菫山兒, 兒生不識亂與離。 父言急去牽兒衣, 母言乞火爲兒炊作糜。 父母忽不見, 但見長風白浪高崔嵬。 将軍下一令, 軍中那得聞兒啼。 樓船何高高, 沙岸多崩摧。 榜人不能移, 擧手推墮之。 上有蒲與雈, 下有濘與泥。 十歩九倒迷東西, 身無袴襦。 足穿蒺藜, 叩頭指口惟言饑。 將船送兒去, 問以鄕里記憶還依稀。 父兮母兮哭相認, 聲音雖是形骸非。 傍有一老翁, 羨兒獨來歸。 不知我兒何處餵游魚, 或經略賣遭鞭笞。 垂頭涕下何纍纍, 吾欲竟此曲。 此曲哀且悲, 茫茫海内風塵飛。 一身不自保, 生兒欲何爲。 君不見菫山兒。 |
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菫山 兒
菫山 兒,
兒 は生まれて識 らず亂 と離 とを。
父は「急ぎて去らん」と言ひて 兒の衣 を牽 き,
母は言ふ「火を乞 ひて 兒の爲 に炊 ぎて糜 を作 らん」と。
父母忽 ち見えず,
但 だ見る長風 白浪 高くして崔嵬 たるを。
将軍 一令を下 す:
「軍中那 ぞ 兒の啼 くを聞くを得 ん」と。
樓船 何 ぞ高高たる,
沙岸 多く崩摧 す。
榜人 移す能 はず,
手を擧 げて推 して之 を墮 とす。
上に蒲 と雈 と有り,
下に濘 と泥 と有り。
十歩 九倒 東西 に迷ひ,
身に袴襦 無し。
足は蒺藜 に穿 たれ,
頭を叩 き 口を指して惟 だ饑 を言う。
船を將 って 兒を送りて去らしめ,
問 ふに 鄕里を以てするも 記憶還 た依稀 たり。
父や 母や哭 して相 ひ認め,
聲音 是 なりと雖 も形骸 非 なり。
傍 らに 一老翁 有り,
兒の獨 り來歸 するを羨 む。
知らず 我が兒何 れの處にか游魚 に餵 はれしや,
或ひは略賣 を經 て鞭笞 に遭 ふかを。
頭 を垂れ涕 下 ること 何ぞ纍纍 たる,
吾 此 の曲を竟 へんと欲 す。
此 の曲哀 れにして且 つ悲 し,
茫茫 たる海内 風塵 飛ぶ。
一身自 ら保 たず,
兒を生 みて 何をか爲 さんと欲 する。
君 見 ずや菫山 兒 を。
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◎ 私感訳註:
※呉偉業:(明末)清初の人。明・萬暦三十七年(1609年)~清・康煕十年(1671年)。号して梅村。新王朝である清に出仕するも、すぐに退隠する。詩は二朝に仕えた複雑な感情を詠ったものが多い。
※菫山児:菫山(きんざん)の男の子供。 *浙江省の菫山(きんざん)での戦乱の被災児童の姿。 ・菫山:〔きんざん;Jin3shan●○〕赤菫山のこと。浙江省奉化市の東にある。杭州市の東南東130キロメートルのところ。寧波(ニンポー)近辺。『中国史稿地図集』下冊(郭沫若主編 中国地図出版社)93-94ページ「明末抗清闘争」では浙江省一帯は、清軍の侵攻や鄭成功軍の反清の攻撃、また、鄭成功軍に応じた地区があり、混乱したことがよく分かる。その間の出来事は『中国軍事史略』中巻(高鋭主編 軍事科学出版社)441-455ページ「清滅南明政権的戦争」に詳しい。
※菫山児:菫山(きんざん)の子供。
