポリティカル・フィクションが多くなっていました。
で、この「量子宇宙干渉機」は、前者と後者がうまくドッキングした作品と言えるでしょう。
時は21世紀。開発された量子コンピュータによって、この世界と並行して存在する無限に存在する並行世界の存在が明らかになりました。そして、各世界の事象が量子レベルで干渉しあうことによって、物事がどう起こっていくのかが決定されるという事実が確認されます。
舞台となる21世紀の世界は冷戦時代が再現され、行く末は暗いものでした。ですが、並行世界の事象に手を加えることによって、歴史の方向を変えることができるかも知れない・・・そう考えたアメリカ国防省は、量子コンピュータを開発した科学者たちを召喚して特別プロジェクトをスタートさせます。
しかし、科学者たちはひそかに別の方向へも研究を進め、戦争や政治闘争、人種差別などがない“別天地”世界の存在を突き止めます。
ですが・・・(以下自粛)。
量子論が根底にあるとはいえ、そのへんの知識がまったくなくても、読み進むのにまったく問題ありません。ホーガンの作品の中で、いちばん地味なストーリー展開という気がしますが、さくさくと読み進めることができます。

オススメ度:☆☆☆☆

2003.9.1


バーサーカー皆殺し軍団 (SF)
(フレッド・セイバーヘーゲン / ハヤカワ文庫SF 1999)

“バーサーカー”・・・DQでもおなじみの名前ですが、もともとは北欧の伝説に出てくる“狂戦士”のことです。戦いに臨めば退くことを知らず、狂ったように殺戮の限りを尽くす、恐るべき戦士です。 本作に出てくる“バーサーカー”は、未知の異星種族が殺戮のために作り出した機会生命のことです。あらゆる生命を殺しつくすためにのみ存在するかれらと人類が出会った時、無限に続く戦いの幕が開くことになります。
機械生命対有機生命の永遠に続く戦いという図式では、G・ベンフォードの長編連作が有名ですが、“バーサーカー”が書かれたのはそれよりも遥かに昔。こちらの方が先行作品なのです。
かなり前からタイトルだけは知っていて、ずっと読もうと思っていたのですが、今回めでたく手に取ることができました。
で、読んでみて、事前に抱いていたイメージとはかなり違うことが判明。「終わりなき戦い」(J・ホールドマン)とか
「戦闘機甲兵団レギオン」(W・デーツ)のような戦争アクションかと思っていましたが、イメージはなんと「タイム・パトロール」でした。
舞台となる惑星サーゴルは、特殊な時空構造を持っていて、ある条件を満たせば過去へタイムスリップすることができるのです。サーゴルの歴史を作ったのも、2万年前に送り込まれてしまった人類の植民船でした。
当然、バーサーカーの方もバカではありませんから、戦闘ロボットを過去へ送り込み、歴史を改変してサーゴルの人類の歴史を抹殺しようと試みます。諸国を統合した英雄、善政を敷いた王、重要な科学的発見をした科学者・・・そういった人物を殺してしまえば、歴史はねじまげられ現生人類は消滅してしまうでしょう。それを防ぐために、人類も過去へ工作員を送り込み、バーサーカーの陰謀を未然に防ごうとします。まさにタイム・パトロール。
大きく3つのエピソードから成り立っていますが、主人公は共通。それぞれのエピソードもいろいろと趣向が凝らされていて、なかなか読ませます。
最後に、読んでいるうちに思いついたしょーもないダジャレネタをひとつ。
質問:バーサーカーが生息している危険な土地の名前は?
解答:フレッドセイバー平原(笑)
・・・お後がよろしいようで〜。

オススメ度:☆☆☆

2003.9.3


時間怪談 (ホラー:アンソロジー)
(井上 雅彦:編 / 廣済堂文庫 1999)

テーマ別ホラー・アンソロジー『異形コレクション』の第10弾です。
今回は、タイトル通り時間テーマ。とはいえ、「時間SFではありません」と編者の断り書きがついております。まさに、その名に恥じぬ怪奇と幻想の時間旅行。
いきなり冒頭の「春よ、こい」(恩田 陸)にノックアウトされ、時間の迷路に取り込まれると、後は一気呵成。ラヴクラフトの原神話(ダーレスが改悪する前のやつね)を見事に換骨奪胎した和風クトゥルー譚「家族が消えた」(飯野 文彦)、都市伝説のような現代業界ホラー「0.03フレームの女」(小中 千昭)、時間SFと見せてどんでん返しをくわせる「時縛の人」(梶尾 真治)、エンドレスな暗黒のメルヘン「塔の中」(安土 萌)など、芸達者の秀作が揃っています。
中でも「春よ、こい」は桜吹雪が舞い散る中での幻想譚で、もしこれを先に読んでいたら、某シナリオに大幅な影響を及ぼしていたのではないかとすら思われます(笑)。
でも、時間テーマの幻想譚ではジャック・フィニイの短編「愛の手紙」(「ゲイルズバーグの春を愛す」に所収)がオールタイム・ベストなんですが。

<収録作品と作者>「春よ、こい」(恩田 陸)、「家の中」(西澤 保彦)、「石女の母」(山下 定)、「墓碑銘」(倉阪 鬼一郎)、「後生車」(早見 裕司)、「血脈」(北原 尚彦)、「カフェ「水族館」」(速瀬 れい)、「「俊寛」抄―世阿弥という名の獄―」(朝松 健)、「DRAIN」(籬 讒贓)、「むかしむかしこわい未来がありました」(竹内 志麻子)、「こま」(皆川 博子)、「0.03フレームの女」(小中 千昭)、「ベンチ」(村田 基)、「雨の聲」(五代 ゆう)、「歓楽街」(中井 紀夫)、「おもひで女」(牧野 修)、「夏の写真」(奥田 鉄人)、「喜三郎の憂鬱」(加門 七海)、「クロノス」(井上 雅彦)、「家族が消えた」(飯野 文彦)、「塔の中」(安土 萌)、「時縛の人」(梶尾 真治)、「桜、さくら」(竹河 聖)、「踏み切り近くの無人駅に下りる子供たちと、老人」(菊地 秀行)

オススメ度:☆☆☆☆

2003.9.4


天使の憂鬱 (SF)
(高千穂 遥 / ハヤカワ文庫JA 1999)

お気に入りの“ダーティペア”、新シリーズ開幕です(と言っても開幕は99年ですが。読むの遅すぎ(^^;)。
この『ダーティペアFLASH』シリーズは、先行したOVAを追うように書かれたリニューアルシリーズです。アニメ見てないけど(汗)。
今回、描かれるのは、主人公のケイとユリの新人時代。WWWAにスカウトされたばかりの17歳のピチピチギャル(死語)です。不良少年に間違えられるケイと、ふりふりドレスのぶりっ子ユリ。
イラストレーターさんも、前シリーズの安彦良和さんからるりあ046さんに変わって、イメージ一新してます。るりあさんのイラストに出会うのは、角川文庫「ダンジョンワールド」の口絵イラスト以来で、とても懐かしかったです。それにしても「ダンジョンワールド」の4巻目以降はどうなったんだ!?(←怒りを新たにしているらしい)
表紙を見て「何これ? これがダーティペア?」とギャップにびっくりしたが正直なところですが、「そうか、高千穂さん、こういう趣味があったんだ」と妙に納得してしまったのも確かです(不遜ながら、同志と呼ばせていただきたくなりました)。
え? 内容?
文句なしに面白いです。
敵もすごいし。脇役(特にハミングバード)もいい味出してますし。

