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聞子規 | ||
正岡子規 |
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一聲孤月下, 啼血不堪聞。 半夜空欹枕, 故鄕萬里雲。 |
一聲 孤月 の下 ,
血に啼 きて 聞くに堪 へず。
半夜 空 しく枕 を欹 つ,
故鄕萬里 の雲。
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◎ 私感註釈
※正岡子規:明治時代の俳人、歌人、随筆家。慶応三年(1867年)~明治三十五年(1902年)。本名は常規。別号に獺祭書屋主人、竹の里人など。愛媛県の人。東大国文科中退。明治二十五年、新聞「日本」入社。日清戦争に新聞記者として従軍し、帰途、喀血。以後、子規と号し、病床で文学活動を続けた。俳句革新を倡え、近代俳句の基礎を樹立した。明治時代を代表する文学者の一人。
※聞子規:ホトトギスの鳴き声を耳にして。 *正岡子規『漢詩稿』の巻頭を飾る作品。「明治戊寅十一年(1879年) 全作詩以此爲始。」と前書きがある。作者満十一歳の時の作。『漢詩稿』は国立国会図書館に収蔵されている。デジタル画像はこちら⇒。そこでは「一声孤月下,啼血不堪聞。半夜空欹枕,古郷万里雲。」と表記されているが、本ページでは青字部分を改めて、赤字部分は字体を換えている。この詩、作者が成人前後に上京し、喀血しが、その頃の作とすれば、重みが増すが、実際は少年時代の習作。詩の舞台設定は:故郷を遥か離れて旅を続けている者が、夜中にホトトギスの血を吐くが如き悲しげな鳴き声に接して、遠く故郷を思い起こした、というもの。 ・聞:きこえてくる。中唐・白居易の『聞夜砧』「誰家思婦秋擣帛,月苦風凄砧杵悲。八月九月正長夜,千聲萬聲無了時。應到天明頭盡白,一聲添得一莖絲。」
とある。 ・子規:ホトトギス。哀しげな啼き声がする鳥とされ、夏の季節を表す鳥である。また、蜀王の霊の化した鳥で、幽冥界との往復をする鳥でもある。盛唐・李白の『聞王昌齡左遷龍標遙有此寄』に「楊花落盡子規啼,聞道龍標過五溪。我寄愁心與明月,隨風直到夜郎西。」
とあり、同・李白の『宣城見杜鵑花』に「蜀國曾聞子規鳥,宣城還見杜鵑花。一叫一廻腸一斷,三春三月憶三巴。」
とあり、清末・秋瑾の『昭君怨』に「恨煞回天無力,只學子規啼血。愁恨感千端,拍危欄。 枉把欄干拍遍,難訴一腔幽怨。殘雨一聲聲,不堪聽!」
とある。
※一声孤月下:(ホトトギスの)鳴き声がひと声、(星影の無い)月だけ(の夜空)の下に(響いたが)。 ・孤月:(星影が無く)月だけがぽつりと一つあるさま。初唐・張若虚の『春江花月夜』に「春江潮水連海平,海上明月共潮生。灩灩隨波千萬里,何處春江無月明。江流宛轉遶芳甸,月照花林皆似霰。空裏流霜不覺飛,汀上白沙看不見。江天一色無纖塵,皎皎空中孤月輪。江畔何人初見月,江月何年初照人。人生代代無窮已,江月年年祗相似。不知江月待何人,但見長江送流水。白雲一片去悠悠,青楓浦上不勝愁。誰家今夜扁舟子,何處相思明月樓。可憐樓上月裴回,應照離人妝鏡臺。玉戸簾中卷不去,擣衣砧上拂還來。此時相望不相聞,願逐月華流照君。鴻雁長飛光不度,魚龍潛躍水成文。昨夜閒潭夢落花,可憐春半不還家。江水流春去欲盡,江潭落月復西斜。斜月沈沈藏海霧,碣石瀟湘無限路。不知乘月幾人歸,落月搖情滿江樹。」とあり、盛唐・王昌齡の『盧溪別人』に「武陵溪口駐扁舟,溪水隨君向北流。行到荊門上三峽,莫將孤月對猿愁。」
とある。
※啼血不堪聞:血を吐いて鳴く(というホトトギスの鳴き声は悲しげで、聞くことに堪えられない。 ・啼血:血を吐いて鳴く。ホトトギスの鳴き声が、悲しげなところからいわれる。中唐・白居易の『琵琶行』に「…我聞琵琶已歎息,又聞此語重喞喞。同是天涯淪落人,相逢何必曾相識。我從去年辭帝京,謫居臥病潯陽城。潯陽地僻無音樂,終歳不聞絲竹聲。住近湓江地低濕,黄蘆苦竹繞宅生。其間旦暮聞何物,杜鵑啼血猿哀鳴。春江花朝秋月夜,往往取酒還獨傾。豈無山歌與村笛,嘔唖嘲難爲聽。今夜聞君琵琶語,如聽仙樂耳暫明。莫辭更坐彈一曲,爲君翻作琵琶行。感我此言良久立,卻坐促絃絃轉急。淒淒不似向前聲,滿座重聞皆掩泣。座中泣下誰最多,江州司馬青衫濕。」とあり、李商隠の詩にホトトギスを詠って「莫學啼成血,從教夢寄魂。」とある。 ・不堪:我慢することができない。堪えられない。忍びがたい。 ・聞:きこえる。耳にする。耳に入ってくる。なお、主体的に聴き耳を立ててきく場合は「聽」。
※半夜空欹枕:夜中に意味もなくマクラをそばだてて(思いを廻らせば)。 ・半夜:夜中。=夜半。 一夜の半分。子の刻から丑の刻までの間で、現在の午前零時頃から二時頃まで。 ・欹枕:マクラをそばだてる。マクラを斜めにする。マクラに寄りかかる。椅子に坐るのではなくて、寝ころんで肩肘を立てているようにしているさま。「欹」:〔き;qi1○〕傾(かたむ)く。傾いている。斜めである。そばだてる。そばだつ。北宋・蘇軾の『水調歌頭』快哉亭作に「落日繍簾卷,亭下水連空。知君爲我、新作窗戸濕靑紅。長記平山堂上,欹枕江南煙雨,渺渺沒孤鴻。認得醉翁語,山色有無中。」とある。
※故郷万里雲:ふるさとは、遥か彼方の雲の下にある。 ・万里:長大な距離を謂う。
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◎ 構成について
韻式は、「AA」。韻脚は「聞雲」で、平水韻上平十二文。この作品の平仄は、次の通り。
●○○●●,
○●●○○。(韻)
●●◎○●,
●○●●○。(韻)
平成28.3.11 3.12 |
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