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イクシーの書庫・過去ログ(2003年7月〜8月)

<オススメ度>の解説
 ※あくまで○にの主観に基づいたものです。
☆☆☆☆☆:絶対のお勧め品。必読!!☆☆:お金と時間に余裕があれば
☆☆☆☆:読んで損はありません:読むのはお金と時間のムダです
☆☆☆:まあまあの水準作:問題外(怒)


真犯人 (ミステリ)
(パトリシア・コーンウェル / 講談社文庫 1998)

女性検屍官ケイ・スカーペッタが主人公のシリーズ第4弾。
この人のシリーズ、第1作の「検屍官」以降、2作3作と経るにつれて、読者サービスを意識しすぎるあまり、無理なプロットと強引なストーリー展開が目立ち、自分としては評価が下がっていたのですが、今回で回復。
物語の中では第1作から7年が経ち、当時10歳の天才少女だったルーシーがアメリカンなハイティーンになってしまったのは残念ですが(でもコンピュータの天才だということに変わりはなく、大活躍してくれます)、冒頭で、シリーズを通じての重要人物が事件に巻き込まれて亡くなっていたことが判明したり、マンネリを避けようと努力しているのがうかがえます。
かつての猟奇殺人犯が死刑を執行されます。しかし、その後に発生した同じ手口の殺人現場から、その死刑囚の指紋が発見されるのです。
ここまで読んで、ふと同じようなプロットのホラーを読んだことがあるのを思い出しました。ジョン・ソールの「魔性の殺意」。でも、コーンウェルがスーパーナチュラルな要素を織り込むわけがないから、どう合理的に解決されるかが焦点となります。
例によってケイは政治的に窮地に追い込まれますが、おなじみのメンバーの手助けで大逆転するのは、ワンパターンとはいえ燃える展開です。でもフーダニットのミステリとして読んだ場合は失望を味わうことになりますので、ご留意ください。

オススメ度:☆☆☆☆

2003.7.1


ドラキュラ戦記 (ホラー)
(キム・ニューマン / 創元推理文庫 1998)

あらゆる吸血鬼ネタ、ホラーネタをぶち込んだごった煮エンタテインメント小説「ドラキュラ紀元」の続編です。
前作では、ヴィクトリア女王と結婚したドラキュラ伯爵に支配された英国を舞台に切り裂きジャック事件をからませ、実在の人物と古今の小説・映画の登場人物を縦横に織り交ぜて世紀末模様を見事に描き出したニューマン。今回は、英国を追放されたドラキュラがドイツ皇帝に取り入り、ドイツ軍最高司令官としてヨーロッパ中を戦火に巻き込む第一次世界大戦物語です。
生身の人間と吸血鬼が共存する社会。前回から数十年の時が流れ、生身の人間はそれなりに年をとっていますが、吸血鬼の方はそのままの姿で登場してきます。前作の主人公チャールズ・ボウルガードは生身の人間ですので、もう60を越えていますが、英国情報部の幹部として健在。その部下の青年将校ウィンスロップが今回の主人公のひとりで、ドイツ空軍の撃墜王リヒトホーフェン(彼は吸血鬼)と戦うことになります。もうひとりの主人公は、なんとエドガー・アラン・ポオ。彼も吸血鬼となっていますが、故郷アメリカを追われ、ドイツ側に拾われて、ある任務を与えられます。
前回のヒロイン、400歳を越える可憐な美少女吸血鬼ジュヌヴィエーヴは名前だけの登場で(残念!)、特に戦記ものという性格上、女性の登場は少ないのですが、その中でヒロインの役を与えられているのは、前回も登場したジャーナリストのケイト・リード。度の強い眼鏡をかけた冴えない女性ですが、知性と批評精神は筋金入りというジャーナリストにして吸血鬼。戦場で出会ったウィンスロップと運命が交錯していきます。
例によって、ちょっとした脇役にまで細やかな遊び心が散りばめられていて、思わずにやりとさせられる場面の連続。マニア度は前作を上回っているのではと思います。ドクター・モローの助手をハーバート・ウェスト(ラヴクラフトの小説の主人公)がやっていたり、リヒトホーフェンの従者をしているのがフリッツ・ハールマンとペーター・キュルテン(どちらも、その猟奇的な手口から“吸血鬼”の異名をとった実在の連続殺人鬼)だったり。戦争映画や戦争ドラマの知識があれば、もっと楽しめたのでしょうけれど。残念。
このシリーズ、さらに3作目(「ドラキュラ崩御」)が出ています。

オススメ度:☆☆☆☆

2003.7.4


聖竜戦記3 ―異能者の都― (ファンタジー)
(ロバート・ジョーダン / ハヤカワ文庫FT 1998)

大河ファンタジー『時の車輪』の第2シリーズ、“聖竜戦記”の第3巻です。
前巻のラストで、異世界に放り込まれた主人公アル=ソアは謎の美女セリーンと出会い、魔物の群れに襲われたわけですが、その危機からはあっさり逃れます。で、元の世界に帰って来たアル=ソア一行は、これも前巻で闇の信徒に盗まれていた“英雄蘇生の角笛”を奪回します。
一方、異能者の都タール・ヴァロンに連れて行かれたエグウェーンとナイニーヴは、そこで異能者になるべく訓練を受け始めます。ナイニーヴが受ける試練のいやらしさ(変な意味じゃありませんよ)は群を抜いています。
そして、ラストでアル=ソアはある人物と再会するわけですが、また厄介事に巻き込まれたようです。待て次巻

オススメ度:☆☆☆

2003.7.5


時の潮 (ヒロイック・ファンタジー)
(栗本 薫 / ハヤカワ文庫JA 1999)

グイン・サーガの63巻です。
今回は、がらりと変わります。いえ、ストーリーはそれほど大きく動くわけではないのですが(そうでもないか)、作風というか、画風というか。
今回、本シリーズには珍しい恋愛ドラマです。断言しちゃいます。それも、コバルトシリーズじゃなくてハーレクインロマンス(ちょっと違うか)。
主役は久々登場のリギアさん。そして相方はこれまた更にお久しぶりの(「パロのワルツ」以来ですか?)スカールさん。
ナリスの密命を帯びて草原地帯(これも久しぶり!)に赴くリギアの心の葛藤と、解放が細やかな筆致で描かれていて、見事です。
スカールさんの病気を治してくれたという人物ですが、あの人だろうな、それとも、名前だけでまだ出てきていないあの人か・・・とか思っていたのですが、あっさり裏切られました。またアイツか(笑)。
ところで、スカールさんが味方になるとすると、もう一方の味方の彼は、実はスカールさんにとっては愛妻の仇なわけで・・・。どうなる、この三角関係(?)!
ラストでは、ついにイシュトヴァーンが(以下自粛)