オススメ度:☆☆☆☆

2003.9.5


アトランの裏切り (SF)
(ウィリアム・フォルツ&H・G・フランシス / ハヤカワ文庫SF 2003)

ペリー・ローダン・シリーズの第293巻。
前巻のラストで聞こえた声の正体、推測と違ってました。でもアレ(正しくは“それ”か)も前半で一瞬だけ登場したので、まあ半分は当たってたかも。
しばらく前から謎の焦点となっていた惑星アスポルクの巨大隕石、全長200キロにも及ぶという隕石は、●●●だったということが判明します。この謎の解明が、本サイクルの後半の目玉となるのでしょうね。久々の宇宙的神秘の謎解きに、わくわくします〜。

<収録作品と作者>「アトランの裏切り」(ウィリアム・フォルツ)、「虚空からきた巨人」(H・G・フランシス)

オススメ度:☆☆☆

2003.9.6


陰陽師 (伝奇)
(夢枕 獏 / 文春文庫 1999)

流行ってますね〜、陰陽師。というか安倍晴明。書店に行けば様々な関連本が平積みになっていますし、映画のPART2ももうすぐ公開されるようですし。
でも、そういう流行とはまったく関係のないところで読んでます。
本作は、安倍晴明を主人公とした連作短編集の第1弾。
晴明と、相方の源博雅が、平安京を舞台に繰り広げるあやかしハンティング。
でも、九十九乱蔵シリーズのような伝奇バイオレンスを期待すると、肩透かしをくらいます。晴明は、あくまで雅やかに、魔を理解し、なよやかな中に芯を通して、魔界都市・京都をあでやかに闊歩します。ネタも、百鬼夜行あり、八百比丘尼あり、羅生門の鬼あり、史実と虚構のはざまに、色鮮やかな平安王朝絵巻を描き出しています。
中でも、アシモフが「黒後家蜘蛛の会」で書きそうな、軽くてしゃれたネタの「梔子の女」が印象的でした。

<収録作品>「玄象といふ琵琶鬼のために盗らるること」、「梔子の女」、「黒川主」、「蟇」、「鬼のみちゆき」、「白比丘尼」

オススメ度:☆☆☆☆

2003.9.6


陰陽師 飛天ノ巻 (伝奇)
(夢枕 獏 / 文春文庫 1998)

昨日に引き続き、“陰陽師”のシリーズ2巻目です。
ストーリーも面白いしテンポがいいので、1冊1時間ちょっとで読めます(個人差あり)。
特に、主人公の晴明と相方の源博雅の会話のテンポがいいのですね。
展開は意外とワンパターンで、晴明の屋敷を訪れた博雅が、怪事の話題を持ち出し、晴明に解決を依頼します。そして、「ゆこう」「ゆこう」という掛け合いと共に、晴明が乗り出して事件が決着するわけです。読み慣れてくると、この「ゆこう」というセリフが出てくると、わくわくします。
今回も、正統派怪異ものからこじゃれた恋愛ドラマまで、幅広く粒揃い。
魔性のものとただ対立するのではなく、理解し受け入れようとする晴明のふところの広さが魅力です。
続刊も出ていますが、読めるのはしばらく先(汗)。

<収録作品>「天邪鬼」、「下衆法師」、「陀羅尼仙」、「露と答へて」、「鬼小町」、「桃薗の柱の穴より児の手の人を招くこと」、「源博雅堀川橋にて妖しの女と出逢うこと」

オススメ度:☆☆☆

2003.9.7


奇妙な道 (ホラー)
(ディーン・クーンツ / 扶桑社ミステリー 1999)

クーンツの初期から90年代前半までに発表された中短編に加えて、書き下ろし作品も収録した作品集『ストレンジ・ハイウェイズ』の第1巻(邦訳は三分冊になるようです)。
本巻には、タイトルにもなっている書下ろし長編「奇妙な道」と短編「ハロウィーンの訪問者」が収録されています。
「奇妙な道」は、いつものクーンツ作品の長さに比べれば、中篇と言っていい長さですが、クーンツ作品のエキスが詰まっています。
主人公ジョーイは、人生の敗残者とも言うべき、酒に溺れた40男。ずっと不義理をしていた父親が亡くなったため、故郷のさびれた町へ戻ってきます。ですが、その晩や父の葬儀の日、暴行死したと思われる女性の死体の幻がつきまといます。
この辺の序盤は、クーンツらしくありません。陰鬱で、粘液質の恐怖がまとわりつき、どちらかといえばキング的。作者名を知らずに読んだら、キングの作品だと思ってしまったかも知れません。
しかし、炭鉱火災のためにゴーストタウンとなった隣町に通じる道(その道は廃道になったはず)を見つけてそこに車を乗り入れ、彼を知る女子高生セレステに出逢った時、ジョーイはおのれが記憶の奥底に閉じ込めてきた20年前の過去を掘り起こし、それを克服するべく、運命に立ち向かっていきます。ここから物語は一気にキングからクーンツ風味へ。
少女セレステは、まさにクーンツ的展開の体現者で、タフで知的で前向きでかわいらしい魅力的なヒロインです(実はクーンツの奥さんがモデルらしい)。
中途のサスペンスと読後感の良いエンディング。久々に堪能しました。
もうひとつの短編「ハロウィーンの訪問者」は、正統派怪物ホラーと思わせてラストにひとひねり加えています。これもクーンツらしいです。

<収録作品>「奇妙な道」、「ハロウィーンの訪問者」

オススメ度:☆☆☆☆

2003.9.8


乳房全書 (ノンフィクション)
(マルタン・モネスティエ / 原書房 2003)

かなり前に酒場の方で「買っちゃった・・・」とつぶやいていた本、ようやく読み終わりました。1日数項目ずつ、ちょこちょこと。
「死刑全書」とか「奇形全書」とか
「ハエ全書」とか、妙な(というか悪趣味な)テーマで詳細に薀蓄を傾けてくれるモネスティエが選んだ今回のテーマは「乳房」。
まあ知っていてもほとんど(まったく、とは言いません)役に立たない知識の集大成です。ブラジャーやコルセットの歴史から、乳癌に関する統計とか、絵画や映画や雑誌で胸をさらした著名な女性のリストとか、効果的な愛撫のテクニックとか(これだけは役に立つかも〜(^^;)、乳房の体積を測るための数式とか・・・、およそ700項目(笑)。
毎度ながらモネスティエの知識へのこだわりというか、博覧強記ぶりには頭が下がります。「日本では巨乳ブームが起こっている」なんてことも、ちゃんと書いてあるし。
ただし、これはあくまで知識欲を満たすための本です。他の用途(笑)にはあまり使えないと思います、念のため。

オススメ度:☆☆

2003.9.9


月光ゲーム (ミステリ)
(有栖川 有栖 / 創元推理文庫 1998)

