★　昔の日本のドラマ

大昔、まだ私が子供の頃、なので自由にテレビを見ることは許されていない時代、昼ドラとかよろめきドラマのシリーズが放送されていました。普段は学校に行くので、こういったドラマを見る機会が無く、こちらも興味が無かったのでほとんど見ませんでしたが、大人の話を聞いたり、たまに見ると、主人公はかわいそうな女性、一応美女とされている女優、そして彼女の元に次から次から災難が降りかかって来るというコンセプトでした。自分が何かの過ちを犯す話もあれば、悪い男にくっつかれてしまったり、時には自分では左右できない外的原因も混ざり、とにかく長い、長い間主人公が苦しめられるという筋書きでした。

私自身は積極的に見たわけではなく、当時の私はもっぱら近所のガキ大将と一緒になってその辺を飛び回り、冒険ごっこをしていたので、ほぼ伝聞と思ってください。

しかしまあその話が本当だとすると、現在のクロエちゃんはまさに昼ドラのヒロイン。放送は夜のようですが、彼女にはまた災難（と言っていいかは分かりませんが、よく考えなければならない問題）が訪れます。

日本の昼ドラと違い、クロエは普段やや子供っぽいしぐさと短絡さが目立ちます。昼ドラの主人公は私の当時の印象では年は20歳代の中頃ですが、今の女性に比べるとはるかに大人でした。職業についているとか、人妻であるだけではなく、当時周囲からこのぐらいの年の人はこういう振る舞いをすると期待されているパターンです。現代ではそういう枠がなくなってしまった上、フランスでは学生運動の始まった頃から《永遠の青春》のような考え方が起こり、クロエも永遠の子供っぽさを持ち合わせています。もっとも彼女の場合は前にも書いたように、両親の事件の時以来時が止まってしまったのかも知れません。

★　クロエちゃん、凶と出るか吉と出るか

簡単に言えば、彼女は署内の定期健診で「妊娠中」という結果が出てしまったのです。他に付き合っている男はいないので、父親は十中八九オフマンでしょう。

そのオフマンは時々仕事の都合でクロエの前に現われたりしますが優柔不断男。クロエは普段物事にはっきりした態度を示し、オフマンについては多少迷う所もあったようではありますが、彼女なりの明確なスタンスがあります。その彼女が迷うとグレゴワやトマが気づいて、はっきりさせるように話を持って行ったり、話を聞いて慰めたり、まあ、署が皆で彼女の面倒を見ています。

妊娠の話は第3シーズン6話の最後に飛び出すので、この段階ではまだ署の人は知りません。

現在のフランスでは未婚の母の妊娠はさほど大きな問題ではありません。最近のフランスのカップルはきっちり相手が決まっていて、夫婦同様の生活をしていても籍を入れていない人が多く、この間の偽妹ルイーズも暫く内縁の夫、連れ子と暮らした後にようやく式を挙げるところでした。それでも役所で入籍をするかは分かりません。

現在パートナーが同じ家にいようがいまいが、フランス政府としては新しく子供が生まれればごっつぁんと言って喜び、子供手当てを出します。産めば産むほど役所はにっこりしてお金を出すと言うと言い過ぎかも知れませんが、そちらの方向を向いています。ドイツの方がまだ実生活ではシングル・マザーにとっては厳しいです。

クロエは大学で働いており、警察にも協力しており、自分のアパートも持っているので、子供が生まれても暫く産休を取り、また現役復帰ができるでしょうから、1950年代、60年代あたりの女性とは立場が違います。今時モラルがどうのと責める人もいないでしょう。むしろ妻子のいるオフマンの方が多少何か言われるかも知れません。しかしそれもかなりルーズな社会になっているので、皆何とか乗り切れるでしょう。

クロエはこれまで自分の血を分けた家族とのトラブルがあり、偽妹まで登場し、現在は非常に孤独感を味わっています。署内のメンバーは視聴者から見ると暖かい目を向けていますが、クロエ本人はそれでも人生に失望しています。

オフマンと家庭を作ることができないだろうという事情を別にすると、彼女には自分の子孫ができるわけです。子供は18歳になれば独立しますが、それまでの18年間自分の身内として一緒に暮らせるわけで、それは彼女に大きな慰めになるのではと思います。急にどこかへ出張する時にはグレゴワの家族に預ければいいですし、幼稚園や小学校に行くぐらいの年になれば、トマの息子と遊ぶことも可能です。

★　やっぱり昼ドラ

クロエが妊娠を喜びと取るか、トラブルと考えるかは次の回を見ないと分からないのですが、私はそこを飛ばして先のストーリーを知ってしまったのです。

これでは夜放送される昼ドラです。かわいそうなクロエちゃん・・・。

★　大人のクロエ

女優がうまく演じており、クロエには大人の顔もあります。こと職業となるとマジ。

トマがシングル・ファザーになった理由は妻が殺されたから。ひき逃げされ、重態の彼女は放置されたのです。そしてトマには大体の犯人の予想はついていました。しかし妻の事件は公式には未解決のまま放置され、トマは個人的に仕事の合間に調査をしていました。

しかしお上の手はこの男にこの件では及ばず、トマはついにサイレンサーを入手し、自分の手で男を片付けようと決心。ある夜男のアパートに乗り込みます。ところがアパートはもぬけの殻でクロエが1人立っています。彼女が男に連絡し、男はスイスにトンズラ。

クロエはトマの行動を観察し、こういう事をするだろうと予想して先回り。そして調査書類を机の上に置いたまま帰宅したのは、トマの方に誰かに止めてもらいたいという無意識の気持ちが働いていた、自分は止めに入ったという説明をします。

ま、クロエは正しいでしょう。トマがこういう方法で私刑をすれば精神的負担を一生背負い込むことになりますし、万一ばれてしまったら、本人は刑務所行き、息子は施設に預けられることになり、皆が不幸。ここは止めなければという考えがクロエを動かしています。そういう時の彼女は完全に大人で、冷静。