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イクシーの書庫・過去ログ(2003年3月〜4月)

<オススメ度>の解説
 ※あくまで○にの主観に基づいたものです。
☆☆☆☆☆:絶対のお勧め品。必読!!☆☆:お金と時間に余裕があれば
☆☆☆☆:読んで損はありません:読むのはお金と時間のムダです
☆☆☆:まあまあの水準作:問題外(怒)


ミスター・マーダー(上・下) (ホラー)
(ディーン・クーンツ / 文春文庫 1998)

久しぶりのクーンツです。「心の昏き川」以来か・・・と思ったら、こちらの「ミスター・マーダー」の方が先に書かれた作品だったんですね。順番が変わったからといって、特に問題はないんですけど。
主人公は、いくつものベストセラーを生み出しているミステリー作家(妻とふたりの娘あり)マーティ。彼はある日、不意に襲ってきた記憶の欠落に悩まされます。それと平行して、名のない“殺し屋”の不可解な行動が描かれます。そして、医師のところから帰宅したマーティは、自宅に潜んでいた“殺し屋”に襲われます。驚くべきことに、“殺し屋”はマーティに姿形がうりふたつでした。
ベストセラー作家とドッペルゲンガーというのを見て、キングの「ダークハーフ」と同じネタか?とも思ったのですが、さすがクーンツ、そんなことはありませんでした。もちろんクーンツお得意の、SF的ながら不気味なリアリティを感じさせる種明かしを用意してくれています。
でも、謎解きよりもひきこまれるのは、追いつ追われつの圧倒的なサスペンス。“殺し屋”を背後で操っていた秘密組織の工作員のキャラクターも生きています(「心の昏き川」との繋がりも濃厚です)。ふたりの娘(9歳と7歳)も子供らしくて魅力的です。
解説の瀬名秀明さんが「印象的だった」と書かれている個所が、自分の心に残ったところと一致していたので「おお!」と思ってみたり。嬉しいですね(笑)。

オススメ度:☆☆☆☆

2003.3.4


ファウンデーションの誕生(上・下) (SF)
(アイザック・アシモフ / ハヤカワ文庫SF 1998)

銀河帝国の興亡を描いた“ファウンデーション・シリーズ”、ついに最終章です。(その後、G・ベンフォードやD・ブリンの手で続きが書かれているようですが、それはまあ置いといて)
前巻
「ファウンデーションへの序曲」は、銀河帝国の中心地である惑星トランターを訪れた数学者ハリ・セルダンが、様々な人たち(人だけではないが)と出会って心理歴史学の礎を築き始めるお話でした。今回はその続き。大きく4つの章に分けられていて、それぞれセルダンが40歳、50歳、60歳、70歳の時のエピソードです。そのため、長編というよりはオムニバスの雰囲気で軽く読み進められます。
読み進むうちに、少し心配になってきました。第3巻のラストで明かされるファウンデーション最大の謎が、ここでネタばらしされてしまうのではないかと。これを先に読む人(銀河帝国史の上では、、7、1、2、3、5巻の順番ですから、この順で読むのも悪くありませんが)は、興味がいくぶんそがれてしまうのではないかと。でも杞憂でした。さすが一流のミステリ作者でもあるアシモフさんは、ちゃんと、わかる人にはわかるけれどわからない人には謎のまま、という書き方をしてくださっていました。
最初の3部作(創元版でした)を読んだのはたしか高校1年の時でしたから、20年の時を越えてようやく時の円環が閉じたことになります。なかなか感慨深いです。
もう一度1巻から読み返してみたい気もしますが・・・時間がないよお。

オススメ度:☆☆☆

2003.3.6


終末のプロメテウス(上・下) (SF)
(ケヴィン・J・アンダースン&ダグ・ビースン / ハヤカワ文庫SF 1998)

SFらしいSFを提供してくれる名コンビの作品。
サンフランシスコで巨大タンカーが沈没し、百万バレルもの原油が流出します。非難を浴びた石油会社は、同社の科学者が開発していたバクテリアを投入することを決断します。そのバクテリアは、原油を食べ、そのまま死滅するはずでした・・・。
上巻の紹介文を読んだ時は、この原油流出事故に挑むバイオテクノロジーの活躍を描いたハードSFだと思っていたのですが・・・そんなものではありませんでした。この事故は発端に過ぎなかったのです。
使命を果たした後は環境に影響を与えずに消滅するはずだったバクテリア“プロメテウス”は、予想に反して大気中に拡散し、石油はおろか、プラスチックを中心とする石油製品を食い尽くしていったのです。現代文明はあっさり崩壊します。
その極限状況の中で、文明を取り戻すために立ち上がる科学者たち。混乱の中、人間としての尊厳を失わず自立するコミューン。暴走する軍隊との対決・・・etc.「悪魔のハンマー」(ニーヴン&パーネル)、
「スワン・ソング」(マキャモン)と並ぶ、第1級のディザスター小説に仕上がっています。冒険小説としての“お約束”な燃える展開も多いですが、伏線がしっかり張られているし、説得力は十分。ぞくぞくするほど楽しめます。

オススメ度:☆☆☆☆

2003.3.11


ニードフル・シングズ(上・下) (ホラー)
(スティーヴン・キング / 文春文庫 1998)