“新本格”の旗手のひとり、有栖川有栖さんのデビュー作です(デビュー作と知らずに買いました(^^;)。
夏合宿のために、北関東にある矢吹山のキャンプ場にやってきた京都の大学の推理小説研究会の4人(そのひとりが、語り手の有栖川有栖)。同じキャンプ場に偶然居合わせた他のふたつの大学の学生と合せての総勢17人は、キャンプ3日目に突如として発生した矢吹山の噴火のために、下山道をふさがれ、孤立してしまいます。
そんな中、発生する殺人。被害者は「Y」の字に見えるダイイング・メッセージを遺していました。一同が疑心暗鬼に陥る中、ひとりが行方不明となり、またひとりが殺されます。
副題に“Yの悲劇’88”と記されているように、まさにクイーンを意識した道具立てや終盤に挿入された「読者への挑戦」に、わくわくさせられます。“吹雪の山荘”テーマだし(これもクイーンの「シャム双子の謎」のシチュエーションを強く意識してますな)。
綾辻行人さんのデビュー作「十角館の殺人」も、作者の探偵小説マニアっぷりが息づいていましたが、これも同じ。作品の完成度はこの「月光ゲーム」の方が上のような気がします。
あとがきで有栖川さん、「12歳で初めて創元推理文庫を読み、ミステリの世界にどっぷりつかってしまった」と書かれていましたが、これを呼んですっかり嬉しくなりました。わーい、おんなじだ〜♪(ちなみに自分が最初に読んだのが「Yの悲劇」)

オススメ度:☆☆☆☆

2003.9.10


至上の愛へ、眠り姫 (エロチック・ファンタジー)
(アン・ライス / 扶桑社ミステリー 1999)

童話の“眠り姫”をモチーフにした官能SMファンタジー(?)『スリーピング・ビューティ』の第3巻にして完結編です。
第1巻で登場と同時に衣服すべてを剥ぎ取られた眠り姫が、本巻の255ページに至って初めて服を着ます。・・・いやそれが本筋じゃなくて(汗)。
1巻ではお城で調教され、2巻では“村”に住む庶民階級に売り払われて奴隷となった眠り姫や他の王子・王女たち。2巻のラストで異国のスルタンの手の者に捕えられ、船で異国へ連れて行かれてしまいます。
そしてこの巻では、アラブを思わせる異国での新たな快楽奴隷としての性活(笑)が描かれます。ホモ乱交や鞭打ちはもちろん、とうとう浣腸まで(まあこれは性的な意味ではなく衛生的にするという意味で扱われています。スカ●ロ小説ではありません、念のため)。
2巻で半分主役を務めたトリスタン王子は脇役に追いやられ、今度は比類ない強い意志と肉体を併せ持ったローラン王子が主役となります。
ローラン王子は単なる奴隷の身にあきたらず、かれらを支配するスルタンの家令レクシアスに対して驚くべき行動に出ます(この場面はかなり痛快 ←文字通りの意味で)。
しかし、結末は絵に描いたようなハッピーエンド。ここに至って、このお話はちゃんとメルヘンの王道を歩んで昇華してます。めでたしめでたし。
あ、でも内容は18禁ですからね。

オススメ度:☆☆

2003.9.11


ラ・プラタの博物学者 (探検記)
(W・H・ハドソン / 岩波文庫 1996)

19世紀に書かれた博物学書のひとつ。
けっこう、この時代の博物学書(または探検記)は好きです。
中学の時にダーウィンの「ビーグル号航海記」を読んだのが手始めで、その後、(20世紀ものですが)ヘディンの「中央アジア探検記」、ヘイエルダールの「葦舟ラー号航海記」などを図書館で借りては繰り返し読んでいました。
しばらく忘れていたのですが、8年ほど前にH・W・ベイツの「アマゾン河の博物学者」を読んでから再び目覚め、以降、「マレー諸島」(A・R・ウォレス)とか
「コン・ティキ号探検記」(T・ヘイエルダール)とか、目に付くと買って読んでいます。で、この「ラ・プラタの博物学者」もその系列に連なるものです。
著者のW・H・ハドソンは小説「緑の館」(未読ですが)の作者としても有名ですね。
舞台がアルゼンチンのパンパ(乾燥した草原)なので、ジャングルの動植物相を描いたベイツの著書とは趣が異なります。でも、小鳥や昆虫、ピューマや大型げっ歯類といった動物たちの生態が生き生きと描かれていることには変わりありません。
まあ、「ノミはハエが退化したものである」とか「雄の蚊は、何も食べずに生きているに違いない」といった考察は、信じちゃいけませんけど(笑)。

オススメ度:☆☆

2003.9.13


ザ・スリー (ダーク・ファンタジー)
(スティーヴン・キング / 角川文庫 1999)

キングのライフワークと言われている超大作『暗黒の塔』シリーズの第2作です。
1作目
「ガンスリンガー」は、本当にプロローグという感じで、いまひとつのめりこめなかったのですが、今回はそんなことはありません。
謎の「暗黒の塔」を目指して旅する主人公ローランドは、荒れ果てた海岸の砂地に現れた不思議なドアを通じて、20世紀のアメリカ(ニューヨーク)とコンタクトします。そして、塔へ赴くための鍵となる3人の人物と遭遇するわけです(それがタイトル「ザ・スリー」の意味)。
つまり3部構成になっているわけですが、どのパートも趣向が凝らされていて、飽きさせません。
第1部は80年代が舞台で、主人公は若い麻薬の運び屋エディ。ギャング同士の銃撃戦などもあり、ハードボイルドなサスペンス風味です。
第2部の主人公は、60年代に生きた上品な黒人女性オデッタ。しかし、事故(?)で両足を失った生活を送る彼女には粗暴な別人格デッタが宿っていました。ここはサイコ・サスペンスのノリですね。
そして第3部に登場する殺人鬼モートは、「ガンスリンガー」に出てきた少年ジェイク(彼は20世紀のアメリカで殺され、ローランドの世界に転生したのです)を殺した人物でした。
ローランド自身の肉体はこちらの世界に残したまま、精神だけが各人の意識に乗り移って一種の二重人格状態になるのに、あちらの人間(エディやオデッタ)はローランドの世界に肉体ごとやって来られる、という奇妙な法則が支配していますが、何はともあれ、パーティの頭数が揃って、冒険はいよいよこれから始まるというところでしょうか。

オススメ度:☆☆☆

2003.9.15


OKAGE (ホラー)
(梶尾 真治 / ハヤカワ文庫JA 1999)

「黄泉がえり」の著者、梶尾真治さんが同じ熊本を舞台に描いた大作。解説によると、「黄泉がえり」とは姉妹編の関係にあるそうです(「黄泉がえり」はあいにく未読)。
小学4年生の少年、国広兆(きざし)は、ある晩、塾の帰りに忽然と姿を消します。必死に探す母親は、子供たちの失踪事件が全国的いや世界的に発生していることを知らされます。江戸時代に起きた同じような事件にちなんで「おかげ現象」と呼ばれるようになりますが、子供たちは操られるように特定の場所を目指していきます。そして、かれらの傍らに寄り添う異形の影が・・・。
兆は、他の少年少女とともに、阿蘇を目指します。そこには、世捨て人のような生活をする異端の学者、村上とインド人の妻が住んでいました。実は、村上夫妻も幼いころ、異形の生き物と邂逅したことがあったのでした・・・。
これ以上はネタバレになるのでやめますが、とにかくSFともホラーともダークファンタジーともジャンル分けしがたい大作です。ミステリ的要素もあれば怪物も出てくる、正義の味方も出る、パニックは起きる・・・。モダンホラーはジャンルミックスである、という定義に従えば、まさに正統派モダンホラー。一言で言えば、A・C・クラークの「幼年期の終わり」をクーンツが書いたら、こんな作品が出来上がるのではないでしょうか。
また、実在のアニメやゲームを小道具的に散りばめているのも、リアリティを出すためのキング的手法と言えるでしょうか。兆がプレイしているゲームは「トルネコの大冒険」ですし、雨に打たれた子供たちが勇気を奮い起こすために歌うのが「ムーンライト伝説」(初代セーラームーンの主題歌)なんですから。

