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月瀬梅花勝耳之久,今茲糺諸友往觀,得六絶句 | ||
頼山陽 | ||
兩山相蹙一溪明, 路斷游人呼渡行。 水與梅花爭隙地, 倒涵萬玉影斜橫。 |
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月ヶ瀬梅渓の清正(平成23.3.10) | 頼山陽ゆかりの真福寺(平成23.3.10) 右の立て札にその旨が記されている |
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真福寺で『月ヶ瀬と頼山陽』とペットのお守りをもとめた。 | 茶店の庭にて |
茶店の庭より見下ろした景色 |
兩山 相 ひ蹙 りて一溪 明 らかに,
路 斷 え游人 渡 を呼びて行 く。
水と梅花 とは隙地 を爭 ひ,
倒 に萬玉 を涵 して 影斜橫 。
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◎ 私感註釈
※頼山陽:安永九年(1780年)~天保三年(1832年)。江戸時代後期の儒者、詩人、歴史家。詩集に『日本樂府』、『山陽詩鈔』などがある。
大きな地図で見る月ヶ瀬梅渓 備後 三次 頼山陽の伯父頼杏坪役宅
伊勢丘人先生撮影・提供
※月瀬梅花勝耳之久,今茲糺諸友往觀,得六絶句:月ヶ瀬の梅の花がすばらしいろいうことを、ずっと前から耳にしていたが、今回ここに諸々(もろもろ)の友人を呼び集め、見に出かけ、絶句六首を作れた。これほ其の四。この寒梅行は天保二年(1831年)二月下旬(二月二十一日出発)のことで、「諸友」とは小石元瑞、小田百合、浦上春琴、細川林谷、弟子の関藤藤陰、宮原節庵の六人と道案内の柳生藩士の文郷、奈良の墨樵の総勢九人で、(今年(平成23.3.10)、月ヶ瀬村の真福寺で買った『月ヶ瀬と頼山陽』(稲葉長照著 月ヶ瀬村教育委員会)に拠る)藤陰日記ではこの日のことを「竹樹水を壓し水紺綠たり、渡舟を呼んで渡り中流にて四面すれば、皆花雪然として際なく一目を眩轉す。最も奇絶の處なり」と記している。(前掲書) ・月瀬:月ヶ瀬(つきがせ)。奈良県の北東端にある梅の名所。右の地図中央の川は名張川の渓谷で、渓谷に映える梅林で有名。 ・勝:まさる。景勝。景色がすぐれていること。 ・耳:聞く。耳にする。動詞としての用法。 ・久:ひさしい。長い。 ・茲:ここに。 ・糺:糾合する。人々を呼び集め、一つに結集すること。 ・往:出かけて行く。 ・觀:見物する。ながめる。(花)見をする。 ・得六絶句:六首の絶句を作った、これは其の四。
※両山相蹙一渓明:前方の両方の山が(行く手を塞ぐかのように)迫ってきたが、一筋の谷川の流れに出て、目の前が、ぱっと明るくなった。 ・両山:(前方の)両方の山。 ・相-:…てくる。…ていく。動詞の前に附き、動作が対象に及んでくる表現。「…てくる」「…ていく」の意。「相互に」の意味はここではない。白居易の『勸酒』「昨與美人對尊酒,朱顏如花腰似柳。今與美人傾一杯,秋風颯颯頭上來。年光似水向東去,兩鬢不禁白日催。東鄰起樓高百尺,
題照日光相射。」
、李白に『把酒問月』「靑天有月來幾時,我今停杯一問之。人攀明月不可得,月行卻與人相隨。皎如飛鏡臨丹闕,綠煙滅盡淸輝發。但見宵從海上來,寧知曉向雲閒沒。白兔搗藥秋復春,
娥孤棲與誰鄰。今人不見古時月,今月曾經照古人。古人今人若流水,共看明月皆如此。唯願當歌對酒時,月光長照金樽裏。」
や、陶潜の『飮酒二十首』其一「衰榮無定在,彼此更共之。邵生瓜田中,寧似東陵時。寒暑有代謝,人道毎如茲。達人解其會,逝將不復疑。忽與一觴酒,日夕歡相持。」
、陶淵明の『雜詩十二首』其七の「日月不肯遲,四時相催迫。寒風拂枯條,落葉掩長陌。弱質與運頽,玄鬢早已白。素標插人頭,前途漸就窄。家爲逆旅舍,我如當去客。去去欲何之,南山有舊宅。」
や張説の『蜀道後期』「客心爭日月,來往預期程。秋風不相待,先至洛陽城。」
、杜甫の『
州歌十絶句』其五に「
東
西一萬家,江北江南春冬花。背飛鶴子遺瓊蕊,相趁鳧雛入蒋牙。」
