送隱者 | |
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唐・杜牧 |
無媒徑路草蕭蕭,
自古雲林遠市朝。
公道世間唯白髮,
貴人頭上不曾饒。
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隱者を送る
無媒の徑路 草蕭蕭 ,
古 より 雲林市朝 に遠 ざかる。
公道 世間唯 だ 白髮,
貴人の頭上曾 て饒 さず。
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◎ 私感註釈
※杜牧:晩唐の詩人。803年(貞元十九年)〜852年(大中六年)。字は牧之。京兆萬年(現・陝西省西安)の人。進士になった後、中書舍人となる。味わい深い詩風で、歴史や風雅を詠ったことで有名である。杜甫を「老杜」と呼び、杜牧を「小杜」ともいう。
※送隠者:世を避けて隠(かく)れている人を見送る。 *中唐・白居易『戲答諸少年』「顧我長年頭似雪,饒君壯歳氣如雲。朱顏今日雖欺我,白髮他時不放君。」に詩の趣が似る。 ・送:見送る。 ・隠者:世を避けて隠(かく)れている人。世を見捨てた者。隠士。
※無媒径路草蕭蕭:(君主の側で、自分を)仲介してくれる人がいなくて、小道は草がもの寂しげで。 ・媒:〔ばい;mei2○〕なこうど。(男女の)仲介。君主の側で、自分を仲介してくれる人。(屈原の)『楚辭・抽思』に「倡曰:有鳥自南兮,來集漢北。好姱佳麗兮,牉獨處此異域。既惸獨而不羣兮,又無良媒在其側。道卓遠而日忘兮,願自申而不得。」とある。 ・径路:こみち。近道(ちかみち)。間道(かんどう)。 ・蕭蕭:〔せうせう;xiao1xiao1○○〕ものさびしいさま。また、雨がものさびしく降るさま。小雨の降るさま。風雨のはげしいさま。雨が勢いよく降るさま。=瀟瀟。『詩經・鄭風・風雨』に「風雨淒淒,鷄鳴。既見君子,云胡不夷。風雨瀟瀟,鷄鳴膠膠。既見君子,云胡不。風雨如晦,鷄鳴不已。既見君子,云胡不喜。」があり、燕・荊軻の『易水歌』に「風蕭蕭兮易水寒,壯士一去兮不復還。」とあり、『古詩十九首』之十三には「驅車上東門,遙望郭北墓。白楊何蕭蕭,松柏夾廣路。下有陳死人,杳杳即長暮。潛寐黄泉下,千載永不寤。浩浩陰陽移,年命如朝露。人生忽如寄,壽無金石固。萬歳更相送,賢聖莫能度。服食求~仙,多爲藥所誤。不如飮美酒,被服與素。」があり、盛唐・杜甫の『兵車行』に「車,馬蕭蕭,行人弓箭各在腰。耶孃妻子走相送,塵埃不見咸陽橋。牽衣頓足闌道哭,哭聲直上干雲霄。道旁過者問行人,行人但云點行頻。」とあり、同・杜甫の『登高』に「風急天高猿嘯哀,渚C沙白鳥飛廻。無邊落木蕭蕭下,不盡長江滾滾來。萬里悲秋常作客,百年多病獨登臺。艱難苦恨繁霜鬢,潦倒新停濁酒杯。」とあり、晩唐・杜牧の『懷呉中馮秀才』に「長洲苑外草蕭蕭,卻算遊程歳月遙。唯有別時今不忘,暮煙秋雨過楓橋。」とあり、北宋・柳永の『八聲甘州』「對瀟瀟暮雨灑江天,一番洗C秋。漸霜風淒慘,關河冷落,殘照當樓。是處紅衰翠減,苒苒物華休。惟有長江水,無語東流。」があり、南宋・岳飛の『滿江紅』に「怒髮衝冠,憑闌處、瀟瀟雨歇。抬望眼、仰天長嘯,壯懷激烈。三十功名塵與土,八千里路雲和月。莫等閨A白了少年頭,空悲切。」とあり、明・高啓の『登金陵雨花臺望大江』「大江來從萬山中,山勢盡與江流東。鍾山如龍獨西上,欲破巨浪乘長風。江山相雄不相讓,形勝爭誇天下壯。秦皇空此黄金,佳氣葱葱至今王。我懷鬱塞何由開,酒酣走上城南臺。坐覺蒼茫萬古意,遠自荒煙落日之中來。石頭城下濤聲怒,武騎千群誰敢渡。黄旗入洛竟何,鐵鎖江未爲固。前三國,後六朝,草生宮闕何蕭蕭。英雄乘時務割據,幾度戰血流寒潮。我生幸逢聖人起南國,禍亂初平事休息。從今四海永爲家,不用長江限南北。」とある。
※自古雲林遠市朝:雲や霞がかかっている林(=隠棲の場所)は、昔から市場や役所(といった繁華街)から遠ざかっているものだ。 ・自古:昔から。昔より。 ・雲林:雲や霞がかかっている林。隠棲している場所。「雲」は隠逸、神仙を暗示する語。また、湖名、地名、山名。ここは、前者の意。後世、日本・江戸期の阪谷燧Iは『萬里小路藤房卿』で、「誰使中興爲亂麻,雲林豈肯忘天家。君王若問臣踪跡,爲奏松陰泣露華。」と使う。 ・遠:遠ざかる。まぬかれる。遠ざける。ひきはなす。うとんじる。 ・市朝:〔してう;shi4chao2●○〕市場と朝廷。市場や役所といった人のよく集まる場所。陶淵明の『歸園田居』五首其四に「久去山澤游,浪莽林野娯。試攜子姪輩,披榛歩荒墟。徘徊丘壟間,依依昔人居。井竈有遺處,桑竹殘朽株。借問採薪者,此人皆焉如。薪者向我言,死沒無復餘。一世異朝市,此語眞不虚。人生似幻化,終當歸空無。」にとある。
※公道世間唯白髪:世の中で公平なことは、ただ白髪になる(ことであり)(/老いだけは世の中で公平に訪れる意)。 ・公道:(俗語)公平な(/である)。公正な(/である)。適正な(/である)。また、人の守るべき正しい道。ここは、前者の意。
※貴人頭上不曽饒:貴人の頭(も)見のがしたことはなく(白髪=老いは訪れているのだ)。 ・不曽:かつて…したことがない。副詞。 ・饒:〔ぜう;rao2○〕みのがす。ゆるす。 ・不曽饒:かつてみのがしたことがないの意。前出・白居易詩『戲答諸少年』で謂えば:「白髮他時不放君。」の「不放君」。
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◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は「蕭朝饒」で、平水韻下平二蕭。この作品の平仄は、次の通り。
○○●●●○○,(韻)
●●○○●●○。(韻)
○●●○○●●,
●○○●●○○。(韻)
2014.5.3 5.4 5.5 |
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