オススメ度:☆☆☆☆☆

2003.9.17


エリザベート 血の伯爵夫人 (歴史)
(桐生 操 / 講談社+α文庫 1999)

16世紀のハンガリーに実在し、数多くの少女たちを殺してその血を浴びたというエリザベート・バートリの生涯を描いたもの。
まあ、特に見るべきところはありません。この著者が、他のいくつもの似たような著書で述べていることと同じ。興味本位に、扇情的に書かれています。
あきれたのは著者による「あとがき」です。
「エリザベート・バートリを女吸血鬼のひとりとする興味本位の見方が巷に横行するようになった」と書いて嘆いていますが、それを一番あおったのは、あんたらでしょうが(汗笑)。

オススメ度:☆

2003.9.19


黒太子の秘密 (ヒロイック・ファンタジー)
(栗本 薫 / ハヤカワ文庫JA 1999)

“グイン・サーガ”の、・・・ええと、66巻です。
前巻に引き続き、マルガのアルド・ナリスの元を訪れた黒太子スカールが、過去に自分がノスフェラスで見た信じられない秘密について語ります。
スカールが目にしたものについて、自らの推論を加えて解釈するナリスの長広舌が、本巻の白眉でしょう。「魔界水滸伝」の加賀四郎のごとく、謎を解き明かしていく論理の流れは爽快です。
ここ5〜6巻(外伝を含む)で、後半の怒涛の展開へ向けての布石は出揃ってきたという感じですね。こうなったらもう誰にも止められんでしょう(笑)。

オススメ度:☆☆☆☆

2003.9.20


たたり (ホラー)
(シャーリイ・ジャクスン / 創元推理文庫 1999)

いわゆる“幽霊屋敷”テーマの怪奇小説の古典。実はハヤカワ文庫NVから出ている「山荘綺談」と同じ作品です。それを知らなくて、以前「山荘綺談」は読んでたのに、また読んじゃいました。まあ、翻訳者も違うし20年ぶりだし、ま、いいか(笑)。
心霊科学者のモンタギュー博士は、怪異が起こるという噂の“丘の屋敷”を借り切り、そこに何人かの人物を集めて屋敷の謎を究明しようと考えます。集められたのは、幼い頃にポルターガイスト現象を経験したエレーナ、透視能力を持つセオドラ、屋敷の持ち主の血縁者ルーク。迷路のように入り組んだ屋敷の中で、怪異はひそやかにかれらを蝕んでいきます。
幽霊屋敷テーマといえば、御大キングの「シャイニング」(S・キューブリックが映画化)、R・マシスンの「地獄の家」(映画「ヘル・ハウス」の原作)、R・マラスコの「家」(これも映画化されてますな)と、映画になっているのが多いのですが、この作品もロバート・ワイズ監督が映画化してます。そのタイトルが「たたり」。見たことはないのですが、怪異な気配の演出が抜群に優れているという話です。
鬼面人を驚かすというような派手なストーリー展開はありませんが、味わえば味わうほどぞっとする、深みのあるお話です。

オススメ度:☆☆☆

2003.9.26


エロティシズム(上・下) (評論集)
(澁澤 龍彦:編 / 河出文庫 1999)

タイトルから、下世話な想像をしてはいけません。
解説で、編者の澁澤さんが「題名に釣られて本書を買って、期待を裏切られた読者がいるとすれば、編者としては、こんな愉快なことはない」と書かれていますが、まあ編者が澁澤さんですから、妙な期待はしていませんでした。もっと高尚な期待はしてましたが。
本書は、エロスに関わる内外の評論を集めた論説集です。夢魔にサバト、近親相姦に同性愛、ヘルマフロディトス(アンドロギュヌス=両性具有)、そしてエロスに魅せられた何人もの文学者、芸術家たち・・・。
まあ、正直言って、
むつかしくって、よくわかんな〜い。(←おいっ)
という部分も多かったです。特に後半は、D・H・ロレンス、ヘンリー・ミラー、トーマス・マン、オスカー・ワイルドといった文学者が俎上に乗せられていますが、自慢じゃないけどこのうちの誰一人として読んだことがない(汗笑)。読書体験があれば、もっと興味深く読み進むことができたのにと思います。だからといって、これからこれらの作者の作品に手を出す余裕があるかというと、まったくないのです(だめじゃん)。

<収録作品と著者>上巻:「男性および女性の夢魔について」(澁澤 龍彦)、「錬金術と近親相姦」(種村 季弘)、「タブラ・ラサ」(出口 裕弘)、「黒いエロス」(ピエール・ド・マンディアルグ)、「万有引力考―宇宙論的エロティスム」(巌谷 國士)、「ヴェニスの死の音楽」(川村 二郎)、「禁欲と乱倫―異端カタリ派の場合」(渡邊 昌実)、「カサノヴァ「ホモ・エロティクス」」(窪田 般彌)、「幻想のエロチック―トゥルバドゥールたち」(新倉 俊一)、「性の倒錯とタブー」(岸田 秀)、「愛をめぐる断片―プシケとナルシス」(フーリエ)、「恋の翼―プラトーンのエロティシズム」(大沼 忠弘)、「エロスと視覚」(高橋 英夫)、「ヘルマフロディトスの詩学」(由良 君美)、「エロティシズムの危機―深さの神話の終焉」(野島 秀勝)、「オルフェオの死―音楽とエロティシズム」(矢代 秋雄)
下巻:「愛のラディカリストたち」(高橋 巌)、「サバトの宴」(村田 経和)、「マラとホトの関係について」(吉野 裕)、「女神イシス変幻―ネルヴァルの女性神話試論」(稲生 永)、「ヘルマフロディトスの生と死―あるいはルネサンスのエロスとマニエリスムのエロス」(河村 錠一郎)、「同性愛に罪はあるか」(ヤスパース)、「ロレンスにおけるエロティシズム覚え書」(富士川 義之)、「ヘンリー・ミラーに関するノート」(中田 耕治)、「ヴェルズングの血―トーマス・マンの秘められた短篇」(高辻 知義)、「母胎回帰―ウィーン・ロココの一例」(池内 紀)、「オスカー・ワイルド―書簡にみるその肖像」(ヒラルト)、「ハンス・ベルメール―ヘルマフロディトス的イメージのエロティシズム」(ゴルセン)、「プレイボーイ誌の先祖たち」(青木 日出夫)、「エロティシズム小辞典」

オススメ度:☆☆

2003.9.27


トロピカル (ホラー:アンソロジー)
(井上 雅彦:編 / 廣済堂文庫 1999)

