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イクシーの書庫・過去ログ(2003年5月〜6月)

<オススメ度>の解説
 ※あくまで○にの主観に基づいたものです。
☆☆☆☆☆:絶対のお勧め品。必読!!☆☆:お金と時間に余裕があれば
☆☆☆☆:読んで損はありません:読むのはお金と時間のムダです
☆☆☆:まあまあの水準作:問題外(怒)


レッド・マーズ(上・下) (SF)
(キム・スタンリー・ロビンスン /  創元SF文庫 1998)

長いです。でもそれ以上に密度が濃い。上下巻合わせて1000ページ近く、息抜きをする暇がありません。精緻で濃密な描写の連続に、溺れてしまいそう。
タイトルから想像できる通り、舞台は火星です。しかも最新の科学知識に裏打ちされたリアルな火星。 最近の“火星もの”となると、「火星の虹」(ロバート・L・フォワード)や「火星転移」(グレッグ・ベア)がありますが、本作は極めつけです。でも、このテーマの古典でもある「火星の砂」(A・C・クラーク)をまだ読んでないんです(汗)。
西暦2026年、100人の科学者(後に畏敬をこめて<最初の100人>と呼ばれることになる)を乗せた火星植民船が地球を旅立ちます。かれらは火星に居住施設を設け、テラフォーミングを進め、続く移民たちを受け入れるべく火星開発に邁進します。
物語は冒頭、多くの移民たちで沸き返る火星の祝祭の夜、<最初の100人>のひとりである重要人物が暗殺されるところから幕を開けます。そして20年をフラッシュバックし、<最初の100人>の地球での選抜と訓練、火星への旅、着陸と内部分裂、着々と進む開発と破壊工作・・・と、それまでの歴史をなぞっていきます。
更に、後半は暗殺事件後、国連と超国家企業体の思惑に蹂躙される火星植民地が叛旗を翻し、革命を起こすというクライマックスへ向かって進みます。
ただ、最初に書いたように、とにかく精緻に、淡々と話が進むため、ドラマチックであるはずの出来事もドラマチックに感じられないという問題があります。でも、それが作者の狙いだということもなんとなくわかる(笑)。SFというよりも、重厚な歴史大河小説を読んでいる気分。
この作品、3部作の1作目で、このあと「グリーン・マーズ」、「ブルー・マーズ」(後者は現時点で未訳)と続きます。
読む時は、腹を固めて読みましょう。

オススメ度:☆☆☆

2003.5.2


聖竜戦記2 ―異世界への扉― (ファンタジー)
(ロバート・ジョーダン / ハヤカワ文庫FT 1998)

大河ファンタジー『時の車輪』の第2シリーズ第2作です。
前巻のラストで“異能者”の指導者アミルリン位の前に召しだされた主人公アル=ソア。
自分の運命を告げられながらもそれを受け入れるのに抵抗し、逃げるように“ヴァリーアの角笛”(これを吹き鳴らすと過去の英雄が甦って悪と戦うという角笛。ありがち)探索の冒険行に身をゆだねます。途中、異世界に迷い込むはめになり、そこで謎の美女と出会う・・・。でも相変わらずヒーローらしくない行動の連続。しっかりしろアル=ソア。
一方、女性陣は“異能者”の都へ向かいますが、途中で行方をくらますメンバーがいたり、まあこの巻は伏線引きまくりという感じです。
以下、続巻

オススメ度:☆☆

2003.5.4


魔軍 (サスペンス)
(落合 信彦 / 光文社文庫 1998)

このタイトル、『魔軍』と書いて『キラー・ウイルス』と読むそうです。完璧に当て字。
でも、このタイトルのおかげで手に取ったわけです。改題前の『ザ・プリティ・ボーイ』だったら見向きもしなかったに違いありません。落合信彦氏ってあんまり好きじゃないし。
ネタはエイズ。まだ社会的にも話題になっていなかった70年代が舞台で、ロサンゼルスのゲイ社会に広がり始めた奇病の謎を追う医師と新聞記者、そして明らかにされる秘密組織の陰謀が描かれます。
エイズの正体を、冷戦時代の大国が秘密裏に開発した生物兵器だとする陰謀説は、かなりあちこちでささやかれていますので、今読むと、あまり新味は感じられません。でもそれとは別に、キリスト教に基づく白人文化を至上として、それに反する人々を抹殺することこそ正義と考える登場人物たちを見ると、現在の某国政府にダブってしまい、恐怖を覚えます。
でも、ラストでどんでん返しを狙ったつもりでしょうが、伏線があまりに目立ちすぎて、オチがバレバレなんですけど(笑)。

オススメ度:☆☆

2003.5.4


星界の戦旗2 ―守るべきもの― (SF)
(森岡 浩之 / ハヤカワ文庫JA 1998)

星界シリーズ、久しぶりの登場です。
今回、ラフィールとジントのコンビは、帝国軍がはからずも占領した惑星ロブナスの領主代行ならびに副代行として赴任することになります。ところが、着いてみると、この惑星、星全体が刑務所で、今しも囚人たちによる反乱が勃発しようとしているところでした。
世間知らず(笑)のラフィールは軌道上に残り、ジントは地上に降りて(よせばいいのに)内紛に介入、否応なく巻き込まれていきます。
惑星規模のエクソダスが始まろうとする中、突如として迫る敵艦隊。かれらの運命やいかに・・・ということで、いいテンポで進みます。
今回、主要キャラのイラストが載っているのですが、“タカビシャ提督”(笑)スポールさんのイメージが、自分が抱いていたのにぴったりだったので嬉しい。ちゃんと物語中でも活躍してくれますし。

オススメ度:☆☆☆

2003.5.5


ホータン最後の戦い (ヒロイック・ファンタジー)
(栗本 薫 / ハヤカワ文庫JA 1998)

グイン・サーガ外伝の15巻にして、「幽霊島の戦士」以来6話続いたグインの探索行最終回。
誘拐されたケイロニアの皇女シルヴィアを探して、はるか東方の地キタイにやってきたグインは、ついに鬼面神を倒し、シルヴィア姫を救出します。
でも、グラチー(笑)あっさり引き下がっちゃったね。まあ、最終決戦(あるのか?)はまだまだ先のようですし。あと、今回、謎だったキタイの暗殺教団の秘密がかなりあっさり(ある程度だけど)明かされます。
ラストで人情味あふれる(しかも説得力があって、意外なんだけど唐突な印象は受けない)エピソードを連発するあたり、さすがです。

オススメ度:☆☆☆☆

2003.5.5


連合艦隊 大激闘 (シミュレーション戦記)
(田中 光二 / 光文社文庫 1998)

『新・太平洋戦記』の第4巻。
“大激闘”というタイトルの割には、艦隊はほとんど戦っていません(笑)。
前半のほとんどは、ガダルカナル島を巡る陸戦に費やされます。史実では最初にガ島に送り込まれた一木支隊が、こちらの歴史ではミッドウェイ占領部隊になっているので、別の隊が貧乏くじを引くことに。その後に投入されるのが川口支隊というのは史実通りですが。
後半も地味な展開が続きます(まあ繋ぎの回みたいですし)が、サボ島沖夜戦をはじめ、だいたい史実通り。大和がガ島を艦砲射撃するのは読者サービス?(笑) 史実では金剛と榛名の2艦が夜間砲撃で戦果を上げていますが、確かに大和が参加していたら凄かっただろうな。
次巻に続きます。

