反世界のステーション (SF)
(H・G・エーヴェルス&クラーク・ダールトン / ハヤカワ文庫SF 2003)
ペリー・ローダン・シリーズの295巻です。
惑星アスポルクから宇宙へ飛び立った謎の隕石を追って、旧ミュータントたちは太陽系帝国の旗艦《マルコ・ポーロ》を乗っ取ります。しかし、巨艦を制御しきれず、乗っ取りは失敗し、アスポルクへ舞い戻ることに。
ですが、かれらを救うには隕石に残るPEW金属の謎を解くしかないという結論に達したローダンは、コマンドを率いて小惑星に着陸。そこに潜む知性体とのコンタクトに成功します。
前半のアスポルク地底で、謎めいた反物質宇宙の存在(アッカローリーと何か関係があるのか?)がちょこっと出てきたり、後半では恒星六角形やエルンスト・エラートなど懐かしい話題が出てきたり、興味しんしんですが、尻切れとんぼにならないといいなあ。
あと、公判で、宇宙嵐に遭遇してとある惑星に避難したクルーが出会った種族のエピソードは、本筋とは関係のないものですが、心に残ります。いかにもダールトンらしいというか。
<収録作品と作者>「反世界のステーション」(H・G・エーヴェルス)、「目的地は未知」(クラーク・ダールトン)
オススメ度:☆☆☆
2003.11.8
怪物晩餐会 (ホラー)
(井上 雅彦 / 角川ホラー文庫 1999)
井上雅彦さんのホラー短編集(“ホラー小説”より“怪奇小説”という名称の方がぴったり来る気がしますが)、角川ホラー文庫版の第3弾です。過去2冊にも増して分厚いです。
内容はと言えば、スプラッターから幻想小説までバラエティに富んでいます。ただ、この人の作品に共通するテイストは、50年代B級SF、昭和30年代怪獣映画、昭和40年代特撮テレビ番組(特に「ウルトラQ」と「怪奇大作戦」)、古典的怪奇小説(「フランケンシュタイン」や「吸血鬼ドラキュラ」)への郷愁と憧憬でしょう。もうひとつは、血まみれ内臓どろどろシーンが描かれていても不快感を覚えない不思議さ。
特撮マニアにはたまらない「パノラマ」、青春小説と怪物ホラーが融合した「殺人鬼の家」、凝らされた技巧と発想が秀逸な「怪鳥」、初期のクライブ・バーカー風味と原初の童話が結びついた「むかし、お城で」、タイトルを見ただけでわくわくする「吸血魔団」などがお気に入り。中には肌が合わないものもありますが、これだけ作品数が多ければそれも当然なことでしょう。
<収録作品>「夜を奪うもの」、「プレゼント」、「たたり」、「風が好き」、「青畳」、「パノラマ」、「龍は茜色」、「晩餐」、「模型」、「緑魔来る」、「D坂」、「怪鳥」、「海妖館」、「不在の蛇」、「キマイラ」、「スキヤポデス」、「トリフィド」、「ある有名な怪物」、「比喩のなかの幻獣園」、「空気獣」、「アムンゼン館」、「誘惑者たち」、「殺人鬼の家」、「むかし、お城で」、「沙漠のサンドリヨン」、「向こう側の生物」、「吸血魔団」
オススメ度:☆☆☆
2003.11.13
キリンヤガ (SF)
(マイク・レズニック / ハヤカワ文庫SF 1999)
ここ10年ほど、長編SFとしていちばん面白いと思っているのはレズニックの「サンティアゴ」(創元SF文庫)です。
で、レズニック久々の邦訳が、この「キリンヤガ」。
キリンヤガというのはアフリカ大陸第二の高山であるケニア山の現地名です(マサイ語らしい)。で、この作品の主な舞台となる人工の小惑星の名前でもあります。
つまり、ケニアの部族のひとつであるキクユ族の伝統と文化と生活様式を守ろうという一群の人々が、ケニアの自然環境とまったく同じにテラフォーミングされた惑星に移り住んで自らのユートピアを作り上げようとするお話です。プロローグ・エピローグを含めて10編の短編から成っていますが、通して読めば大河小説のような長編としても読めるという構成です。
全編を通じての主人公は、ムンドゥムグ(賢者にして呪い師という意味)のコリバです。彼は若くして欧米へ留学し、ケンブリッジ大学とイェール大学を卒業したエリートでありながら、初老にしてヨーロッパ式の生活を捨ててキリンヤガへの移住を選択します。彼は、キクユ族の絶対神ンガイの教えを遵守しながら部族の伝統を守るために奮闘します。