いや〜長かった。上下巻読み終わるのに1週間かかってしまいました。
これまで読んだキング作品の中では、
「IT」に続く2番目の長さですね(いや、「トミーノッカーズ」とは結構いい勝負か?)。
物語の舞台はメイン州の小さな町キャッスルロック。これまで、様々なキング作品の舞台となっていた町です。「デッド・ゾーン」とか「クージョ」とか「ダーク・ハーフ」とか(残念ながら「スタンド・バイ・ミー」は未読)。物語中でも、これらの話についての言及があったり、登場人物が重なっていたりと、ファンにはたまらない趣向です。もちろんこれらの作品を読んでいなくても十分に楽しめます。
キャッスルロックにいつの間にか開店した「ニードフル・シングズ」という骨董品店。
この店を訪れた町民たちは、誰もが必ず欲しくてたまらないものを見つけます。ただし、それを手に入れるためには、店主ゴーント氏の要求する“ちょっとしたいたずら”をこなさなければなりませんでした。
他のどこにでもいる町と同様、キャッスルロックにも様々な“火種”が転がっていました。なんとなく虫が好かない隣人、宗派の違いによるグループ同士の些細な対立、小役人のちょっとした使い込み、冗談で済んでしまうようなちっぽけないさかい・・・。ところが、ゴーント氏が仕掛けるツボをついた“いたずら”によって、悪意と憎悪が次々とエスカレートし、途方もない悲劇が町を襲い始める・・・この辺の描き方のうまさは、まさにキングの独壇場。途中で本を投げ出すことはできません。
途中で投げ出すことができない・・・と書きましたが、それはクーンツ作品のように「次がどうなるかハラハラドキドキして待ちきれない」というのとは異なり、「こんな気持ちの悪い状況に置かれたままではいたくない、どうなってもいいから、結末までたどり着いてしまいたい」という、ちょっと不健康な感覚なのです。読者をそのような感覚に放り込んでしまうところが、キングの流儀なのでしょうが。

オススメ度:☆☆☆☆

2003.3.18


聖なる隕石の都市 (SF)
(H・G・フランシス&ウィリアム・フォルツ / ハヤカワ文庫SF 2003)

ペリー・ローダン・シリーズの288巻です。
前巻で惑星アスポルクの隕石洞窟に閉じ込められたアトラン以下の特殊コマンド、なんとか脱出に成功します。
後半では、ミュータントのリバルド・コレッロが謎の“苦悶の声”の影響を受け失踪。怪しげな少女キトマのエピソードが平行して語られますが、なんとなく伏線の章という感じ。盛り上がりはいまいちかと。

<収録作品と作者>「聖なる隕石の都市」(H・G・フランシス)、「スーパー・ミュータント失踪」(ウィリアム・フォルツ)

オススメ度:☆☆

2003.3.19


夜来たる[長編版] (SF)
(アイザック・アシモフ&ロバート・シルヴァーバーグ / 創元SF文庫 1998)

アシモフ短編の最高傑作と言われる「夜来たる」。
ただ、読んだ時は、「あれ? こんなもんか?」と思ってしまったのです、正直(汗)。前評判から、期待しすぎていたせいなのでしょうけれど。
で、本作は、その短編のストーリーをふくらませて、長編化したというもの。アシモフとシルヴァーバーグという大物同士の共作という垂涎ものです。
6つの太陽が空をめぐる惑星。常にいずれかの太陽が空にあり、この世界の住人は“夜”という概念を知りません。ところが、二千年に1回という惑星運動のいたずらで、“夜”がやってくることが判明します。
闇が人間にもたらす狂気を研究する心理学者、天体の運行計算によって“夜”の到来を予測した天文学者、太古の遺跡がほぼ二千年毎に焼き尽くされているのに気付いた考古学者、“夜”の到来による混乱を信じようとしないジャーナリスト、終末思想を喧伝して信者を集めるカルト集団・・・。そういった人々の行動を通して、3部に分かれた物語(“夜”が来る前、“夜”の到来、そして“夜”が明けた後)が展開します。
第3部はこの長編化に当たって追加されたものですが、この部分がいちばん面白いです。いや、人によって評価は分かれるかと思いますが。
500ページを越す長さも、まったく苦になりません。

オススメ度:☆☆☆☆

2003.3.20


クロモソーム・シックス (サスペンス)
(ロビン・クック / ハヤカワ文庫NV 1998)

メディカル・サスペンスの大御所、ロビン・クックの邦訳第18作(え、そんなに? 半分しか読んでないよ・・・汗)。
ギャング同士の抗争で射殺された死体が、ニューヨーク市の監察院から盗まれました。なぜ死体を盗む必要があったのか? 
「コンテイジョン」でも活躍したジャックとローリーの監察医コンビが謎解きに挑みます。一方、西アフリカの小国、赤道ギニア共和国では、医師ケヴィンが自分の行っている研究とそれが引き起こした結果に悩んでいました。ニューヨークとギニア、遠く離れた場所を結びつけるキーワードは“臓器移植”でした。
過去の作品とのつながりという点では、「コンテイジョン」よりも、未読の「ブラインドサイト」との関連が大きく、かなり核心に触れるネタバレ記述もあったりして、ちょっと後悔(笑)。やはり、発表順に読むのが基本ですよね。
「コンテイジョン」でもいい味を出していたハーレムの顔役ウォーレンが、更なる活躍をしているのは嬉しいです。
でも、中盤までの緻密な書き込みに対してラストがちとあっけないと感じるのは、期待しすぎだからでしょうか。いや、読後感はいいのですが。

オススメ度:☆☆☆

2003.3.25


世にも不思議な物語 (オカルト)
(スー・コヴァック / ボーダーランド文庫 1998)

60〜70年代の復刊本が多い“ボーダーランド文庫”には珍しく、これは新作(らしい)。
何の変哲もないオカルト本ですが、特色は「警察官が出会った怪奇現象」に限定してあること。
警察官はもっとも信頼できる目撃者である、という著者の主張はまあ賛同できるとしても、列挙された事象のひとつひとつが通り一遍で、詳しい分析もなければ結論も出されていません。結局、タブロイド新聞の怪奇実話記事以上のものにはなっていないというお粗末・・・。
これで840円は腹が立ちますな。

オススメ度:−

2003.3.26


夢魔の四つの扉 (ヒロイック・ファンタジー)
(栗本 薫 / ハヤカワ文庫JA 1998)

「グイン・サーガ外伝」の第14巻。誘拐された皇女シルヴィアを探すグインの冒険も5冊目に突入しました。
マ●●スを助け出した余勢を駆って、キタイの首都ホータンのはずれにそびえ立つ“鬼面の塔”に足を踏み入れたグイン。
そこは、4つの階層からなるおぞましき異世界。ただ、ここまでに比べると、ちと道具立てが地味な感じが・・・。でもこれはネタ切れということではなく、更なる大イベントへ向けての繋ぎの回と思いたいです。第3章で触れられるエピソードから、この世界が魔●●●伝とも共通の背景を持ってることが確認できましたし。
さて、
次巻は決着篇だ!(・・・ですよね)