オススメ度:☆☆

2003.5.6


姑獲鳥の夏 (ミステリ)
(京極 夏彦 / 講談社文庫 1998)

今、日本の作家さんで○にがいちばん注目して、気になっているのが京極夏彦さんです。
実は、昔から「日本の探偵小説は厚いほど面白い(自分の肌に合う)」という観念が経験的に刷り込まれておりまして(笑)。実例を挙げると「黒死館殺人事件」(小栗虫太郎)、「ドグラ・マグラ」(夢野久作)、「虚無への供物」(中井英夫)、「匣の中の失楽」(竹本健治)等等。
ですから、講談社ノベルスから分厚い本(しかもタイトルがなんともそそる!)を立て続けに出されている京極さんがすごく気になっていたわけです。しかし、なぜか同じように刷り込まれた「ノベルス(新書版)は嫌い(高い)」という理不尽な思い込みがあって、文庫に落ちるのをずっと待っていたのです。やっと順番が回ってきました。
で、京極さんのデビュー作が本書。「姑獲鳥」は「うぶめ」と読みます。出産時に亡くなった女性の念が物の怪と化したと言われる魔物で、鳥の姿をしているとか、赤ん坊を抱いて下半身が血に染まった女性の姿をしているとか、諸説あります(詳細は本文参照)。こういう魔物は諸国にあって、ギリシャ神話のハーピーとか、マレーシアのペナンガラン(余談ですが、これはビジュアル的にはすごいです。むき出しの内臓をぶら下げた女の生首が空を飛ぶというもの)とかいろいろ。
で、「姑獲鳥の夏」ですが、妊娠20ヶ月を経ても出産しない妊婦という不可思議な謎と密室から失踪した夫という通好みの設定。しかも探偵役は古書店「京極堂」店主にして安部清明の流れを汲む陰陽師。舞台設定が戦後間もない昭和20年代になっているのも、雰囲気を演出するのに役立っています。作中で効果的に使われている闇の描写など、どこへ行っても灯りが存在する現代日本ではありえないでしょう。
トリック自体は、クイーンあたりが見たら「アンフェアだ!」とわめき出しそうなものですが、そこに至るまでの和風怪奇趣味が横溢するペダントリーあふれる語り口が説得力を持たせています。
人によって好みは分かれるでしょうが、自分的には期待通りの作品でした。大満足。

オススメ度:☆☆☆☆

2003.5.8


新・桜の精神史 (ノンフィクション)
(牧野 和春 / 中公叢書 2002)

桜の資料その3。
3部構成になっており、半分以上を占める第1部では、奈良時代から江戸時代に至る歴史上の人物と桜との関わり、また第2部では民衆と桜との関係をベースに、日本人の精神の中に息づく“桜観”を敷衍た本です。第3部では桜の美学を分析。
記述は客観的で、説得力あり。内容が似ているだけに、どうしても先日読んだ「桜と日本人」と比べてしまうのですが、こちらの著者の方が数段好感が持てます。
でも、本当に知りたかった情報は、あまり載ってなかったですよ(笑)。

オススメ度:☆☆

2003.5.10


8(上・下) (伝奇)
(キャサリン・ネヴィル / 文春文庫 1998)

タイトルは素直に「エイト」と読みます。
「8」という数字、不思議ですよね。横に倒すと「∞」になるし。あと、チェスのゲーム盤の縦横のマス目の数も「8」です。ということで、このお話はチェスがモチーフになっています。
チェスをネタにした小説というと、人間がチェスの駒となって死を賭けたゲームを戦う「火星のチェス人間」(バローズの『火星シリーズ』の中ではいちばん好き)、バローズと同じネタを大河ホラーのクライマックスに据えた
「殺戮のチェス・ゲーム」(ダン・シモンズ)があります。日本では「謀殺のチェス・ゲーム」(山田正紀)とか。(でも「謀殺のチェス・ゲーム」は軍事的な戦略の攻防をチェスに例えただけで、実際にチェスのゲームが出てきたわけではなかったような。記憶あいまい)
で、この「8」ですが、かつて8世紀に(あ、ここでも「8」が!)カール大帝がムーア人から贈られたというチェスのセット、“モングラン・サーヴィス”を巡る伝奇冒険小説です。
物語はフランス革命直後の18世紀末と、現代のダブル・プロット。過去では修道院に隠されていた“モングラン・サーヴィス”のセットを、革命の嵐から守るためにヨーロッパ各地に隠そうとする修道女ミレーユの冒険が、無数の歴史上の実在人物(女帝エカテリーナやら革命家ロベスピエールやらマラーやらナポレオンやら)との関わりの中で描かれます。一方、それと平行して語られる現代(1970年代)では、コンピュータ技術者キャサリンと友人で女性チェスプレイヤーのリリーが、“モングラン・サーヴィス”を巡る謀略の渦中に巻き込まれ、アメリカからアルジェリアの奥地にまたがる謎解きと冒険の旅に赴くことになります。
世界征服すら可能になるという、古代の秘法を暗号として封じ込めている“モングラン・サーヴィス”の謎とは何か。200年の時を超えたふたつの物語は、どのように結びつくのか・・・。そして、誰が敵で、誰が味方なのか・・・。
伝奇的な薀蓄は適度に抑え、冒険色を前面に押し出しているのでテンポよく読み進めることができます。説得力のあるラストも吉。

オススメ度:☆☆☆☆

2003.5.12


サイコ・ヴァンパイア (SF)
(エルンスト・ヴルチェク&クラーク・ダールトン / ハヤカワ文庫SF 2003)

ペリー・ローダン・シリーズの、えっと・・・290巻です。
今回は、大きな展開がありました。
地球に危機をもたらしている“苦悶の声”と呼ばれる謎の存在の正体が、明らかにされます。いや「ローダン・ハンドブック」を読んでいたので既に知っていたのですが、本編でどのように明かされるのか興味津々でした。苦し紛れのような気もするけど、まあ妥当な線か・・・。
後半のエピソードは、いかにもダールトンらしい、ユーモアとヒューマニティあふれる物語でした。本シリーズ久々のヒット。

<収録作品と作者>「サイコ・ヴァンパイア」(エルンスト・ヴルチェク)、「時の騎士」(クラーク・ダールトン)

オススメ度:☆☆☆☆

2003.5.13


地球はプレイン・ヨーグルト (SF)
(梶尾 真治 / ハヤカワ文庫SF 1995)

梶尾真治さんと言えば、今は「黄泉がえり」の作者として名が知られていますが、もともとはSF作家さんです(え? 常識?)。
この「地球はプレイン・ヨーグルト」は、梶尾さんの第1短編集。初版が出たのは1979年ですから、もう四半世紀も昔のことなんですね。
この人の作風、大きくふたつに分かれるようです。ひとつは、ブラックなユーモアが横溢したスラップスティック風味なもの(以前に読んだ短編連作集「ゑゐり庵綺譚」も、この系列ですね)。この本の中では、タイトルになっている「地球はプレイン・ヨーグルト」(このアイディアはすごい)とか「フランケンシュタインの方程式」とか。
もうひとつは、リリカルで泣かせるもの。「美亜へ贈る真珠」とか「清太郎出初式」とか、泣かされました。
「黄泉がえり」もこの系列かと。