しかし、次第に彼のやり方は若者たちの反発を招き、部族の中で孤立を深めていくことになります。
ある人にとっての、ある時点での正義や大義が、他の人、他の時点ではそうではないという事実がすべての作品に底流として流れています。それだけに深みがあり、最初は万能のヒーローのように思えたコリバが、いつの間にか頑迷固陋な老人と化していることに、読み進んでいて愕然とすることになります。
中でも「空にふれた少女」は、小品ですが「冷たい方程式」にも匹敵する読後感を味わわせてくれました。
<収録作品>「もうしぶんのない朝を、ジャッカルとともに」、「キリンヤガ」、「空にふれた少女」、「ブワナ」、「マナモウキ」、「ドライ・リバーの歌」、「ロートスと槍」、「ささやかな知識」、「古き神々の死すとき」、「ノドの地」
オススメ度:☆☆☆☆
2003.11.22
俳優 (ホラー:アンソロジー)
(井上 雅彦:編 / 廣済堂文庫 1999)
テーマ別ホラーアンソロジー『異形コレクション』の第13巻(縁起のいい数字ですな)。
今回のテーマはタイトル通り“俳優”。映画や演劇、劇場と言ったら怪談話の宝庫ですが(ロンドンの劇場にはどこでも必ず幽霊が出るとか)、現代的にアニメの声優ネタまであったりします。他人を演じるということから“変身”テーマのバリエーションにもなりますね。
今回は、ちと好みに合う作品の数が少なかったですが、それでも読みでがあります。
作品紹介ではO・ヘンリ風味だと書かれていましたがこれは絶対にJ・フィニイ風味だと断言できる「飛胡蝶」(横田順彌)、ゾンビアンソロジー『死霊たちの宴』に収録されてもおかしくない「黄昏のゾンビ」(友成純一)、正統派幽霊譚「願う少女」(矢崎存美)と「タクシーの中」(新津きよみ)、都市伝説のような語り口が楽しい「楽屋で語られた四つの話」(北野勇作)あたりがお勧め。
<収録作品と作者>「遍歴譚」(五代 ゆう)、「君知るや南の国」(篠田 真由美)、「伝説のサラ」(小沢 章友)、「肉体の休暇」(森 真沙子)、「死体役者」(安土 萌)、「白い呪いの館」(倉阪 鬼一郎)、「佐代子」(飯野 文彦)、「楽屋で語られた四つの話」(北野 勇作)、「タクシーの中で」(新津 きよみ)、「月夜」(柴田 よしき)、「秀逸のメイク」(江坂 遊)、「哀夢」(毛利 元貞)、「俳優が来る」(本間 祐)、「願う少女」(矢崎 存美)、「柚累」(斉藤 肇)、「飛胡蝶」(横田 順彌)、「決定的な何か」(早見 裕司)、「新人審査」(北原 尚彦)、「小面曾我放下敵討」(朝松 健)、「死の谷を歩む女」(田中 文雄)、「陶人形」(竹河 聖)、「黄昏のゾンビ」(友成 純一)、「メイクアップ」(小中 千昭)、「怖い顔」(石田 一)、「劇薬」(井上 雅彦)、「化粧」(菊地 秀行)
オススメ度:☆☆☆
2003.12.19
宇宙航路2 猫柳ヨウレの冒険<激闘編> (SF)
(光瀬 龍 / ハルキ文庫 1999)
これは、タイトルからもおわかりの通り、続編です。
ですが、前作の「猫柳ヨウレの冒険 宇宙航路」(ハルキ文庫版のタイトルは「宇宙航路 猫柳ヨウレの冒険」と逆になってます)を徳間文庫版で読んだのは20年近く前です。ストーリーはおろか主人公の性別まで忘れ去ってました(笑)。猫柳ヨウレって、美少女だったんですね。登場人物は前作とかぶっていますが、特に未読でも問題なし。ストーリーも連続性はないですし。
今回はヨウレを始めとするいわくありげな一党が、ルナ・シティを始めとする太陽系各地で怪事件を解決するというドタバタ・ナンセンスSF連作。ちょっと時代的には古さを感じさせます。全部カタカナ言葉でしゃべるエイリアンは、レトロというか、読みにくい!(汗)
光瀬龍さんというと、「たそがれに還る」とか「喪われた都市の記録」とか叙情性あふれるシリアスSFのイメージが強いので、本作の作風はかなり意外でした。でもまあこれで720円は高いです。
<収録作品>「○・五の悲劇」、「ホットライン殺人事件」、「パンを召しませ」、「セロリの逆襲」、「アイアン・ウルスの復讐」、「ヒット・マン暁に死す」、「さいはての物語」
オススメ度:☆☆
2003.12.20