時間怪談 (ホラー:アンソロジー)
(井上 雅彦:編 / 廣済堂文庫 1999)
テーマ別ホラー・アンソロジー『異形コレクション』の第10弾です。
今回は、タイトル通り時間テーマ。とはいえ、「時間SFではありません」と編者の断り書きがついております。まさに、その名に恥じぬ怪奇と幻想の時間旅行。
いきなり冒頭の「春よ、こい」(恩田 陸)にノックアウトされ、時間の迷路に取り込まれると、後は一気呵成。ラヴクラフトの原神話(ダーレスが改悪する前のやつね)を見事に換骨奪胎した和風クトゥルー譚「家族が消えた」(飯野 文彦)、都市伝説のような現代業界ホラー「0.03フレームの女」(小中 千昭)、時間SFと見せてどんでん返しをくわせる「時縛の人」(梶尾 真治)、エンドレスな暗黒のメルヘン「塔の中」(安土 萌)など、芸達者の秀作が揃っています。
中でも「春よ、こい」は桜吹雪が舞い散る中での幻想譚で、もしこれを先に読んでいたら、某シナリオに大幅な影響を及ぼしていたのではないかとすら思われます(笑)。
でも、時間テーマの幻想譚ではジャック・フィニイの短編「愛の手紙」(「ゲイルズバーグの春を愛す」に所収)がオールタイム・ベストなんですが。
<収録作品と作者>「春よ、こい」(恩田 陸)、「家の中」(西澤 保彦)、「石女の母」(山下 定)、「墓碑銘」(倉阪 鬼一郎)、「後生車」(早見 裕司)、「血脈」(北原 尚彦)、「カフェ「水族館」」(速瀬 れい)、「「俊寛」抄―世阿弥という名の獄―」(朝松 健)、「DRAIN」(籬 讒贓)、「むかしむかしこわい未来がありました」(竹内 志麻子)、「こま」(皆川 博子)、「0.03フレームの女」(小中 千昭)、「ベンチ」(村田 基)、「雨の聲」(五代 ゆう)、「歓楽街」(中井 紀夫)、「おもひで女」(牧野 修)、「夏の写真」(奥田 鉄人)、「喜三郎の憂鬱」(加門 七海)、「クロノス」(井上 雅彦)、「家族が消えた」(飯野 文彦)、「塔の中」(安土 萌)、「時縛の人」(梶尾 真治)、「桜、さくら」(竹河 聖)、「踏み切り近くの無人駅に下りる子供たちと、老人」(菊地 秀行)
オススメ度:☆☆☆☆
2003.9.4
陰陽師 飛天ノ巻 (伝奇)
(夢枕 獏 / 文春文庫 1998)
昨日に引き続き、“陰陽師”のシリーズ2巻目です。
ストーリーも面白いしテンポがいいので、1冊1時間ちょっとで読めます(個人差あり)。
特に、主人公の晴明と相方の源博雅の会話のテンポがいいのですね。
展開は意外とワンパターンで、晴明の屋敷を訪れた博雅が、怪事の話題を持ち出し、晴明に解決を依頼します。そして、「ゆこう」「ゆこう」という掛け合いと共に、晴明が乗り出して事件が決着するわけです。読み慣れてくると、この「ゆこう」というセリフが出てくると、わくわくします。
今回も、正統派怪異ものからこじゃれた恋愛ドラマまで、幅広く粒揃い。
魔性のものとただ対立するのではなく、理解し受け入れようとする晴明のふところの広さが魅力です。
続刊も出ていますが、読めるのはしばらく先(汗)。
<収録作品>「天邪鬼」、「下衆法師」、「陀羅尼仙」、「露と答へて」、「鬼小町」、「桃薗の柱の穴より児の手の人を招くこと」、「源博雅堀川橋にて妖しの女と出逢うこと」
オススメ度:☆☆☆
2003.9.7
エロティシズム(上・下) (評論集)
(澁澤 龍彦:編 / 河出文庫 1999)
タイトルから、下世話な想像をしてはいけません。
解説で、編者の澁澤さんが「題名に釣られて本書を買って、期待を裏切られた読者がいるとすれば、編者としては、こんな愉快なことはない」と書かれていますが、まあ編者が澁澤さんですから、妙な期待はしていませんでした。もっと高尚な期待はしてましたが。
