![]() ![]() |
![]() |
七老會詩 胡吉鄭劉盧張等六賢皆多年壽予亦次焉偶於弊居合成尚齒之會七老相顧既醉且歡靜而思之此會稀有因成七言六韻以紀之傳好事者 |
|
中唐・白居易 |
七人五百七十歳,
拖紫紆朱垂白鬚。
手裏無金莫嗟歎,
尊中有酒且歡娯。
詩吟兩句神還王,
酒飮三杯氣尚粗。
嵬峨狂歌敎婢拍,
婆娑醉舞遣孫扶。
天年高過二疏傅,
人數多於四皓圖。
除卻三山五天竺,
人間此會更應無。
******
七老會の詩
胡、吉、鄭、劉、盧、張等六賢,皆年壽多く,予も亦た次ぐ。偶〻弊居に於いて尚齒の會を合成す。七老相ひ顧み,既に醉ひ且つ歡す。靜かに之を思へば,此の會有ること稀なり。因つて七言六韻を成し以て之を紀し,好事者に傳ふる有り。
七人 五百 七十歳,
紫を拖 き 朱を紆 ひて白鬚 を垂る。
手裏 に 金 無しと嗟歎 する莫 かれ,
尊中 に 酒 有り且 く歡娯 せん。
詩は 兩句を吟じて神 還 た王 にして,
酒は 三杯を飮みて氣 尚 ほ粗 し。
嵬峨 たる狂歌 婢 をして拍 たしめ,
婆娑 たる醉舞 孫をして扶 へしむ。
天年 高く二疏 の傅 に過ぎ,
人數四皓 の圖より多し。
三山 五天竺 を除卻 すれば,
人間 此 の會 更に應 に無かるべし。
****************
◎ 私感註釈
※白居易:中唐の詩人。772年(大暦七年)~846年(會昌六年)。字は楽天。号して香山居士。官は、左拾遺になるが、江州の司馬に左遷され、後、杭州刺史に任ぜらる。やがて刑部侍郎、太子少傅、刑部尚書を歴任する。その詩風は、平易通俗な語彙表現を好み、新楽府、竹枝詞、楊柳枝
等にに挑戦し、諷諭詩
や感傷詩でも活躍し、仏教に帰依した。
※七老会詩:七老(胡・吉・鄭・劉・盧・張と白居易)の敬老会のさまを詠った詩。
※胡吉鄭劉盧張等…:長寿の者七名が敬老の宴会を(白居易宅で)開き、そのことを詩に遺す。正確には、「胡・吉・鄭・劉・盧・張等」の六賢(の各位)は、皆、長寿で、わたしも亦たこれに次ぐ。偶(たまたま)わたし(=白居易)の家で、尚歯の会(=敬老会)を一緒に行い、七老(胡・吉・鄭・劉・盧・張と白居易)は、酔って歓しんだ。この稀有の集いのことを思い、七言六韻の詩にして記録して、物好きな人に伝える 白居易」とある。「胡吉鄭劉盧張等六賢皆多年壽予亦次焉偶於弊居合成尚齒之會七老相顧既醉且歡靜而思之此會稀有因成七言六韻以紀之傳好事者 白居易」。
※七人五百七十歳:(敬老会に集まった)七人(の合計の年齢)は五百七十歳になり。 ・七人:参会者の胡・吉・鄭・劉・盧・張と作者・白居易の七人。「前懷州司馬安定胡杲,年八十九。衛尉卿致仕馮翊吉皎,年八十六。前右龍武軍長史滎陽鄭據,年八十四。前磁州刺史廣平劉真,年八十二。前侍御史内供奉官范陽盧真,年七十二。前永州刺史清河張渾,年七十四。刑部尚書致仕太原白居易,年七十四。」の七人。 ・五百七十歳:この七人の歳の合計の概数。「五百八十四」ともする。
※拖紫紆朱垂白鬚:(七人は、)紫(の衣裳)を引きずったり、朱色(の衣裳)をまとったり、白いあごひげを垂らしている。 ・紫、朱:高い身分を表す衣服の色。 ・拖:〔た;tuo1◎〕ひきずる。引く。ひっぱる。 ・紆:〔う;yu1○〕まとう。まつわる。からみあう。曲がりくねる。遠曲りする。 ・鬚:〔しゅ;xu1○〕あごひげ。ひげ。
※手裏無金莫嗟歎:「手許(てもと)に、お金が無い」と嘆きなさるな。 ・手裏:手許。また、手中。手の中。 ・莫:…な。…なかれ。禁止の辞。 ・嗟歎:〔さたん;jie1tan4○◎〕嘆く。ため息をつく。
※尊中有酒且歓娯:酒器の中には酒があるので、しばらくは、喜び楽しもう。 ・尊:酒器の一種。=樽。 ・且:しばらく。短時間を謂う。また、かつ。ここは、前者の意。 ・歓娯:〔くゎんご;huan1yu2○○〕喜び楽しむ。