<収録作品>「フランケンシュタインの方程式」、「美亜へ贈る真珠」、「清太郎出初式」、「時空連続下半身」、「詩帆が去る夏」、「さびしい奇術師」、「地球はプレイン・ヨーグルト」

オススメ度:☆☆☆

2003.5.13


八八艦隊物語3 奮迅 (シミュレーション戦記)
(横山 信義 / 中公文庫 1998)

「もし太平洋戦争で日米双方が大艦巨砲主義だったら」という設定のシミュレーション戦記。第3巻、中盤です。
1巻は日本の勝利、2巻では一転して米軍が勝利を収めた南太平洋。
進攻を強める米艦隊に対して、東寄りの拠点を放棄した日本軍はトラック島に全艦隊勢力を集め、決定的な勝利を目論見ます。
1巻では正々堂々、距離をおいての艦隊決戦でしたが、今回は趣向を変えて大乱戦。敵味方の艦船が入り乱れ、零距離砲撃の遭遇戦が展開されます。このあたり、作者が趣味丸出しで楽しんで書いているのが、よく伝わってきます。
だいたい、実際の太平洋戦争では戦艦同士の遭遇戦は1回しか行われていません。ソロモン海域で「サウス・ダコタ」「ワシントン」と「比叡」「霧島」が正面から撃ち合ったことがあるだけ。もちろんこの時は、武装に勝る米戦艦の勝利でした。
まあ、こうしてフィクションとして読む分には楽しいですけどね。
続きは明日。

オススメ度:☆☆☆

2003.5.14


八八艦隊物語4 激浪 (シミュレーション戦記)
(横山 信義 / 中公文庫 1998)

昨日の続き。
順調に(?)日本は太平洋の拠点を失い続け、マリアナでも惨敗します。
乾坤一擲の勝負を賭け、連合艦隊はレイテ沖に突入して米艦隊と雌雄を決しようとします。
この辺の大筋は史実に沿っていますが、細かなところはパラレルワールド。
日本は既に空母部隊を持たず、米軍側も英国艦隊の戦艦群と合流し、艦隊決戦を挑むべくレイテ沖に参集します。
昔、「提督の決断」をプレイした時、こういうことをやった記憶がありますが、まさかそれを小説で読めるとは(笑)。
最終巻、決着篇はしばらく先です。
しかし、こういうシミュレーション戦記を複数並行して読んでいると、ストーリーがこんがらがってきますね。登場人物はほとんど共通ですし(当たり前)。

オススメ度:☆☆

2003.5.15


料理長が多すぎる (ミステリ)
(レックス・スタウト / ハヤカワ・ミステリ文庫 1998)

美食家で、動き回るのが苦手な安楽椅子探偵ネロ・ウルフが主人公の本格ミステリ。
原作の発表が1938年、邦訳のハヤカワ文庫版の初版が1976年ですから、かなり古いです。でも、内容は特に古さを感じさせません。
ウルフと助手のアーチーは、あるイベントに招待されて、リゾート地へ向かいます。そのイベントというのは、欧米を代表する超一流の料理人15人が一同に会す大晩餐会。
ところが、あくどい手口で複数人の恨みをかっていたひとりの料理人が刺殺されるという事件が持ち上がります。いやいやながら重い腰を上げるウルフ。
トリックは小粒ですが、特筆すべきは作品中にちりばめられた料理に関する薀蓄の数々でしょう。なじみのない料理が多いので、あまりイメージがわかないですけど。

オススメ度:☆☆

2003.5.16


鬼趣談義 (研究・資料集)
(澤田 瑞穂 / 中公文庫 1998)

中国の伝承や説話集に出てくる幽霊・幽鬼について、様々な原典を渉猟し分析した書。
著者いわく、「怪異研究の中国篇としては前代未聞の怪著」だそうですが、まさにその通り。文庫としてはちと高いですが(1143円也)。
これだけ広範に文献をあたって、説話のモチーフをきちんと分類整理している書物に出会ったのは、K・ブリッグズの「妖精事典」以来です。
「日本の幽霊は死ぬとすぐに祟るが、中国の幽霊はじっくり時間をかけて怪をなす」とか、「人が幽霊に偽装する時にどのような格好をするかが、その文化での幽霊研究の良い参考資料になる」などの指摘は秀逸。
ちなみに、中国の幽霊には足があるそうです(笑)。

オススメ度:☆☆

2003.5.19


ガンスリンガー (ダーク・ファンタジー)
(スティーヴン・キング / 角川文庫 1998)

かのスティーヴン・キングが「自分のライフワーク」として取り組み、「完成まで300年かかる(笑)」と語っているダーク・ファンタジー“暗黒の塔”シリーズの第1作。
破滅後の世界を思わせる荒廃した大地を背景に、謎の“黒衣の男”を追う主人公“ガンスリンガー”。彼の過去を断片的に語りながら、幾多の謎を散りばめた物語が進みます。
ただ、本巻は壮大な(ということになるであろう)物語のプロローグに過ぎず、謎は謎のまま。わからないことだらけで、これだけ読んでいてもあまり面白くありません。
このシリーズ、現在のところ、
「ザ・スリー」「荒地」「魔道師の虹」まで出ています(たぶん)。

※追記:本シリーズは、2005年より新潮文庫から新訳決定版が刊行されています。

オススメ度:☆☆

2003.5.21


ユラニア最後の日 (ヒロイック・ファンタジー)
(栗本 薫 / ハヤカワ文庫JA 1998)

グイン・サーガの62巻です。
タイトル通り、中原で最も歴史ある国家のひとつだったユラニアが滅亡するお話です(と言っては身も蓋もないですが)。
イシュトヴァーンが全開戦闘モードで突っ走ります。ヤツが死んでから吹っ切れたね、彼。というか、途中で彼に訪れた閃き・・・これって、今後の大きな伏線になっている気がします。
ゴーラが戦乱で荒れる一方、北の大国ケイロニアも動き出す気配です。グインに関する情報を知らせたのがアイツだというのがまた、気が利いているというか面白いと言うか。
ますます予断を許しません。

オススメ度:☆☆☆

2003.5.22


ウイルス学者セレステ (サスペンス)
(B・B・ジョーダン / 徳間文庫 1998)

これも、タイトルに“ウイルス”が付いていたので、つい買ってしまったものです。
ただ、副題に“消えたミュータントの謎”というのに騙されてはいけません。この副題は虚偽表示とは言わないまでも(確かに本来のmutantの意味では使われている)、誇大広告だと思います。明らかに確信犯で、センセーショナルなイメージを与えようとしていますね。
主人公のセレステは、(タイトル通り)ウイルス学者。彼女(女性です。読むまでわからなかった)は、日本の製薬会社とコンサルタント契約を結んでいましたが、その製薬会社が、致命的なウイルスの特効薬に関して、あるバイオテクノロジー会社から脅迫まがいの契約を強いられようとしているのを知り、調査を始めます。
その結果、驚くべき真相が徐々に明らかになり・・・という次第。
登場人物が、最初から善玉と悪玉がはっきりわかるように書かれていて、ストーリーの進行も、ほぼ予想がつきます。解説で、訳者の方が「スリリングで意外性に富んで・・・」とべたほめしていますが、それほど大したものじゃありません。その証拠に、同じ主人公でシリーズ化されているらしいのですが、続刊がとんと出ていませんね(笑)。まあ出版社が出版社だしねえ・・・。