とある。李煜『柳枝詞』「風情漸老見春羞,到處消魂感舊遊。多謝長條似相識,強垂煙穗拂人頭。」
、范仲淹の『蘇幕遮』「碧雲天,黄葉地,秋色連波,波上寒煙翠。山映斜陽天接水,芳草無情,更在斜陽外。 黯鄕魂,追旅思,夜夜除非,好夢留人睡。明月樓高休獨倚,酒入愁腸,化作相思涙。」
前出・韋莊の『浣溪沙』「夜夜相思更漏殘。」
、 盛唐・王維の『竹里館』に「獨坐幽篁裏,彈琴復長嘯。深林人不知,明月來相照。」
とあり、盛唐・李白の『古風五十九首』の其十一に「黄河走東溟,白日落西海。逝川與流光,飄忽不相待。春容捨我去,秋髮已衰改。人生非寒松,年貌豈長在。吾當乘雲螭,吸景駐光彩。」
や顧夐の『訴衷情』「永夜抛人何處去,絶來音。香閣掩。眉斂。月將沈。怎忍不相尋。怨孤衾。換我心爲你心。始知相憶深。」
など、下図のように一方の動作がもう一方の対象に及んでいく時に使われている。
もっとも、李白の「古風」「龍虎相啖食,兵戈逮狂秦」、「遠別離」の「九疑聯綿皆相似,重瞳孤墳竟何是。」「長相思」「長相思,在長安」や王維の「入鳥不相亂,見獸皆相親。」などは、下図のような相互の働きがある。
A B
勿論、これらとは別に言葉のリズムを整える働きのために使っていることも詩では重要な要素に挙げられる。 ・蹙:〔しゅく;cu4●〕迫る。せまくなる。 ・明:(梅の花が咲き誇っているため)あかるい。*周りは早春の谷間で、薄暗く重苦しい感じだったが、梅の花の続く一帯に出て、視界がぱっと明るく華やいで映ったさまを謂う。後出・南宋・陸游の『遊山西村』「山重水複疑無路,柳暗花明又一村。」
A B の表現するところに同じ。
※路断游人呼渡行:路が途絶えたので、旅人達は渡し舟を呼んで(それに乗って)行くことにした。 ・路断:路が途絶える。路が無くなった光景を詠んだものに、南宋・陸游の『遊山西村』「莫笑農家臘酒渾,豐年留客足鷄豚。山重水複疑無路,柳暗花明又一村。簫鼓追隨春社近,衣冠簡朴古風存。從今若許閒乘月,拄杖無時夜叩門。」がある。 ・游人:旅人。また、一定の職も無く、遊んで暮らしている者。道楽者。侠客。ここは、前者の意。 ・渡:ここでは渡し舟を謂う。
※水与梅花争隙地:谷川の水と梅の花とは、場所の取り合いをして。 ・与:…と。 ・争隙地:「隙地を争ふ(/ひ)」と伝統的に読む。ただしここは二様に読み下せる「水与梅花+争・隙・地」「水与梅花+争隙・地」前者は「水と梅花とは隙地を争い」と読み下し(谷川の水と梅の花は空き地の取り合いをして)、後者は「水と梅花との争隙の地」と読み下す(谷川の水と梅の花との争いの地となって)。ここは伝統に従って前者を採る。 ・争隙:あらそい。 ・隙地:空き地。 ・隙:〔げき;xi4●〕なかたがい。あらそい。また、すき。すきま。ここは、前者の意。
※倒涵万玉影斜横:さかさまに多くの花の影を斜めに浸(ひた)すように映(うつ)している。 ・倒:〔たう;dao3●〕さかさまになる(-する)。逆になる(-する)。 ・涵:〔かん;han2○〕ひたす。うるおす。いれる。 ・万玉:たいへん多くの美しいものを謂う。ここでは、たいへん多くの梅の花を指す。 ・斜横:傾いている。ななめになっていることを謂う。「横斜」〔わうしゃ;heng2xie2○○〕の意であるが、「横」を韻脚としたいため、「斜横」とした。北宋・林逋の『山園小梅』に「衆芳搖落獨暄妍,占盡風情向小園。疎影橫斜水淸淺,暗香浮動月黄昏。霜禽欲下先偸眼,粉蝶如知合斷魂。幸有微吟可相狎,不須檀板共金尊。」とある。
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◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は「明行橫」で、平水韻下平八庚。この作品の平仄は、次の通り。
●○○●●○○,(韻)
●●○○○●○。(韻)
●●○○○●●,
●○●●●○○。(韻)
平成23.5.5 5.6 5.8 |
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