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題自画 |
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夏目漱石 | ||
獨坐聽啼鳥, 關門謝世譁。 南窗無一事, 閑寫水仙花。 |
獨 り坐 して啼鳥 を聽き,
門を關 して世譁 を謝 す。
南窗 一事 無く,
閑 に寫 す水仙 の花を。
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◎ 私感註釈
※夏目漱石:明治期の小説家。慶応三年(1867年)~大正五年(1916年)東京出身。名は金之助。東大英文科卒。松山中学教諭、五高教授を経て、イギリスに留学、帰国後一高教授。『明暗』では、自我を越えた所謂「則天去私」の世界を志向した。
※題自画:自分で描いた絵を詩題にして、詩を作る。 ・題:(…を)詩題にして、詩を作る。 ・自画:自分で絵を描く。
※独坐聴啼鳥:一人だけで(静かに)坐っていて、鳴く鳥の声を(耳をすませて)聴いて。 ・独坐:一人だけで(静かに)坐っている。独りぼっちで坐る。盛唐・王維の『竹里館』に「獨坐幽篁裏,彈琴復長嘯。深林人不知,明月來相照。」とあり、日本・空海の『後夜聞佛法僧鳥』に「閑林獨坐草堂曉,三寶之聲聞一鳥。一鳥有聲人有心,聲心雲水倶了了。」
とあり、北宋・蘇舜欽の『中秋夜呉江亭上對月懷前宰張子野及寄君謨蔡大』に「獨坐對月心悠悠,故人不見使我愁。古今共傳惜今夕,況在松江亭上頭。可憐節物會人意,十日陰雨此夜收。不惟人間重此月,天亦有意於中秋。長空無瑕露表裏,拂拂漸上寒光流。江平萬頃正碧色,上下淸澈雙璧浮。自視直欲見筋脈,無所逃遁魚龍憂。不疑身世在地上,祗恐槎去觸斗牛。景淸境勝返不足,嘆息此際無交游。心魂冷烈曉不寢,勉爲此筆傳中州。」
とある。 ・聴:(耳をすませて)聴く。(聴き耳を立てて)聴く。意図的に、聴こうとして聴く。 ・啼鳥:鳴く鳥の声。盛唐・孟浩然の『春曉』に「春眠不覺曉,處處聞啼鳥。夜來風雨聲,花落知多少。」
とある。なお、孟浩然は「聞啼鳥」とするが、夏目漱石は「聴啼鳥」とする。その違いは、「聞啼鳥」は「鳥の鳴き声が聞こえてくる」意であって、「聴啼鳥」「鳥の鳴き声を(耳をすませて)聴く」意で、意味上の異なりがある。平仄上は両者は同じ。
※関門謝世嘩:門を閉ざして(隠棲し)、俗世間との交わりを絶っている。 ・関門:門を閉ざす。隠棲して、世間との交わりを絶つ、意。 ・謝:断る。拒絶する。 ・世嘩:世間の喧噪、の意。
※南窓無一事:南向きの(暖を取る)窓辺で、何事もなく。 ・南窓:南向きの窓。南向きの暖を取る窓。蛇足になるが、「北窓」は、北向きの窓。北向きの涼を取る窓。 ・無一事:何事もない、の意。南宋・范成大の『四時田園雑興 春日』に「柳花深巷午雞聲,桑葉尖新綠未成。坐睡覺來無一事,滿窗晴日看蠶生。」とあり、日本・深草元政の『日本橋作』に「日本橋邊日本秋,更無一事掛心頭。今宵新見江城月,影滿扶桑六十州。」
とある。
※閑写水仙花:閑にまかせて、スイセンの花を写生している。 ・閑写:閑に任せて、写生する、意。
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◎ 構成について
韻式は、「AA」。韻脚は「譁花」で、平水韻下平六麻。この作品の平仄は、次の通り。
●●○○●,(韻)
○○●●○。(韻)
○○○●●,
○●●○○。(韻)
平成29.6.2 |
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