※児生不識乱与離:子供は(生まれてよりこのかた、)世の中が乱れて人々が離れ離れになるということを知らなかった。 ・不識:(知識として)知らなかった。 ・乱離:世の中が乱れて人々が離れ離れになる。また、国が乱れて心配事が多くなること。その場合は、「離」はうれいの意。ここは、前者の意。明末清初・呉偉業の『追悼』に「秋風蕭索響空幃,酒醒更殘涙滿衣。辛苦共嘗偏早去,亂離知否得同歸。君親有媿吾還在,生死無端事總非。最是傷心看穉女,一窗燈火照鳴機。」とある。
※父言急去牽児衣:父は「急いで行こう」と言って、子供の着物を去牽児衣引っ張って。 ・牽:〔けん;qian1○〕引っ張る。引く。
※母言乞火為児炊作糜:母は、火種をもらってきて子供のために粥(かゆ)を作ると言った(まま)。 ・乞火:火種をもらう。 ・炊:〔すゐ;chui1○〕炊事する。飯を炊く。かしぐ。 ・糜:〔び;mi2(mei2)○〕かゆ。
※父母忽不見:父母(の姿)は突然見えなくなった。 ・忽:〔こつ;hu1●〕にわかに。突然。また、たちまち。 ・不見:姿を消す。見あたらなくなる。見えなくなる。
※但見長風白浪高崔嵬:(両親の姿は見えなくなって、)ただ、遠くから吹き寄せる風が、白い波を高く凹凸が激しくしているのだけが見えている。 ・但見:ただ…だけが見える。『古詩十九首』之十四に「去者日以疎,來者日以親。出郭門直視,但見丘與墳。古墓犁爲田,松柏摧爲薪。白楊多悲風,蕭蕭愁殺人。思還故里閭,欲歸道無因。」とあり、初唐・張若虚の『春江花月夜』に「春江潮水連海平,海上明月共潮生。灩灩隨波千萬里,何處春江無月明。江流宛轉遶芳甸,月照花林皆似霰。空裏流霜不覺飛,汀上白沙看不見。江天一色無纖塵,皎皎空中孤月輪。江畔何人初見月,江月何年初照人。人生代代無窮已,江月年年祗相似。不知江月待何人,但見長江送流水。白雲一片去悠悠,青楓浦上不勝愁。誰家今夜扁舟子,何處相思明月樓。可憐樓上月裴回,應照離人妝鏡臺。玉戸簾中卷不去,擣衣砧上拂還來。此時相望不相聞,願逐月華流照君。鴻雁長飛光不度,魚龍潛躍水成文。昨夜閒潭夢落花,可憐春半不還家。江水流春去欲盡,江潭落月復西斜。斜月沈沈藏海霧,碣石瀟湘無限路。不知乘月幾人歸,落月搖情滿江樹。」
とあり、盛唐・李白の『把酒問月』故人賈淳令余問之「靑天有月來幾時,我今停杯一問之。人攀明月不可得,月行卻與人相隨。皎如飛鏡臨丹闕,綠煙滅盡淸輝發。但見宵從海上來,寧知曉向雲閒沒。白兔搗藥秋復春,姮娥孤棲與誰鄰。今人不見古時月,今月曾經照古人。古人今人若流水,共看明月皆如此。唯願當歌對酒時,月光長照金樽裏。」
とあり、後世、中唐・白居易の『送春』に「三月三十日,春歸日復暮。惆悵問春風,明朝應不住。送春曲江上,拳拳東西顧。但見撲水花,紛紛不知數。人生似行客,兩足無停歩。日日進前程,前程幾多路。兵刃與水火,盡可違之去。唯有老到來,人間無避處。感時良爲已,獨倚池南樹。今日送春心,心如別親故。」
とある。 ・長風:遠くから吹き寄せる風。 ・崔嵬:〔さいくゎい;cui1wei2○◎〕山や建物の高大なさま。凹凸が激しいさま。また、石や岩のごろごろして嶮しい山。ここは、前者の意。盛唐・李白の『蜀道難』に「噫吁戲危乎高哉,蜀道之難難於上青天。蠶叢及魚鳧,開國何茫然。爾來四萬八千歳,不與秦塞通人煙。西當太白有鳥道,可以橫絶峨眉巓。地崩山催壯士死,然後天梯石棧相鉤連。上有六龍回日之高標,下有衝波逆折之回川。黄鶴之飛尚不得過,猿猱欲度愁攀援。青泥何盤盤,百歩九折縈巖巒。捫參歴井仰脅息,以手撫膺坐長歎。問君西遊何時還,畏途巉巖不可攀。但見悲鳥號古木,雄飛雌從繞林間。又聞子規啼夜月,愁空山。蜀道之難難於上青天,使人聽此凋朱顏。連峰去天不盈尺,枯松倒挂倚絶壁,飛湍瀑流爭喧豗,砅崖轉石萬壑雷。其險也如此,嗟爾遠道之人胡爲乎來哉。劍閣崢嶸而崔嵬,一夫當關。萬夫莫開,所守或匪親。化爲狼與豺,朝避猛虎,夕避長蛇。磨牙吮血,殺人如麻,錦城雖云樂。不如早還家,蜀道之難難於上青天,側身西望長咨嗟。」
