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京都東山 | ||
德富蘇峰 | ||
三十六峰雲漠漠, 洛中洛外雨紛紛。 破簦短褐來揮涙, 秋冷殉難烈士墳。 |
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東山 徳川慶喜公ゆかりの尊攘苑2004.5.6 |
三十六峰 雲漠漠 ,
洛中 洛外 雨紛紛 。
破簦 短褐 來 りて涙を揮 ふ,
秋は冷 かなり殉難 烈士 の墳 。
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◎ 私感註釈
※德富蘇峰:ジャーナリスト。徳富蘆花の兄。本名は猪一郎。文久三年(1863年)~昭和三十二年(1957年)。熊本の生まれ。民友社を創立。平民主義を主張した。三国干渉を機に国家主義に転向。終戦後、文筆生活に入る。主著に『近世日本国民史』がある。
※京都東山:京都市(もとの平安京)東側に見える山々。 *東山一帯にある京都霊山護国神社や東福寺境内に祀られた幕末の志士の墳墓に詣でての感慨を詠った。 ・東山:京都市の市街から見た東側にある山の総称。
※三十六峰雲漠漠:京都の東山の山々は、雲が一面に続いていうす暗く。 ・三十六峰:京都盆地の東山の山々の総計。 ・漠漠:〔ばくばく;mo4mo4●●〕雲や霞などが一面に続いているさま。ぼんやりととりとめがないさま。また、広々としてはてしのないさま。遠く遥かなさま。平らに連なっているさま。草木の一面に茂っているさま。うす暗いさま。さびしいさま。声のしないさま。南斉・謝脁の『遊東田』に「戚戚苦無悰,攜手共行樂。尋雲陟累榭,隨山望菌閣。遠樹曖仟仟,生煙紛漠漠。魚戲新荷動,鳥散餘花落。不對芳春酒,還望靑山郭。」や、盛唐・李白の『菩薩蠻』に「平林漠漠煙如織,寒山一帶傷心碧。暝色入高樓,有人樓上愁。 玉階空佇立,宿鳥歸飛急,何處是歸程,長亭更短亭。」
とあり、我が国の幕末・久坂玄瑞の『失題』に「胡雲漠漠盡冥朦,天下無人護聖躬。九闕他年遭吉夢,金剛山在野山中。」
とある。
※洛中洛外雨紛紛:京都市の内外は雨がしきりに降っている。 ・洛:本来の義は、洛陽。京都市(=平安京)を唐の東都・洛陽に擬(なぞら)えての呼称で、京都を指す。厳密には、左京(平安京の東半分)をいう。なお、蛇足になるが、右京(平安京西半分)は西都・長安に擬(なぞら)えられたが、そちら側は爾後の発展が芳しくなく、実体や表現が廃れてしまった。 ・洛中:京都市内。 ・洛外:京都市の郊外。 ・紛紛:〔ふんぷん;fen1fen1○○〕しきりに。続々と。どしどしと。連続して絶えないさまをいう、また、入り交じって乱れるさま。(花や雪などが)散り乱れるさま。晩唐・杜牧自身も『淸明』に「淸明時節雨紛紛,路上行人欲斷魂。借問酒家何處有,牧童遙指杏花村。」とある。盛唐・杜甫の『貧交行』に「翻手作雲覆手雨,紛紛輕薄何須數。君不見管鮑貧時交,此道今人棄如土。」
とあり、明・高啓の『題桂花美人』に「桂花庭院月紛紛,按罷霓裳酒半醺。折得一枝攜滿袖,羅衣今夜不須熏。」
とある。
※破簦短褐来揮涙:破れ笠(がさ)に、(庶民の着る)半袖の粗末な衣服で詣って、涙をはらはらとこぼした(、そことは)。 ・簦:〔とう;deng1○〕笠(かさ)。 ・褐:〔かつ;he2●〕ぬのこ。粗末な布で作った衣服。 ・揮涙:涙をぽたぽたとこぼす。また、涙をはらいのける。=揮涕。
※秋冷殉難烈士墳:秋の冷ややかさが感じられる、維新の犠牲者の墓(前である)。 ・秋冷:秋になって、感じられる冷ややかさ。 ・殉難:〔じゅんなん;xun4nan4●●〕国家や宗教などにかかわる危難のために、身を犠牲にすること国家の危機を救うために命を捨てる。=徇難。 ・烈士:革命や維新などで戦い、功績を残して犠牲となった人物。ここでは、幕末の志士で、犠牲となった人物を指す。節義の堅い男。信念を貫きとおす男子。≒志士。なお、「難」字は両韻であり、○(=平)は〔なん;nan2〕「むずかしい(形容詞)」で、●(=仄)は〔なん;nan4〕「難儀、災難(名詞等)」で、「殉難」の語は●●〔じゅんなん;xun4nan4〕である。この語での「難」は●(=仄)。この句(=結句)の第四字目は○(=平)とすべきところなので、○(=平)と見たいが、任意に平仄の区分を変えることはできない。ここの場合は●(=仄)。下の「◎ 構成について」を参照。 ・墳:墓。土を盛り上げて造った墓。
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◎ 構成について
韻式は、「AA」。韻脚は「紛墳」で、平水韻上平十二文。この作品の平仄は、次の通り。
○●●○○●●,
●○●●●○○。(韻)
●○●●○○●,
○●●●●●○。(韻)
平成23.3.5 3.6 |
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