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疑惑の絵皿
和田好弘
終章 次なる冒険へ
「親父〜 酒がないぞ酒が〜!」
カリンが皿やジョッキをスプーンで叩きながら喚き散らした。
行儀の悪いことこのうえない。
「お前らもう少し静かにしねえか! 酒は逃げやしねぇよ」
親父は呆れて樽ごと酒を持って来た。
ここは『導きの泉』である 親父の『たらふく飲み食いさせてやる』の言葉にしたがって一行はやって来たのだ。
事件解決の詳細は既に役人に報告したし、カーター邸の家宅捜査にも協力した。
もう、これ以上麻薬捜査についての仕事はないはずだ。
「しかしお前ら一体なんなんだ? 一日で解決するか? ふつう……」
「才能よ才能。あたし達にできないことなんてこの世にはな〜い!」
カリンが上機嫌でジョッキの酒を飲み干す。
「運がよかっただけよ……」
ルシィは上品に酒を飲んでいる。
「しかし、お前らみたいに訳のわからんやつは結構好きだぞ! よし、俺のとっておきの話をしてやろう!」
「おぉ〜!」
パチパチパチパチ!
もはや仕事は従業員に任せっきりで、親父は昔話を始めた。
実はこの親父も、昔は冒険者というヤクザな商売をしていたのである。
「親父さん。デスシャドウって知ってる?」
宴もたけなわとなってきたころ、突然ルシィが口を開いた。
「あああ、思い出した! あいつ、あたしのことを『小僧』って言ったのよ、『小僧』って! おのれ、絶対に許さないわよ!」
だだだん! っと、カリンが椅子を蹴って立ち上がった。
「デ、デスシャドウ……だと」
親父の赤かった顔は、突然真っ青になった。
「お前ら、デスシャドウだけは関わっちゃだめだ。あいつらは並の冒険者がたちうちできるような連中じゃない!」
「はぁ、ですけど、もう関わっちゃったんです」
ロバートがミルクを飲みながらいった。
「だが、お前らはまだ生きてる。これ以上深入りしなければ……」
「カリンがあっさり手を引くような小娘にみえます?」
「親父さん、知ってるだけでいいから教えて……」
カリンが親父の手をぎゅうっと握った。
親父はふぅっとため息をつくと、話始めた。
「俺もデスシャドウについては良くは知らん。謎の組織で、人数、所在、目的が何なのか一切わかっていない。唯、大抵の大きな犯罪を追って行くとデスシャドウに行き着く。それくらいだ、俺の知っているのは………」
親父はそれだけ言うと一気に酒をあおった。
「それだけ?」
「ああ、すまんな。俺も命は惜しいんでね、デスシャドウの情報は入れてないんだ」
「あ、いいよ別に、そんな謝らなくても……」
カリンの脳裏に、殺されたカーターの姿が思い浮かぶ。
「で、あんたら、これからどうするんだ?」
「ん? また旅に出るよ。一昨日の黒マントにあんな無様なことになるなんて、まだまだ修行の余地が残ってるわ! だから旅を続けてもっと腕を磨くつもり」
そしてデスシャドウの正体を暴いてやる。
カリンは言葉に出さず続ける。
「あの、それって僕も行かないといけないんですか……」
「当たり前よ! なにいってんのロバート!」
カリンの台詞に、ロバートは酒に手を延ばした。
「そうか、で、いつ出発するんだ?」
「街から賞金をもらったら出るつもり。だから、多分あさってくらいになると思う」
カリンはちょっと考えて言った。
「そうか、それならうちの宿に泊まってけ。宿代はサービスしてやる」
「ありがとう、親父さん」
カリンが例をいったその時、男がひとり慌てふためいて酒場に飛び込んで来た。
どうやらここに泊まっている冒険者の一団のひとりらしい。
「た、大変だみんな、アルガゼノン教会神殿から、十三方位神の絵皿が盗賊団に盗まれたぞ!」
「な、なんだと! 何枚だ!?」
「全部だ!」
「ちっ、教会騎士団の連中はなにやってやがったんだ! みんな行くぞ!」
リーダーらしい男が声をかけると、全員とびだしていった。
「カリン、十三方位神の絵皿って、一昨日カーターが本物だっていって高笑いしてたやつだよね」
「そうよ、それにあの黒マントもいってたわ。絵皿がどうこうって……」
カリンはルシィに答えた。
「十三方位神の絵皿って、いったい………」
ルシィは親父を見たが、親父は首を横に振るだけだ。
四人は顔を見合わせた。
ひとまず、彼らの冒険はここで一巻の終わりとなる。
しかし、デスシャドウとはいったい何をしようとしているのか? そして十三方位神の絵皿とは、いったいなんなのか?
新たな謎が謎を呼び、一行は事件に巻き込まれていく………
劇 終
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