オススメ度:☆☆

2003.5.23


垂直世界の戦士 (SF)
(K・W・ジーター / ハヤカワ文庫SF 1998)

なんか、かっこ良さげなタイトルです、「垂直世界の戦士」。なんか、わくわくしますね。カバーイラストも、サイドカーに乗ったいかした兄ちゃんが半裸の美女をはべらしているアメコミ風味ですし。
でも、だまされちゃあいけませんよお客さん。なんせ、作者がジーターです。
「ドクター・アダー」でえらい悪趣味なパンクSFを書いていたジーターです。正統派SFであるわけがありません。
確かに、内容はジーターにしてはまともです。いつとも知れぬ時代、どことも知れぬ世界に作られた巨大なビルディング。そのビルの側面が“垂直世界”です。放っておけば落っこちてしまいますから、登山用具が進化したメカで身体を支え、張り巡らされたケーブルを伝ってバイクをぶっ飛ばして移動します。更に、あちこちにあるジャックに指を突っ込んで接続すれば、あらゆる情報にアクセスできる(ただし有料)というサイバーな世界。
平和な“水平世界”から一旗上げようと“垂直世界”に出てきたさえない男、アクセスターが主人公。彼は、儲け話を探すうちに、対立する戦争集団同士の陰謀に巻き込まれ、思っても見なかった冒険に否応なく出て行く羽目になります。
サイバーパンクなSFであるにもかかわらず、ファンタジックな描写もあり、屋根の上に別世界があって冒険が繰り広げられるクリストファー・ファウラーの「ルーフワールド」を思い起こさせるストーリーです。中でも亜人種エンジェル族は秀逸。思わず惚れちゃいます。

オススメ度:☆☆☆

2003.5.25


眠り姫、官能の旅立ち (エロチック・ファンタジー)
(アン・ライス / 扶桑社ミステリー 1998)

アン・ライスの作品だからと、内容も確かめずに買いました。
きっと、「眠り姫」をベースにした耽美ファンタジーだろうと・・・。
違いました。
確かに童話の「眠り姫」を下敷きにはしていますが・・・。
ポルノです。紛うことなき18禁です。しかも美少年・美少女集団SM調教もの!
古来より、童話にはエロチックな要素が包含されているというのはよく論じられているところですが、それを作家の想像力を最大限に駆使して拡大してみせたというところでしょうか。どれだけすごいかというと、主人公の眠り姫が服を着ていたのは、最初の1ページだけです(笑)。彼女を目覚めさせたのも、キスではなくて王子様の●●。
ライスが「自分が読みたいエロチック小説を書いた」とおっしゃっているそうですが、それにしても。
“ヴァンパイア・クロニクルズ”よりも売れているらしいです。ふぎゃ。
ただ、エロだけど内容は女性向け。
ですから、裸に剥かれて鞭打たれる美少年の描写が延々と出てきて・・・全然面白くないんですけど(笑)。
これ、3部作なんですよね。内容を知らずに、残りの2巻も買っちゃっているんですよね・・・。

オススメ度:☆(この手の趣味がある方だけどうぞ)

2003.5.27


悪を呼ぶ少年 (ホラー)
(トマス・トライオン / 角川文庫 1998)

テレビ放映された、映画「悪を呼ぶ少年」を見たのは、たしか中学の時です。
双子が出てきて、ひとりが邪悪でひとりが純真で・・・というくらいしか覚えていませんでしたが、忘れていて良かった(笑)。
原作である本作品を、新鮮な気持ちで読むことができました。そして結末の新鮮さにびっくり。
舞台はコネチカット州の田舎町。事故で父親をなくした双子の少年ナイルズとホランドは、祖母や母親、姉夫婦、親類と共に暮らしていました。繊細で素直なナイルズと、秘密好きで不気味な雰囲気のホランド。
夏のある日、ふたりに嫌われていた従兄弟が、干草置き場で巨大フォークに突き刺されて死亡します。その影には、双子が共有していたある“秘密”がありました。
ホラーとしても読めるし、ミステリとしても読める二重構造。各章の冒頭に付されている謎の人物のモノローグも、雰囲気を盛り上げています。
また、30年前の作品ということもあり、最近のスプラッタ・パンク系の作家だったらどろどろの凄惨シーンにするような場面でも淡々と描写されているので、その意味では生理的に安心して読めます。
カバーに書いてある「サイコホラーの大傑作」というのはほめ過ぎだと思いますが。

オススメ度:☆☆☆

2003.5.29


チャイルド (ホラー:アンソロジー)
(井上 雅彦:編 / 廣済堂文庫 1998)

テーマ別ホラー・アンソロジー『異形コレクション』の第7弾です。
昨日の「悪を呼ぶ少年」と続けて“子供ホラー”が続いたのは、いわゆるシンクロニシティというやつでしょうか? いえきっと、単なる偶然です。
子供ってのは、怖いです。
かわいいと思ってたら次の瞬間、怪物化するし(笑)、すぐ壊れるし(汗)、自分も子供であった時代があったはずなのに、今や大いなる未知。
今回も、残酷ものからファンタジーまで、バラエティに富んだ作品が揃っています。気に入ったのは、「サトル」(岡本賢一)とか「夢の果実」(高瀬美恵)あたりでしょうか。純粋ホラーよりも、ちょっと泣かせる幻想譚が好き。
序文で井上雅彦さんが言及している「子供の幽霊を描いたクリスティの優れた短編」って、タイトルが載ってないけど「ランプ」のことですよね?
ただ、序文での誤植はいただけません。“ゴラッドベリ”って誰ですか(笑)。

<収録作品と作者>「グリーンベルト」(矢崎 存美)、「かいちご」(朝松 健)、「マリオのいる教室」(山口 タオ)、「金霊」(南條 竹則)、「黄昏の歩廊にて」(篠田 真由美)、「母の再婚」(田中 文雄)、「帰ってくる子」(萩尾 望都)、「絆」(安土 萌)、「アリアドネー<迷宮の女主人>」(奥田 哲也)、「愛児のために」(飯野 文彦)、「幼虫」(竹河 聖)、「サトル」(岡本 賢一)、「一郎と一馬」(森 奈津子)、「臨」(斎藤 肇)、「少女倶楽部」(宇野 亜喜良)、「屋根裏のアリス」(本間 祐)、「つばさ君」(江坂 遊)、「子供という病」(太田 忠司)、「インナー・チャイルド」(岬 兄悟)、「夢の果実」(高瀬 美恵)、「魔王」(山田 正紀)、「魔王さまのこどもになってあげる」(久美 沙織)、「去り行く君に」(菊地 秀行)、「十月の映画館」(井上 雅彦)

オススメ度:☆☆☆

2003.5.30


X−ファイル 未来と闘え (ホラー)
(クリス・カーター&エリザベス・ハンド / 角川文庫 1998)

