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私感訳注:
※浣溪沙:詞牌の一。詞の形式名。双調 四十二字。平韻一韻到底。詳しくは 「構成について」を参照。この詞は花間集巻二所収の浣溪沙其一である。
※淸曉:あかつきの最初。の夜が明けたばかり。
※妝成:清明の日の朝の身繕いもできあがり。
※寒食:清明節の前夜数日。現在の暦で言うと、四月四日前後か。“掃墓”(先祖のお墓参りをして、お墓の掃除をする日)の日でもある。
※天:日。一日(いちにち)。
※淸曉妝成寒食天:清明の日の早朝の身繕いもできあがり。
※柳球:柳の枝で球状のものにした寒食の日の装飾。戴柳や挿柳(柳の枝を髪に挿して、厄よけとすること)の風習。これは、清明節の風俗と深い関係がある。「中国民間禁忌」任騁著(石家荘市・花山文芸出版社) によると、清明節と柳については多くの諺があり、例えば「寒食、禁烟節」(火を使わない日)でもあることと関係づけて「淸明不戴柳,死了變成狗」「淸明不帶柳,死後變黄狗」「淸明不戴柳,死了變猪狗」「淸明不帶柳,紅顏成死皓首」。また、黄巣の乱に関係付け、「淸明不帶柳,死在黄巣手」(「戴」と「帶」の発音は声調も含めて(現代語では)全く同じ)。或いは、「鬼節」(“掃墓”)でもあることと関係づけて戴柳や挿柳の風習があるという。これらのこととは別に、風に方々飛ばされた柳絮が団子状に固まったものとも考えられる。現代語の“柳花球”のこと。
※斜:ななめに。きっちりとなっていないさまをいう。
※ :かぼそく弱々しいさま。風がそよそよと吹くさま。煙などがゆらゆらと立ち上るさま。ここでは、ゆらゆらと揺れ動くさまをいう。
※間:間する。隔てる。間(ま)をおく。ここは動詞の意。名詞とは声調が違う。
花鈿:婦人の頭の装飾品で、前額にはりつけるもの。或いは、はなかんざし。白居易の「長恨歌」にも「花鈿委地無人收」 とある。
※柳球斜 間花鈿:柳球が花鈿のところを左右にゆらゆらと揺れ動いた。
※捲簾:スダレ状のカーテンを巻き上げる。
※直出:直ちに…に出て。
※畫堂:美しく彩色してある建物。立派な建物。
※捲簾直出畫堂前:カーテンを巻き上げると直ちに美しく彩色してある建物の前に出た。
※指點:指摘する。
※牡丹:ボタンの花。
※初:(咲いた)ばかりの。いましがた(咲いた)ばかりの。
※綻朶:花がほころんだばかりの枝。
※指點牡丹初綻朶:ボタンがほころんだばかりの枝を指摘して。
※日高:日が高くなる。お昼近くなる。
※猶自:…でさえ、なおかつ。
※凭:よりかかる。もたれる。
※朱欄:あかい欄干。
※日高猶自凭朱欄:日が高くなっても、なおかつ、朱色の欄干に寄り添って(遠くを見つめて物思いに耽っている)。
※含顰:眉をひそめる。しかめる。 ・顰(ひん;pin2)顔をしかめる。眉を寄せる。
※不語:…を口にしない。言わない。
※恨:恨み言。
※春殘:移ろいゆく春。去りゆく春。
※含顰不語恨春殘:眉をひそめているものの、移ろいゆく春を惜しんで恨み言を口にすることはしない。
◎ 構成について
双調 四十二字。平韻一韻到底。節奏は近体七言詩に同じである。韻式は「AAA AA」。韻脚:「天鈿前 欄殘」は第七部平声一先、十四寒。
●○○●●○,(韻)
○ ●●○○。(韻)
○ ●●○○。(韻)
● ○○●●,
○ ●●○○。(韻)
○ ●●○○。(韻)
となる。
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