オススメ度:☆☆☆

2003.3.27


逆説の日本史3 古代言霊編 (歴史ノンフィクション)
(井沢 元彦 / 小学館文庫 1998)

日本史に新しい側面から光をあてる「逆説の日本史」、今回は奈良時代から平安時代への移行期、8世紀にスポットをあてています。
まずは、道鏡のお話。確かに、高校の日本史の授業では、道鏡は称徳天皇をたぶらかして天皇の座を望んだ悪人で、その計画を妨害した藤原百川・永手は功労者だと習いました。でも、違うのですね。井沢さんの論旨には非常な説得力があります。
第3章の“言霊”論は、さらに「逆説の日本史」の真骨頂。ここまで読み進んだ中での白眉ではないでしょうか。歴史の中に脈々と息づき、現代に至るまで我々日本人の行動を規定しながらも、無意識の底に眠っている“言霊”信仰。
思わず、現在の日本政治にも思いをはせてしまいます。

オススメ度:☆☆☆☆

2003.3.28


水妖 (ホラー:アンソロジー)
(井上 雅彦:編 / 廣済堂文庫 1998)

テーマ別書き下ろしホラー・アンソロジー“異形コレクション”の第5弾。今回のテーマはタイトルの通り「水の怪物」です。
全体が3部構成で、「淡の章」「浸の章」「海の章」となっています。第2章は大地に滲み込む水のイメージだそうです。
水が苦手なので(実はカナヅチ(^^;)、ぞくぞくしながら読み進めました。
ラストのとんでもない視覚イメージが圧巻の「ウォーター・ミュージック」(奥田 哲也)、クロフォードの傑作「上段寝台」を和風に換骨奪胎した「海の鳴る宿」(竹河 聖)、読後感がさわやかな幽霊譚「水中のモーツァルト」(田中 文雄)、おぞましきクトゥルー時代譚「水虎論」(朝松 健)などが好き。

<収録作品と作者>「水虎論」(朝松 健)、「貯水槽」(村田 基)、「すみだ川」(加門 七海)、「水中のモーツァルト」(田中 文雄)、「濁流」(岡本 賢一)、「水底」(安土 萌)、「乾き」(中原 涼)、「川惚れの湯」(草上 仁)、「金魚姫」(松尾 未来)、「月の庭」(早見 裕司)、「FAERIE TAILS」(村山 潤一)、「溺れた金魚」(山田 正紀)、「断章」(皆川 博子)、「蟷螂の月」(菅 浩江)、「Mess」(ヒロモト 森一)、「安珠の水」(津原 泰水)、「還ってくる――」(篠田 真由美)、「魚石譚」(南條 竹則)、「留奈」(江坂 遊)、「ウォーター・ミュージック」(奥田 哲也)、「水の牢獄」(森 真沙子)、「ほえる鮫」(井上 雅彦)、「海の鳴る宿」(竹河 聖)、「水妖記」(倉阪 鬼一郎)、「水の記憶」(菊地 秀行)、「Zodiac and Water Snake」(ヴィヴィアン佐藤)

オススメ度:☆☆☆

2003.3.30


ホログラム街の女 (SF)
(F・ポール・ウィルスン / ハヤカワ文庫SF 1998)

ウィルスンといえば、『ナイトワールド・サイクル』を初めとしたホラー作家というイメージが強いですが(いや実際にそうなんですけど)、最初はSF作家としてスタートしたのだそうです。で、これは80年代後半に書かれたSF中篇3作をまとめて長編化したもの。
未来のアメリカでは、クローンが合法化され、歓楽ビジネスの主役となっています。一方、人口制限が厳格に課され、許される子供はひとりだけ。違法に生を受けた子供たちは、『落とし子』と呼ばれ、公式には存在しないものとされて、スラムで集団を作って暮らしています。
そんな社会で私立探偵を営む主人公シグは、クローン娼婦ジーンの依頼を受けたことから、事件に巻き込まれていきます。ハードボイルドSFというジャンルに恥じない展開は、まさに職人芸といえます。特に、現役の医師であるウィルスンの面目躍如という生々しい肉体崩壊の描写(詳細は控えますが)は鮮やかな印象を残します。
序盤からの伏線が生かされてのヒューマニティあふれるクライマックスはお見事。

オススメ度:☆☆☆☆

2003.3.31


連合艦隊 大奇襲 (シミュレーション戦記)
(田中 光二 / 光文社文庫 1998)

一時期、大ブームになった『架空戦記』というか、『戦争シミュレーションもの』の、これは正統派かと思います。とりあえずはまとも(いや、某有名作家さんの、あのトンデモない艦隊シリーズの悪夢が残っているもので)。
あとがきで作者の田中光二さんも書かれていますが、このシリーズは「歴史におけるバタフライ効果」を狙ったものだそうです。史実に小さな改変を加えることで、どのような変化をとげるのか、結末は、この時点で「作者自身にも見えない」といいます。
とりあえず、本巻の冒頭で史実と異なる点はただひとつ、真珠湾攻撃に向かった機動部隊の司令官が南雲中将から小沢中将に変わっているだけ。これは妥当な線です。山本連合艦隊司令長官とすれば、水雷畑の南雲さんより航空畑の小沢さんを使った方が、自分の思い描いている作戦行動を取ってくれるはずですから。
案の定(笑)、小沢中将は第一次攻撃後にすぐには帰らず(史実では、行方がわからない米空母を警戒して即時撤退した)、米機動部隊の捕捉に成功、1隻を撃沈します。
ここから、微妙に歴史の流れが変わってくるわけで・・・以下、次巻。

オススメ度:☆☆☆

2003.4.1


連合艦隊 大進撃 (シミュレーション戦記)
(田中 光二 / 光文社文庫 1998)