テーマ別書き下ろしホラー・アンソロジー、『異形コレクション』の第11弾です。
今回のテーマは、タイトルの通り“熱帯”や“南洋”のホラー。そこが舞台になっていることもあれば、舞台は日本でそこに由来する事物にまつわる怪異譚もあります。
思えば、この分野での古典といえば、編者の井上さんも何度か触れておられるE・L・ホワイトの「こびとの呪い」(井上さんの言う「ルクンドー」は原題)でしょう。創元推理文庫の「怪奇小説傑作集2」に収録されていますので、ぜひご一読を(読んだ後、悪夢で眠れなくなっても責任は負いかねますが)。他にもコナン・ドイルやW・H・ホジスンの海洋奇談、日本では香山滋さん(「オラン・ペンデク」とかね)や戦前の小栗虫太郎さんの「人外魔境」シリーズなど、トロピカル・ホラーの歴史は古いのです(エキゾチック・ホラーの一分野と言えるでしょう)。
本アンソロジーにも夢魔のような秀作が散りばめられています。本格的クトゥルー譚の「オヤジノウミ」(田中啓文)、映画“プレデター”を思わせる「マバヤカ」(毛利元貞)、正統派南洋怪談「干し首」(竹河聖)、世紀末怪物ファンタジー「蜜月旅行」(北原尚彦)、都会の真ん中に現れたトロピカルな恐怖「緑色の褥」(安土萌)、ビジュアルイメージが強烈な「トロピカル・ストローハット」(江坂遊)・・・。
こういうのは、寒い真冬の夜に読むのもいいかも知れません。

<収録作品と作者>「願い」(島村 洋子)、「みどりの叫び」(奥田 哲也)、「屍船」(倉阪 鬼一郎)、「緑色の褥」(安土 萌)、「蜜月旅行」(北原 尚彦)、「罪」(早見 裕司)、「マバヤカ」(毛利 元貞)、「赤道の下に罪は」(本間 祐)、「夢を見た」(榛原 朝人)、「オヤジノウミ」(田中 啓文)、「MUAK−VA」(佐藤 肇)、「極楽鳥」(小沢 章友)、「不死の人」(速瀬 れい)、「Flora」(篠田 真由美)、「赤い月」(藤川 桂介)、「ココナツ」(辻 和子)、「サヴァイヴァーズ・スイート」(二木 麻里)、「猿駅」(田中 哲弥)、「椰子の実」(飯野 文彦)、「スケルトン・フィッシュ」(草上 仁)、「泥中蓮」(朝松 健)、「干し首」(竹河 聖)、「トロピカルストローハット」(江坂 遊)、「デザート公」(井上 雅彦)、「黒丸」(菊地 秀行)

オススメ度:☆☆☆☆

2003.9.27


天使の微笑 (SF)
(高千穂 遥 / ハヤカワ文庫JA 1999)

ルーキー時代のケイとユリの活躍(?)を描く“ダーティペアFLASH”のシリーズ第2弾です。
前巻の事件からひと月。ケイとユリは戦いの舞台となった薔薇十字学院にとどまったまま、敵の出方をうかがっていました。だが敵は大きく動かず、ふたりを含む生徒たちは修学旅行に出かけることになります。生徒たちは、巨大な実験施設を有した大型宇宙船<ゲヘナ>に乗り込みますが、ここで敵の妖魔がワナを仕掛けていました。
決着の時は来るのか・・・? ということですが、主人公のふたりは相変わらずふにゃふにゃで、あまり活躍しません(笑)。脇役の円行やファン・スー、新顔のディーバ、助手であるはずのハミングバードのガープやセーマンに、完全に押されてしまっています。まあ、覚醒前だからねえ・・・。
前巻にも増して、作者のお遊びが冴えまくっています。ユリのボケに突っ込んでみたり、さらに一人ボケツッコミも(笑)。
「正論だな」「今はスリランカよね」・・・どう反応していものやら(汗)。

オススメ度:☆☆☆

2003.9.28


ファンタステス (ファンタジー)
(ジョージ・マクドナルド / ちくま文庫 1999)

副題に“成年男女のための妖精物語”とあります。
主人公の青年アノドスは、21歳の誕生日に、父親が遺した書き物机の引き出しを開けたところ、中から現れた小さな気品ある婦人と出会います。婦人に導かれ、アノドスは妖精の森へ入り込み、幾多の出逢いと冒険を重ねることになります。
傷心のままに森をさまよう騎士、島に住む老賢女、大理石の乙女、とねりこの魔物、はんのきの精・・・。自らの影につきまとわれながら、アノドスの遍歴は続きます。
トールキン以降の“異世界での剣と魔法のファンタジー”ではなく、ケルトの伝統的妖精譚の雰囲気を色濃く残し、愛とアイデンティティ(シャレではない)を求める根源的な探索(クエスト)の物語が重厚に展開されます。かなりコクがあるので、読み進むのにエネルギーが要りますが。
中でも、劇中劇として語られる、魔法の鏡の中に囚えられた乙女を恋する青年の物語が印象に残ります。

オススメ度:☆☆

2003.9.29


グイン・サーガ・ハンドブック2 (ハンドブック)
(栗本 薫:監修 / ハヤカワ文庫JA 1999)

1990年に出た「グイン・サーガ・ハンドブック」の第2弾です。
第1弾以降、90年代に出版された『グイン・サーガ』は正伝32巻、外伝7巻です。
それらのあらすじや、作者の栗本薫さんや挿絵担当の末弥純さんへのインタビュー、名場面集、解説集、人名・地名事典などがごった煮状態で盛り込まれています。まあ、ファンならば必携でしょうけれど(実は自分はそれほどディープなファンではない)、どうも第1弾に比べるとインパクトが薄いんですよね。事典もページの水増し用のような気がしますし・・・。
ただ、収録されている書下ろし短編「クリスタル・パレス殺人事件」(アルド・ナリスが探偵役として、パーティ会場で起きた殺人事件の謎を解きます。ヴァレリウスも活躍)だけでも、本全体の代金を払う価値はあります。

<収録作品>「クリスタル・パレス殺人事件」

オススメ度:☆☆

2003.9.30


クイーン犯罪実験室 (ミステリ)
(エラリイ・クイーン / ハヤカワ・ミステリ文庫 1995)

クイーンの短編集を読むのは、本当に久しぶりです(クイーン作品自体が、久しぶりですが)。中学1年の時に創元推理文庫で「エラリー・クイーンの冒険」「エラリー・クイーンの新冒険」を読んで胸ときめかして以来ですから・・・何十年ぶり?(汗)
原題が“Queen's Experiments in Detection”ということで、略すとQ.E.D.。本格ミステリでおなじみの『証明終わり』のことですね。それにかけているわけです。
でも、いちばん冴えてたのがタイトルだったのは、ちと残念。アイディア・ストーリーが中心の16編が収められているのですが、玉石混交というイメージです。無理なこじつけもありますし、全体的に小粒。結末で「やられたあ!」と素直に感動できる作品が少なかったです。

<収録作品>「菊花殺人事件」、「実地教育」、「駐車難」、「住宅難」、「奇跡は起る」、「さびしい花嫁」、「国会図書館の秘密」、「替え玉」、「こわれたT」、「半分の手懸り」、「結婚式の前夜」、「最後に死ぬ者」、「ペイオフ」、「小男のスパイ」、「大統領は遺憾ながら」、「エイブラハム・リンカンの鍵」