これまでずっと、TVとは異なるオリジナルストーリーが5冊続いてきた小説版X−ファイル。今回はそれと違って、映画版「X−ファイル ザ・ムービー」の小説化です。
映画自体は見ていないのですが、これを読めばすっかりあらすじがわかります(ほめてるわけじゃありませんよ)。映画のおおまかなストーリーを文字に置き換えただけで、それ以上でもそれ以下でもありません。本にして出すほどのものではないです。
これまで本シリーズを書いてきたグラントやアンダースンと比べると、力量の差が歴然かと思います(ノヴェライズだからこう書けという制約があったのかも知れませんが)。

オススメ度:☆

2003.5.31


洞窟の偶像 (評論集)
(澁澤 龍彦 / 河出文庫 1998)

初めて澁澤龍彦さんの文章に接したのは、中学の時だったと思います。
毎日新聞の日曜版に1年にわたって連載された「東西不思議物語」というエッセイ。その名の通り、古今東西のオカルトネタや不思議な事件などをわかりやすく、しかもセンセーショナルに扱うことなく描き出してくださっていました(後に河出文庫の澁澤龍彦コレクションの1巻目として出ています)。
その後、ヨーロッパの非英語圏の幻想文学をいろいろと知ったのも、澁澤さんの著作を通してでした。 もともと自分は、本はやたらと読むくせに、純文学系は一切読まないという偏った読書傾向を持つ人間ですので、美文名文を味わうという経験があまりないのですが、澁澤さんの文章だけは特別だと思っています。
内容がどうというより、文章そのもののリズム、言い回し、語句の使い方を味わい、楽しむことができる文筆家さんです。
で、この「洞窟の偶像」は、澁澤さんが他の作家の作品に寄せた解説や推薦文、紹介文を集めたもの。どこからでもお読みください。

オススメ度:☆☆

2003.6.1


奇跡の少年 (SF)
(オースン・スコット・カード / 角川文庫 1998)

カードに“アルヴィン・メイカー・シリーズ”という大シリーズがあることは、以前に読んだカードのSF作品(どの作品かは忘れました)の解説で知っていました。
でもまさか、角川から出るとは思いませんでした(汗笑)。
舞台は18世紀のアメリカ。ただし、このアメリカはパラレルワールドらしく、独立戦争も起こっていません(ジョージ・ワシントンが首をはねられて・・・という描写があってびっくりした(^^;)。そこで暮らす開拓者の一家、7番目の息子である家長アルヴィンの、7番目に生まれた息子アルヴィン・ジュニアが主役です。7番目の息子のさらに7番目の息子というのは特別な能力を持つ特別な存在だそうで、生まれた時からアルヴィン・ジュニアは謎の存在に命を狙われることになります。でも、それを妨害する別の力もはたらいていて・・・という次第。(そういえば、カードには「第七の封印」という作品もありました)
本巻は、長大な作品のプロローグという感じで、少年アルヴィンが旅に出る(大河SF・ファンタジーには旅はつき物)前までで終わっています。アメリカでは続刊も次々と出ているそうで、解説にも「日本でも第2巻が近く刊行される予定」と書かれています。
ところが、5年が経った今でも、まったく続巻は出ておりません。
きっと、この巻が売れなかったんだろうなあ・・・。売れないと、角川書店ってシビアだからなあ。
もっとも、カードのシリーズ物では、ハヤカワから出ていた“帰郷を待つ星”シリーズも2巻までで刊行が打ち切られちゃってますし。キリスト教(カードはモルモン教徒です)の教条主義的色彩が濃い作品なので、日本では受けが悪いのかも知れません。

※追記:第2巻「赤い予言者」が、99年に同じ角川文庫から出ていることが判明しました。

オススメ度:☆☆

2003.6.3


恐竜文学大全 (アンソロジー)
(東 雅夫:編 / 河出文庫 1998)

先日、こちらでご紹介した「怪獣文学大全」に続くアンソロジーです。
ところで、「怪獣」と「恐竜」の違いって、ご存知ですか?
端的に言ってしまうと、「怪獣」は架空の生き物で、「恐竜」はかつて地上に実在した生物(爬虫類と言い切ってしまうのは誤りです)のこと。
だからというわけではないかも知れませんが、この2冊を読み比べてみると、「怪獣文学」よりも「恐竜文学」の方がリアルな気がします。
本巻でも、小説から詩から評論、随筆、短歌まで、様々な角度からの恐竜ネタがてんこ盛り(言い換えれば、片っ端から寄せ集めたという感も否めませんが)。

<収録作品と作者>「午後の恐竜」(星 新一)、「危険水域」(井上 雅彦)、「過去の翳」(豊田 有恒)、「大相撲の滅亡」(小林 恭二)、「クラシック・パーク」(景山 民夫)、「恐竜レストラン」(荒俣 宏)、「イグアノドンの唄」(中谷 宇吉郎)、「水中生活者の夢」(種村 季弘)、「湖上の怪物」(W・A・カーティス)、「楢ノ木大学士の野宿」(宮沢 賢治)、「沼」(吉田 健一)、「恐竜展で」(清岡 卓行)、「トリケラトプス」(河野 典生)、「恐竜」(山野 浩一)、「ここに恐竜あり」(筒井 康隆)、「恐竜と道化」(井辻 朱美)

オススメ度:☆☆

2003.6.4


総門谷R 小町変妖篇 (伝奇)
(高橋 克彦 / 講談社文庫 1998)

歴史伝奇小説『総門谷』シリーズの第4弾です(“R”が冠されてからは3作目)。
副題の小町というのは小野小町のことです。作中の設定では怨魔(要するに魔物)のシバが化けています。
前作(と言ってもほとんどストーリーを忘れていました)のラストで炎の中に消えた主役たちが、7年後に復活します。そして、怨魔たちと雌雄を決すべく東北へ向かうのですが・・・。
今回のラストで書かれているように、「前哨戦に過ぎない」内容なのですが、これ以降5年間、続刊が(少なくとも文庫では)出ていないんですけど。

オススメ度:☆☆

2003.6.5


メイキング・ラブ (ホラー)
(メラニー・テム&ナンシー・ホールダー / 創元推理文庫 1998)

帯には「官能と戦慄の純愛ホラー」と書かれていますが・・・。
これは看板に偽りなし。さすがにどこかの出版社とは違います創元さん。
40歳の独身女性シャーロットは、いつも夢の中で理想の恋人を想像したり、パソコン通信のチャットで別人格を演じたりして、幻想の中で生きていました。現実の社会では、保守的で慎み深い高校教師。 ところが、ちょっと頭のおかしい弟カメロンが、「ぼくは生命を創造できる」と言い出します。いつもの病気が始まったかと悩むシャーロットですが、ある朝、自室にいつも自分が夢の中で思い描いていた理想の男性がいるのを見つけて驚愕します。それは、カメロンが不思議な精神の力で(錬金術で創ったホムンクルスとかではありません)創り出した男性でした。
シャーロットはその男性をファネスと名づけ、一緒に暮らし始めます。しかし、無から生み出されたファネスには、普通の人間と違う点がありました。彼には魂がなかったのです。
一方、カメロンは自分が身につけた力を行使し、次々と子供を生み出していました。
周囲の人々を巻き込みながら、物語は悲劇に向かって突き進んでいきます。
古典的な「フランケンシュタイン・テーマ」を現代のロマンスの枠組みの中で再構築した大人の童話(というには、ちとエロチックですが)とも言えるでしょう。
合作者のひとりメラニー・テムは、「深き霧の底より」を書いたスティーヴ・ラスニック・テムのご夫人です。

