「時代おくれの酒場」は映画「居酒屋兆次」の主題歌で、いつも朴訥な高倉健さんがしんみりと歌うこの歌がエンディングに流れます。作詞作曲は加藤登紀子。
この歌は、枯葉が舞い、心に木枯らしが吹く頃に、ふと口をついて出てきます。歌っていると、サントリー「角」の香気とともに、
あの頃の思い出の断片が一つまた一つと連なりながら古いモノクロ映画のようによみがえってきます。
あの頃というのは昭和48年から51年頃。当時酒場をはしごしていた知人、友人の顔が彷彿と浮かびます。
初めて新宿二丁目のシャレた酒場に連れて行ってくれたのは雑誌「シナリオ」の編集に携わっていたTさんでした。酒場のカウンター
には白髪のマスターがいて、それにバイトで二人の芸大の女の子がいました。Tさんがキープしていたのは常に「角」でした。
この酒場を出ると、決まってTさん行きつけの新宿ゴールデン街のお店へ千鳥足。ママ一人にカウンターだけの小さな店で、トイレに行くにもお客を跨いでいかなければならないほどの狭さでした。映画関係者や映画好きのお客ばかりで、役者の石橋蓮司さんが
一人カウンターでグラスを傾けていましたっけ。かなりの熱気で、あれが昭和時代の熱気だったのでしょう。
水道橋の居酒屋「庄屋」や餃子の「おけい」、西荻駅前の一杯飲み屋、それに吉祥寺あたりで飲んでいた仲間が、絵の道を志していたK君、仙台市の某デパートの後継者O君でした。まぁ、あの頃はよく飲み、よく語ったものです。当時埼玉は大宮市のアパートに一人住まいでしたが、はしご酒で終電に間に合わず、毎度の如くK君やO君の処に寝泊りさせてもらっていました。
飲んでいる最中に、何気なく「龍さんとは、友達になれそうだナ」って「シナリオ」誌のTさんに言われた言葉が今も懐かしく思い出されます。
|