オススメ度:☆☆

2003.10.2


孤島パズル (ミステリ)
(有栖川 有栖 / 創元推理文庫 1998)

「月光ゲーム」に続く、有栖川有栖さんの長編第2作です。
今作も英都大学推理小説研究会メンバーが主人公。探偵役は江神部長でワトスン役は作者と同姓同名のアリスくん。今回は、研究会の新入会員にして紅一点のマリアに招かれて、マリアの祖父が建てた孤島の別荘を訪れます。亡くなったマリアの祖父は、その島に時価数億円のダイヤを隠し、島の各所に立てたモアイ像にその隠し場所の鍵を隠したとのこと。もちろんかれらは推理研の名にかけて、その謎を解こうと腕を撫してやってきたわけです。
島には、マリアの親族や、縁のある人々が夏の休暇を過ごしに集まっていました。台風が接近した夜、突然の殺人事件が島を襲います。唯一の無線機は何者かに壊され、船が来るのも5日後。「月光ゲーム」に続いて“吹雪の山荘”に閉じ込められた人々は、疑心暗鬼の中、犯人を突き止めようとします。事件の背後には、3年前、宝探しの末に命を落とした青年が影を落とします。
純粋論理によって唯一の真犯人が明かされるというプロットは鮮やかで、切ない幕切れも好印象を残します。やりきれない事件の割には読後感がさわやかなのも、作者が登場人物に注ぐ暖かな視線の故でしょう。

オススメ度:☆☆☆☆☆

2003.10.3


仮想空間計画 (SF)
(ジェイムズ・P・ホーガン / 創元SF文庫 1999)

ヴァーチャル・リアリティをとことん描いたハードSFです。
主人公の科学者コリガンは、かつて最先端のヴァーチャル・リアリティ開発を担っていましたが、計画途中で記憶障害と精神障害に襲われ、3年間の入院生活を送った後、社会復帰しました。彼の計画は頓挫したと聞かされ、周囲の世界との違和感に悩まされながら、10年近く暮らしています。その違和感とは、周囲の人々が画一化されたステロタイプな思考や行動しかしないというもので、医師はコリガンの精神障害の後遺症だと診断していました。
そんな中、ひとりの女性リリィが現れます。リリィは、この世界はヴァーチャル・リアリティの世界であって、ふたりとも実験に参加したままそこに囚われているのだと主張しました。そして、それは正しかったのです。
物語は、仮想世界に閉じ込められたコリガンとリリィの奮闘と、そこに至るまでの現実世界での出来事が平行して語られ、徐々に真実が明かされていきます。この辺のストーリーは、ホーガンの作品では「終局のエニグマ」とよく似ています。また、クライマックスでコリガンが自分が陥れられた陰謀を次々にひっくり返していく展開は実に痛快で、ハインラインの「夏への扉」の大逆転劇を思い出してしまいました。

オススメ度:☆☆☆☆

2003.10.5


名探偵登場 (ミステリ)
(ウォルター・サタスウェイト / 創元推理文庫 1999)

まずはタイトルに惹かれて手に取り、紹介文を読んで購入を即決しました。
タイトルからは、ほぼ四半世紀前に作られた同じタイトルの映画(パンフレットは実家なので、スタッフ・キャストは確認できませんが)を連想したわけですが、訳者の方も同じ映画にちなんでこのタイトルを選んだのだそうです。納得。
そして、内容は、登場人物を眺めるだけで興味津々。なんせ、アーサー・コナン・ドイル(言うまでもなくホームズの生みの親)とハリー・フーディニが、がっぷり四つで難事件に取り組む・・・というだけでもわくわくするのに、それに加えて舞台は英国貴族のお屋敷で、幽霊は出る、降霊術はある、恋の鞘当はある、フーディニを狙う謎の人物は暗躍する、当然殺人も起こります。
しかも、語り手も単なるワトスン役ではなく、フーディニの身辺警護のために雇われたピンカートン探偵社の腕利き探偵です。他にも、スコットランド・ヤードから派遣された敏腕警部や聡明な貴族の未亡人、もうひとりの主人公とも言える小間使いの女性など、“探偵役”と呼べそうな人物が目白押しで、まあ「名探偵登場」よりも「名探偵集合!」の方が内容的には正しい(笑)。
しばらく前に読んだ
「ポーをめぐる殺人」(W・ヒョーツバーグ)もドイルとフーディニが主人公でしたが、あちらはアメリカを舞台にオカルト色が濃い内容だったのに対し、こちらは本格ミステリと騎士道精神あふれる英国冒険活劇をミックスした贅沢な道具立てです。ただし、純粋な本格ミステリのつもりで読み進むと、がっくりさせられるかも知れません。アンフェアなこといっぱいやってるし(●●の●●とか)。でもちゃんと論理的な解決と“意外な犯人”が提示され、読後感もさわやかです。

オススメ度:☆☆☆☆

2003.10.7


吸血の家 (ミステリ)
(二階堂 黎人 / 講談社文庫 1999)

“新本格”の雄、二階堂黎人さんの実質的な第1作(デビュー作は「地獄の奇術師」)です。ディクスン・カーと横溝正史を強く意識した道具立てで、トリックはカーの「テニスコートの殺人」、雰囲気は横溝正史の「悪魔が来りて笛を吹く」や「犬神家の一族」のような土俗的なおどろおどろしさを全面に押し出しています。大いに好み!!
時は昭和44年。江戸時代から続く『血吸い姫』の伝説が息づく八王子の旧家を悲劇が襲います。雪の朝の殺人予告に続き、この世のものとも思えぬ美しき3姉妹(+ひとり娘)が主催する降霊会の夜に、陰惨な密室殺人が発生します。実は、この家には終戦の年にも不可解な殺人事件(いわゆる“足跡なき殺人”)が起こっていたのでした。そして、二階堂蘭子の推理は24年の時を越えた驚愕の真相を白日の下にさらします。
作者がくどいくらいフェアプレイに徹してくれているために、謎の半分くらいは自力で解けました(ラジオとか誕生日とかあの人とあの人の関係とか)。でも肝心の足跡トリックにはもう脱帽でした。あと、クイーンの例の作品についてしつこく言及してると思ったら、最後になって「ああ、そうだったのか」と納得。これもヒントのひとつだったのね。
何にせよ、怪奇探偵小説の正統な後継者と呼ぶにふさわしい佳品です。

オススメ度:☆☆☆☆

2003.10.9


アスポルク救援船団 (SF)
(ハンス・クナイフェル&H・G・エーヴェルス / ハヤカワ文庫SF 2003)

“ペリー・ローダン・シリーズ”の第294巻です。
前巻で種族滅亡の危機に陥った異星種族アスポルコスを救うべく、ローダンは太陽系帝国に総動員令をかけます。ところが、2ヵ月後に大執政官(現在はローダン)選挙を控え、政敵がそれを利用して大攻勢をかけてきます。一方、さらに悪質な妨害工作が・・・。
久しぶりに銀河政治が正面から描かれ、読み応えがあります。ブリーが久々の活躍!
後半のエピソードでは、これも本当に久しぶりのオクストーン人(過酷な環境に適応した人類)が登場。M87サイクルでの海王星争奪戦(166〜7巻)以来ですね。
さて、本サイクルの物語はいよいよ佳境。次巻までのひと月が待ち遠しいです。