オススメ度:☆☆☆

2003.6.6


ウィッチライト (ホラー)
(メラニー・テム&ナンシー・ホールダー / 創元推理文庫 1998)

先日の「メイキング・ラブ」に続く、テム&ホールダーの官能ホラー第2弾。
主人公の女子大生ヴァレリーは、父親が危篤という知らせを受けて、ニューメキシコの地図にも載っていない小さな町へ赴きます。そこで出会った美貌の青年ガブリエル。彼は蛇や鳥などの小動物を操り、不思議な力でヴァレリーの父親の病状を(一時的ですが)回復させます。
“運命の恋人”だと告げるガブリエルに、ヴァレリーは惹かれていきますが、村の住人たちはガブリエルのことを妖術師だと呼んで避けています。愛と疑惑の間で揺れ動くヴァレリー。やがて、村には不気味な出来事が・・・。
「メイキング・ラブ」よりも正統ホラーの要素が濃いです。ネイティブ系の魔術が全篇に息づいていますし。ただ、さすがは官能ホラーだけあって、ヴァレリーが疑惑を感じるたびにガブリエルが肉体を武器に説得するので、やたらと愛を交わすシーンが多いです(笑)。
このコンビの作品って、今のところ2作品しか出ていないようです(版元がトラブったらしい)。もっと読みたいのに、残念。
関係ないけど、解説を読んで知ったのですが、ホールダーの旦那様ってRPG「ダンジョン・マスター」の開発者なんですって。

オススメ度:☆☆☆

2003.6.8


密閉病室 (サスペンス)
(F・ポール・ウィルスン / ハヤカワ文庫NV 1998)

F・ポール・ウィルスンと言えば、モダンホラーの大御所のひとりです。
「ザ・キープ」を初めとする“ナイトワールド・サイクル”の他、「黒い風」とか「闇から生まれた女」とか、その都度、趣向を凝らして、ホラーファンを楽しませてくれる人です。
ですが、この人の本業(というか、もうひとつの職業)はお医者さん。「触手」には、その片鱗が感じられました。
で、この「密閉病室」は、そのウィルスンが初めて書いたメディカル・サスペンス。
舞台となるイングラム医科大学は、授業料免除で優秀な学生を集める全寮制の学校です。卒業生は、みな大都市のスラムを中心として医療に携わっています。
ここに、いわくつきで入学した女子学生のクインと、カメラのような記憶力を持つボーイフレンドのティムは、一見順調に見える大学生活にどこか違和感を覚えます。大学側は、あらゆる学生の電話を盗聴し、部屋をモニターしていました。
ティムとクインによって解かれる謎は、それほど斬新なネタではありませんが、さすがはウィルスン。プロットの構築の仕方やストーリー展開は職人芸。メディカル・サスペンスとしてみても、ロビン・クックに匹敵しますし、明らかにマイケル・パーマーよりも格上です。

オススメ度:☆☆☆

2003.6.11


アヴァロンの戦塵(上・下) (SF)
(ラリー・ニーヴン&ジェリー・パーネル&スティーヴン・バーンズ / 創元SF文庫 1998)

あの「アヴァロンの闇」の、待ちに待った続編です〜!!
しかし、あのと言っても、ご存じない方はご存じないかも知れません。なんせ、前作「アヴァロンの闇」が最初に出たのは1989年。当時は、その冒険SFのツボを押さえまくった豪腕ぶりに、無条件降伏してしまいました。
鯨座タウ星をめぐる惑星アヴァロンに植民した160名の地球人。自然にあふれ牧歌的なアヴァロンで平和な生活を始めます。警備担当だったキャドマン大佐だけは、この平和な毎日に不審を抱いていましたが、植民者たちは取り合いません。そして、ある晩、コロニーは謎の怪物に襲撃され、悲劇は起こります。植民者たちは、グレンデルと名付けられた怪物どもと死闘を展開し、ついにコロニーのあるキャメロット島からグレンデルを掃討することに成功します。ここまでが前作のあらすじ。
そして、本作はその20年後が舞台。すでに、植民者には2世、3世が生まれており、第1世代との間のジェネレーション・ギャップも生じてきています。もちろん、2世たちは、グレンデルとの戦争を経験してはいません。そして、平和な島を出て、いまだグレンデルが跳梁している大陸への進出を画策し始めます。
そのおりもおり、大陸に設置した無人の採鉱場で謎の爆発が起こり、植民者たちは原因究明に現地へ赴きます。しかし、かれらは惑星アヴァロンの謎に満ちた生態系と直面しなければなりませんでした。そして、砂嵐の中で、ふたりが不可解な死を遂げます。
前作がストレートな秘境開拓ものだったのに対して、今回は第一世代と第二世代の対立や葛藤、権力争いや謀略が描かれ、アヴァロンの生態系の謎にも筆が割かれて、幅の広いストーリーになっています。その分、アクションは少なめ。
ただ、ラストはいまひとつ気に入りませんでした(まあ、好みの問題でしょうけれど)。論理的には納得できても、心情的・倫理的には納得できん。むう。

オススメ度:☆☆☆☆

2003.6.13


ドロレス・クレイボーン (ホラー)
(スティーヴン・キング / 文春文庫 1998)

スティーヴン・キングの・・・ええと、異色作なのかな、これは?
ドロレス・クレイボーンというのは、主人公の女性の名前。もうすぐ66歳、家政婦。
冒頭から、ドロレスの立て板に水のおしゃべりが始まります。どこまで行くのかと思ったら、これが最後まで行ってしまう。しかも章の区切りなしで、延々と続くので、どこで読むのを中断したらいいのか悩んでしまいます(笑)。
で、状況をみると、どうやらここは警察の取調室で、ドロレスは雇い主の金持ちの老婦人を殺害したという疑いを持たれているらしい。ところが、彼女の口から飛び出したのは、30年前に事故死したと思われていた夫を殺害したという告白でした。
スーパーナチュラルな要素はほとんどなく、倒叙ミステリ風味ですが、同じ倒叙ミステリでもクロフツのそれではなく、フランシス・アイルズの「殺意」や「犯行以前」に近いです。心理描写が秀逸。あと、珍しい自然現象と合わせて犯行を実行するというネタは、チェスタトンが『ブラウン神父』シリーズで使いそうですね。
キングには珍しく、陰惨なネタの割には読後感がさわやかです。肝っ玉かあさん風なドロレスのキャラクターが、いい味を出してます(一歩間違えば「ミザリー」になっちゃいますけど)。

オススメ度:☆☆☆☆

2003.6.15


八八艦隊物語5 弔鐘 (シミュレーション戦記)
(横山 信義 / 中公文庫 1998)