続きです(笑)。あ、昨日は言い忘れておりましたが、このシリーズ、「新・太平洋戦記」というそうです。何のひねりもないネーミングだ・・・。
この巻は、前半がサンゴ海海戦、後半はミッドウェーです。
サンゴ海の方は、細かな状況の変化はありますが、結果は基本的に史実に忠実です。米軍はレキシントン、日本は祥鳳を失い、日本軍のポートモレスビー攻略作戦は中止されます。サンゴ海海戦が「戦術的には勝利、戦略的には敗北」と評される所以ですな。
で、ミッドウェーの方は、かなり改変されています。しかも、不自然なほどかなり日本寄りに(笑)。まあ、日本に有利に展開させないと面白くない(読者が離れる)というのはやむを得ないことですが。それより、「第一次ミッドウェー海戦」となっていたのが気になるんですけど。つ、続きがあるのか?
海戦シーンが毎回同じような描写になってしまうのも、仕方がないことなのでしょうか。これが10巻も続くとさすがに飽きるぞ。
以下、次巻。

オススメ度:☆☆

2003.4.2


連合艦隊 大反攻 (シミュレーション戦記)
(田中 光二 / 光文社文庫 1998)

またも続き。でもさすがに3冊も続くと飽きます(笑)。
今巻のヤマは、ミッドウェー海戦後半。ここまで来ると史実とはかなり離れ、日本は空母を1隻失うのみで(実際には赤城・加賀・蒼龍・飛龍の4隻が撃沈される)、とうとうミッドウェーそのものを占領してしまいます。加賀のことを“幸運艦”と何度も呼ぶのはかなり違和感を感じますが。
その後、物語は北太平洋を離れてソロモン諸島方面へ移るわけですが、さすがに海戦場面ばかりのマンネリを気にしたのか、かなりの部分がラバウル航空隊の零戦の空中戦シーンに割かれています。
第1次ソロモン海戦まで終わって、第3巻は終了。
続きはしばらく後で。
それより、このシリーズ、全巻を買い揃えないうちに新刊書店から姿を消しちゃったんですよね。どうしよう(汗)。
※追記:ブックオフめぐりをして、全巻揃えました(笑)。

オススメ度:☆☆☆

2003.4.3


ダーク・シーカー (SF)
(K・W・ジーター / ハヤカワ文庫SF 1998)

以前に読んだ同じ作者の「ドクター・アダー」が非常に悪趣味な(面白くないとは言っていません)作品だったので、おそるおそる読み始めたのですが。
意外とまともでした(笑)。
さびれた映画館の管理人をしている主人公は、悪夢を恐れて常に薬を服用していました。そんな彼のもとに、別れた妻から、かれらの子供が誘拐された、救い出してほしいという訴えが届きます。でも子供は生まれてすぐに死んだはずでは・・・?
実は、かれらはかつて、殺人カルト集団に属していて、新種のドラッグを服用していました。そのドラッグは、服用者たちに“精神共有”の作用をもたらすというもの。かつての仲間が暗躍し、主人公は否応なく現実と妄想のからみあう狂気の世界に投げ込まれていきます。
何が現実で何が虚構なのか、最後の最後までわかりません。ただ、ラストは意外とわかりやすいです。

オススメ度:☆☆

2003.4.5


エデンの炎(上・下) (ホラー)
(ダン・シモンズ / 角川文庫 1998)

ハワイ神話を下敷きにしたホラーの佳作。ハワイ固有の神々や悪霊をネタにしたお話は、初めて読む気がします。しかも現在と過去の二重構造。
ハワイ島のとあるリゾート。おりしもキラウエア・マウナロアの2座の火山が同時に噴火するという状況の中、高級リゾートを訪れたのは、歴史学者エレノアと、雑誌懸賞でリゾート旅行を当てたというオバタリアン(笑)コーディ。さらに、リゾートのオーナーであるトランボも、起死回生の重要な商談をまとめるべくハワイにやってきます。
ところが、このリゾートでは数ヶ月前から客やスタッフが行方不明になるという事件が相次いでいました。そこに垣間見える、異形の影。
エレノアの血縁者である19世紀の女性旅行家が書き残した手記には、新聞記者サムエル・クレメンズ(「トム・ソーヤー」の作者マーク・トウェインの本名)と共に体験した驚くべき冒険が記されていました。そして、歴史は繰り返され、エレノアらは異形の神々や幽霊が跳梁する異界へ足を踏み入れることになります。
ストーリー自体は、スパイスが効いていて面白いけれど、それだけだな・・・と思って読み進んできて、ラストの仕掛けに茫然。キャラの扱いの“はずし方”が絶妙です(ネタバレになるので詳しくは書けませんが)。使い古された手のはずなのに、このように上手に使われると、もう脱帽するしかありません。前半のさりげない描写が、見事に伏線として生きています。
ラスト5ページで、評価が1ランクアップしました(笑)。

オススメ度:☆☆☆☆

2003.4.7


有毒地帯(上・下) (サスペンス)
(マイクル・パーマー / ハヤカワ文庫NV 1998)

パーマーの作品を読むのは3作目ですが(過去に「ボディ・バンク」「D.I.C 血管内凝固症候群」を読んでいる)、進歩しましたね、この人。
舞台は、アメリカ西部の架空の町ペイシェンス。この町はいわば“企業城下町”で、電池工場を経営する「コルスター社」におんぶにだっこの状態。その町の病院に救急医として赴任した女性医師アビーが主人公。アビーの婚約者ジョシュがコルスター社に転職したため、サンフランシスコから一緒に移ってきたのです。
アビーは、病院を訪れる患者の中に、原因不明の体調不良を訴える人が増えているのに気付きます。婚約者ジョシュもしきりに頭痛を訴え、性格が変わったように攻撃的になってきました。コルスター社工場によるなんらかの化学物質汚染が原因ではないかと考えたアビーは、同僚の医師と共に調査を開始しますが、コルスターとの運命共同体と化している町民たちは非協力的で、ついにアビーの身辺に危険が及び始めます。でも、追い詰められれば追い詰められるほどやる気になるアビーは、不屈の闘志で謎に立ち向かっていきます・・・。
以前の作品には、意識過剰とも思えるわざとらしいストーリー展開が目立ちましたが、さすがに第7作となると、その辺の悪弊は直っています。上達したんだね(笑)。でも、ラストで“意外な黒幕”の正体を明かすのは相変わらずです。途中で見当が付いてしまうので、ワンパターンは避けた方がいいかと(笑)。