<収録作品と作者>「アスポルク救援船団」(ハンス・クナイフェル)、「サヴァイヴァル・スペシャリスト」(H・G・エーヴェルス)

オススメ度:☆☆☆

2003.10.10


ランゴリアーズ (ホラー)
(スティーヴン・キング / 文春文庫 1999)

キングの第4作品集“Four Past Midnight”の前半部で、後半は「図書館警察」です。
中篇集と銘打たれながらも、中身は十分に長編。本書にはタイトルにもなっている「ランゴリアーズ」と「秘密の窓、秘密の庭」の2作品が収録されています。
まずは「ランゴリアーズ」。ロサンゼルス発ボストン行きのジャンボ機に乗り合わせた人々が奇怪な事態に遭遇するお話です。たった11人の乗客を残し、クルーも他の乗客たちも飛んでいる飛行機の中から消えうせてしまうという、「マリー・セレスト号」のような事件。乗客として乗っていたパイロットのブライアン、盲目の少女ダイナ、政府関係の特殊な仕事をしているらしいニック、SF作家ロバート、ヒーローに憧れる学生アルバートらは、知恵を絞って謎を解こうとします。しかし、無線はまったく通じず、地上の町も消えうせていました。
キングの傑作中篇「霧」のようなシチュエーションですが、読んで真っ先に思い浮かべたのはアニメ「うる星やつら2 ビューティフルドリーマー」でした(笑)。地上の異変に気付くところとか、ランゴリアーズが●●の●●を●●させるシーンとか、ビジュアルイメージがそっくり。でもまさかキングが見てるわけはないよね。
前半のミステリアスでスリリングな展開に比べて、結末がやや弱い気がします。前半の不条理なノリのまま突っ走ってほしかったなあ。
もうひとつの「秘密の窓、秘密の庭」は、「ミザリー」や「ダーク・ハーフ」で扱ったテーマを別の角度から描いたものです。ベストセラー作家モートは、妻と離婚が成立した直後のある日、別荘に見知らぬ男の訪問を受けます。南部人らしいその男ジョン・シューターは、モートが自分の小説を盗作したと主張し、脅し文句を並べて帰ります。無視しようとしたモートですが、飼い猫を殺され、自宅が放火されて全焼するに至って、事態が笑い事ではないことを悟ります。
最初から最後までサイコスリラー的な展開でサスペンスを盛り上げ、最後でひとひねり加えているところが、キングらしい気がします。ひねりがなかったらクーンツになっちゃう(笑)。

<収録作品>「ランゴリアーズ」、「秘密の窓、秘密の庭」

オススメ度:☆☆☆

2003.10.13


神竜光臨1 ―魔人襲来!― (ファンタジー)
(ロバート・ジョーダン / ハヤカワ文庫FT 1999)

大河ファンタジー『時の車輪』の第3シリーズ『神竜光臨』の開幕です。
(ていうか、4年前の本を今読んでるんですけど(^^;)
前シリーズの終わりで、自分が●●の●●であることを宣言したアル=ソアは、異能者モイレインや護衛士のラン、未来が見える女性ミン、旧友ペリンらと共に、山奥に隠れて機をうかがっています。一方、呪われた剣に侵されたマットは、女性軍(エグウェーン、ナイニーヴ、エレイン王女)に守られつつ“異能者の都”タール・ヴァロンへ戻ろうとしていました。
前巻のラストでは、非常にストーリーがはしょって語られた印象があるのですが、実際、あそこで<光の子>の大群が全滅したという記述を見て、「へ? そんなことあったっけ?」とか思ってしまいました(笑)。
今回、またもアル=ソアが重荷に負けて逃げ出します。ワンパターンだ(笑)。でもまあ、主人公が動き出さなきゃストーリーは始まらないですしね。
本格的な展開は次巻以降でしょう。
それにしても、副題になっている「魔人襲来!」ですが、いつどこで魔人が襲来したの?(笑) あ、ミ●●●ルのことか。ちとタイトルにするには小物ですな。

オススメ度:☆☆☆

2003.10.14


神竜光臨2 ―白き狩人― (ファンタジー)
(ロバート・ジョーダン / ハヤカワ文庫FT 1999)

一昨日の続きです。『神竜光臨』の第2巻。
今回は、徹頭徹尾タール・ヴァロンの異能者の塔が舞台です。
規則を破って塔を抜け出していたナイニーヴ、エグウェーン、エレインの3人は、異能者の長であるアミルリン位に呼び出されます。厳罰を覚悟した彼女らに、アミルリン位は意外な指示を与えます。
3人を塔から連れ出した異能者は、実は闇の王に仕える黒アジャだったと明かし、共に塔から消えた13人の黒アジャを捜索するよう命じたのです。
誰もが疑わしい中で、マットの治療が行われたり、『聖竜戦記』で出てきた謎の美女が暗躍したり、闇王の殺し屋が現れたり、エグウェーンが異能者候補となる試験を受けたり、幾多の謎を秘めたまま物語は進みます。あ〜、伏線がいっぱい(笑)。
それにしても、男連中に比べて、女性軍が活躍するパート(本巻のように)は生き生きしていますね。やっぱり作者も気合いが入るんでしょうか。

オススメ度:☆☆☆☆

2003.10.16


X−ファイル 移植 (ホラー)
(クリス・カーター&ベン・メズリック / 角川文庫 1999)

角川文庫版の「X-ファイル」小説も7冊目です(6冊目「未来と闘え」は映画版のノヴェライゼーションなので、オリジナルの小説シリーズとしては第6弾)。
今回はメディカル・サスペンス風味です。
重度の火傷を負って皮膚移植を受けた患者が、突然暴れ出し、人間離れした力で看護婦を殺して逃亡します。この事件に「X-ファイル」的要素をかぎつけたモルダーとスカリーは捜査を始め、移植された皮膚が身元不明の死体から間違って採取されたことを突き止めますが、皮膚採取を行った医学生は非常に珍しい脳炎にかかって相次いで死んでしまいます。件の死体も消失していました。
事件の鍵は皮膚にあると考えたふたりは、とあるバイオテクノロジー企業にたどりつき、謎の糸はベトナム戦争にまで遡ることを発見、手がかりを求めてタイに飛びます。そこでかれらが見たものとは・・・(以下自主規制)。
ロビン・クックばりのメディカル・サスペンスではありますが、そこは「X-ファイル」ですから、ちゃんと「X-ファイル」らしい結末が用意されています。
ところで、本作以降、このシリーズは出版されていないんですよね。原書の発行が止まったのか、それとも角川さんの都合なのか・・・。なんとなく後者っぽいですけど。

オススメ度:☆☆☆

2003.10.17


幽霊部隊 (冒険)
(ウォルター・ウェイジャー / 二見文庫 1999)