オススメ度:☆☆☆☆

2003.7.6


逆説の日本史4 中世鳴動編 (歴史ノンフィクション)
(井沢 元彦 / 小学館文庫 1999)

シリーズ第4巻です。今回は平安時代がテーマ。
藤原摂関政治のからくりと院政への移行、そして平安末期の武士階級の台頭について、従来の歴史教育が教えてくれなかった新事実がてんこ盛り。
毎回そうなのですが、一読、目からウロコがぽろぽろと落ちまくります。
なるほど〜、平安時代という名前にも、深い意味があったんだ。
特に第6章「武士はなぜ生まれたのか編」は、現在の有事法制論議と合せて読むと、非常に興味深く、納得させられます。
あえて不満を言えば、ひとつひとつのテーマをもっと掘り下げて詳しく語ってほしかったというところでしょうか。

オススメ度:☆☆☆☆

2003.7.8


造物主の選択 (SF)
(ジェイムズ・P・ホーガン / 創元SF文庫 1999)

「造物主の掟」の続編です。
・・・とは言っても、「造物主の掟」って何? という声もあるでしょう。たしか邦訳が出たのは80年代だったと思いますので、たぶん15年以上前(汗)。
ホーガンお得意のハードSFですが、土星の衛星タイタンに向かった人類の探検隊が、機械知性体の文明に出会うというファースト・コンタクトをテーマとした作品だったと記憶しています。太古の昔に太陽系に飛来した、自己修復・増殖機能を持ったロボットたちがタイタンの地表に展開した珍妙な文明は、ちょうど地球のルネッサンス期に比肩されるものでした。
続編の本作では、そのタイタン文明の担い手たち(ギリシャ神話の鋼鉄人間の名をもじって“タロイド”と呼ばれています)を送り出した異星人の謎を解くお話。非常に現代的な(?)ファースト・コンタクトが描かれます。でも、前作に比べると、場面があっちこっちに飛ぶし、タロイドたちの描き込みが足りない気がして、ちょっと物足りない感じもします。ユーモア感覚は抜群で、面白いですけど。
できれば、本作に取り掛かる前に、前作を先にお読みになるのがよいかと。

オススメ度:☆☆☆☆

2003.7.10


さまよえるミュータント (SF)
(クルト・マール&ハンス・クナイフェル / ハヤカワ文庫SF 2003)

お久しぶりの、ペリー・ローダン・シリーズ最新巻(291巻です)。
6月は(それと2月も)本シリーズの刊行がない月なので、ふた月待つのはけっこう長いです。翻訳スタッフさんを増強して、年刊12冊ペースにしません?(←誰に言ってる?)
今回は、タイトル通りのお話です。
ついに正体が明かされた謎の“苦悶の声”。かれらは古代レムール人が開発した“ホムンクルス”を奪っておのれの肉体としましたが、その肉体は崩壊を始めてしまいます。でもかれらは地球上で逃亡を続け、ローダンたちがそれを追うという展開。
それとは別に、今回、“大群”サイクルを通じて活躍したサンダル・トークが舞台を去ります。本シリーズには珍しく、ハッピーエンドとも思える消え方。復活はあるのか?

<収録作品と作者>「さまよえるミュータント」(クルト・マール)、「ミュータントを追う者」(ハンス・クナイフェル)

オススメ度:☆☆☆

2003.7.11


フリーダムズ・ランディング ―到着― (SF)
(アン・マキャフリイ / ハヤカワ文庫SF 1998)

きゃああっ!
マキャフリイの新シリーズです!(とはいえ出たのは98年。4年半前やん(^^;)
突然、襲ってきた異星人キャテン人にとらわれた多くの地球人たちは、わずかな食料と装備のみで未開の惑星に放り出されます。他にも同じように捕えられた何種族かの異星種族(一応、すべて酸素呼吸生物なのですな)も送り込まれていました。こうして惑星開拓をするのがキャテン人のやり口なのです。
主人公の女子大生クリスは、マキャフリイ作品でおなじみのタイプのヒロイン。身長178センチ(で、でかい)でサバイバル技術を持ち、前向きな性格。彼女は、別の惑星で脱走していたのですが、仲間に殺されそうになっていたキャテン人ザイナルを助けたことがもとで、彼と共に未開惑星に送り出されました。
グループをまとめるのは、海兵隊の古参軍曹ミトフォード。この人がまた、まさに絵に描いたようなこわもてリーダーで、とてもかっこいいです。
副題に「到着」とあるように、物語はかれらが未開惑星で秩序ある共同体を作り上げ、惑星に潜む謎に挑戦していく様を描きます。“ボタニー”と名付けられた惑星には、キャテン人も知らなかった謎が隠されていました。ラストでは、今後の展開に大きな影響を及ぼす事件が起こり、第2作へ続きます。
マキャフリイ作品の中では、『恐竜惑星』シリーズにいちばん近いでしょうか。地味ですが、冒険SFの勘所を押さえていて、さすがという出来です。
すでに、邦訳は三部作すべて出揃っています(
「フリーダムズ・チョイス」「フリーダムズ・チャレンジ」)。

オススメ度:☆☆☆☆

2003.7.14


連合艦隊 大奮闘 (シミュレーション戦記)
(田中 光二 / 光文社文庫 1998)

「新・太平洋戦記」の第5巻です。
前巻の続きで、ガダルカナル島攻防戦。戦力の逐次投入という愚策を反省した陸軍は、今度は海軍と共同して、師団規模の兵員と砲を揚陸し、機会を伺います。一方、アメリカ側は日本の潜水艦隊を中心とする通商破壊戦のあおりをくって、弾薬が欠乏してきます。
う〜む、このあたり、かなり日本びいきの書き方ですが。まあいいか。
陸戦が中心のストーリーですが、戦史で言う「南太平洋海戦」も起こります。戦闘規模はかなり史実と違いますが、結果はほぼ史実通り。米艦隊は空母ホーネットを失い、日本側は熟練のパイロットの損失が大きいという、ほぼ引き分けに。
どうやら、ガ島攻防戦は、日本側に有利に傾きそうですが、続きは次巻にて。

オススメ度:☆☆

2003.7.15


連合艦隊 大攻略 (シミュレーション戦記)
(田中 光二 / 光文社文庫 1999)

昨日の続きです。「新・太平洋戦記」の第6巻。
いよいよ物語は史実を離れ、とうとうガダルカナル島は日本が占領しました。――うそだぁ!
いや、まあフィクションですから。
日本は更に、一度は断念したポートモレスビー攻略作戦を開始します。
しかし、米軍は新造空母エセックス級や新型戦闘機F6Fを投入し、新たな爆撃法を編み出して挑んできます。
第2次サンゴ海海戦が、今、始まる・・・!
ということで
次巻