とある。
※将軍下一令:将軍は命令を下(くだ)して。 ・下令:命令を下(くだ)す。*「将軍下一令」と「将軍下令」と「将軍下一令」と、どうちがうのか。「将軍下一令」の方が「将軍下令」よりも具体性を帯びていよう。
※軍中那得聞児啼:軍中那得聞児啼:軍中で、子供の泣き声がどうして聞こえるのか?!(兵士は、女子供の鹵獲をやめよ!)。 *麾下の部隊に綱紀の粛正を図るように命じたということで、兵士が(乳幼児を連れた)女性を鹵獲していたことを禁じたと謂うこと。 ・那得:どうして…えるのか。*この疑問を表す「那」〔na3〕は、現代語では「哪」〔na3〕と表記することが多い。 ・聞:きこえる。耳に入ってくる。蛇足になるが、「聴」は聴き耳を立ててききとる。意識的にきくこと。 ・啼:泣き声。声をあげて泣く。
※楼船何高高:やぐらのある戦闘用の船は、なんと高々としていることか。 ・楼船:やぐらのある船。水上の戦争に用いる。 ・何:なんと。なんぞ。感嘆の表現。 ・高高:高々と。状態形容詞。一語(=一字)形容詞を重ね型(≒AA型)にした場合、強調や具体的な状況・状態を生き生きと描写する語感を帯びる。この外に、詩詞では語調を整える働き(=字数を揃える働き)がある。
※沙岸多崩摧:砂の岸は、真にくずれくだけやすい(ので)。 ・多:実に…な。まことに…な。なんと…だ。感嘆の表現。前出・対句の「楼船何高高」の「何」と同じ働き。 ・崩摧:〔ほうさい;beng1cui1○○〕くずれくだける。
※榜人不能移:船頭は(船中の鹵獲した女子供を岸に)降ろすことが出来ないので。 ・榜人:〔bang4ren2●○〕舟人(ふなびと)。船頭。舟子/船子。 ・榜:〔bang4●〕船をこぐ。船を進行させる。
※挙手推堕之:手を挙げて、彼等(=女子供)を(船から)おして(水中に)落とした。 ・推堕:おして落とす。 ・之:これ。ここでは、女子供らを指す。
※上有蒲与雈:上には、ガマとオギとがあり。 ・上有:上には…がある。 ・蒲:ガマ。 ・与:…と。「A与B」(「AとBと」)。 ・雈:〔くゎん;huan2○〕オギ。荻(おぎ)の十分に生長したもの。
※下有濘与泥:下には、ぬかるみと泥とがある。 ・濘与泥:ぬかるみとどろ。 *「下有…泥濘」とすべきところを、「泥」を韻脚とするために「濘泥」とし、語調を整えるため「与」を付け加え、「…濘与泥」とした。 ・濘:〔ねい;ning4●〕ぬかる。ぬかるみ。どろ。小さな流れ。 ・泥:〔でい;ni2○〕どろみず。ぬかるみ。どろ。
※十歩九倒迷東西:十歩、歩む内に九回倒れるほどによく倒れて、方角を見失い。 ・十歩九倒:倒れてばかりいる。十歩、歩む内に九回倒れる。 ・迷東西:方角を見失う。東や西が分からなくなる
※身無袴襦:身には、ももひきや肌着も無く。 ・袴:〔こ;ku4●〕ももひき。ズボン。 ・襦:〔じゅ;ru2○〕肌着。短い下着。じゅばん。よだれかけ。
