さまよえるミュータント (SF)
(クルト・マール&ハンス・クナイフェル / ハヤカワ文庫SF 2003)
お久しぶりの、ペリー・ローダン・シリーズ最新巻(291巻です)。
6月は(それと2月も)本シリーズの刊行がない月なので、ふた月待つのはけっこう長いです。翻訳スタッフさんを増強して、年刊12冊ペースにしません?(←誰に言ってる?)
今回は、タイトル通りのお話です。
ついに正体が明かされた謎の“苦悶の声”。かれらは古代レムール人が開発した“ホムンクルス”を奪っておのれの肉体としましたが、その肉体は崩壊を始めてしまいます。でもかれらは地球上で逃亡を続け、ローダンたちがそれを追うという展開。
それとは別に、今回、“大群”サイクルを通じて活躍したサンダル・トークが舞台を去ります。本シリーズには珍しく、ハッピーエンドとも思える消え方。復活はあるのか?
<収録作品と作者>「さまよえるミュータント」(クルト・マール)、「ミュータントを追う者」(ハンス・クナイフェル)
オススメ度:☆☆☆
2003.7.11
ノストラダムス秘録 (ホラー:アンソロジー)
(C・スターノウ&M・H・グリーンバーグ:編 / 扶桑社ミステリー 1999)
これも、1999年の世紀末に便乗して発売された本です。
ノストラダムスの四行詩、11編にちなんで書かれたという11編の物語。
紹介文にいわく、「ホラー界の最前線に立つ作家たちが、想像力の限りを尽くして」書いたそうなのですが、実際に読んでみると、こう思わざるを得ません。最近のホラー作家はこの程度の貧弱な想像力しか持ち合わせてないんですか?
まず、ホラーと言いながら、怖い話がひとつもありません。どこかで見たようなネタが多いし、何が言いたいのかわからない作品さえあります。だいたい、ノストラダムスの予言詩とちゃんとリンクして書かれているのは2編のみ。それなりに面白かったのは、「問題児」、「STOP−NOS」、「黙示録の四行詩」くらいでしょうか。
「トンデモ大予言の後始末」の中で、山本弘さんが「どれも想像力に乏しく、驚きようがない」と評しておられましたが、まったく同感です。
<収録作品と作者>「四行詩第一番・サラの書」(カレン・ヘイバー)、「哲学者たち」(ハミルトン)、「問題児」(ジャック・ニマーシャイム&ラルフ・ロバーツ)、「STOP−NOS」(ティナ・L・ジェンズ)、「禁じられた艦隊の最期」(ナンシー・ホールダー)、「エジプトのバックアイ・ジム」(モート・キャッスル)、「二十年後、セパレーション・ピークで」(クリスティン・キャスリン・ラッシュ)、「平和行動」(ニーナ・キリキ・ホフマン)、「暗黒の炎」(ロランス・グリーンバーグ)、「通りで子どもが遊ぶとき」(ディーン・ウェズリー・スミス)、「黙示録の四行詩」(ロバート・ワインバーグ)
オススメ度:☆☆
2003.8.7
ヴァンパイア・コレクション (ホラー:アンソロジー)
(ピーター・ヘイニング:編 / 角川文庫 1999)
実は、あまり期待しないで読んだのですよ。ほら、K川だし(笑)。
う〜む、出版社で先入観を持ってはいけませんな。でも過去の体験が・・・。
よく見たら、編者のピーター・ヘイニングって、「世界霊界伝承事典」の著者じゃないですか。これなら期待できるかも〜。
結果。なかなか興味深いアンソロジーでした(表現が微妙だな)。
古今の吸血鬼小説を渉猟し、古典的価値のある“ドラキュラ”以前の作品から始めて、映画のノヴェライゼーション、現代作家によるヴァリエーションと、ユニークかつバラエティに富んだ作品集に仕上げています。
特に、第1部の“ドラキュラ”以前の吸血鬼小説は、初めて知ったものばかりで、ストーリーそのものは古色蒼然としたものばかりですが、楽しく読めました。
また第2部では、DQに出てきた魔物“バーナバス”の名の由来を始めて知ることができ、勉強になりました(笑)。