オススメ度:☆☆

2003.7.16


覚醒するアダム (ホラー)
(デヴィッド・アンブローズ / 角川文庫 1998)

あまり期待しないで読んだのですが。
(なんせ、読む順番が回って来て手に取った時に思ったのは、「こんなの買ったっけ・・・」でした(^^;)
主人公ジョアンナは、気鋭の女性ジャーナリスト。インチキ降霊術を暴いたことがきっかけで出演したテレビ番組で、心理学者サムと出会います。サムは大学で超常現象を研究しており、1グループの人間の想念から“幽霊”を創り出す実験をしようとしていました。サムに対する興味も手伝って実験に参加したジョアンナ。実験グループは「アダム・ワイアット」という架空の人格を設定して、その人格と交信しようと試みます。実験を繰り返すにつれ、ラップ音やテーブルターニングなどの現象が現れ、実験は成功したかに思われました。ところが、「アダム」は次第に設定にはなかった邪悪な性質を現し始め、メンバーは実験を中止しようとします。しかし、メンバーはひとり、またひとりと不可解な死を遂げ、事態は思わぬ展開を迎えることに・・・。
単なる心霊ホラーに終わらず、量子論をからめた先が読めない展開に持っていく筆の運びが見事で、ついつい読むのをやめられなくなってしまいます。登場人物たちは、ついにシュレディンガーの猫と化してしまうのです。

オススメ度:☆☆☆☆

2003.7.17


スタープレックス (SF)
(ロバート・J・ソウヤー / ハヤカワ文庫SF 1999)

ソウヤー作品、初読みです。これまで、なんとなくお堅いハードSFというイメージ(勝手な思い込みに過ぎなかったのですが)で、食わず嫌いだったのです。
で、激しく後悔(汗)。
とにかく面白い!!
外宇宙探査船「スタープレックス号」は、惑星連邦を構成する4つの知性種族が乗り組む巨大宇宙船です。人類とイルカ、ブタとケンタウロスの相の子のようなウォルダフード族(ニーヴン描くクジン族か、スタートレックのクリンゴン族のイメージ)、集合生物のイブ族(イメージからいくとレンズマンシリーズのリゲル人か、クラスターシリーズのポラリス人みたいなものですか。ちょっと違うか)。
で、銀河宇宙には、誰が設置したともわからない“ショートカット・ネットワーク”と呼ばれる超空間ジャンプの仕組みが張り巡らされており、4種族はそれを通じてコンタクトをとり、宇宙旅行を行っています。新たなショートカット・ポイントが発見されるたびにそこへ乗り込んで調査するのがスタープレックス号の使命。かれらの行く手に待ち受ける様々な宇宙の謎は、ダークマターだったり、未来から送り込まれる恒星だったり、惑星規模の知性体だったり、宇宙創生の謎だったり・・・。ソウヤーは、いともあっさりとこのような謎を簡潔明快に解いてくださいます。G・ベンフォードやS・バクスターのような最先端の小難しい科学解説もあまりなく、素人にもわかりやすく、説得力を持って。
中でも楽しいのは、これでもかとてんこ盛りにされたSFアイディア、ガジェットの数々。過去のいろいろなSF作品とのイメージの繋がりを探すのも面白いです。
例えば、科学者が乗り組む巨大宇宙船という点では「宇宙船ビーグル号」(ヴォークト)ですが、乗り組むメンバーのキャラクターからすると、まんま「スター・トレック」。人類とイルカの共存は「スタータイド・ライジング」(D・ブリン)、宇宙にまたがる超光速ネットワークは「ゲイトウェイ」(F・ポール)や「アーヴァタール」(P・アンダースン)。惑星規模の知性体という点では「スター・チャイルド」(ポール&ウィリアムスン)や「鞭打たれる星」(F・ハーバート)・・・等々。
戦闘シーンなどもありますが、基本的にほのぼのとユーモラスで、ハッピーエンド。安心して読めます。
さて、他の作品も買ってこなくちゃ。

オススメ度:☆☆☆☆☆

2003.7.19


ボマルツォの怪物 (幻想)
(A・ピエール・ド・マンディアルグ / 河出文庫 1999)

タイトルに惹かれて、著者がどんな人かも知らずに買った本です。
「怪物ホラーか?」と即断して買いましたが、中身は全然違いました(汗)。
そもそもタイトルになっている“怪物”とは、イタリア中部の辺鄙な土地ボマルツォに遺された、16世紀のもの思われるグロテスクな巨石彫刻群のことです。今年の春頃、フジテレビ系の番組でも取り上げられて放送されてましたね。
で、それを紹介し、由来に思いをめぐらせるエッセイ風の作品。
他にも、いくつかの評論・小説が収録されています。翻訳は澁澤龍彦さん。いかにも澁澤さん好みの作品だと思います。

<収録作品>「ボマルツォの怪物」、「黒いエロス」、「ジュリエット」、「異物」、「海の百合」、「イギリス人」

オススメ度:☆☆

2003.7.20


ゴーラの僭王 (ヒロイック・ファンタジー)
(栗本 薫 / ハヤカワ文庫JA 1999)

「グイン・サーガ」の64巻です。
それにしても、この「ゴーラの僭王」。あとがきで作者の栗本さんも書いておられましたが、とても感慨深いタイトルです。
シリーズのごくごく序盤で予告されていた“ゴーラの僭王イシュトヴァーン”。それが四半世紀の時を越えて(現実時間でね)、ついに実現したわけですから。
とうとうイシュトヴァーンの周囲にも、暗黒●●●連合が触手を伸ばしてきたようですし、突然トーラスから夫に会いに来たアムネリス大公(すっかり忘れてたけど、イシュトヴァーンとアムネリス、結婚してたんですね)は衝撃の知らせをもたらすし。
さて、ことがここまで至ると、次はあの国やあの国がどう出るかということですな。
あっちの赤ちゃんのことも気になりますが。

オススメ度:☆☆☆

2003.7.22


眠り姫、歓喜する魂 (エロチック・ファンタジー)
(アン・ライス / 扶桑社ミステリー 1999)

童話の“眠り姫”を下敷きにした官能SMファンタジー(え?)の第2巻です。
前巻で、お城に連れて来られて性奴として徹底的に調教された眠り姫。
ふと垣間見た同じ奴隷のトリスタン王子にひかれた眠り姫は、不服従の懲罰として“村”に送られる王子と一緒に行こうと、わざと逆らって“村”へ向かう馬車に放り込まれます。
“村”に送られた奴隷たち(とは言っても、故郷の国へ帰れば、みんな由緒ある王子様や王女様なのですが)は、競りにかけられて村人に買われていきます。そして、下賎の者である村人たちに、徹底的にいたぶられ、奉仕することになります。
今回は、トリスタン王子の視点で語られるストーリーが半分を占め、男女はもちろん、男対男、女対女の肉弾戦(笑)が繰り広げられます。
こういうのがお好きな人だけどうぞ。一応18禁の内容だと思います。

