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無題 | ||
夏目漱石 |
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馬上靑年老, 鏡中白髮新。 幸生天子國, 願作太平民。 |
馬上 靑年老 い,
鏡中 白髮 新 たなり。
幸 ひに 天子の國に生まれ,
願 はくは 太平の民 と作 らん。
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◎ 私感註釈
※夏目漱石:明治期の小説家。慶応三年(1867年)~大正五年(1916年)東京出身。名は金之助。東大英文科卒。松山中学教諭、五高教授を経て、イギリスに留学、帰国後一高教授。『明暗』では、自我を越えた所謂「則天去私」の世界を志向した。
※無題:詩題がもうけられていない。同時期の似通った作品に、(夏目漱石)『無題』「桃花馬上少年時,笑據銀鞍拂柳枝。綠水至今迢遞去,月明來照鬢如絲。」がある。
※馬上青年老:仕事をしている内に、青年は老いてしまい。日本・伊達政宗の『醉餘口號』に「馬上少年過,世平白髮多。殘躯天所赦,不樂是如何。」がある。 ・馬上:馬に乗って移動中に。旅先で。活動中に。 ・老:おいる。前出・伊達政宗詩『醉餘口號』で謂えば「馬上少年過」の「過」に該ろう。
※鏡中白髪新:鏡の中に映(うつ)っている白髪は(また)新たに増えた。⇒また歳を取った(ものだなあ)。 ・鏡中:鏡の中。盛唐・張九齡の『照鏡見白髮』に「宿昔青雲志, 蹉跎白髮年。誰知明鏡裏,形影自相憐。」とあり、李白の『將進酒』に「君不見黄河之水天上來,奔流到海不復回。君不見高堂明鏡悲白髮,朝如青絲暮成雪。人生得意須盡歡,莫使金尊空對月。天生我材必有用,千金散盡還復來。烹羊宰牛且爲樂,會須一飮三百杯。岑夫子,丹丘生。將進酒,杯莫停。與君歌一曲,請君爲我傾耳聽。鐘鼓饌玉不足貴,但願長醉不用醒。古來聖賢皆寂寞,惟有飮者留其名。陳王昔時宴平樂,斗酒十千恣歡謔。主人何爲言少錢,徑須沽取對君酌。五花馬,千金裘。呼兒將出換美酒,與爾同銷萬古愁。」
とあり、劉希夷(劉廷芝)の『公子行』では「願作輕羅著細腰,願爲明鏡分嬌面。與君相向轉相親,與君雙棲共一身。願作貞松千歳古,誰論芳槿一朝新。」
とある。 ・白髪新:白髪がまた増えた(⇒歳を取った)ことを謂う。
※幸生天子国:幸(さいわ)いにも天子様が治める国(・日本)に生まれ(たので)。 ・幸:さいわいに。 ・天子:天命を受けて天下を治める者。 ・天子国:天子が治める国。ここでは、皇(すめら)御国・日本を指す。
※願作太平民:平和な御代の民(たみ)として生きたいものだ。 ・願作:…たいと願う。=願爲。唐・劉希夷(劉廷芝)の『公子行』では「願作輕羅著細腰,願爲明鏡分嬌面。與君相向轉相親,與君雙棲共一身。願作貞松千歳古,誰論芳槿一朝新。」とある。 ・太平:世の中がよく治まって平和である。
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◎ 構成について
韻式は、「AA」。韻脚は「新民」で、平水韻上平十一真。この作品の平仄は、次の通り。
●●○○●,
●○●●○。(韻)
●○○●●,
●●●○○。(韻)
令和3.7.19 |
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