本書は、エロスに関わる内外の評論を集めた論説集です。夢魔にサバト、近親相姦に同性愛、ヘルマフロディトス(アンドロギュヌス=両性具有)、そしてエロスに魅せられた何人もの文学者、芸術家たち・・・。
まあ、正直言って、
むつかしくって、よくわかんな〜い。(←おいっ)
という部分も多かったです。特に後半は、D・H・ロレンス、ヘンリー・ミラー、トーマス・マン、オスカー・ワイルドといった文学者が俎上に乗せられていますが、自慢じゃないけどこのうちの誰一人として読んだことがない(汗笑)。読書体験があれば、もっと興味深く読み進むことができたのにと思います。だからといって、これからこれらの作者の作品に手を出す余裕があるかというと、まったくないのです(だめじゃん)。
<収録作品と著者>上巻:「男性および女性の夢魔について」(澁澤 龍彦)、「錬金術と近親相姦」(種村 季弘)、「タブラ・ラサ」(出口 裕弘)、「黒いエロス」(ピエール・ド・マンディアルグ)、「万有引力考―宇宙論的エロティスム」(巌谷 國士)、「ヴェニスの死の音楽」(川村 二郎)、「禁欲と乱倫―異端カタリ派の場合」(渡邊 昌実)、「カサノヴァ「ホモ・エロティクス」」(窪田 般彌)、「幻想のエロチック―トゥルバドゥールたち」(新倉 俊一)、「性の倒錯とタブー」(岸田 秀)、「愛をめぐる断片―プシケとナルシス」(フーリエ)、「恋の翼―プラトーンのエロティシズム」(大沼 忠弘)、「エロスと視覚」(高橋 英夫)、「ヘルマフロディトスの詩学」(由良 君美)、「エロティシズムの危機―深さの神話の終焉」(野島 秀勝)、「オルフェオの死―音楽とエロティシズム」(矢代 秋雄)
下巻:「愛のラディカリストたち」(高橋 巌)、「サバトの宴」(村田 経和)、「マラとホトの関係について」(吉野 裕)、「女神イシス変幻―ネルヴァルの女性神話試論」(稲生 永)、「ヘルマフロディトスの生と死―あるいはルネサンスのエロスとマニエリスムのエロス」(河村 錠一郎)、「同性愛に罪はあるか」(ヤスパース)、「ロレンスにおけるエロティシズム覚え書」(富士川 義之)、「ヘンリー・ミラーに関するノート」(中田 耕治)、「ヴェルズングの血―トーマス・マンの秘められた短篇」(高辻 知義)、「母胎回帰―ウィーン・ロココの一例」(池内 紀)、「オスカー・ワイルド―書簡にみるその肖像」(ヒラルト)、「ハンス・ベルメール―ヘルマフロディトス的イメージのエロティシズム」(ゴルセン)、「プレイボーイ誌の先祖たち」(青木 日出夫)、「エロティシズム小辞典」
オススメ度:☆☆
2003.9.27
トロピカル (ホラー:アンソロジー)
(井上 雅彦:編 / 廣済堂文庫 1999)
テーマ別書き下ろしホラー・アンソロジー、『異形コレクション』の第11弾です。
今回のテーマは、タイトルの通り“熱帯”や“南洋”のホラー。そこが舞台になっていることもあれば、舞台は日本でそこに由来する事物にまつわる怪異譚もあります。
思えば、この分野での古典といえば、編者の井上さんも何度か触れておられるE・L・ホワイトの「こびとの呪い」(井上さんの言う「ルクンドー」は原題)でしょう。創元推理文庫の「怪奇小説傑作集2」に収録されていますので、ぜひご一読を(読んだ後、悪夢で眠れなくなっても責任は負いかねますが)。他にもコナン・ドイルやW・H・ホジスンの海洋奇談、日本では香山滋さん(「オラン・ペンデク」とかね)や戦前の小栗虫太郎さんの「人外魔境」シリーズなど、トロピカル・ホラーの歴史は古いのです(エキゾチック・ホラーの一分野と言えるでしょう)。