オススメ度:☆

2003.7.23


プラネットハザード(上・下) (SF)
(ジェイムズ・アラン・ガードナー / ハヤカワ文庫SF 1999)

今からふた昔ほど前、リチャード・エイヴァリーという作家が書いていた“エクスペンダブルズ”というSFシリーズがありました。
未知の惑星探索には危険がつきもの、ということで、そのような探査にはいわゆる“使い捨て”できる人材が求められました。それで結成されたのが、抜群の技術や能力を持っている重罪犯や政治犯を隊員とした“エクスペンダブルズ”(消耗部隊)です。かれらは、司令官ジェームズ・コンラッドの指揮の元、個性あふれるメンバーで未開拓惑星の謎に挑んでいく・・・という設定で、4作が出ましたが、いずれも異星冒険SFの勘所を押えた面白い物語に仕上がっていました。今は絶版ですが、古本屋で見かけたらゲットをお勧めします(邦題は「クレイトスの巨大生物」「タンタロスの輪」「ゼロスの戦争ゲーム」「アルゴスの有毒世界」。いずれも創元SF文庫)。
さて、ここまでは前置き(笑)。
今回ご紹介する「プラネットハザード」の原題が“EXPENDABLE”なのですよ。それで、思わず昔の“エクスペンダブルズ”を思い出してしまったわけです。
ところが、こちらの“使い捨て部隊”はかなり異色。「死んでも周囲に影響を与えない者は、醜い者だ」という理論(?)に基づき、不具者や畸形者、容姿醜悪な人々が選ばれるのです(もちろん能力があることが前提)。現代だったら間違いなく人権問題になるところですが、この世界ではそれが正当なのです。
主人公フェスティナは、顔の右半分に醜いあざがあるという理由で、惑星探査要員“消耗品扱いの要員”となっています。彼女が新たに赴くことを命ぜられた先は、これまで何十人もの隊員が消息を絶ってきたいわくつきの惑星メラクィンでした。この惑星は、なぜか環境や生態系が地球にそっくりという奇妙な星で、そこに降り立ったフェスティナは最初の危機を切り抜けた後、惑星の秘密を解くために冒険を繰り広げることになります。
とにかくテンポがよくて、キャラも立っていますし、ラストも味があります。
SF好きなら、要チェックかと。

オススメ度:☆☆☆☆

2003.7.24


レフトハンド (ホラー)
(中井 拓志 / 角川ホラー文庫 1999)

「手」がテーマとなった怪奇小説、ホラー小説は古来よりいろいろあります。
レ・ファニュの短編とか、モーパッサンのそのものずばり「手」とか、クライブ・バーカーの“血の本”の中にも手が勝手に暴れだして人を襲うという話がありました。
この「レフトハンド」も、そのような系譜に連なる破天荒ホラーです。
埼玉県にある製薬会社の研究所で、実験中のウイルスが漏洩します。ウイルスは「レフトハンド・ウイルス」と呼ばれ、感染した人間に恐るべき症状をもたらすものでした(あまりにとんでもなくて、思わず笑い出してしまったり)。
感染した研究主任は実験棟を乗っ取り、会社側を脅して研究を続行しようとします。そして、実験材料として、何も知らずに応募した男女が送り込まれ・・・。
でも、この作品、正統派ホラーではありません。
正義感に燃えて事態を収拾しようとする主人公もいなければ、追い詰められる可憐なヒロインもいません。一応、主人公格の科学者はいますが、自身の知識欲と名誉欲だけで事件にのめりこむだけですし、登場する女性は、虚言癖のあるくらあい家出娘と男に媚びることだけは得意なオールドミスの研究員だけ。他の男どもも、保身に走る中間管理職とか責任逃れしか考えない小役人とか、頭が空っぽな学生とか、そんなのばかり。感情移入できるキャラがひとりもいなくて、しかもこれだけ面白いというのは、やはり作者の手腕が並ではないことの証左かと思います。序盤の何気ないエピソードが後半に至ってすごい伏線として生きてきたり。

オススメ度:☆☆☆☆

2003.7.27


 (ホラー)
(T・J・マグレガー / 創元推理文庫 1999)

10年ほど前、トリス・ジューンシュッツという見慣れない作家の「霊能者狩り」(創元ノヴェルズ)という小説を読みました。霊能力が当たり前となっている世界で、霊能者が殺され、霊能力者と目される犯人を、霊能者の探偵が追う、という異色のミステリで、なかなか面白かったと記憶しています。
そのトリス・ジューンシュッツが実はT・J・マグレガーだという事実を知ったのは、つい最近です(T・J=トリス・ジューンシュッツというわけで)。
マグレガーは女流ミステリ作家として何作も邦訳されていますが、実は未読です。ただ、この「繭」はミステリではなく“エコロジカル・ホラー”と紹介されていたので、ためらわず買いました。
ジョージア州のとある町を、異常気象が襲いました。夏なのに、その地区だけ寒いという妙な気象。そんな中、ホテルのオーナーがマシンガンで客を集団殺戮し、自殺します。彼はそれまでの数週間、原因不明の湿疹に悩まされ、恋人の女医フェイとも別れていました。
急遽、町を訪れたオーナーの弟でフォトジャーナリストのスコットは、フェイと共に、事件の謎に挑んでいきます。謎の湿疹の患者は他にも多くいて、急に暴力的になったり、視覚や嗅覚が異常に鋭敏になったり、住民は様々な症状を訴えていました。また、付近の動植物にも異変は起き、政府や軍も動き始めます。
まさにモダンホラーの王道を行くような展開で、サスペンスも人間ドラマも十二分。しかも、いわゆる“よくあるお話”で終わらないところが立派。
考えさせられるラストも余韻を残します。

オススメ度:☆☆☆☆

2003.7.30


パニックY2K (ポリティカル・フィクション)
(ジェイソン・ケリー / 集英社文庫 1999)