タイトルから「ホラーかな?」と思って手に取りました。
違いました。でも、紹介文を読んで細菌兵器ネタだとわかり、買いました。
中東の小国で、大量虐殺が行われたのが、アメリカの偵察衛星によって発見されます。殺された数百人の男女は、全身が青カビのようなもので覆われていました。致死率100%の細菌に感染していたのです。調査の結果、冷戦時代にアメリカが開発した細菌兵器を、何者かが国外に持ち出していたことが判明しました。
国防総省とCIAが動き、CIAの高官リードは、自らが私的に準備してきた特殊チームを出動させます。スピリット・チーム(つまり“幽霊部隊”)と呼ばれる5人は、公式には死亡したことになっており、世界のどこにも記録の存在しない戦争のプロフェッショナル集団です。リードの命令の下、チームは細菌工場を破壊すべく準備を進めますが、政府中枢部の思惑が事態をあらぬ方向へと導いていきます。
バイオ・サスペンスかと思って読んだら、問題の細菌についての記述はほとんどなく、この点では完全な期待外れ。でも別の意味では期待以上でした。
どのキャラも生き生きとしているし、ストーリーも波乱万丈で説得力があります。
特に、チームの5人が冷徹な戦争のプロフェッショナルであるだけではなく、暖かな血の通った人間だということを示すヒューマンな幕切れは出色。

オススメ度:☆☆☆

2003.10.19


エクソシスト (ホラー)
(ウィリアム・ピーター・ブラッティ / 創元推理文庫 1999)

映画「エクソシスト」が公開されたのは、たしか中学の時です。
恐いもの見たさで、友達と「見に行こうか」と話していたのですが、映画雑誌に掲載されたスチール写真を見ただけで、行くのをやめました(笑)。
でも、内容くらいは知っておきたいと(すっごいブームだったのですよ)ハードカバーの原作本を買って読んだりしました。その原作本が、文庫で復刊です。
映画女優クリスの一人娘のリーガンに異変が起こります。ベッドが揺れたり、家具が移動したり、部屋に冷気がたち込めたり、男の声で卑猥なことを口走ったり――。
精神科の医師の手に負えず、リーガンの症状はますます悪化します。そして、ついに友人の映画監督が不審な死を遂げるに及んで、クリスはイエズス会のカラス神父に助けを求めます。そして、リーガンの精神と肉体を舞台にした神と悪魔の対決が始まります。
映画のビジュアルイメージが強すぎるせいか、小説の内容は意外なほど淡々としていて、ショッキングなシーンはほとんどありません(リーガンの首が180度回転するシーンとか、十字架を●●●に●●するシーンくらい)。神学論議があったり、殺人事件を捜査するワシントン市警の警部補(この人がまた、ほとんどコロンボのパロディで、妙な存在感があります)のサイドストーリーとか、けっこう盛り沢山。
でもまあ、30年前の作品ですからね。キングやクーンツ、マキャモンの作品を読みなれた目で見ると、おとなしく思えるのも仕方ないことなのでしょう。

オススメ度:☆☆☆

2003.10.21


聖母の日(上・下) (ホラー)
(F・ポール・ウィルスン / 扶桑社ミステリー 1999)

『ナイトワールド・サイクル』で有名なホラーの巨匠、ウィルスンがなんと女性名義(メアリー・エリザベス・マーフィー)で発表した作品です。まあ女性名義というのはクーンツもやってますし(リー・ニコルズ名義ね)、そう珍しいことではないようですが。
ストーリーは比較的シンプル。湾岸戦争のさなか、狙いが外れたミサイルがイスラエルの荒地に着弾し、2000年あまり埋もれていた洞窟が顔をだし、洞窟にあった写本が発見されます。5年後、写本はニューヨークで慈善食堂を営む神父ダンとシスター・キャリーの手に入り、その記述を信じたシスター・キャリーはダンとともにイスラエルの荒地にある別の洞窟から、年老いた女性の死蝋化した遺体を発見します。写本の記述を信じるならば、その女性は聖母マリアその人でした。
ダンとキャリーは遺体をニューヨークに運びますが、そこで次々と奇跡が起ります。盲人の目が見えるようになったり、エイズ患者が完治したり・・・。聖母を追うイスラエル総保安局の幹部ケセフや、息子をエイズに冒された上院議員クレンショーらの思惑が交錯する中、クライマックスが・・・。
長さの割には一本道のストーリーなので、さくさく読めます。ひねりのない結末なので、ちょっと物足りない気はしますが、読後感はよし。聖母の口を借りて語られる作者の言葉には、大いに賛同できます。

オススメ度:☆☆☆☆

2003.10.24


グローリー・シーズン(上・下) (SF)
(デイヴィッド・ブリン / ハヤカワ文庫SF 1999)

異世界冒険SF・・・と言ったらいいのでしょうか? いやそれだけでは語りつくせないかも。
舞台となる惑星ストラトスには、極端な母系制社会が成立していました。数千年前に、男性的な暴力的価値観の支配を嫌った一団の植民者が降り立ち、クローン技術を使って独自の世界を作り上げたのです。男性の人口は少なく、ほとんど補助種族扱い。母系制の各氏族は特定の職業を独占し、クローンによって子孫を残します。古来からの男女の交接によって誕生した子供は変異子と呼ばれ、まっとうな職業には就けず、成人したら家を出て自らの生きる道を切り拓かなければなりません。
主人公マイアは5歳の誕生日に(ストラトスの1年は長いので、地球暦で言えば15、6歳です)、双子の妹ライアとともに生まれ育った町を出て、見習い船乗りとして旅立ちます。ところが嵐に遭って、妹ライアの乗り組んでいた船は難破し、ライアは行方不明になります。
たどり着いた町で、マイアは不穏な噂を耳にします。外宇宙からやって来た異星人(とは言っても同じ地球人類)が、ストラトスの安定した社会に変革をもたらすというのです。旅を続けるうちに、マイアは宇宙からの訪問者をめぐる各勢力の陰謀に、否応なく巻き込まれていきます。
プロットやストーリーは、オーソドックスな冒険SFと少女の成長SF(大好き!)で、中盤は西部劇と大脱走、後半は「宝島」を思わせる海洋冒険小説のノリです。ただ、作者が設定した男女の性差が特異なストラトスの世界が、思考実験としての深みを与えています。ただ説明が小出しなので、ちょっとついていくのに苦労しましたが。

オススメ度:☆☆☆

2003.10.30


風の挽歌 (ヒロイック・ファンタジー)
(栗本 薫 / ハヤカワ文庫JA 1999)

『グイン・サーガ』の67巻です。
今回は、地味だけれど大きな区切りの巻ですね。
誘拐されたケイロニアの皇女シルヴィアと吟遊詩人マリウスを救出したグインが、久しぶりに中原へ戻ってきます。
そして、モンゴールの首都トーラスへ着いたグインは、居酒屋<煙とパイプ亭>を訪れて、第1巻の時に描かれたひとつの約束を果たすのでした。
もう、ついに来たか〜という感じで、中盤は読みながら泣きっぱなしでした(恥)。作者の栗本さんも、満を持して気合い十分で書いたんだろうな。長い『グイン・サーガ』の中で、心に深く残ったシーンNo.1になりました。ちなみにこれまでのNo.1は23巻「風のゆくえ」でのアキレウス帝とタヴィアの邂逅シーン、2番目は戦争から帰ってきたダンがゴダロとオリーに迎えられるシーンです。こう考えると、ゴダロ一家って、物語の本筋からすればほんとに脇役なんですけど、ものすごく意味のある存在なのだなあと思います。

オススメ度:☆☆☆☆

2003.10.31


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