※詩吟両句神還王:詩を二句吟じれば、心は、なおまた盛んになり。 ・神:霊妙な働きをする心。 ・還:また。なおまた。なお。 ・王:〔わう;wang4●〕盛(さか)ん。王となる。徳をもって天下を統一する。詩の平仄の配列から見ても、(「還王」という使われ方からみても、)ここは仄字の:〔動詞〕王者となる。徳をもって天下を統一する。盛んである。 なお、平字の場合は:〔わう;wang2○〕〔名詞〕国王。王。頭目。ここは、前者・〔動詞〕盛んである、王となる、の意。ここを「壯」〔さう;zhuang4●〕(さかん)、ともする。
※酒飲三杯気尚粗:酒を何杯か飲んで、勢いは、なおまだ荒い。 ・三杯:何杯も、の意。 ・気:ちから。勢い。おもむき。 ・尚:なお。まだ。 ・粗:〔そ;cu1○〕あらい。とおい。はなれる。「麤」〔そ;cu1○〕ともする。同義。
※嵬峨狂歌教婢拍:酒に酔って足許のあぶないさまで、気違いじみた声で歌い、下女に手をたたかせて拍子をとらせ。 ・嵬峨:〔くゎいが;wei2'e2◎○〕酒に酔って足許のあぶないさま。また、高くそびえたつさま。=巍峨〔ぎが;wei1'e2○○〕。ここは、両者の意。 ・狂歌:気違いじみた声で歌う。戯れに歌う。 ・教:…させる。しむ。 ・婢:〔ひ;bi4●〕はしため。下女。身分の低い女。 ・拍:手をたたいて拍子をとる。
※婆娑酔舞遣孫扶:身を翻(ひるがえ)してふらふらと酔っぱらって舞い、孫に(倒れないように手で)支えさせている。 ・婆娑:〔ばさ;po1suo1○○〕舞うさま。身を翻して舞うさま。円を描いて舞うさま。また、あちらこちらとうろつくさま。ここは、両者の意。 ・遣:…をやる。…させる。しむ。使役表現。 ・扶:〔ふ;fu2○〕手を貸す。(倒れないように手で)支える。
※天年高過二疏傅:(参会者の皆は)寿命では、疏公や疏受に大きく差をつけ。 ・天年:寿命。天壽。 ・二疏:前漢の疏広(Shu1Guang3字は仲翁)と、その甥の疏受(Shu1Shou4)のこと。足るを知り、財産を親族や知人に分け与えた。 ・傅:〔ふ:fu4●〕:守り役(ここでは、官職名)。二疏は、前漢の宣帝の時、官は太子太傅・太子少傅だった。 *「傳」(伝)とは別字。
※人数多於四皓図:(七人という参会者の)人数では、四皓の図(の四人)よりも多い。 ・多於-:…よりも多い、の意。 ・於-:…よりも。…より。比較する対象を導き、「…[形容詞(A)]+於B」で、「…は、Bよりも Aい」「…は、…よりも □い」といった比較を表す形式。例えば、「甲大於乙」では、「甲は、乙よりも大きい」という意味になる。 盛唐・李白の『蜀道難』に「噫吁嚱危乎高哉,蜀道之難難於上青天。蠶叢及魚鳧,開國何茫然。爾來四萬八千歳,不與秦塞通人煙。西當太白有鳥道,可以橫絶峨眉巓。地崩山摧壯士死,然後天梯石棧相鉤連。上有六龍回日之高標,下有衝波逆折之回川。
黄鶴之飛尚不得過,猿猱欲度愁攀援。青泥何盤盤,百歩九折縈巖巒。捫參歴井仰脅息,以手撫膺坐長歎。問君西遊何時還,畏途巉巖不可攀。但見悲鳥號古木,雄飛雌從繞林間。又聞子規啼夜月,愁空山。蜀道之難難於上青天,使人聽此凋朱顏。連峰去天不盈尺,枯松倒挂倚絶壁,飛湍瀑流爭喧豗,砯崖轉石萬壑雷。其險也如此,嗟爾遠道之人胡爲乎來哉。劍閣崢嶸而崔嵬,一夫當關。萬夫莫開,所守或匪親。化爲狼與豺,朝避猛虎,夕避長蛇。磨牙吮血,殺人如麻,錦城雖云樂。不如早還家,蜀道之難難於上青天,側身西望長咨嗟。」とあり、中唐・白居易の『太行路』借夫婦以諷君臣之不終也に「太行之路能摧車,若比人心是坦途。巫峽之水能覆舟,若比人心是安流。人心好惡苦不常,好生毛羽惡生瘡。與君結髮未五載,豈期牛女爲參商。古稱色衰相棄背,當時美人猶怨悔。何況如今鸞鏡中,妾顏未改君心改。爲君熏衣裳,君聞蘭麝不馨香。爲君盛容飾,君看金翠無顏色。行路難,難重陳。人生莫作婦人身,百年苦樂由他人。行路難,難於山,險於水,不獨人間夫與妻,近代君臣亦如此。君不見左納言,右納史。朝承恩,暮賜死。行路難,不在水,不在山。只在人情反覆間。」
とあり、同・中唐・白居易の『讀道德經』に「玄元皇帝著遺文,烏角先生仰後塵。金玉滿堂非己物,子孫委蛻是他人。世間盡不關吾事,天下無親於我身。只有一身宜愛護,少敎冰炭逼心神。」
