地球はプレイン・ヨーグルト (SF)
(梶尾 真治 / ハヤカワ文庫SF 1995)
梶尾真治さんと言えば、今は「黄泉がえり」の作者として名が知られていますが、もともとはSF作家さんです(え? 常識?)。
この「地球はプレイン・ヨーグルト」は、梶尾さんの第1短編集。初版が出たのは1979年ですから、もう四半世紀も昔のことなんですね。
この人の作風、大きくふたつに分かれるようです。ひとつは、ブラックなユーモアが横溢したスラップスティック風味なもの(以前に読んだ短編連作集「ゑゐり庵綺譚」も、この系列ですね)。この本の中では、タイトルになっている「地球はプレイン・ヨーグルト」(このアイディアはすごい)とか「フランケンシュタインの方程式」とか。
もうひとつは、リリカルで泣かせるもの。「美亜へ贈る真珠」とか「清太郎出初式」とか、泣かされました。「黄泉がえり」もこの系列かと。
<収録作品>「フランケンシュタインの方程式」、「美亜へ贈る真珠」、「清太郎出初式」、「時空連続下半身」、「詩帆が去る夏」、「さびしい奇術師」、「地球はプレイン・ヨーグルト」
オススメ度:☆☆☆
2003.5.13
チャイルド (ホラー:アンソロジー)
(井上 雅彦:編 / 廣済堂文庫 1998)
テーマ別ホラー・アンソロジー『異形コレクション』の第7弾です。
昨日の「悪を呼ぶ少年」と続けて“子供ホラー”が続いたのは、いわゆるシンクロニシティというやつでしょうか? いえきっと、単なる偶然です。
子供ってのは、怖いです。
かわいいと思ってたら次の瞬間、怪物化するし(笑)、すぐ壊れるし(汗)、自分も子供であった時代があったはずなのに、今や大いなる未知。
今回も、残酷ものからファンタジーまで、バラエティに富んだ作品が揃っています。気に入ったのは、「サトル」(岡本賢一)とか「夢の果実」(高瀬美恵)あたりでしょうか。純粋ホラーよりも、ちょっと泣かせる幻想譚が好き。
序文で井上雅彦さんが言及している「子供の幽霊を描いたクリスティの優れた短編」って、タイトルが載ってないけど「ランプ」のことですよね?
ただ、序文での誤植はいただけません。“ゴラッドベリ”って誰ですか(笑)。
<収録作品と作者>「グリーンベルト」(矢崎 存美)、「かいちご」(朝松 健)、「マリオのいる教室」(山口 タオ)、「金霊」(南條 竹則)、「黄昏の歩廊にて」(篠田 真由美)、「母の再婚」(田中 文雄)、「帰ってくる子」(萩尾 望都)、「絆」(安土 萌)、「アリアドネー<迷宮の女主人>」(奥田 哲也)、「愛児のために」(飯野 文彦)、「幼虫」(竹河 聖)、「サトル」(岡本 賢一)、「一郎と一馬」(森 奈津子)、「臨」(斎藤 肇)、「少女倶楽部」(宇野 亜喜良)、「屋根裏のアリス」(本間 祐)、「つばさ君」(江坂 遊)、「子供という病」(太田 忠司)、「インナー・チャイルド」(岬 兄悟)、「夢の果実」(高瀬 美恵)、「魔王」(山田 正紀)、「魔王さまのこどもになってあげる」(久美 沙織)、「去り行く君に」(菊地 秀行)、「十月の映画館」(井上 雅彦)
オススメ度:☆☆☆
2003.5.30
恐竜文学大全 (アンソロジー)
(東 雅夫:編 / 河出文庫 1998)
先日、こちらでご紹介した「怪獣文学大全」に続くアンソロジーです。
ところで、「怪獣」と「恐竜」の違いって、ご存知ですか?