Y2K・・・覚えてますか?
そう、コンピュータの「西暦2000年問題」のことです。古いコンピュータプログラムは西暦を下2桁だけで処理しているため、2000年になると誤作動を起こして大事件になるのではないか、と言われていました。
結局、関係者の努力で、ライフラインが断絶するだの銀行が破綻するだのということは起こらなかったわけですが。当日は会社に泊まりこんで新年を迎えたなあ(遠い目)。
で、この「パニックY2K」、2000年問題によって起こる世界的パニックを描いた小説、という触れ込みで売られていたものです。
たぶん、いまさら読んでも新鮮味も面白さもないんだろうな、と思って(だったらもっと早く読まんかい)読み始めたのですが・・・。イメージと大違い。
Y2Kは確かに作品の大きなテーマとなってはいますが、実体は優れた謀略小説。クランシーの
「日米開戦」「合衆国崩壊」に匹敵する・・・と言ってはほめすぎですが、十二分に楽しめる娯楽大作となっています。
惜しむらくは、この作品が「2000年問題」を前面に押し出して売り出されたことでしょう。1999年当時はそれがベストの戦略だったのでしょうが、その戦略の欠点は、旬を過ぎたら誰にも顧みてもらえなくなるということです。
もはや過去の作品だというイメージが強いですが、再評価されてもいい作品と思います。
今も古本屋の100円均一コーナーでよく見かけますが(ほんとにどこの古本屋に行っても何冊も置いてあるんです)、だまされたと思って買ってみてください。100円なら安いものです。

オススメ度:☆☆☆☆

2003.8.1


聖竜戦記4 ―大いなる勝負― (ファンタジー)
(ロバート・ジョーダン / ハヤカワ文庫FT 1999)

『時の車輪』の第2シリーズ「聖竜戦記」の第4巻です。
前巻でケーリエン国の首都ケーリエンにたどり着いた主人公アル=ソア。意外な人物との再会もあったりしてほっとしたのも束の間、ケーリエンの貴族社会にうごめく“大いなる勝負”という権謀術数うずまくゲームの渦中に巻き込まれていきます。
ようやく旧友たちと再会するも、その直前に肝心の宝を“闇の信徒”に奪われ、息つく暇もなく一行は奪われた宝を求め、西の岬へと旅立ちます。
一方、西の海の彼方からは、不気味なショーチャン人の軍勢がひたひたと侵略の手を伸ばしつつありました。
かれらがぶつかり合う時、何が起こるのでしょうか。以下次巻。
でも、すごく思わせぶりに書いてあった割には、“大いなる勝負”って、なんだかよくわからないうちに終わってしまいましたが(舞台が移動しただけで、終わってはいないのか)。
あと、今回は女性陣はほぼ出番なし(笑)。

オススメ度:☆☆☆

2003.8.3


ミクロの決死圏2 ―目的地は脳―(上・下) (SF)
(アイザック・アシモフ / ハヤカワ文庫SF 1999)

映画の「ミクロの決死圏」を見たのは小学生の頃、テレビででした。面白くて、夢中になって見ていた記憶があります。
その映画のノヴェライゼーションを書いたのがアシモフ。ただ未読です(汗)。
で、“2”の方を先に読んでしまうのはいかがなものかと思っていたのですが、どうやらこれは続編ではないようです。
「ミクロの決死圏」の方は、映画のシナリオに忠実に書けという制約があったようで、アシモフはそれを不満に思っていたようなのですね。それで、“2”を書く話があった時、好きなように書くという条件で承諾したそうです。そして、ほぼ同じ設定を使ってオリジナルストーリーを書き下ろしたのが本作。
たしかに、映画で疑問に思った科学的矛盾点(細胞よりも大きくなってしまうと白血球に襲われる、というのは免疫学的に変です。大きさに関係なく“異物”やん)を解決し、ミクロ化にも納得できる説明を与えています。
アメリカ人の神経科学者モリスンは、ソ連(!)のミクロ化研究プロジェクトのメンバーに接触を受け、誘拐同然の手段でソ連に連れて行かれ、人類初の体内探検に参加することになります。
この作品が書かれた1987にはまだソ連が存在していたわけで、アシモフの描く未来像も東西冷戦の名残が色濃く残る時代設定になっていますが、まあそれはそれとして。
あくまで科学的に、リアルに描かれているため、クライマックスに向けての盛り上がりに欠けるというきらいはありますが、ラストのどんでん返しはミステリ好きのアシモフならではというところでしょうか。独特のウィットに富んだ最後の1行も、にやりとさせられます。

オススメ度:☆☆☆

2003.8.6


ノストラダムス秘録 (ホラー:アンソロジー)
(C・スターノウ&M・H・グリーンバーグ:編 / 扶桑社ミステリー 1999)

これも、1999年の世紀末に便乗して発売された本です。
ノストラダムスの四行詩、11編にちなんで書かれたという11編の物語。
紹介文にいわく、「ホラー界の最前線に立つ作家たちが、想像力の限りを尽くして」書いたそうなのですが、実際に読んでみると、こう思わざるを得ません。最近のホラー作家はこの程度の貧弱な想像力しか持ち合わせてないんですか?
まず、ホラーと言いながら、怖い話がひとつもありません。どこかで見たようなネタが多いし、何が言いたいのかわからない作品さえあります。だいたい、ノストラダムスの予言詩とちゃんとリンクして書かれているのは2編のみ。それなりに面白かったのは、「問題児」、「STOP−NOS」、「黙示録の四行詩」くらいでしょうか。
「トンデモ大予言の後始末」の中で、山本弘さんが「どれも想像力に乏しく、驚きようがない」と評しておられましたが、まったく同感です。

<収録作品と作者>「四行詩第一番・サラの書」(カレン・ヘイバー)、「哲学者たち」(ハミルトン)、「問題児」(ジャック・ニマーシャイム&ラルフ・ロバーツ)、「STOP−NOS」(ティナ・L・ジェンズ)、「禁じられた艦隊の最期」(ナンシー・ホールダー)、「エジプトのバックアイ・ジム」(モート・キャッスル)、「二十年後、セパレーション・ピークで」(クリスティン・キャスリン・ラッシュ)、「平和行動」(ニーナ・キリキ・ホフマン)、「暗黒の炎」(ロランス・グリーンバーグ)、「通りで子どもが遊ぶとき」(ディーン・ウェズリー・スミス)、「黙示録の四行詩」(ロバート・ワインバーグ)

オススメ度:☆☆

2003.8.7


復讐の船 (SF)
(S・M・スターリング / 創元SF文庫 1999)