本アンソロジーにも夢魔のような秀作が散りばめられています。本格的クトゥルー譚の「オヤジノウミ」(田中啓文)、映画“プレデター”を思わせる「マバヤカ」(毛利元貞)、正統派南洋怪談「干し首」(竹河聖)、世紀末怪物ファンタジー「蜜月旅行」(北原尚彦)、都会の真ん中に現れたトロピカルな恐怖「緑色の褥」(安土萌)、ビジュアルイメージが強烈な「トロピカル・ストローハット」(江坂遊)・・・。
こういうのは、寒い真冬の夜に読むのもいいかも知れません。
<収録作品と作者>「願い」(島村 洋子)、「みどりの叫び」(奥田 哲也)、「屍船」(倉阪 鬼一郎)、「緑色の褥」(安土 萌)、「蜜月旅行」(北原 尚彦)、「罪」(早見 裕司)、「マバヤカ」(毛利 元貞)、「赤道の下に罪は」(本間 祐)、「夢を見た」(榛原 朝人)、「オヤジノウミ」(田中 啓文)、「MUAK−VA」(佐藤 肇)、「極楽鳥」(小沢 章友)、「不死の人」(速瀬 れい)、「Flora」(篠田 真由美)、「赤い月」(藤川 桂介)、「ココナツ」(辻 和子)、「サヴァイヴァーズ・スイート」(二木 麻里)、「猿駅」(田中 哲弥)、「椰子の実」(飯野 文彦)、「スケルトン・フィッシュ」(草上 仁)、「泥中蓮」(朝松 健)、「干し首」(竹河 聖)、「トロピカルストローハット」(江坂 遊)、「デザート公」(井上 雅彦)、「黒丸」(菊地 秀行)
オススメ度:☆☆☆☆
2003.9.27
クイーン犯罪実験室 (ミステリ)
(エラリイ・クイーン / ハヤカワ・ミステリ文庫 1995)
クイーンの短編集を読むのは、本当に久しぶりです(クイーン作品自体が、久しぶりですが)。中学1年の時に創元推理文庫で「エラリー・クイーンの冒険」「エラリー・クイーンの新冒険」を読んで胸ときめかして以来ですから・・・何十年ぶり?(汗)
原題が“Queen's Experiments in Detection”ということで、略すとQ.E.D.。本格ミステリでおなじみの『証明終わり』のことですね。それにかけているわけです。
でも、いちばん冴えてたのがタイトルだったのは、ちと残念。アイディア・ストーリーが中心の16編が収められているのですが、玉石混交というイメージです。無理なこじつけもありますし、全体的に小粒。結末で「やられたあ!」と素直に感動できる作品が少なかったです。
<収録作品>「菊花殺人事件」、「実地教育」、「駐車難」、「住宅難」、「奇跡は起る」、「さびしい花嫁」、「国会図書館の秘密」、「替え玉」、「こわれたT」、「半分の手懸り」、「結婚式の前夜」、「最後に死ぬ者」、「ペイオフ」、「小男のスパイ」、「大統領は遺憾ながら」、「エイブラハム・リンカンの鍵」
オススメ度:☆☆
2003.10.2
アスポルク救援船団 (SF)
(ハンス・クナイフェル&H・G・エーヴェルス / ハヤカワ文庫SF 2003)
“ペリー・ローダン・シリーズ”の第294巻です。
前巻で種族滅亡の危機に陥った異星種族アスポルコスを救うべく、ローダンは太陽系帝国に総動員令をかけます。ところが、2ヵ月後に大執政官(現在はローダン)選挙を控え、政敵がそれを利用して大攻勢をかけてきます。一方、さらに悪質な妨害工作が・・・。
久しぶりに銀河政治が正面から描かれ、読み応えがあります。ブリーが久々の活躍!
後半のエピソードでは、これも本当に久しぶりのオクストーン人(過酷な環境に適応した人類)が登場。M87サイクルでの海王星争奪戦(166〜7巻)以来ですね。
さて、本サイクルの物語はいよいよ佳境。次巻までのひと月が待ち遠しいです。
<収録作品と作者>「アスポルク救援船団」(ハンス・クナイフェル)、「サヴァイヴァル・スペシャリスト」(H・G・エーヴェルス)
オススメ度:☆☆☆
2003.10.10