※足穿蒺藜:足はハマビシ(の棘(とげ)を)踏み抜いて。 ・穿:うがつ。 ・蒺藜:〔しつれい(しつり);ji2li0(ji2li2)●○〕ハマビシ。ヒシの実の形をしたもの。
※叩頭指口惟言饑:頭をたたきつけて(叩頭(こうとう)の礼をして)、口を指さして、ただ、ひもじいとことばで言い表すだけだ。 *この句は。「〔叩・頭〕+〔指・口〕+〔言・饑〕」といった三重の動賓構造「〔VO〕+〔VO〕+〔VO〕」=(〔動詞・賓語(=目的語)〕+〔動詞・賓語〕+〔動詞・賓語〕)をとっている。 ・叩頭:〔こうとう;kou4tou2●○〕頭をたたきつける。ぬかずく。頭を地にたたきつけておじぎする、非常に敬意をこめた礼をする。叩頭(こうとう)の礼をする。=「大礼」。 ・惟:ただ。=唯。 ・饑:〔き;ji1○〕うえ。=飢。ひもじい。また、うえる。穀物が実らないこと。 ・言:ことばで言い表す。いいだす。
※将船送児去:船で子供を送っていった。 ・将:〔将+名詞〕…をもって。文言文の「以」、俗語の「把」と似た働きをする。 ・送…去:(…を)送っていく、の意。「送児去」は、「送去児」とはできない。
※問以郷里記憶還依稀:故郷をきいたが、記憶はまだぼんやりとしている(が)。 ・還:まだ。依然として。やはり。また。なお。 ・依稀:〔いき;yi1xi1○○〕ぼんやりとして明らかでない。似ている。晩唐・趙嘏の『江樓書感』に「獨上江樓思渺然,月光如水水連天。同來翫月人何處,風景依稀似去年。」とあり、清・趙執信の『村舍』に「亂峯重疊水橫斜,村舍依稀在若耶。垂老漸能分菽麥,全家合得住烟霞。催風筍作低頭竹,傾日葵開衞足花。雨玩山姿晴對月,莫辭閒澹送生涯。」
とあり、現代では、毛澤東の七律『到韶山』「別夢依稀咒逝川,故園三十二年前。紅旗捲起農奴戟,黑手高懸覇主鞭。爲有犧牲多壯志,敢敎日月換新天。喜看稻菽千重浪,遍地英雄下夕煙。 」
がある。
※父兮母兮哭相認:お父さんよ! お母さんよ!と、声をあげて泣きながら(親子関係を)認めた。 ・兮:…よ。…や。語調を整える辞。文中、文末の助詞で、上古に多く使われた。 ・哭:声をあげて泣く。 ・相認:(親子関係を)認知する。知っている。認める。
※声音雖是形骸非:声色(こわいろ)は以前のままだったが、体つきが変わってしまっていた。 ・声音:ことばづかい。こわいろ。また、歌や音楽ここは、前者の意。 ・雖:…であるものの。いえども。 ・是-非-:(…は)よいが、(…は)まずい。 ・是:正しい。よい。 ・非:まずくなっている。よくないこと。亡くなっている。中唐・白居易の『商山路有感』に「萬里路長在,六年身始歸。所經多舊館,大半主人非。」とあり、前出・文天祥の『金陵驛』に「草合離宮轉夕暉,孤雲飄泊復何依。山河風景元無異,城郭人民半已非。滿地蘆花和我老,舊家燕子傍誰飛。從今別卻江南路,化作啼鵑帶血歸。」
とあり、前出・薩都剌の『滿江紅』金陵懷古に「六代豪華,春去也、更無消息。空悵望,山川形勝,已非疇昔。王謝堂前雙燕子,烏衣巷口曾相識。聽夜深、寂寞打孤城,春潮急。 思往事,愁如織。懷故國,空陳跡。但荒煙衰草,亂鴉斜日。玉樹歌殘秋露冷,臙脂井壞寒螿泣。到如今、只有蒋山青,秦淮碧。」