オススメ度:☆☆☆

2003.4.10


レムール遺跡の秘密 (SF)
(ウィリアム・フォルツ&H・G・エーヴェルス / ハヤカワ文庫SF 2003)

ペリー・ローダン・シリーズの最新刊で289巻。
前巻で謎の存在(いや正体知ってるけど)に精神を支配されて失踪したスーパーミュータント、コレッロにまつわるお話が続きます。不思議な運命のめぐり合わせで(ご都合主義ともいう(^^;)同行することになった仮面の男も一緒。
で、タイトルにある(このタイトルもなんか芸がないね)秘密の遺跡に行き着いたところで、以下次巻

<収録作品と作者>「追われるミュータント」(ウィリアム・フォルツ)、「レムール遺跡の秘密」(H・G・エーヴェルス)

オススメ度:☆☆

2003.4.10


怪獣文学大全 (怪奇:アンソロジー)
(東 雅夫:編 / 河出文庫 1998)

裏表紙には「あらゆる分野に登場するとびきりの《怪獣》たちを集大成した、空前絶後の大アンソロジー」と書いてありますが・・・。
それほどのものではないです(笑)。
収録されている13編のうち“マタンゴ”ネタが5編もあるのは、さすがというべきか。
やっぱりあの映画は地味ながらインパクトがあったんですね。
“マタンゴ”の元ネタとなったW・H・ホジスンの「闇の声」が再録されているのも嬉しいです。でも収録されるたびに邦題が違うってのはどういうことよ(笑)。この本では「闇の声」、創元推理文庫版では「夜の声」、角川文庫版(「怪奇と幻想2」に所収)では「闇の海の声」。原題は“The Voice in the Night”。まあどれでもいいか。
また、映画「モスラ」の原作「発光妖精とモスラ」も収録されていて、初めて読みました。面白さというよりも、資料的価値が高いアンソロジーかと。
なお、姉妹編(?)
「恐竜文学大全」も同文庫から刊行されています。

<収録作品と作者>「「ゴジラ」の来る夜」(武田 泰淳)、「発光妖精とモスラ」(中村 真一郎・福永 武彦・堀田 善衛)、「闇の声」(ウィリアム・ホープ・ホジスン)、「マタンゴ」(福島 正実)、「マタンゴを喰ったな」(橋本 治)、「更にマタンゴを喰ったな」(橋本 治)、「マタンゴ」(大槻 ケンヂ)、「科学小説」(花田 清輝)、「ガブラ――海は狂っている」(香山 滋)、「マグラ!」(光瀬 龍)、「日本漂流」(小松 左京)、「レッドキングの復讐」(井上 雅彦)、「ゴジラの来迎」(中沢 新一)

オススメ度:☆☆☆

2003.4.11


マウント・ドラゴン(上・下) (サスペンス)
(ダグラス・プレストン&リンカーン・チャイルド / 扶桑社ミステリー 1998)

「レリック」「地底大戦」で“正統派怪獣ホラー”を描ききってみせたプレストンとチャイルドのコンビが、今度は正統派バイオ・サスペンスを書いてくれました。
バイオテクノロジーの大手企業ジーンダイン社の社員である主人公ガイは、同社の秘密プロジェクトに抜擢され、「マウント・ドラゴン」と呼ばれるニューメキシコ州の砂漠にある秘密研究施設へ配転されます。そこでは、遺伝子操作によってインフルエンザを無害化する研究が行われていました。しかし、改変されたウイルスはなぜか凶暴化し、致死率100%の病気を引き起こす最悪の病原体と化していたのです。
一方、遺伝子操作は人類に危機をもたらすという危惧を抱いている科学者レバインは、凄腕のハッカーと手を組んで、ジーンダイン社の社長(実はふたりの間には若い頃の因縁がありました)が張り巡らしたサイバースペースに侵入します。
ジーンダイン社の秘密を解き明かしたガイは、助手の女性と共に、研究所からの脱出を図ろうとしますが、周囲は灼熱の砂漠。更に追っ手が迫ります。
前半は「アンドロメダ病原体」もかくやという謎解き、後半はウェスタン冒険小説とサイバーパンクSFの並列進行と、サービス過剰とも言える展開なのですが、破綻せずにちゃんとラストまで引っ張っていくのはさすがです。
巻頭の謝辞を読んで気付きましたが、ダグラス・プレストンは「ホット・ゾーン」の著者リチャード・プレストンの実弟だったのですね。この物語にはリチャードの協力と影響が少なくないと思います。

オススメ度:☆☆☆☆

2003.4.13


ドラゴン・ティアーズ(上・下) (ホラー)
(ディーン・クーンツ / 新潮文庫 1998)

“ドラゴン”がらみのタイトルの本が続くのは、単なる偶然です。
相変わらずクーンツはうまいです。絶妙の職人芸と言うべきか。
本作の主人公は男女の警察官コンビ、ハリーとコニー。ふたりは、昼食中にレストランで無差別銃撃事件に遭遇、見事なチームプレイで犯人を射殺します。しかし、それは悪夢の始まりに過ぎませんでした。人間離れした巨体を持つ浮浪者がハリーとコニーの行く先々に出没し、「お前たちは明日の夜明けまでの命だ」と宣言します。しかも、その浮浪者は超能力を持っているようで、銃撃も通用しません。同じ頃、ホームレスのジャネット母子と愛犬ウーファー、そして別のホームレス男性ミッキーも謎の存在に生命を脅かされていました。
間近に迫ったタイムリミットに追われる主人公たち、というシチュエーションはありがちですが(このパターンの最高傑作としては、ウィリアム・アイリッシュの「暁の死線」を挙げたいと思います)、さすがはクーンツ、あの手この手を繰り出して、破綻なくストーリーをまとめあげています。不気味で邪悪な敵の正体に関しても、ちゃんと論理的な(SF的ではありますが)謎解きもやってくれます。
作中、犬の主観で描かれている場面が何度も出てくるのですが、これがまさに犬そのもの!(笑) 見事です。
それにしても、解説を読んで初めて知ったのですが、クーンツの新刊の版権がとんでもないことになっていようとは!?(“超訳”で有名な某出版社が独占したらしい) まともな訳でクーンツの新作が読めないというのは悲劇です。こうなったら原文で読むしか・・・(汗)。