お気に入りの“歌う船”シリーズの第7弾です。
本作は、シリーズ第3作
「戦う都市」の直接の続編となっております。
「戦う都市」は、シェルパースンのシメオンが管理する宇宙ステーションに、宇宙海賊コルナー人に追われた惑星ベセルの住人が逃げ込んでくるところから始まります。あいにく宇宙ステーションは非武装。シメオンは、パートナーのシャンナやベセル人の若き指導者アモス、ハッキング能力に長けたみなしごの少女ジョートらと協力し、知恵の限りをつくしてコルナー人に立ち向かい、ついにステーションを守り通します。
それから10年。
成長して輸送船(頭脳船ではありません)のオーナー兼女船長となったジョートが主人公です。ベセルの指導者アモスが復讐に燃えるコルナー人に宇宙船ごと誘拐されます。コルナー人は記憶を破壊するウイルスを使って陰惨な復讐劇をなしとげようと目論んでいました。一方、ジョートは伝説のスパイと呼ばれるブロスに手駒として使われるうちに、窮地に追い込まれていきます。やむを得ず非合法すれすれの仕事を引き受けることになったのですが、その相手はなんと幼いジョートを借金のカタに売り払った実の叔父でした。
とにかく主人公がやむにやまれぬ事情から(一部は自業自得の面もありますが)、次々に困難なシチュエーションに追い込まれ、知恵とチームワークで危機を乗り越えていくさまは、L・M・ビジョルドの“マイルズ”シリーズを彷彿とさせます。つまり、冒険SFとして、それほど面白いってこと。
それにしても、本作以降、“歌う船”シリーズは出版されていないようです。とても残念です。続刊希望。

オススメ度:☆☆☆☆

2003.8.8


アラスの使命 (SF)
(ウィリアム・フォルツ&H・G・フランシス / ハヤカワ文庫SF 2003)

ペリー・ローダン・シリーズの292巻です。
前巻で正体が判明した謎のミュータントたち。かれらを救うために奔走するローダンたちですが、なかなか決め手は見つからず、移送した先の病院惑星タフンでも、敵勢力の攻撃を受けます。前半の話は、フォルツお得意のゲストキャラ主人公篇で、主人公は銀河医師族アラス人医師(タイトルの由来ですな)。シリーズ当初は悪役だったアラスが、人類の同盟者となるか葛藤する姿がうまく描かれています。フォルツの作風はあまり好みに合わないことが多いのですが、今回は好き。
もうひとり、ゲストキャラとしてケンジ・マツタニ氏が出てきたのにびっくり、にやり。
そして、ラストで出てきた謎の声は・・・アレですかね?

<収録作品と作者>「アラスの使命」(ウィリアム・フォルツ)、「ミュータントの計画」(H・G・フランシス)

オススメ度:☆☆☆

2003.8.9


ヴァンパイア・コレクション (ホラー:アンソロジー)
(ピーター・ヘイニング:編 / 角川文庫 1999)

実は、あまり期待しないで読んだのですよ。ほら、K川だし(笑)。
う〜む、出版社で先入観を持ってはいけませんな。でも過去の体験が・・・。
よく見たら、編者のピーター・ヘイニングって、「世界霊界伝承事典」の著者じゃないですか。これなら期待できるかも〜。
結果。なかなか興味深いアンソロジーでした(表現が微妙だな)。
古今の吸血鬼小説を渉猟し、古典的価値のある“ドラキュラ”以前の作品から始めて、映画のノヴェライゼーション、現代作家によるヴァリエーションと、ユニークかつバラエティに富んだ作品集に仕上げています。
特に、第1部の“ドラキュラ”以前の吸血鬼小説は、初めて知ったものばかりで、ストーリーそのものは古色蒼然としたものばかりですが、楽しく読めました。
また第2部では、DQに出てきた魔物“バーナバス”の名の由来を始めて知ることができ、勉強になりました(笑)。
吸血鬼が好きな人は(どんな人や)要チェックかと。
蛇足ですが、吸血鬼テーマの長編作品で個人的にお勧めなのを挙げれば、ジョージ・R・R・マーティンの「フィーヴァードリーム」(創元推理文庫)、ロバート・R・マキャモンの「奴らは渇いている」(扶桑社ミステリー)、キム・ニューマンの
「ドラキュラ紀元」(創元推理文庫)でしょうか。

<収録作品と作者>「プレリュード――ドラキュラ城の崩壊」(ブラム・ストーカー)、「骸骨伯爵―あるいは女吸血鬼―」(エリザベス・グレイ)、「吸血鬼の物語」(ジェームズ・マルコム・ライマー)、「蒼白の貴婦人」(アレクサンドル・デュマ&ポール・ボカージ)、「白い肩の女」(ジュリアン・ホーソーン)、「ソーホールの土地のグレッティル」(フランク・ノリス)、「血の呪物」(モーリー・ロバーツ)、「島の花嫁」(ジェイムズ・ロビンソン・プランシェ)、「夜の悪魔」(ピーター・トリメイン)、「兇人ドラキュラ」(ジミー・サンスター)、「ダーク・シャドウズ」(マリリン・ロス)、「新・死霊伝説」(スティーヴン・キング)、「インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア」(アン・ライス)、「ヴラド伯父さん」(クライヴ・シンクレア)、「ドラキュラ伯爵」(ウディ・アレン)、「十月の西」(レイ・ブラッドベリ)、「闇の間近で」(シオドア・スタージョン)、「デイ・ブラッド」(ロジャー・ゼラズニイ)、「死にたい」(ウィリアム・F・ノーラン)、「読者よ、わたしは彼を埋めた!」(ベイジル・コッパー)、「出血者」(リチャード・レイモン)、「ドラキュラ――真実の物語」(ジャック・シャーキー)

オススメ度:☆☆☆

2003.8.13


哲学者の密室(上・下) (ミステリ)
(笠井 潔 / 光文社文庫 1999)

1970年代のフランスを舞台にした矢吹駆を主人公としたミステリ第4作。
とはいえ、第3作の「薔薇の女」は未読だし第1作「バイバイ、エンジェル」、第2作「サマー・アポカリプス」を読んだのは10年以上前だし(ちなみに読んだのは角川文庫版)、前後関係をほとんど忘れ去っていました。まあ忘れていてもなんら問題はありませんが。
タイトルから連想される通り、ミステリを縦糸に、ハイデッガーをモデルとする架空の哲学者ハルバッハの「実存と死」の思想を横糸に、時代を隔てたふたつの密室殺人の謎が描かれます。
ひとつは、パリ郊外の豪邸ダッソー邸で発生した「三重の密室殺人」。もうひとつは、第二次大戦末期、ドイツ占領下のポーランドに作られたユダヤ人“絶滅収容所”で起こった、これも「三重の密室殺人」。30年を隔てたふたつの事件を結びつけるのは、ナチの思想的支えとなったハルバッハの「死の哲学」でした。
実際、思想やら哲学にはまったく無縁だった身からすると、中途の哲学論議を読み進むのはかなりしんどいです。ですが、本質直観による推理を旨とする主人公を配置したことにより、作品における哲学の存在意義は必然のものとなっているわけです。コク、読み応えは抜群。
でも、読むのであれば、シリーズを発表順に読む方が良いでしょう。創元推理文庫から、すべて出ています。
蛇足ながら、解説している文芸評論家の某氏、相変わらず偉そうに書いてます(島田荘司さんの
「眩暈」の解説で、この人の自意識過剰・優越感丸出しの文章には閉口させられましたが、今回も同じ)。良質で重厚なミステリを読了したという読後感が台無しにされます。あんた何様だ。