とあり、『搜神後記』卷一のトップにある漢代の道士・丁令威の故事に「丁令威,本遼東人,學道於靈虚山。後化鶴歸遼,集城門華表柱。時有少年,舉弓欲射之。鶴乃飛,徘徊空中而言曰:『有鳥有鳥丁令威,去家千年今始歸。城郭如故人民非,何不學仙塚壘壘。』遂高上衝天。今遼東諸丁雲其先世有升仙者,但不知名字耳。」とあり、清末~・黄遵憲の『日本雜事詩 舊藩邸宅』に「新綠在樹殘紅稀,荒園菜花春既歸。堂前燕子亦飛去,金屋主人多半非。」
とある。 ・形骸:〔けいがい;xing2hai2○○〕人の体。
※傍有一老翁:かたわらに老人がいて。 ・傍:かたわら。 ・老翁:おじいさん。老人。
※羨児独来帰:う子供がひとりで(よその土地から)帰って来たのを羨(うらや)ましがっていた。 ・羨:うらやむ。 ・独:ひとりで。 ・来帰:(よその土地から)帰って来る。また、夫の家に帰る。嫁にくる帰順する。 *ここは「来帰」よりも「帰来」のほうが、意味としてはより相応しいが、「帰」を韻脚とするためにこうした。
※不知我児何処餵游魚:我が子がどこで、水中を泳いでいる魚に食われているのやら、分からない。 ・不知:分からない。 ・何処:どこ。 ・餵:〔ゐ;wei4●〕食わす。えさを与える。 ・游魚:水中を泳いでいる魚。屈原の『楚辞・漁父』に「屈原既放,游於江潭,行吟澤畔,顏色憔悴,形容枯槁。漁父見而問之曰:子非三閭大夫與?何故至於斯?」屈原曰:「舉世皆濁我獨淸,衆人皆醉我獨醒,是以見放。」漁父曰:「聖人不凝滯於物,而能與世推移。世人皆濁,何不淈其泥而揚其波?衆人皆醉,何不餔其糟而歠其釃?何故深思高舉,自令放爲?」屈原曰:「吾聞之:新沐者必彈冠,新浴者必振衣。安能以身之察察,受物之汶汶者乎?寧赴湘流,葬於江魚之腹中,安能以皓皓之白,而蒙世俗之塵埃乎?」漁父莞爾而笑,鼓枻而去。乃歌曰:「滄浪之水淸兮,可以濯我纓,滄浪之水濁兮,可以濯我足。」遂去,不復與言。」とある。
※或経略売遭鞭笞:或(ある)いは、かどわかされて売られて、むち打たれてひどいめに遭っているかもしれない。 ・略売:人をかどわかして売る。=掠売。 ・遭:(よくないことに)あう。 ・鞭笞:〔bian1chi1○○〕むち打つ。ひどいめに遭わせる。皮のむちと竹のむち。
※垂頭涕下何累累:うなだれて、涙を流して、何とやつれて気を落としていることよ。 ・垂頭:うなだれる。しょげこむさま。がっかり気を落とすさま。 ・涕下:涙くだる。 ・涕:〔てい;ti4●〕涙。 ・累累:〔るゐるゐ;lei2lei2○○〕やつれて気を落としたさま。失意のさま。また、〔るゐるゐ;lei3lei3●●〕積み重なるさま。しばしば。重(かさ)ね重(がさ)ね。ここは、前者の意。
※吾欲竟此曲:私はこの詩歌を終えたい(というのは)。 ・欲:…したい。…ようと思う。望む。ほっする。 ・竟:〔きゃう;jing4●〕(動詞:)終わる。尽きる。また、(副詞:)ついに。とうとう。また、意外にも。こともあろうに。ここは、前者・動詞の用法。
※此曲哀且悲:この詩歌は、あわれでかなしい(からだ)。 ・哀且悲:あわれみ、そのうえ、かなしい。あわれでかなしい。 ・且:そのうえ。しかも。かつ。接続詞。
※茫茫海内風塵飛:果てしなく広々としている国内に、戦塵が飛び交(か)い。 ・茫茫:〔ばうばう;mang2mang2○○〕遥かなさま。ぼんやりとしてはっきりとしないさま。果てしなく広々としているさま。『古詩十九首之十一』の「廻車駕言邁,悠悠渉長道。四顧何茫茫,東風搖百草。所遇無故物,焉得不速老。盛衰各有時,立身苦不早。人生非金石,豈能長壽考。奄忽隨物化,榮名以爲寶。」や、東晋・陶淵明の『挽歌詩其三』「荒草何茫茫,白楊亦蕭蕭。嚴霜九月中,送我出遠郊。」