とあり、同・白居易の『楊柳枝詞』に「一樹春風千萬枝,嫩於金色軟於絲。永豐西角荒園裏,盡日無人屬阿誰。」
とあり、唐~蜀・韋莊の『菩薩蠻』に「人人盡説江南好,遊人只合江南老。春水碧於天,畫船聽雨眠。 爐邊人似月,皓腕凝雙雪。未老莫還鄕,還鄕須斷腸。」
とある「於」に同じ
。晩唐・杜牧の『山行』「遠上寒山石徑斜,白雲生處有人家。停車坐愛楓林晩,霜葉紅於二月花。」
とあり、『禮記・檀弓下』に「孔子過泰山側,有婦人哭於墓者而哀,夫子式而聽之。使子貢問之曰:『子之哭也,壹似重有憂者。』 而曰:『然,昔者吾舅死於虎,吾夫又死焉,今吾子又死焉。』 夫子曰:『何爲不去也?』 曰:『無苛政。』 夫子曰:『小子識之,苛政猛於虎也。』」とあり、漢・司馬遷の『報任少卿書』に「人固有一死,或重於泰山,或輕於鴻毛,用之所趨異也。」とあり、現代・毛沢東もこのことばを『爲人民服務』(『毛澤東選集』第三巻。1944年9月8日)で、「人總是要死的,但死的意義有不同。中國古時候有個文學家叫做司馬遷的説過:『人固有一死,或重於泰山,或輕於鴻毛。』爲人民利益而死,就比泰山還重;替法西斯賣力,替剥削人民和壓迫人民的人去死,就比鴻毛還輕。」(人はいずれ死ぬものだが、死の意義にはちがいがある。中国に、むかし、司馬遷という文学者がいて、『人はもとより一死あれども、あるいは泰山より重く、あるいは鴻毛より軽し』といった。人民の利益のために死ぬのは、泰山より重く、ファシストのために力をつくし、人民を搾取し人民を抑圧するもののために死ぬのは、鴻毛よりも軽い。『人民に奉仕する』)と使う。 ・四皓:秦末、商山に乱を避けて隠居した四人の老人(東園公・夏黄公・甪里(ろくり;Lu4li3)先生・綺里季)のことで、鬚眉がみな白かったのでこのように呼ばれた。 ・四皓図:秦末、商山に乱を避けて隠居した鬚や眉の白い四人の老人(東園公・夏黄公・甪里(ろくり;Lu4li3)先生・綺里季)を画題とする絵画を謂う。
※除却三山五天竺:(ただし、)(不老長寿の仙人のいる)三仙山と、(仏陀のいる)五天竺を除いて。 ・除却:…を除く。取り除く。除去する。後世、南宋~・劉辰翁の『浪淘沙 秋夜感懷』に「無葉着秋聲,涼鬢堪驚。滿城明月半窗横,惟有老人心似醉,未曉偏醒。 起舞故無成,此恨難平。正襟危坐二三更,除却故人曹孟德,更與誰爭。」とある。 ・三山:三つの仙山のことで、蓬莱・方丈・瀛州の三つの山の総称。山東省東北沿岸から渤海、黄海にかけての浮ぶ島で、そこには仙人と不死の薬があるという。=三神山。 ・五天竺:天竺(インド)を東・西・南・北・中、の五地方に分けて呼んだものの総称。
※人間此会更応無:(仙山の三山や五天竺を除いて、)人の世では、こんな(長寿の者の敬老)会があるはずがない。 ・人間:〔じんかん;ren2jian1○○〕人の世。世間。 ・応無:…あるはずがない、あろうはずがない。まさに無かるべし、の意。 ・応:〔おう(よう);ying1○〕…べきである。当然…であろう。…なければならない。まさに…べし。(助動詞)。 なお、動詞・「こたえる」は:〔おう(よう);ying4●〕で、ここは、前者の意。
***********
◎ 構成について
韻式は、「AAAAAA」。韻脚は「鬚娯粗扶図無」で、平水韻上平七虞(鬚娯粗扶圖無)。この作品の平仄は、次の通り。
●○●●●●●,
○●○○○●○。(韻)
●●○○●○◎,
○○●●●○○。(韻)
○○●●○○●,
●●○○●●○。(韻)
◎○○○◎●●,
○○●●●○○。(韻)
○○○◎●○●,
○●○○●●○。(韻)
○●○○●○●,
○○●●●○○。(韻)
2019.12.10 12.13 12.14 12.15 12.16 12.17 12.18完 12.20補 |
![]() ![]() ![]() ************ ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |
![]() |