オススメ度:☆☆☆☆

2003.4.15


聖竜戦記1 ―闇の予言―  (ファンタジー)
(ロバート・ジョーダン / ハヤカワ文庫FT 1998)

大河ファンタジー、『時の車輪』の第2シリーズ、“聖竜戦記”全5巻の1巻目です。
前巻のラストで、とりあえず最初の対決はあっけなく(あっけなさ過ぎるほど)終わったのですが、物語はまだ緒についたばかり。
今回は、ファンタジーにつきものの“旅”もなく、舞台は北方の都市ファル・ダーラに限定されています(闇王の徒党が集う怪しげなプロローグは別)。
ヒーローであるはずのアル=ソアは相変わらずおのれの運命と将来をくらぁく思い悩んでいます(笑)。そんなところへ異能者たちの統率者であるアミルリン位シウアンが訪れ、不安を感じたアル=ソアは逃げ出そうとしますがうまくいかず、シウアンの前へ召し出される・・・というところで次巻へ。
異能者たちの間にも派閥争いのような確執があることが明らかになりました。
しかし、P・アンソニイやD・エディングズのファンタジーと違って、いまひとつ作品世界にのめりこめない理由がわかりました。主人公に感情移入できないからですね。
解説の田中芳樹さんが書かれていたように「主人公がうじうじくよくよ悩みつづけているのが、ちと歯がゆい」。
女性陣は、モイレイン様をはじめ、みんな魅力的なんですけどね。

オススメ度:☆☆☆

2003.4.16


死霊たちの宴(上・下) (ホラー:アンソロジー)
(ジョン・スキップ&クレイグ・スペクター:編 / 創元推理文庫 1998)

これは、世界初の“ゾンビ・ホラー”アンソロジーです。ジョージ・A・ロメロが序文を書いてます。どの作家も気合入りまくってます。
もう全篇、どろどろぐちゃぐちゃ、ぬめぬめべっちょり、がぶりはぐはぐ。(いや、そうじゃない作品もありますが)
食前食後ないしは食事中には読まない方が良いかと(←でも、お昼食べながら読みふけってたやつ)。
もともと視覚に訴えるショッカー(仮面ライダーに出てくる暗黒組織ではない)系映像は苦手で、中でも特にゾンビ系はダメ。だから、ロメロもトム・サビーニもすべてご遠慮させていただいています(あ、でも「クリープショー」は面白かったな)。ところが、同じスプラッター系でも、小説となると全然平気なのが不思議ですね。
このアンソロジーを読むと、ゾンビ系ホラーも、すでに死者が生き返って歩き回って生身の人間を食らうという原初的な恐怖を描くことから脱皮して、新たなテーマを目指している(例えば死者が生き返るのが常識となっている世界で何が起こるか)ということがよくわかります。
掲載作品の中では、マキャモンの「わたしを食べて」が出色。まさかゾンビ小説で感動するとは思わなかったよ・・・。
ちなみに日本の作家さんのゾンビ・テーマのホラーアンソロジーとしては、『異形コレクション』の中の
「屍者の行進」というのがあります。ここの書庫にも近日登場予定。
また、本書を編纂したスキップ&スペクターが共作した長編ホラー「けだもの」「闇の果ての光」が最近、文春文庫から刊行されています(書庫に登場するのは当分先(^^;)。

<収録作品と作者>上巻:「花盛り」(チャン・マコンネル)、「森のレストラン」(リチャード・レイモン)、「唄え、されば救われん」(ラムジー・キャンベル)、「ホーム・デリヴァリー」(スティーヴン・キング)、「始末屋」(フィリップ・ナットマン)、「地獄のレストランにて、悲しき最後の逢瀬」(エドワード・ブライアント)、「胴体と頭」(スティーヴ・ラスニック・テム)、「選択」(グレン・ヴェイジー)、「おいしいところ」(レス・ダニエルズ)
下巻:「レス・ザン・ゾンビ」(ダグラス・E・ウィンター)、「パヴロフの犬のように」(スティーヴン・R・ボイエット)、「がっちり食べまショー」(ブライアン・ホッジ)、「キャデラック砂漠の奥地にて、死者たちと戯るの記」(ジョー・R・ランズデール)、「サクソフォン」(ニコラス・ロイル)、「聖ジェリー教団VSウォームボーイ」(デイヴィッド・J・ショウ)、「わたしを食べて」(ロバート・R・マキャモン)

オススメ度:☆☆

2003.4.18


神の目の凱歌(上・下) (SF)
(ラリー・ニーヴン&ジェリー・パーネル / 創元SF文庫 1998)

ニーヴン&パーネルコンビの初の合作である「神の目の小さな塵」の、続編です。
とは言っても、前作が日本で出たのは1978年のこと。本屋で見かけた時には「ふうん、なんか面白そうな新作が出てるな。ハインラインが激賞してるんだ。でも、あまり良く知らない人が書いてるなあ」と思ったものでした。だって当時はまだニーヴンもパーネルも知らなかったんだってば!
四半世紀を隔てて読んだものですから、前作のストーリーはほとんど忘却の彼方。とにかくモート人という異星人と人類とのファースト・コンタクトを描いたものだ、としか覚えていませんでした。どこか地味な印象があったのですが、本作で言及される内容を見ると、覚えていたよりもスリリングな内容だったようです。
とにかく、前作のラストで、モート人(今回は“モーティー”という表現に統一されています)が宇宙へ進出してくることに危惧を抱いた人類帝国が、モート星系を艦隊で封鎖したわけですが、それから20年。天文学者が予想もしなかった自然現象によって、モーティー封じ込めに破綻が生じる可能性が出てきました。それを防ぐために、主人公らはモート星域に急行するのですが・・・。
前半は状況説明やら何やらで、ちともたつくのですが、後半は一気呵成。
前作で描けなかった宇宙戦闘シーンをふんだんに盛り込んで、ラストはいかにもアメリカ正統派SF。
未読の方は、ぜひとも前作と合わせてお読みいただくことをお勧めします。前作も重版されてるし。