大艦巨砲主義の戦略シミュレーション戦記、『八八艦隊物語』の最終巻です。
実際の歴史ではレイテ沖海戦に相当する“サンベルナルディノ沖海戦”が前半、そして、後半は大和の沖縄特攻と終戦とまあ、ほぼ史実通りのストーリーとなります。
それでも大艦巨砲主義のパラレルワールドらしく、最後まで「航空機が戦艦を沈めることはできない」という原則が貫かれるのが、面白いです。大和も派手派手しく戦艦同士の砲撃戦で沈むし。
1巻で早くも表舞台から退場し、新潟で隠居していた山本五十六さんがどうなるのかと思っていたら、こういう役回りだったんですね。山口多聞さんの扱いと共に、作者の思い入れを感じます。
エピローグでは、終戦時に生き残っていた連合艦隊の軍艦のその後の経緯が記載されています。最後が「雪風」(史実でも「好運艦」と呼ばれ、主な作戦すべてに参加したにもかかわらず無傷だった駆逐艦)で余韻を残して終わるんだろうな、と予想していたら・・・最悪の落とし穴が。「風雪」って何よ「風雪」って!?
この誤植で、読後感が数ランクダウンしました。これは作者の責任じゃないですな。編集がバカで無知なんだよ。
しかしまあ、シミュレーション戦記はこの程度の長さで終わるのがいいと思いますね。しっかり日本が負けて決着が着くし。どこかのシリーズみたいに、延々と勝ち続けて、ますます収拾がつかなくなるといった事態に陥るのは最悪です。

オススメ度:☆☆☆

2003.6.16


ポーをめぐる殺人 (ホラー)
(ウィリアム・ヒョーツバーグ / 扶桑社ミステリー 1998)

日本で知られたヒョーツバーグの作品と言えば「堕ちる天使」ですが(読んでないけど)。映画化されて「エンゼル・ハート」のタイトルで公開されましたが(見てないけど)。
そのヒョーツバーグが、エドガー・アラン・ポーをモチーフに書いたこの作品。歴史オカルト・ミステリとでも呼べばいいのでしょうか。いや、「モダンホラーはジャンルミックスだ」という定義からすれば、間違いなくモダンホラーでしょう。
舞台は1923年。ニューヨークで、ポーの小説の見立て殺人と思われる犯罪が続発します。首をもぎ取られた老女と煙突に突っ込まれた美女(「モルグ街の殺人」)、黒猫と共に壁に塗りこめられた女性(「黒猫」)、絞殺されたメアリー・ロジャース(「マリー・ロジェの秘密」)・・・。この事件に巻き込まれるのは、稀代の奇術師ハリー・フーディニとシャーロック・ホームズの生みの親コナン・ドイル。
ドイルは、ホームズの作者としてではなく、スピリチュアリズム(心霊主義)の信奉者としてアメリカへ講演旅行に来ていたのでした。その行く先に出現する、ポーの亡霊。
こうして、史実と虚構を織り交ぜながら、オカルティズムが横溢した犯罪捜査劇が繰り広げられていきます。
フーダニットの謎解きミステリとして読んだ場合には、動機の点で致命的な弱点がありますが、ホラーとして読めば、なかなか芸が細かくて面白いです。

オススメ度:☆☆☆

2003.6.18


月の物語 (ホラー:アンソロジー)
(井上 雅彦:編 / 廣済堂文庫 1999)

テーマ別書下ろしホラーアンソロジー『異形コレクション』の第8弾です。
今回のテーマは、タイトルからおわかりの通り、月。
古来、月は神秘的な天体として、夜の世界を支配してきました。月の力は人間に狂気をもたらすと主張する「月の魔力」(A・L・リーバー)は、データ的にまったく信用はできないですけれども、やはりホラーやファンタジーの盛り上げ役としての価値は高いですよね。ジェームズ・ハーバートの(その名もずばり)「ムーン」とか。
本書でも、月にまつわるネタは、ほとんど網羅されています。狼男、かぐや姫、アポロの月面着陸、月の石、月の女神、月光・・・。ひとつくらいセーラームーンネタがあるんじゃないかと思っていましたが、ありませんでした(でもあれも大元のネタはかぐや姫ですよね)。
狼男ネタかと思わせてのどんでん返しが鮮やかな「月見れば――」(草上 仁)、まさかのオチに感激して爆笑してしまった「シズカの海」(北野 勇作)、ハードSFとダークファンタジーの融合が見事な「月の上の小さな魔女」(青山 智樹)、女性ならではの視点が光る「シャクティ<女性力>」(大原 まり子)などがお勧め。

<収録作品と作者>「月光荘」(安土 萌)、「プレイルーム」(倉阪 鬼一郎)、「死んでもごめん」(若竹 七海)、「銀の潮満ちて……」(松尾 未来)、「月見れば――」(草上 仁)、「月盈ちる夜を」(篠田 真由美)、「ぶれた月」(岬 兄悟)、「Killing MOON」(ヒロモト 森一)、「月の上の小さな魔女」(青山 智樹)、「地球食」(堀 晃)、「六人目の貴公子」(梶尾 真治)、「落葉樹」(横田 順彌)、「月夢」(岡本 賢一)、「シズカの海」(北野 勇作)、「蜜月の法」(牧野 修)、「月光よ」(眉村 卓)、「穴」(高橋 葉介)、「飛鏡の蠱」(朝松 健)、「月はオレンジ色」(霜島 ケイ)、「影女」(南條 竹則)、「シャクティ<女性力>」(大原 まり子)、「掬月」(竹河 聖)、「石の碑文―「Kwaidan」拾遺―」(加門 七海)、「欠損」(菊地 秀行)、「知らないアラベスク」(井上 雅彦)

オススメ度:☆☆☆

2003.6.19


サイコ (ホラー:アンソロジー)
(ロバート・ブロック:編 / 祥伝社文庫 1998)

これは、“サイコ・ホラー”を集めたアンソロジーです。
すべての元となったあの「サイコ」(でも未読です(^^;)の作者、ロバート・ブロックが編者をしています。ただ、途中で逝去されたために、序文も書かれないままでした。
ただね、収録作品をながめ渡してみると、「本当にブロックが編纂したのか?」という疑問が湧いてくるのも事実。まさに玉石混交で、光る作品もあるけど箸にも棒にもかからぬ駄作もあります。
現在、日本でも“サイコ・ホラー”と銘打たれた作品が量産されています。ちょっと猟奇的なミステリから、キ●ガイが出てくるだけの小説まで、み〜んな“サイコ・ホラー”。“サイコ”と名付けりゃ売れると思ってるみたいで(いや実際、売れているんでしょうけど)、なんかいやだなあと感じるのは、自分の天邪鬼な性格のせいでしょうか(笑)。
やっぱりホラーの王道は、スーパーナチュラルな要素だと思うんです(主張)。
だから、その意味では、このアンソロジーの中ではちょっと異色な「敷物」(E・V・ベルコム)とか「交点」(D・カンシラ)、「生命線」(I・ナヴァロ)などが好み。御大キングの「第四解剖室」もサスペンスの盛り上げ方がさすがです。
あと、トリを務めた「生存者」(G・A・ブラウンベック)は、凄惨な題材を扱いながらも叙情あふれる内容で、救われた気分になりました。

