ふたりの休日
  

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第2章

 それぞれの家に今日は遅くなるからと電話したブルマとチチは、少女時代に戻ったようにはしゃぎながら、映画を見たり、いろんな店を冷やかして歩いた。めったに都会に出てこないチチにとっては、見るものすべてがもの珍しく、心弾む体験なのだった。


 やがて夜のとばりが降りると、街は昼間とは違った表情を見せて活気づく。早めの夕食をすませて、二人はいよいよカラオケのあるバーへと向かった。
 繁華街に入る途中で中華食材の店を見つけると、チチの足が止まった。
「あ、八角切らしてただ。ちょっといいけ? ブルマさ」

 ブルマが答える前にすばやく店内に入ると、チチは調味料を買い求め、ついでに隣の八百屋で白菜と長ネギを買った。
「ちょ、ちょっとちょっと、これから飲みに行くってのに、そんなもの買うわけ?」
 まだあれこれ買い足すつもりなのか、大根とほうれん草を片腕に抱え、もう片方の手でキャベツの重さを量っているチチを見て、ブルマはあわてて止めた。

「山ん中に住んでると、新鮮な野菜が不足がちになるだ」
「今日は家のことは忘れるって約束よ」
「そうだっただな。すまねえだ。おら、つい……」
 名残惜しげに他の野菜は元に戻したものの、白菜と長ネギだけはしっかり抱えて「子どもたちの好物を作るだ」と言い訳するチチに、ブルマは苦笑した。
「なんだかんだ言って、チチさんてしっかり母親してんのね」


 時間がまだ早いせいか、バーはすいていた。ブルマとチチが店に入っていくと、客やウェイターは皆、はっとしたように目をとめる。ひとりずつでも充分目を引く美人が二人も現れたのだ。無理もなかった。
 入り口近くのボックス席には25、6歳くらいの男が二人で座っていて、彼らもご多分に漏れず、店に現れた二人組の美女に注目した。

 男のうちひとりはつんつんと立った金髪に切れ長の薄青い目をした細身の男だ。カーキのハンティングジャケットにオフホワイトのパンツというラフな格好をしている。
 もうひとりは金髪の男よりも少しがっしりした体つきで、栗色の髪に緑のメッシュを入れた眉の濃い男だった。銀のピアスをつけ、ジャケットもパンツも靴も黒のレザーで決めている。
 二人ともなかなかの美形で、自分たちの魅力を充分承知しているらしいのが余裕ある表情に現れていた。

 ブルマとチチが彼らのそばを通りかかった時、ピアスの男がすかさず声をかけてきた。
「やあ、一緒に飲まない?」
「えっ、お、おらたちに言ってるのけ?」
 チチがびっくりして言った。
「おら!? ……き、君ってユニークだね」
 ピアスの男がちょっととまどって言った。横から金髪の男が口をはさんでくる。
「そういうしゃべり方が今、はやってるんだろ。オレたちにも教えてよ」

「チチさん、行くわよ」
 ブルマがぴしゃりと言った。まだ何か言おうとする男たちに向かって彼女は微笑みかけた。大輪の花がゆっくりと開いてゆくような婉然(えんぜん)たる微笑みだった。
「悪いわね。今夜は男はお呼びじゃないの」
 男たちが思わずポーッとなっている隙に、ブルマはチチをうながして、さっさと離れた席についてしまった。


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