オススメ度:☆☆☆☆

2003.8.20


グランドホテル (ホラー:アンソロジー)
(井上 雅彦:編 / 廣済堂文庫 1999)

テーマ別ホラー・アンソロジー『異形コレクション』の第9弾。
今回は画期的です。単なるアンソロジーにとどまらず、野心的な企画を決行しています。
それは、“モザイクノベル”。海外のものでは創元推理文庫から出ている“ワイルドカード”シリーズがありますが(そういえば、続刊出ませんね)、つまり、ひとつの共通した背景に基づいて、複数の作家が短編を書くというものです。もちろん、各作品は独立したものですが、微妙に登場人物がからんでいたり、ある作品で語られた事件が他の作品にも影響を及ぼしていたり・・・と、全体がまとまってひとつの作品としてとらえることもできるというものです。
で、今回の共通の背景はグランドホテル。都会からさほど離れていない高原のリゾート地に建設された古めかしい5階建てのホテルの、しかもヴァレンタインデーの特別な夜が舞台です。ヴァレンタインデーにこのホテルに泊まると幸せになれるという噂がある一方、様々な怪異に遭遇するという話もあります。
様々な職業、様々な人生、様々な想いを抱えた人々が、このホテルで何を体験するのか・・・。23編の物語が待っています。
中でも、グロテスクさでは一番の「新鮮なニグ・ジュギペ・グァのソテー。キウイソース掛け」(田中啓文)、甘酸っぱいテイストの正統派幽霊譚「ヴァレンタイン・ミュージック」(難波弘之)、美しき怪物ホラー「貴賓室の婦人」(竹河聖)などがお勧め。

<収録作品と作者>「ぶつかった女」(新津 きよみ)、「探偵と怪人のいるホテル」(芦辺 拓)、「三階特別室」(篠田 真由美)、「鳥の囁く夜」(奥田 哲也)、「To・o・ru」(五代 ゆう)、「逃げようとして」(山田 正紀)、「深夜の食欲」(恩田 陸)、「チェンジング・パートナー」(森 真沙子)、「Strangers」(村山 潤一)、「厭な扉」(京極 夏彦)、「新鮮なニグ・ジュギペ・グァのソテー。キウイソース掛け」(田中 啓文)、「ヴァレンタイン・ミュージック」(難波 弘之)、「冬の織姫」(田中 文雄)、「雪夫人」(倉阪 鬼一郎)、「一目惚れ」(飯野 文彦)、「シンデレラのチーズ」(斎藤 肇)、「うらホテル」(本間 祐)、「運命の花」(榊原 史保美)、「螺旋階段」(北野 勇作)、「貴賓室の婦人」(竹河 聖)、「水牛群」(津原 泰水)、「指ごこち」(菊地 秀行)、「チェックアウト」(井上 雅彦)

オススメ度:☆☆☆☆

2003.8.21


SF大将 (コミック)
(とり・みき / ハヤカワ文庫JA 2002)

海外SFの名作をパロディしまくった、マニアックなマンガ集。とり・みきさんのセンス全開です。98年の星雲賞コミック部門受賞作品。
もちろん、原作を読んだことがないと、ただのシュールなギャグマンガ。原作を知っていれば、より楽しめます。
39ある元ネタのうち、読んだことがあるのは23作品でした。精進しなきゃ。
でも、巻末に付されている「オリジナル・テキスト解題」は、手頃なSF入門としても使えるかも。古典からサイバーパンクまで様々なジャンルの傑作を網羅してますし。
ところで「DAIHONYA」も文庫で出してくれないかなあ(笑)。

<収録作品>「大星雲ショー」、「SF小僧」、「SF大将」

オススメ度:☆☆☆

2003.8.21


月世界へ行く (SF)
(ジュール・ヴェルヌ / 創元SF文庫 1997)

なんか、読むの遅すぎ!とか思われそうですが。
初めて読みました、ヴェルヌの古典的作品。
なんせ、書かれたのが1869年ですよ。19世紀ですよ。
どでかい大砲を作って、その巨大な砲弾の中に人が乗り組んで、月まで行ってしまおうという単純で壮大な計画。
確かに150年近く前のお話です。今の科学からいくと、とんでもない描写がたくさんあります。
何と言っても、宇宙空間の温度を測るために、窓を開けて紐をつけた温度計を放り出すんですぜ。
「おい、大丈夫なのか? 外は極寒の真空だぞ」
「1秒くらいなら大丈夫だ」(いや、正確にはこういう会話があるわけではないですが)
とってもほほえましいです。非科学的と笑うなかれ。当時の正しい最新の科学知識を駆使して書かれているのですから。50年先に、ホーガンやベンフォードといった現代ハードSF作家の作品が「こんな非科学的な・・・」と言われない保証はまったくないわけですし。
さらに、白眉はこれ。
「ちょっと聞きたいんだが、どうやって帰るつもりだ?」
「そんなことは考えてなかった(笑)」
この大らかさ。大好きです。
そして、作者ヴェルヌはちゃんと帰れるようプロットを考えてくれているのです。説得力あるし。
一度は読んでみるべし。

オススメ度:☆☆☆

2003.8.22


美しき惨殺者たち (ノンフィクション)
(桐生 操 / 角川ホラー文庫 1999)

古代ローマから現代まで、大量殺人や猟奇殺人を犯した人物をいろいろと紹介したもの。
でもまあ相変わらず、似たようなタイトルで似たような内容の本をいくつも出すものですね、この著者は。それを許してる出版社も出版社ですが。売れればいい、と思っているんだろうな。
中身もなくて、ほとんど巻末にリストアップされた“参考文献”の孫引きに近いし。
対象の選択もけっこういい加減で、メアリ・スチュアートなんて、まったく“惨殺者”というカテゴリーには入らないと思うんですけど。
暇つぶし以外の役には立ちません。

オススメ度:☆

2003.8.23


鷹とイリス (ヒロイック・ファンタジー)
(栗本 薫 / ハヤカワ文庫JA 1999)

“グイン・サーガ”の第65巻です。
今回は、大きな事件は起こらず、淡々と進みます・・・が、今後の展開を左右する重要な巻と思います。物語全体の背景やら、某竜王の陰謀やらが、あの方の口を借りていろいろと明らかにされます。
それにしても、タイトルになっている“鷹”と“イリス”って、誰のことなのか読み進めるまでわかりませんでしたよ。
次回は“鷹”の秘密が語られるわけですな。
でも今回の白眉はやっぱり女性陣でしょう。久々に本領発揮(笑)のリンダさん、一瞬、公女将軍の顔を取り戻すアムネリスさん、素敵です。

