示兒
陸游
死去元知萬事空,
但悲不見九州同。
王師北定中原日,
家祭無忘告乃翁。
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兒に示す
死去せば 元もと知る 萬事 空なるを,
但だ 悲しむ 九州の同ふするを 見ざるを。
王師 北のかた 中原を定むるの 日,
家祭 忘るる無かれ 乃翁に 告ぐるを。
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◎ 私感訳註:
※示兒:息子たちに言っておく。 ・示:詩の贈呈形式の一で、目下の者に対して使う。中唐・白居易『
燕詩
示
劉叟
』「梁上有雙燕,翩翩雄與雌。銜泥兩椽間,一巣生四兒。四兒日夜長,索食聲孜孜。青蟲不易捕,黄口無飽期。觜爪雖欲弊,心力不知疲。須臾千來往,猶恐巣中飢。辛勤三十日,母痩雛漸肥。喃喃敎言語,一一刷毛衣。一旦羽翼成,引上庭樹枝。舉翅不回顧,隨風四散飛。雌雄空中鳴,聲盡呼不歸。卻入空巣裏,啁啾終夜悲。燕燕爾勿悲,爾當返自思。思爾爲雛日,高飛背母時。當時父母念,今日爾應知。」
、無學祖元の『示虜』「乾坤無地卓孤筇,喜得人空法亦空。珍重大元三尺劍,電光影裡斬春風。」
、中唐・韓愈の『
左遷至藍關
示
姪孫湘
』「一封朝奏九重天,夕貶潮州路八千。欲爲聖明除弊事,肯將衰朽惜殘年。雲横秦嶺家何在,雪擁藍關馬不前。知汝遠來應有意,好收吾骨瘴江邊。」
、南宋・陸游の『
村飮
示
鄰曲
』「七年收朝迹,名不到權門。耿耿一寸心,思與窮友論。憶昔西戍日,孱虜氣可呑。偶失萬戸侯,遂老三家村。朱顏捨我去,白髮日夜繁。夕陽坐溪邊,看兒牧鷄豚。雕胡幸可炊,亦有社酒渾。耳熱我欲歌,四座且勿喧。即今黄河上,事殊曹與袁。扶義孰可遣,一戰洗乾坤。西酹呉玠墓,南招宗澤魂。焚庭渉其血,豈獨淸中原。吾儕雖益老,忠義傳子孫。征遼詔儻下,從我屬櫜鞬。」
等がある。
※死去元知萬事空:死んでしまえば、全てが空になるということは、もともと知っているが。 ・死去:死んでしまえば。 ・元:元来。もともと。中世以降は「原」とすることが多い。 ・萬事空:全てが空になる。辛棄疾の『浪淘沙』「山寺夜半聞鐘」に「身世酒杯中,
萬事皆空
。古來三五個英雄。雨打風吹何處是,漢殿秦宮。 夢入少年叢,歌舞匆匆。老僧夜半誤鳴鐘。驚起西窗眠不得,卷地西風。」
とある。
※但悲不見九州同:ただ、悲しいのは、祖国が統一されるのを(生きている中に)見ないことだ。 ・但悲:ただ、悲しいのは。 ・不見:…に出会わない(ことだ)。…を見ない(ことだ)。 ・九州同:祖国の全土が統一される。 ・九州:中華の地は九つの州に分けられたことからいう。中国全土。祖国。全国
。
※王師北定中原日:(南宋)皇帝の軍隊が(異民族の金を駆逐して、漢民族の故地である)中原を回復する日。天下統一の折りには。 ・王師:皇帝の軍隊。ここでは南宋皇帝の軍隊を指す。 ・北:北の方。金の領土となっている華北をいう。 ・定:平定する。 ・中原:漢民族の故地である黄河中下流域の平原
のこと。春秋戦国時代に周の王都があった現・河南省一帯を指していたが、後に、河南省を中心として、現・山東省の西部から現・河北省・現:山西省の南部、現・陝西省の東部にわたる華北平原を指すようにもなった。漢民族による中華の国の勢力範囲で、 「中国」
や「中州」
と同義。
※家祭無忘告乃翁:先祖を祭って(お線香をあげて)わたしに告げるということを忘れないでほしい。天下が統一されたあかつきは、祭って、祖霊となっているわたしに報告してほしい。 ・家祭:先祖を祭る。 ・無:なかれ。禁止を表す助字。「毋」「無」は○で、「莫」「勿」は●。 無忘:忘れるな。 ・乃翁:わたし。おやじさま。目上の者が目下の者に対して使う自称。陸游自身のこと。 ・乃:なんぢ(の)。
◎ 構成について
七言絶句。仄起。平韻一韻到底。韻式は「AAA」。韻脚は「空同翁」で、平水韻上平一東。以下の平仄はこの作品のもの。
●●○○●●○,(韻)
●○●●●○○。
(韻)
○○●●○○●,
○●○◎●●○。
(韻)
2002. 4.15完
5. 4補
5.14
2011. 2. 7
2018.12.11
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