吸血鬼が好きな人は(どんな人や)要チェックかと。
蛇足ですが、吸血鬼テーマの長編作品で個人的にお勧めなのを挙げれば、ジョージ・R・R・マーティンの「フィーヴァードリーム」(創元推理文庫)、ロバート・R・マキャモンの「奴らは渇いている」(扶桑社ミステリー)、キム・ニューマンの「ドラキュラ紀元」(創元推理文庫)でしょうか。
<収録作品と作者>「プレリュード――ドラキュラ城の崩壊」(ブラム・ストーカー)、「骸骨伯爵―あるいは女吸血鬼―」(エリザベス・グレイ)、「吸血鬼の物語」(ジェームズ・マルコム・ライマー)、「蒼白の貴婦人」(アレクサンドル・デュマ&ポール・ボカージ)、「白い肩の女」(ジュリアン・ホーソーン)、「ソーホールの土地のグレッティル」(フランク・ノリス)、「血の呪物」(モーリー・ロバーツ)、「島の花嫁」(ジェイムズ・ロビンソン・プランシェ)、「夜の悪魔」(ピーター・トリメイン)、「兇人ドラキュラ」(ジミー・サンスター)、「ダーク・シャドウズ」(マリリン・ロス)、「新・死霊伝説」(スティーヴン・キング)、「インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア」(アン・ライス)、「ヴラド伯父さん」(クライヴ・シンクレア)、「ドラキュラ伯爵」(ウディ・アレン)、「十月の西」(レイ・ブラッドベリ)、「闇の間近で」(シオドア・スタージョン)、「デイ・ブラッド」(ロジャー・ゼラズニイ)、「死にたい」(ウィリアム・F・ノーラン)、「読者よ、わたしは彼を埋めた!」(ベイジル・コッパー)、「出血者」(リチャード・レイモン)、「ドラキュラ――真実の物語」(ジャック・シャーキー)
オススメ度:☆☆☆
2003.8.13
グランドホテル (ホラー:アンソロジー)
(井上 雅彦:編 / 廣済堂文庫 1999)
テーマ別ホラー・アンソロジー『異形コレクション』の第9弾。
今回は画期的です。単なるアンソロジーにとどまらず、野心的な企画を決行しています。
それは、“モザイクノベル”。海外のものでは創元推理文庫から出ている“ワイルドカード”シリーズがありますが(そういえば、続刊出ませんね)、つまり、ひとつの共通した背景に基づいて、複数の作家が短編を書くというものです。もちろん、各作品は独立したものですが、微妙に登場人物がからんでいたり、ある作品で語られた事件が他の作品にも影響を及ぼしていたり・・・と、全体がまとまってひとつの作品としてとらえることもできるというものです。
で、今回の共通の背景はグランドホテル。都会からさほど離れていない高原のリゾート地に建設された古めかしい5階建てのホテルの、しかもヴァレンタインデーの特別な夜が舞台です。ヴァレンタインデーにこのホテルに泊まると幸せになれるという噂がある一方、様々な怪異に遭遇するという話もあります。
様々な職業、様々な人生、様々な想いを抱えた人々が、このホテルで何を体験するのか・・・。23編の物語が待っています。
中でも、グロテスクさでは一番の「新鮮なニグ・ジュギペ・グァのソテー。キウイソース掛け」(田中啓文)、甘酸っぱいテイストの正統派幽霊譚「ヴァレンタイン・ミュージック」(難波弘之)、美しき怪物ホラー「貴賓室の婦人」(竹河聖)などがお勧め。
<収録作品と作者>「ぶつかった女」(新津 きよみ)、「探偵と怪人のいるホテル」(芦辺 拓)、「三階特別室」(篠田 真由美)、「鳥の囁く夜」(奥田 哲也)、「To・o・ru」(五代 ゆう)、「逃げようとして」(山田 正紀)、「深夜の食欲」(恩田 陸)、「チェンジング・パートナー」(森 真沙子)、「Strangers」(村山 潤一)、「厭な扉」(京極 夏彦)、「新鮮なニグ・ジュギペ・グァのソテー。キウイソース掛け」(田中 啓文)、「ヴァレンタイン・ミュージック」(難波 弘之)、「冬の織姫」(田中 文雄)、「雪夫人」(倉阪 鬼一郎)、「一目惚れ」(飯野 文彦)、「シンデレラのチーズ」(斎藤 肇)、「うらホテル」(本間 祐)、「運命の花」(榊原 史保美)、「螺旋階段」(北野 勇作)、「貴賓室の婦人」(竹河 聖)、「水牛群」(津原 泰水)、「指ごこち」(菊地 秀行)、「チェックアウト」(井上 雅彦)