とあり、東晉・陶潛『擬古・九首』其四「迢迢百尺樓,分明望四荒。暮作歸雲宅,朝爲飛鳥堂。山河滿目中,平原獨茫茫。古時功名士,慷慨爭此場。一旦百歳後,相與還北
。松柏爲人伐,高墳互低昂。頽基無遺主,遊魂在何方。榮華誠足貴,亦復可憐傷。」
とあり、盛唐・劉長卿の『平蕃曲』に「渺渺戍煙孤,茫茫塞草枯。隴頭那用閉,萬里不防胡。」
とあり、後世、北宋・蘇軾の『江城子』乙卯正月二十日夜記夢には「十年生死兩茫茫,不思量。自難忘。千里孤墳,無處話淒涼。縱使相逢應不識,塵滿面,鬢如霜。 夜來幽夢忽還鄕。小軒窗,正梳妝。相顧無言,惟有涙千行。料得年年腸斷處,明月夜,短松岡。」
とある。 ・海内:四海の内。天下。国内。漢・高祖(劉邦)の『大風歌』に「大風起兮雲飛揚。威加海内兮歸故鄕。安得猛士兮守四方!」
とあり、漢魏・蔡文姫の『悲憤詩 其一』に「漢季失權柄,董卓亂天常。志欲圖簒弑,先害諸賢良。逼迫遷舊邦,擁主以自彊。海内興義師,欲共討不祥。卓衆來東下,金甲耀日光。平土人脆弱,來兵皆胡羌。獵野圍城邑,所向悉破亡。…」
とあり、初唐・王勃の『送杜少府之任蜀州』に「 城闕輔三秦,風烟望五津。與君離別意,同是宦遊人。海内存知己,天涯若比鄰。無爲在岐路,兒女共沾巾。」
とある。 ・風塵:兵乱。戦乱。また、風と塵(ちり)。砂ぼこり。わずらわしく穢らわしい物事の喩え。浮き世。俗世界。俗事。地方官の務め。旅行の辛苦。遊女の身の上。ここは、前者の意。呉偉業の『遇南廂園叟感賦八十韻』に「薄暮難再留,暝色猶靑蒼。策馬自此去,悽惻摧中腸。顧羨此老翁,負耒歌滄浪。牢落悲風塵,天地徒茫茫。」
とある。
※一身不自保:自分の身ひとつ自分で護れない(のに)。 ・自保:自分で護る。
※生児欲何為:子供を産んで、何をしたいのか。 ・欲何為:どうしたいのか。何をしたいのか。なにをかなさんとほっす。蛇足になるが、「何為」で、なぜ。どうして。なんすれぞ、の意もある。
※君不見菫山児:諸君、見たことがないのだろうか、菫山(きんざん)の子供達を。 ・君不見:諸君、見たことがありませんか。御覧になりませんでしたか。あなた、ご覧なさい。詩を読んでいる人(聞いている人)に対する呼びかけ、強調。樂府体に使われる。「君不聞」もあり、そこでは詩のリズムが大きく変化する。使用法は、七言が主となる詩では「君不見□□□□□□□」とする場合が多いが、「君不見…」の後(青字部分)は必ずしも一定でない。杜甫の『兵車行』「君不見青海頭,古來白骨無人收。新鬼煩冤舊鬼哭,天陰雨濕聲啾啾。」、岑参に「君不聞胡笳聲最悲,紫髯綠眼胡人吹。」
、李白「君不見黄河之水天上來,奔流到海不復回。君不見高堂明鏡悲白髮,朝如靑絲暮成雪。」
、顧況「君不見古來燒水銀,變作北
山上塵。藕絲挂身在虚空,欲落不落愁殺人。」、李白の『將進酒』「君不見黄河之水天上來,奔流到海不復迴。君不見高堂明鏡悲白髮,朝如青絲暮成雪。人生得意須盡歡,莫使金樽空對月。」
、白居易『新豐折臂翁』「君不聞開元宰相宋開府,不賞邊功防黷武。又不聞天寶宰相楊國忠,欲求恩幸立邊功。邊功未立生人怨,請問新豐折臂翁。」
などがある。
◎ 構成について
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