オススメ度:☆☆☆☆

2003.4.21


爬虫館事件 (怪奇:アンソロジー)
(角川ホラー文庫 1998)

大正から昭和初期にかけて一世を風靡した雑誌『新青年』。
そこから怪奇・幻想色の強い作品(だってホラー文庫だし)を選りすぐった作品集です。
この時期のこの種の作品って、とっても肌に合います。ですから、最近になって春陽文庫やちくま文庫から作家別の作品集が出ているのが、とても嬉しいです(ちくまは高すぎるけどな(^^;)。
この作品集もかなりの粒揃い。中には「なんだこりゃ」ってのもありますけど。
正統派幽霊譚「逗子物語」(橘 外男)、怪奇探偵小説の正道を行く「爬虫館事件」(海野 十三)、エキゾチック・サスペンス「タヒチの情火」(香山 滋)、ロマンチック幻想譚「水色の目の女」(地味井 平造)など、古めかしさは否めませんが、どこか懐かしく郷愁をそそる逸品です。

<収録作品と作者>「面影双紙」(横溝 正史)、「七つの閨」(水谷 準)、「血笑婦」(渡辺 啓助)、「+・−」(城 昌幸)、「灯台鬼」(大阪 圭吉)、「火星の運河」(江戸川 乱歩)、「柘榴病」(瀬下 耽)、「人の顔」(夢野 久作)、「爬虫館事件」(海野 十三)、「水色の目の女」(地味井 平造)、「恐水病患者」(角田 喜久雄)、「蛞蝓綺譚」(大下 宇陀児)、「本牧のヴィナス」(妹尾 アキ夫)、「氷れる花嫁」(渡辺 温)、「氷人」(南沢 十七)、「タヒチの情火」(香山 滋)、「猫柳の下にて」(三橋 一夫)、「黒い手帳」(久生 十蘭)、「逗子物語」(橘 外男)

オススメ度:☆☆☆☆

2003.4.22


凍月 (SF)
(グレッグ・ベア / ハヤカワ文庫SF 1998)

ベアにしては、かなり短いです。そして地味。
特に日本語版に寄せてくれた作者の序文が巻頭に付されていますので、作者の意図はよくわかります。逆に序文がなかったら、なんとなく中途半端な印象で終わってしまったかも(笑)。
以前に読んだ
「火星転移」(これは読み応えのある佳作でした)と同じ未来史の時間線に位置する作品で、舞台は月。月の地下に穿たれた天然の洞窟では、とあるBM(「結束集団」と訳される。氏族みたいなもの)絶対零度を実現するという実験が行われていました。折しも、同じBMの一員が地球で冷凍保存されていた410体の生首(!)を洞窟に運び込んできます。最新の量子コンピュータを利用して、この死者たちの意識を再生しようというのです。ところが、新興宗教団体を母体とする別のBMが政治的圧力をかけてきて・・・という次第。
アメリカで幅を利かせているある実在の新興宗教団体(「サイ●ントロジー」って、日本にも支部があって活動してますよね。以前、東京駅前でビラを渡されたことがあります)をモデルにして批判しています。この論旨には賛成。でも、小説としてはちと食い足りないかも。

オススメ度:☆☆

2003.4.23


疾風魔法大戦 (ファンタジー)
(トム・ホルト / ハヤカワ文庫FT 1998)

いわゆる“ユーモア・ファンタジー”に分類される作品です。
ただ、タイトルから想像される内容とは若干ギャップがありました。
スコットランドの塚から発見されたバイキングの船。そこには、当時の日用品や宝物の他に、戦装束に身を固めた13人のバイキングの遺体が、眠っているかのように安置されていました。
ところが、発掘した女性考古学者ヒルディの目の前で、かれらは目覚めます。1200年前、邪悪な魔法使いと戦ったロルフ王と12人の勇士が、再び世界が魔法使いの手に落ちる日によみがえるべく、眠りについていたというのです。ヒルディは案内役として、かれらと同行することになります。
一方、当の魔法使いはどうしていたかというと、すっかり現代に同化して、世界最大規模のコングロマリットの総帥として世界経済を牛耳っていました。
さらに、遺跡を取材に来たBBCのプロデューサー、ダニーも事件に巻き込まれます。このダニーという人物、陰謀史観にどっぷりハマっていて(ケネディ暗殺は英国全酪協会の陰謀だと主張している、まさにトンデモさん)、出会ったバイキング一行をCIAかどこかのエージェントと思い込み、スクープを確信して追いかけ始めます。
しかし、現代文明を見てもちっとも驚かないバイキングたち。
「そうか、この時代では魔法のことを“てくのろじい”と呼ぶのか」で納得してしまう(笑)。この辺の微妙なアンバランスさが笑いを誘います。
“モンティ・パイソン”風味と書かれていますが、まさにその通り。連発されるギャグの数々は、とても紹介し切れません。読んでみるべし。
ところが、解説で「こういう作品があと14作もあります。読者の支持があれば、次々と刊行されるでしょう」とか書いてあるのに、5年経った今も刊行されてませんね(汗)。
人気なかったんだろうか・・・。

オススメ度:☆☆☆

2003.4.24


逆襲の<野獣館> (ホラー)
(リチャード・レイモン / 扶桑社ミステリー 1998)