オススメ度:☆☆☆☆

2003.8.24


聖竜戦記5 ―復活の角笛― (ファンタジー)
(ロバート・ジョーダン / ハヤカワ文庫FT 1999)

大河ファンタジー“時の車輪”の第2部、「聖竜戦記」の完結編。
前巻で、闇の信徒に盗み出された“英雄蘇生の角笛”を取り返すべく、西海岸のトーマン岬を目指したアル=ソアたち男グループ。そして、異能者の都タール・ヴァロンで修行を続けていたエグウェーンやナイニーヴたち女性グループも、アル=ソアたちに危険が迫っているという知らせを聞いて、急遽トーマン岬に向かいます。
今回は、非常にストーリーの密度が濃く、この長さに突っ込むにはかなり無理があるような気がします。倍の長さでじっくり読みたかった・・・。
第1部と同様、ラストではラスボス(笑)との対決があります。アル=ソアもようやく覚悟を決めたようで、さて第3部はどうなるのでしょうか。
個人的には、ミンが気になります。

オススメ度:☆☆☆

2003.8.26


闇吹く夏 (ホラー)
(荒俣 宏 / 角川ホラー文庫 1999)

荒俣宏さんの“風水小説”シリーズ、『シム・フースイ』の第4弾です。
今回、主人公の風水師、黒田龍人は、冷害に苦しむ岩手の農民に請われて北へ向かいます。ですが、この異常気象の背後には、首都移転計画に伴う謎の組織の暗躍がありました。さらに、太平洋を隔てた南米では、エル・ニーニョが・・・。
宮沢賢治の諸作品(「風の又三郎」や「グスコーブドリの伝記」)に風水の思想を読み取り、それに導かれるように謎が解かれていく過程が興味深いです。
でも、このシリーズ、主人公の黒田龍人を好きになれないんですよね。変態なんだもん(笑)。

オススメ度:☆☆

2003.8.26


マッド・サイエンティスト (SF・怪奇:アンソロジー)
(スチュアート・D・シフ:編 / 創元SF文庫 1997)

タイトル通り、キ●●イ科学者を主人公とした作品を集めたアンソロジーです。
1982年に邦訳が出たものの復刊。ありがとう創元さん。
マッド・サイエンティストとして最初に思い浮かべるのはフランケンシュタイン博士にドクター・モローといったところでしょうか。
マッド・サイエンティストというとSFというイメージがあるような気がしますが、実はこのアンソロジー、どちらかというとSFよりも怪奇小説(ホラーほど現代的ではない)が多く集められています。ラヴクラフトとかF・B・ロングとか、懐かしのウィアード・テイルズものも。
正統派の作品が多い中、いちばん面白かったのは、“孤島で謎の研究をする科学者”というドクター・モローもかくやというステロタイプな設定をとりながら、見事にばかばかしい(でも説得力がある)オチに持っていくロバート・ブロックの「ノーク博士の謎の島」でしょうか。
ところで、本編には関係ないですけど、マッド・サイエンティストと言えば、横田順彌さんの作品に出てくるマッド・サイエンティスト(名前忘れた)の勤務先が松戸菜園テスト研究所というのはヒットでした(笑)。

<収録作品と作者>「サルドニクス」(レイ・ラッセル)、「自分を探して」(ラムジー・キャンベル)、「エリート」(カール・エドワード・ワグナー)、「スティルクロフト街の家」(ジョゼフ・ペイン・ブレナン)、「ノーク博士の謎の島」(ロバート・ブロック)、「あるインタビュー」(リチャード・クリスチャン・マシスン)、「粘土」(C・ホール・トンプソン)、「冷気」(H・P・ラヴクラフト)、「ビッグ・ゲーム・ハント」(アーサー・C・クラーク)、「ハルドンヒル博士の英雄的行為」(ヴィリエ・ド・リラダン)、「シルヴェスターの復讐」(ヴァンス・アーンダール)、「箱」(リー・ワインシュタイン)、「アーニス博士の手記」(ゲイアン・ウィルスン)、「ティンダロスの猟犬」(フランク・ベルナップ・ロング)、「最後の一線」(デニス・エチスン)、「庭の窪みで」(デーヴィッド・キャンプトン)、「サルサパリラのにおい」(レイ・ブラッドベリ)

オススメ度:☆☆☆

2003.8.27


平行植物 (幻想)
(レオ・レオーニ / ちくま文庫 1998)

これは、不思議な本です。
紹介されるのは、“平行植物”と総称される謎の植物。
成長しない、時間の影響を受けない、色がない、触れると消えてしまう、実体がない・・・といった、不可思議な特性を有している“平行植物”について、世界有数の学者(日本人の学者もいます)や歴史家の著作、諸民族の間に伝わる神話や伝説を豊富に引用し、哲学的考察も加えて生き生きと紹介しています。
う〜む、世界にはこんな不思議な植物が存在していたのか。
・・・と、信じてしまってはいけません(笑)。
本書は、実在しない植物を描いた架空の博物誌なのです。
レオーニは、真実と虚構をたくみに織り交ぜ、ある意味では“平行植物”が実在している“平行世界”を創造したと言えるかも知れません。
一読、独特の知的興奮が味わえます。
同じような“架空の博物誌”としては、ハラルト・シュトゥンプケの「鼻行類」(こちらは残念ながら未読)やジョアン・フォンクベルク&ペレ・フォルミゲーラの「秘密の動物誌」があります。「秘密の動物誌」は、なぜかどこの書店でも自然科学のコーナーに置いてあるので、初めて買った時には本当のことだと思ってました(笑)。

オススメ度:☆☆

2003.8.28


星ぼしの荒野から (SF)
(ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア / ハヤカワ文庫SF 1999)

SFらしいSFを書かせたら人後に落ちないティプトリーJR.の第4短編集(邦訳の出版順では5番目ですが)。
今回は、星への憧憬、異星人と地球人とのコンタクト、意外な方法で行われる地球侵略、遠未来の風景など、月並みな表現ですがセンス・オブ・ワンダーの原点とも言える珠玉の短編が揃っています。もちろん彼女(ティプトリーは女性作家です)独特のひねりが加えられていますが。
全10編の秀作の中でも、タイトルにもなっている「星ぼしの荒野から」や、不思議な叙情をたたえた「時分割の天使」、モダンホラーとしても読める「ラセンウジバエ解決法」などがお勧めでしょうか。

<収録作品>「ビーバーの涙」、「おお、わが姉妹よ、光満つるその顔よ!」、「ラセンウジバエ解決法」、「時分割の天使」、「われら<夢>を盗みし者」、「スロー・ミュージック」、「汚れなき戯れ」、「星ぼしの荒野から」、「たおやかなる狂える手に」

オススメ度:☆☆☆☆

2003.8.30


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