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      遊山

                      田能村竹田

落落長松下,
抱琴坐晩暉。
清風無限好,
吹入薜蘿衣。



           
******

山に遊ぶ
                       
   
落落たる  長松の下,
琴を 抱へて  晩暉に 坐る。
清風  無限に 好く,
吹きて  薜蘿
(へいら)の衣に 入る。

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◎ 私感註釈

※田能村竹田:安永六年(1777年)〜天保六年(1835年)。江戸末期の文人画家。名は孝憲。字は君彝。通称は竹蔵。竹田は号になる。豊後の人。浦上玉堂、篠崎小竹、頼山陽と交った。

※遊山:この作品で使われている語彙の多くは、隠逸を暗示するもので、王維詩の影響が大きい。なお、田能村竹田の墓所も街中ではあるが、夕陽が美しい静かなところにある。

※落落長松下:まばらで寂しいげに(生えている)高い松の下で。 ・落落:ものがまばらで寂しいさま。盛唐・王維の『田園樂七首』之四に「萋萋春草秋香C
落落長松夏寒。牛羊自歸村巷,童稚不識衣冠。」とある。 ・長松:たけの高い松。

※抱琴坐晩暉:琴を抱いて落輝に坐っている。 ・抱
田能村竹田の墓所近くの口縄坂(大阪)
琴:琴をかかえる。「琴」は時代によって異なるがここでは、下に置いて奏でる七絃琴の仲間になろう。陶潜の『帰去来兮辞』(歸去來兮辭)「歸去來兮,請息交以絶遊。世與我以相遺,復駕言兮焉求。ス親戚之情話,樂以消憂。」にもあるとおり、隠者を暗示する語である。もっとも陶淵明は無絃琴という。ここは盛唐・王維の六言詩『田園樂七首』之七に「酌酒會臨泉水,抱琴好倚長松。南園露葵朝折,東谷黄粱夜舂。」とある。盛唐・李白に『山中與幽人對酌』「兩人對酌山花開,一杯一杯復一杯。我醉欲眠卿且去,明朝有意抱琴。」がある。 ・坐:すわる。ここも、やはり王維の『竹里館』(竹里)「獨坐幽篁裏,彈琴復長嘯。深林人不知,明月來相照。」によるか。 ・晩暉:〔ばんき;wan3hui1●○〕夕日。 ・暉:かがやき。日の光。≒輝。「暉」は本来、日の光で、「輝」は火の光。

※清風無限好:清らかな風限りなくすばらしく。 *李商隠の『登樂遊原』「向晩意不適,驅車登古原。
夕陽無限好,只是近黄昏。」に基づく。 ・清風:清らかな風。「清風」といえば「明月、朗月」と、俗塵を去ったものを聯想させる。張華の『壯士篇』では「長劍九野,高冠拂玄穹。慷慨成素霓,嘯咤起C風。」と使う。 ・無限好:限りなくすばらしい。ここは前出の「夕陽無限好,只是近黄昏。」に基づいていることはほぼ間違いなかろう。暗暗裡に「只是近黄昏」(人生の黄昏も近い)ともいっていようか。

※吹入薜蘿衣:カズラで織った隠者の服に吹き込んできて(心地よい)。 ・吹入:吹き込んでくる。 ・薜蘿:〔へいら;bi4luo2〕かずら。カズラで織った布。転じて隠者の服、或いは住家。『楚辭・九歌』の「山鬼』のトップに「若有人兮山之阿,
薜茘兮帶女蘿。……山中人兮芳杜若,飮石泉兮蔭松柏。」に基づき、本朝・嵯峨天皇の『山夜』に「移居今夜薜蘿,夢裏山鶏報曉天。不覺雲來衣暗濕,即知家近深溪邊。」とある。





◎ 構成について

韻式は「AA」。韻脚は「暉衣」で、平水韻上平五微。次の平仄はこの作品のもの。

●●○○●,
●○●●○。(韻)
○○○●●,
○●●○○。(韻)
平成16.6.15
      6.16
      6.18完
平成26.5.28補
      6. 3
平成28.1.17



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