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恋月夜

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第6章

 気を取り直し、客人も混じって4人で賑やかに昼食が始まった。サイヤ人親子の凄まじいまでの食いっぷりにしばし呆気に取られていたクルトだったが、やがて負けじとばかりに彼もがっつき始めた。
「そんなに詰め込んで大丈夫け」
 チチの言葉も耳に入らないのか、クルトは手当たり次第に皿の上の料理を鷲づかみにしては頬張ってゆく。
「チチの料理はうめえからな。遠慮せずにどんどん食えばいいぞ」
 悟空がにこやかに言うと、クルトは大きく頬を動かして咀嚼そしゃくしながら、じろりと睨み返した。
「ほめへの……ふゃひふは……ふへへえは」
 はっきりとは聞き取れなかったが、ケンカを売っているのは確かだった。食卓の上を不穏な空気が流れる。
「さ、さあ、まだまだたくさんあるだぞ。悟空さもほら、食ってけれ」
 急いで取りなしながら、チチは大皿から悟空の皿に好物のパオズ黒豚の角煮を取り分けた。
 とたんにクルトの手が伸びて皿をかっさらっていく。
「あっ、それ、オラの――」
 悟空が慌てて叫んだ。クルトは聞こえないふりで一心に料理をむさぼっている。
「しょうがねえな……」
 悟空は小声でぶつぶつとつぶやき、今度は肉団子と白菜のスープに手を伸ばした。と、それより先にクルトが椀ごと引ったくって、一杯になった口の中に無理してねじ込もうとする。
 チチは立ち上がり、両手を腰に当てて叫んだ。
「クルト! いい加減にするだよ。おめえ意地になってるだろ。大人げねえべ」
 そのとたん、クルトの顔が真っ赤になった。はちきれんばかりに頬張った口を両手で押さえ、汗を流して七転八倒しはじめる。
「ク、クルト、大丈夫け」
「腹が痛えのか!?」
「咽喉に詰めたんじゃ……」
 やれ水だ背中を叩けと口々に叫びながらチチたちが大騒ぎしていると、ようやくクルトは口の中のものを飲み下して大きな息をひとつつき、言った。
「ふーっ、急いで食ったから舌を噛んじまっただ」
 呆れ顔で見ているチチたちの視線に気づかず、食卓の上を見渡してけろりとした顔で更に言う。
「もうないのけ?」

「まぁーったく、人騒がせなやつだべ。まるでいっぺんに3人の子持ちになったみてえな気分だ」
 山のような洗い物と格闘しながらチチがぼやいていると、横合いからクルトの手が伸びて、泡のついた皿をもう片方の手の上に次々に重ねてゆく。
「あ、それ、まだすすいでねえだよ」
 クルトはまあ見てろと言うようにニッと笑ってみせると、数十枚もの皿の山を上下にはさんで横に倒し、水の溜まったシンクの中に一気につけて豪快にすすぎ始めた。実に見事な手際のよさだ。
「そっか。そういえばおめえは料理屋の息子だっただな」
「跡も継がずに家を飛び出した親不孝者だけどな」
「おじさんやおばさんたちはどうしてるだ。ずっと家に帰ってねえのけ」
「チチを嫁に迎えるまでは帰らねえ」
「………………」
 思わず手を止めたチチにクルトは言った。
「あの肉団子と白菜のスープな」
「え?」
「仕上げに酢と七味唐辛子を落とすと味が引き締まる」
「そ、そっか。おらも何だかボケた味だと思ってたんだ。今度からそうするだよ。さすがに舌が肥えてるだな」
「料理屋の息子だからな」クルトはニッと笑った。

 午後の修行に悟空と悟飯が出かけてしまうと、クルトは外に出てひとりで修行を始めた。
「一日も早くあの悟空って男を倒さなければなんねえべ」
 悟空の修行を見たことのあるチチの目には、クルトの修行はただの飛んだり跳ねたりにしか見えなかった。クルトには悪いが、望みがかなうことは永遠にないだろう。チチは黙って家の中に入った。
 ややあって、チチが冷蔵庫の中を拭いていると、外で聞きなれない声がした。台所の窓からうかがうと、クルトが見知らぬ男に応対している。
 セールスマンか何かだろう。チチはさして気にもとめずに家事を続けた。
 しばらくして、クルトが家の中に入ってきた。台所の蛇口をひねり、グラスに水を注いでいる。
「さっきの、何だったんだべ」
 冷たい水をうまそうに飲み干してからクルトは答えた。「ああ、家庭教師とか何とか言ってただな。そんなもんは間に合ってるって帰ってもらっただ」
「なんだって!? おめえ、何てことするだ。せっかくおらが頼んだのに」
 慌てふためいて電話に取り付こうとするチチを制してクルトは言った。
「おらが見てやるだ」
「ええっ!?」
「小学生の勉強くらい朝飯前だ。世界を旅しながら家庭教師のバイトもやったことあるだぞ」
「だ、だども」
「悟飯はおらが見てやる。チチにこれ以上よけいな男を近づけたくないからな」
(本音はそれけ……)チチは脱力した。



(未完ですがここで終わります。ご了承ください)
 この話は「嫉妬する悟空」というテーマで書こうとしたものです。チチの許婚を名乗る幼なじみの男が現れ、いろいろあって最後には悟空とチチがお互いの愛を再確認してめでたしめでたしという結末にするつもりでした。
 どう転んでも嫉妬なんてしそうにない悟空に嫉妬させることができたら楽しいだろうなと思って書き始めたのですが、途中で力尽きて書けなくなってしまいました。そして、これ以降、私はファン小説を書くのをやめました。読んでくださった方には消化不良のまま終わって申し訳ないのですが、続きを想像して楽しんでいただけたら幸いです(^^;)
2002年春 れんか

←未完ですが(^^;) 面白かったらクリックしてね。

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