對花懷舊 |
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義堂周信 | ||
紛紛世事亂如麻, 舊恨新愁只自嗟。 春夢醒來人不見, 暮檐雨洒紫荆花。 |
紛紛 たる世事 亂れて麻 の如し,
舊恨 新愁只 だ自 ら嗟 く。
春夢醒 め來 りて 人 見えず,
暮檐 雨は洒 ぐ紫荊 の花。
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◎ 私感註釈
※義堂周信:南北朝時代から室町時代の禅僧、詩人。正中二年(1325年)〜元中五年/嘉慶二年(1388年)。義堂は道号で、周信は法名。号して空華道人。建仁寺の住持に任じられた。文筆の才に長じ、その文は絶海中津の詩とともに双璧と称された。
※対花懐旧:に向かって、昔のことを懐かしむ。 ・対:…にむかって。…に対して。 ・懐旧:昔のことを懐かしむ。
※紛紛世事乱如麻:入り乱れる浮き世の事象は、麻(あさ)糸が縺(もつ)れるように乱れて。(戦乱の世を嘆いていう)。 ・紛紛:〔ふんぷん;fen1fen1○○〕乱れ散るさま。多く盛んなさま。入り混じって乱れるさま。しきりに。どしどしと。(花や雪などが)散り乱れるさま。盛唐・高適の『別董大』に「十里黄雲白日曛,北風吹雁雪紛紛。莫愁前路無知己,天下誰人不識君。」とあり、盛唐・杜甫の『貧交行』に「翻手作雲覆手雨,紛紛輕薄何須數。君不見管鮑貧時交,此道今人棄如土。」とあり、中唐・白居易の『送春』に「三月三十日,春歸日復暮。惆悵問春風,明朝應不住。送春曲江上,拳拳東西顧。但見撲水花,紛紛不知數。人生似行客,兩足無停歩。日日進前程,前程幾多路。兵刃與水火,盡可違之去。唯有老到來,人間無避處。感時良爲已,獨倚池南樹。今日送春心,心如別親故。」や、晩唐・杜牧の『C明』に「C明時節雨紛紛,路上行人欲斷魂。借問酒家何處有,牧童遙指杏花村。」とある。 ・世事:〔せじ;shi4shi4●●〕世の中の事。今の世の出来事。浮き世の事象。盛唐・王維の『藍田山石門精舍』に「落日山水好,漾舟信歸風。玩奇不覺遠,因以縁源窮。遙愛雲木秀,初疑路不同。安知清流轉,偶與前山通。捨舟理輕策,果然愜所適。老僧四五人,逍遙蔭松柏。朝梵林未曙,夜禪山更寂。道心及牧童,世事問樵客。暝宿長林下,焚香臥瑤席。澗芳襲人衣,山月映石壁。再尋畏迷誤,明發更登歴。笑謝桃源人,花紅復來覿。」とあり、南唐後主・李Uの『烏夜啼』に「昨夜風兼雨,簾帷颯颯秋聲。燭殘漏斷頻欹枕,起坐不能平。 世事漫隨流水,算來夢裏浮生。醉ク路穩宜頻到,此外不堪行。」とある。 ・乱如麻:麻(あさ)糸が縺(もつ)れるように乱れることの形容。盛唐・李白の『永王東巡歌』に「三川北虜亂如麻,四海南奔似永嘉。但用東山謝安石,爲君談笑靜胡沙。」とあり、日本・篠崎小竹の『讀太平記』に「元弘皇紐乱如麻,誰意忠良萃一家。輦下疾風無勁草,山中晩節有黄花。東魚西鳥天心應,前虎後狼人事差。當日攝河張陣地,空使志士憶褒斜。」とある。
※旧恨新愁只自嗟:古い恨みごとに、新しい愁い(が加わって)、ただ自然と嘆き悲しむ声(だけが出てくる)。 ・嗟:なげく。また、ああ。感嘆、または嘆き悲しむ声。
※春夢醒来人不見:(人生のはかない)春の夜の夢から醒(さ)めてきたら、(知っている)人は誰も見かけなくなった。 ・春夢:春の夜の夢。人生のはかないことの譬(たと)え。盛唐・岑參の『春夢』に「洞房昨夜春風起,遙憶美人湘江水。枕上片時春夢中,行盡江南數千里。」とある。 ・不見:見られなくなった。見つけられない。見かけない。盛唐・王維の『鹿柴』に「空山不見人,但聞人語響。返景入深林,復照青苔上。」とある。
※暮檐雨洒紫荊花:(ただ、)夕暮れの軒端(のきば)で、ハナズオウに雨が降り注いでいる(のが見える)。 ・檐:〔えん;yan2○〕(名詞)ひさし。のき。屋根(をふきおろした)端。 ・洒:そそぐ。 ・紫荊:〔しけい;zi3jing1●○〕ハナズオウ。マメ科ジャケツイバラ亜科の落葉低木で、春の末に紅色から赤紫色の花を著ける。葉はハート形でつやがある。
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◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は「麻嗟花」で、平水韻下平六麻。この作品の平仄は、次の通り。
○○●●●○○,(韻)
●●○○●●○。(韻)
○●◎○○●●,
●○●●●○○。(韻)
平成29. 9.19 9.21 10. 3 10. 6 10. 7 |
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