<収録作品と作者>「第四解剖室」(スティーヴン・キング)、「とり憑かれて」(チャールズ・グラント)、「闇に潜む狂気」(エド・ゴーマン)、「助けてくれ」(リチャード・クリスチャン・マシスン)、「大きな悪、小さな悪」(デニース・M・ブラックマン)、「交点」(ドミニク・カンシラ)、「医師と弁護士とフットボールの英雄」(ブレント・モナハン)、「祖父の記念品」(ローレンス・ワット=エヴァンズ)、「誘惑」(エスター・M・フリーズナー)、「死体に火をつけて」(デル・ストーン・ジュニア)、「残響」(シンディ・ゲッデズ)、「生命線」(イヴォンヌ・ナヴァロ)、「非難の余地なし」(デイヴィッド・ニール・ウィルソン)、「地の底」(クラーク・ペリー)、「死体屋」(リチャード・パークス)、「じゃあ、きみは殺し屋になりたいんだね」(ゲイリー・ジョウナス)、「敷物」(エド・ヴァン・ベルコム)、「サイコ・インタビュー」(ビリー・スー・モウザーマン)、「氷壁」(ウィリアム・D・ギャグリアーニ)、「南部の夜」(ジェイン・ヨーレン)、「許されし者」(スティーヴン・M・レイニー)、「生存者」(ゲイリー・A・ブラウンベック)

オススメ度:☆☆

2003.6.22


世界の謎と不思議 (オカルト)
(平川 陽一 / 扶桑社文庫 1998)

この著者は、「トンデモ本」シリーズの中で「下には下がある」とメタボロに酷評されていた人です(この本を買ったのは評を見る前だったんですよね)。
で、おそるおそる読んでみたところ、いやはや前評判(?)通りのひどさ。
最低です。
既に謎が解明されてたり嘘っぱちだと判明しているネタを平然と紹介していたり、ちょっと生物学や気象学の知識がある人には常識のことを新発見のように書いていたり。
しかも、長く書くとウソがバレるからなのか、材料が足りないのか、やる気がないのか(3つとも全部だと思います)、どのネタも1ページか2ページで、表面をなぞっているだけ。説得力のかけらもありません。
今も、この著者の本が書店で平積みになっていたりしますが、絶対に買っちゃいけません。お金の無駄です。

オススメ度:−

2003.6.22


くらら 怪物船團 (ホラー)
(井上 雅彦 / 角川ホラー文庫 1998)

『異形コレクション』の編者もなさっている井上 雅彦さんの長編ホラー。この人の長編を読むのは、実は初めてです。
ホラーと呼ぶよりは、古典的に怪奇幻想譚と呼びたくなる、怪奇ファンへのサービスてんこ盛りの一編です。
言ってみれば、ブラッドベリとW・H・ホジスンをベースに60年代特撮ものと80年代ホラー映画のエキスをたっぷりと注いで、猟奇殺人をスパイスに、最後に隠し味としてクトゥルー風味をちょっぴり。こう書けば、わかる人にはわかっていただけるでしょう。
房総の港町に忍び寄る怪異。海に消えた恋人。沿岸開発利権に群がる金の亡者たち。破られた封印・・・と、道具立てもばっちり。
でも、ストーリーを追うよりも、全篇にふんだんに散りばめられた怪奇と異形をひとつひとつ堪能するのが、正しい楽しみ方かと思います。

オススメ度:☆☆☆☆

2003.6.23


螺旋の月(上・下) (SF)
(山田 正紀 / ハルキ文庫 1998)

副題・・・というか、改題前のタイトルは「宝石泥棒2」。つまり、この作品に先行する「宝石泥棒」という小説があるわけです。
「宝石泥棒」を角川文庫版で読んだのはたしか高校時代でしたから、えらくタイムラグがあります。ストーリーはほとんど忘れ去ってました。タイトルから想像されるような犯罪小説ではなく、遠未来の異世界を舞台にした時間SFでした。
その続編である本作も、まずは遠未来の異形の地球で幕を開けます。ブライアン・オールディスの「地球の長い午後」を思わせる奇怪で幻想的な生物が跋扈する世界。人間すらとうの昔に消滅した世界でのプロローグから、物語は現代日本に飛びます。大学の研究室で新世代コンピュータを研究している主人公の次郎は、恋人ユカが精神障害に陥った原因を調査するうち、夢とも幻覚ともつかぬ異世界を垣間見ます。そこでは、ジローという戦士が、自らのアイデンティティを求めて冒険を繰り広げていました。 はるかな時間を超えて感応し合う次郎とジローの精神は、やがて途方もないビジョンの中で邂逅することになります。
目に見えるはずのない“時間”を視覚的に描き出す作者の筆力はさすがです。しかし、なんとなく物足りなさを覚えるのはなぜでしょう。前作「宝石泥棒」の記憶が鮮明なうちに読めば、また違った評価になったのかも知れません。これから読もうという方は、2作続けて読むことをお勧めします。

オススメ度:☆☆☆

2003.6.26


グレイベアド (SF)
(ブライアン・W・オールディス / 創元SF文庫 1998)

タイトルの“グレイベアド”とは、直訳すると“灰色ひげ”。賢者という意味もあるそうです(そういえばガンドルフも最初はグレイでしたな)。
舞台は近未来のイギリス。20世紀後半に人為的に引き起こされた“変事”のために、哺乳類は生殖能力を失い、子供が生まれなくなっています。今や人類の平均年齢は70代。
そんな末期的な世界で、主人公の“灰色ひげ”は妻や友人と共に旅していきます。その旅路と平行して、過去の回想シーンが語られ、彼が属していた“DOUCH”という組織の目的が浮かび上がってきます。
題材はディザスター小説なのですが、特にパニックやスペクタクルがあるわけではなく、あくまで淡々と物語は進んでいきます。バラードの4部作やシュートの「渚にて」と共通する、静かに終末を迎えようとしている世界・・・。
救いのない物語なのですが、不思議に読後感はよいです。

オススメ度:☆☆

2003.6.28


死の館の謎 (ミステリ)
(ディクスン・カー / 創元推理文庫 1998)

昨日ご紹介の「グレイベアド」と同じく、創元さんの復刊フェアで入手したものです。ビバ、復刊!!
不可能犯罪の巨匠ディクスン・カーが、中期以降、歴史ミステリに傾斜して行ったというのは有名な話です。最初は英国を舞台にしているのに対し、晩年には20世紀前半のアメリカ南部ニューオーリンズを舞台とした3部作を書いています。本作は、そのうちのひとつ。
イングランドからニューオーリンズへ移設された古色蒼然たる屋敷<デリース館>。しかし、そこは別名<死の館>と呼ばれるいわくつきの屋敷でした。現に17年前、屋敷に滞在した男性が謎めいた転落死を遂げています。また、先祖が沈没船から引き上げて隠したという黄金の伝説もありました。
主人公の歴史作家ジェフは、この屋敷に住む旧友からの手紙に、パリから故郷のニューオーリンズに戻ってきます。最初の100ページあまりは、ミシシッピー河を下る蒸気船の内部が舞台ですが、主要登場人物のほとんどが(偶然にも!)顔を揃え、恋あり秘密ありの、ちょっと喜劇めいたサスペンスフルなドタバタが演じられます。このあたりは「盲目の理髪師」を思い起こさせる展開。で、ニューオーリンズに到着直後、友人デイヴの妹が屋敷の2階から転落死。ジェフの身にも危険が迫り・・・。
トリックと意外な犯人は、全盛期のカーに比べると不満も残りますが、ロマンス豊かな冒険小説風味もあり、飽きさせません。

オススメ度:☆☆☆

2003.6.29


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