端的に言ってしまうと、「怪獣」は架空の生き物で、「恐竜」はかつて地上に実在した生物(爬虫類と言い切ってしまうのは誤りです)のこと。
だからというわけではないかも知れませんが、この2冊を読み比べてみると、「怪獣文学」よりも「恐竜文学」の方がリアルな気がします。
本巻でも、小説から詩から評論、随筆、短歌まで、様々な角度からの恐竜ネタがてんこ盛り(言い換えれば、片っ端から寄せ集めたという感も否めませんが)。
<収録作品と作者>「午後の恐竜」(星 新一)、「危険水域」(井上 雅彦)、「過去の翳」(豊田 有恒)、「大相撲の滅亡」(小林 恭二)、「クラシック・パーク」(景山 民夫)、「恐竜レストラン」(荒俣 宏)、「イグアノドンの唄」(中谷 宇吉郎)、「水中生活者の夢」(種村 季弘)、「湖上の怪物」(W・A・カーティス)、「楢ノ木大学士の野宿」(宮沢 賢治)、「沼」(吉田 健一)、「恐竜展で」(清岡 卓行)、「トリケラトプス」(河野 典生)、「恐竜」(山野 浩一)、「ここに恐竜あり」(筒井 康隆)、「恐竜と道化」(井辻 朱美)
オススメ度:☆☆
2003.6.4
月の物語 (ホラー:アンソロジー)
(井上 雅彦:編 / 廣済堂文庫 1999)
テーマ別書下ろしホラーアンソロジー『異形コレクション』の第8弾です。
今回のテーマは、タイトルからおわかりの通り、月。
古来、月は神秘的な天体として、夜の世界を支配してきました。月の力は人間に狂気をもたらすと主張する「月の魔力」(A・L・リーバー)は、データ的にまったく信用はできないですけれども、やはりホラーやファンタジーの盛り上げ役としての価値は高いですよね。ジェームズ・ハーバートの(その名もずばり)「ムーン」とか。
本書でも、月にまつわるネタは、ほとんど網羅されています。狼男、かぐや姫、アポロの月面着陸、月の石、月の女神、月光・・・。ひとつくらいセーラームーンネタがあるんじゃないかと思っていましたが、ありませんでした(でもあれも大元のネタはかぐや姫ですよね)。
狼男ネタかと思わせてのどんでん返しが鮮やかな「月見れば――」(草上 仁)、まさかのオチに感激して爆笑してしまった「シズカの海」(北野 勇作)、ハードSFとダークファンタジーの融合が見事な「月の上の小さな魔女」(青山 智樹)、女性ならではの視点が光る「シャクティ<女性力>」(大原 まり子)などがお勧め。
<収録作品と作者>「月光荘」(安土 萌)、「プレイルーム」(倉阪 鬼一郎)、「死んでもごめん」(若竹 七海)、「銀の潮満ちて……」(松尾 未来)、「月見れば――」(草上 仁)、「月盈ちる夜を」(篠田 真由美)、「ぶれた月」(岬 兄悟)、「Killing MOON」(ヒロモト 森一)、「月の上の小さな魔女」(青山 智樹)、「地球食」(堀 晃)、「六人目の貴公子」(梶尾 真治)、「落葉樹」(横田 順彌)、「月夢」(岡本 賢一)、「シズカの海」(北野 勇作)、「蜜月の法」(牧野 修)、「月光よ」(眉村 卓)、「穴」(高橋 葉介)、「飛鏡の蠱」(朝松 健)、「月はオレンジ色」(霜島 ケイ)、「影女」(南條 竹則)、「シャクティ<女性力>」(大原 まり子)、「掬月」(竹河 聖)、「石の碑文―「Kwaidan」拾遺―」(加門 七海)、「欠損」(菊地 秀行)、「知らないアラベスク」(井上 雅彦)
オススメ度:☆☆☆
2003.6.19
サイコ (ホラー:アンソロジー)
(ロバート・ブロック:編 / 祥伝社文庫 1998)
これは、“サイコ・ホラー”を集めたアンソロジーです。
すべての元となったあの「サイコ」(でも未読です(^^;)の作者、ロバート・ブロックが編者をしています。ただ、途中で逝去されたために、序文も書かれないままでした。
ただね、収録作品をながめ渡してみると、「本当にブロックが編纂したのか?」という疑問が湧いてくるのも事実。まさに玉石混交で、光る作品もあるけど箸にも棒にもかからぬ駄作もあります。
現在、日本でも“サイコ・ホラー”と銘打たれた作品が量産されています。ちょっと猟奇的なミステリから、キ●ガイが出てくるだけの小説まで、み〜んな“サイコ・ホラー”。“サイコ”と名付けりゃ売れると思ってるみたいで(いや実際、売れているんでしょうけど)、なんかいやだなあと感じるのは、自分の天邪鬼な性格のせいでしょうか(笑)。
やっぱりホラーの王道は、スーパーナチュラルな要素だと思うんです(主張)。
だから、その意味では、このアンソロジーの中ではちょっと異色な「敷物」(E・V・ベルコム)とか「交点」(D・カンシラ)、「生命線」(I・ナヴァロ)などが好み。御大キングの「第四解剖室」もサスペンスの盛り上げ方がさすがです。
あと、トリを務めた「生存者」(G・A・ブラウンベック)は、凄惨な題材を扱いながらも叙情あふれる内容で、救われた気分になりました。
<収録作品と作者>「第四解剖室」(スティーヴン・キング)、「とり憑かれて」(チャールズ・グラント)、「闇に潜む狂気」(エド・ゴーマン)、「助けてくれ」(リチャード・クリスチャン・マシスン)、「大きな悪、小さな悪」(デニース・M・ブラックマン)、「交点」(ドミニク・カンシラ)、「医師と弁護士とフットボールの英雄」(ブレント・モナハン)、「祖父の記念品」(ローレンス・ワット=エヴァンズ)、「誘惑」(エスター・M・フリーズナー)、「死体に火をつけて」(デル・ストーン・ジュニア)、「残響」(シンディ・ゲッデズ)、「生命線」(イヴォンヌ・ナヴァロ)、「非難の余地なし」(デイヴィッド・ニール・ウィルソン)、「地の底」(クラーク・ペリー)、「死体屋」(リチャード・パークス)、「じゃあ、きみは殺し屋になりたいんだね」(ゲイリー・ジョウナス)、「敷物」(エド・ヴァン・ベルコム)、「サイコ・インタビュー」(ビリー・スー・モウザーマン)、「氷壁」(ウィリアム・D・ギャグリアーニ)、「南部の夜」(ジェイン・ヨーレン)、「許されし者」(スティーヴン・M・レイニー)、「生存者」(ゲイリー・A・ブラウンベック)
オススメ度:☆☆
2003.6.22