オススメ度:☆☆☆☆
2003.8.21
マッド・サイエンティスト (SF・怪奇:アンソロジー)
(スチュアート・D・シフ:編 / 創元SF文庫 1997)
タイトル通り、キ●●イ科学者を主人公とした作品を集めたアンソロジーです。
1982年に邦訳が出たものの復刊。ありがとう創元さん。
マッド・サイエンティストとして最初に思い浮かべるのはフランケンシュタイン博士にドクター・モローといったところでしょうか。
マッド・サイエンティストというとSFというイメージがあるような気がしますが、実はこのアンソロジー、どちらかというとSFよりも怪奇小説(ホラーほど現代的ではない)が多く集められています。ラヴクラフトとかF・B・ロングとか、懐かしのウィアード・テイルズものも。
正統派の作品が多い中、いちばん面白かったのは、“孤島で謎の研究をする科学者”というドクター・モローもかくやというステロタイプな設定をとりながら、見事にばかばかしい(でも説得力がある)オチに持っていくロバート・ブロックの「ノーク博士の謎の島」でしょうか。
ところで、本編には関係ないですけど、マッド・サイエンティストと言えば、横田順彌さんの作品に出てくるマッド・サイエンティスト(名前忘れた)の勤務先が松戸菜園テスト研究所というのはヒットでした(笑)。
<収録作品と作者>「サルドニクス」(レイ・ラッセル)、「自分を探して」(ラムジー・キャンベル)、「エリート」(カール・エドワード・ワグナー)、「スティルクロフト街の家」(ジョゼフ・ペイン・ブレナン)、「ノーク博士の謎の島」(ロバート・ブロック)、「あるインタビュー」(リチャード・クリスチャン・マシスン)、「粘土」(C・ホール・トンプソン)、「冷気」(H・P・ラヴクラフト)、「ビッグ・ゲーム・ハント」(アーサー・C・クラーク)、「ハルドンヒル博士の英雄的行為」(ヴィリエ・ド・リラダン)、「シルヴェスターの復讐」(ヴァンス・アーンダール)、「箱」(リー・ワインシュタイン)、「アーニス博士の手記」(ゲイアン・ウィルスン)、「ティンダロスの猟犬」(フランク・ベルナップ・ロング)、「最後の一線」(デニス・エチスン)、「庭の窪みで」(デーヴィッド・キャンプトン)、「サルサパリラのにおい」(レイ・ブラッドベリ)
オススメ度:☆☆☆
2003.8.27
星ぼしの荒野から (SF)
(ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア / ハヤカワ文庫SF 1999)
SFらしいSFを書かせたら人後に落ちないティプトリーJR.の第4短編集(邦訳の出版順では5番目ですが)。
今回は、星への憧憬、異星人と地球人とのコンタクト、意外な方法で行われる地球侵略、遠未来の風景など、月並みな表現ですがセンス・オブ・ワンダーの原点とも言える珠玉の短編が揃っています。もちろん彼女(ティプトリーは女性作家です)独特のひねりが加えられていますが。
全10編の秀作の中でも、タイトルにもなっている「星ぼしの荒野から」や、不思議な叙情をたたえた「時分割の天使」、モダンホラーとしても読める「ラセンウジバエ解決法」などがお勧めでしょうか。
<収録作品>「ビーバーの涙」、「おお、わが姉妹よ、光満つるその顔よ!」、「ラセンウジバエ解決法」、「時分割の天使」、「われら<夢>を盗みし者」、「スロー・ミュージック」、「汚れなき戯れ」、「星ぼしの荒野から」、「たおやかなる狂える手に」
オススメ度:☆☆☆☆
2003.8.30