“鬼畜系お下劣ホラー”の佳作(という言い方も妙ですが)「殺戮の<野獣館>」の続編です。
前作を読んだのが、ほぼ1年前。ストーリーはほとんど忘れ去っていましたが、ラストのとんでもなさとやりきれなさだけは覚えていました。
今回は、前作のクライマックス近くで一騒ぎ起こったモーテル『ウェルカム・イン』の娘ジャニス(彼女も前作の事件に巻き込まれてひどい目に遭っている)が、怪奇作家ゴーマンに“野獣”に関する手紙を送るところから始まります。
一方、前作で“野獣”に殺された警官ダンの元恋人タイラー(事件のことは知らない)は、親友ノーラと共に、ダンを探して『ウェルカム・イン』にやって来ます。ひょんなことから知り合った海兵隊上がりの若者コンビと意気投合、好奇心にかられて<野獣館>ツアーに参加します。
金儲けの臭いをかぎつけたゴーマンも現地にやって来ますが、この男、品性下劣な金銭欲と名誉欲の権化で、金のためなら殺しも辞さない、でも臆病者という絵に描いたような下司野郎。その助手がジャニスをたらしこもうとするところで、第一の事件が起こります。
あとは雪崩を打って、血しぶき飛び散るノンストップ・スプラッターに突入。
結局、若者グループが<野獣館>の謎を解いて、“野獣”も倒されるのですが、そこはやっぱりレイモン、しっかり次回へのヒキは残しています。
第3作も98年にあちらでは出ているのですが、残念ながら(幸いにも?)現時点で邦訳はされていないようです。
万一、お読みになりたいという方は、第1作から読むべきかと思います(本作では第1作のネタばらしをかなりやってますので)。

オススメ度:☆☆

2003.4.25


屍者の行進 (ホラー:アンソロジー)
(井上 雅彦:編 / 廣済堂文庫 1998)

ジャンル別ホラー・アンソロジー『異形コレクション』の第6巻。
今回のテーマは“屍体”です。
先日読んだ
「死霊たちの宴」と好一対かな? と思って読み始めましたが・・・。明らかにこっちの方が広くて深いです。
「死霊たちの宴」に収録された作品はすべてロメロ映画の延長線上にあって、あのイメージの制約から離れられない(もっとも、そういう趣向で集められたという事情もある)のに対して、こちら「屍者の行進」はもっとイメージが多彩で豊か。キリスト教文化に影響された思考体系に限定されているアメリカ作家よりも、日本人作家の方が明らかに死に対するタブー(意識的、無意識的を問わず)が少ないのかも知れません。
ホラーと言うよりは泣かせるファンタジーの逸品「脛骨」(津原 泰水)や「語る石」(森 奈津子)、ビジュアル・イメージが後を引く「屍蒲団」(神宮寺 秀征)、ネクロフィリアの極致「黄沙子」(村田 基)など、粒揃いです。

<収録作品と作者>「昔恋しい」(早見 裕司)、「春の妹」(安土 萌)、「薔薇よりも赤く」(篠田 真由美)、「部屋で飼っている女」(小中 千昭)、「草笛の鳴る夜」(倉阪 鬼一郎)、「楽園」(森 真沙子)、「屍蒲団」(神宮寺 秀征)、「三次会まで」(中井 紀夫)、「晴れない硝煙」(江坂 遊)、「壁、乗り越えて」(かんべ むさし)、「僕の半分の死」(本間 祐)、「虫すだく」(加門 七海)、「ジャンク」(小林 泰三)、「脛骨」(津原 泰水)、「肉食」(北野 勇作)、「黄沙子」(村田 基)、「語る石」(森 奈津子)、「地獄の釜開き」(友成 純一)、「死にマル」(岡本 賢一)、「青頭巾」(井上 雅彦)、「農園」(竹河 聖)、「豊国祭の鐘」(朝松 健)、「ちょっと奇妙な」(菊地 秀行)

オススメ度:☆☆☆

2003.4.27


桜信仰と日本人 (ノンフィクション)
(田中 英明:監修 / 青春出版社 2003)

訳あって、ここのところ桜関係の情報収集をしているのですが。
その資料ひとつめ。
「サクラ」という名の語源だとか、「花見」の風習の由来だとか、日本にはどんな種類の桜があるのかとか、桜と関わった人々のエピソードとか、知らなかったことばかりだったので、なかなか興味深かったです。
巻末に日本全国の桜の名所の案内も載っているので、入門書としては手頃かも。安いし(笑)。

オススメ度:☆☆

2003.4.28


桜と日本人 (ノンフィクション)
(小川 和佑 / 新潮選書 1997)

桜の資料その2。
歴史や文学における桜の扱われ方がわかりそうだと思って買った本ですが。
なんか違和感が。
著者はけっこう偉い国文学者らしいのですが(全然知らなかった(^^;)、文章が微妙に独善的で説教調なので、読み進むのに抵抗を覚えます(なんだよ、えっらそうに、と感じてしまうのです)。
また、桜や文学作品には造詣が深いのですが、その他の知識は心もとなく、勘違いか思い込みによると思われる不自然な記述が散見されます。
上野寛永寺は江戸城の西北・乾に地を占めるとか(23ページ):寛永寺は江戸城の東北(艮)に当たります。天海僧正が鬼門封じのために東北方向に置いたという俗説は信憑性が薄いですが、少なくとも東寄りにあるのは確か。
富士火山のシラス台地とか(65ページ):シラス台地といえば南九州でしょう。確かに“シラス”とは火砕流性堆積物の一種を表す一般名詞ですが、富士山由来のシラスって聞いたことがありません。だいたい関東の土壌は白じゃなくて赤(ローム層)だろ!
このような記述があるために、他の部分の内容もいまひとつ信用できない気分になってしまいます。
あと、野生種の桜を偏愛し、ソメイヨシノをはじめとする園芸種の桜を必要以上に貶める発言が散見されるのも、なんとなく不愉快。「ふーん、そうですか」としか言いようがありません。
本題に関してはけっこう深みのある考察をしていると思うんですけど・・・上記のような理由から2度読む気にはなりません。書き方で損をしている典型だと思います。

オススメ度:☆

2003.4.29


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