水妖 (ホラー:アンソロジー)
(井上 雅彦:編 / 廣済堂文庫 1998)
テーマ別書き下ろしホラー・アンソロジー“異形コレクション”の第5弾。今回のテーマはタイトルの通り「水の怪物」です。
全体が3部構成で、「淡の章」「浸の章」「海の章」となっています。第2章は大地に滲み込む水のイメージだそうです。
水が苦手なので(実はカナヅチ(^^;)、ぞくぞくしながら読み進めました。
ラストのとんでもない視覚イメージが圧巻の「ウォーター・ミュージック」(奥田 哲也)、クロフォードの傑作「上段寝台」を和風に換骨奪胎した「海の鳴る宿」(竹河 聖)、読後感がさわやかな幽霊譚「水中のモーツァルト」(田中 文雄)、おぞましきクトゥルー時代譚「水虎論」(朝松 健)などが好き。
<収録作品と作者>「水虎論」(朝松 健)、「貯水槽」(村田 基)、「すみだ川」(加門 七海)、「水中のモーツァルト」(田中 文雄)、「濁流」(岡本 賢一)、「水底」(安土 萌)、「乾き」(中原 涼)、「川惚れの湯」(草上 仁)、「金魚姫」(松尾 未来)、「月の庭」(早見 裕司)、「FAERIE TAILS」(村山 潤一)、「溺れた金魚」(山田 正紀)、「断章」(皆川 博子)、「蟷螂の月」(菅 浩江)、「Mess」(ヒロモト 森一)、「安珠の水」(津原 泰水)、「還ってくる――」(篠田 真由美)、「魚石譚」(南條 竹則)、「留奈」(江坂 遊)、「ウォーター・ミュージック」(奥田 哲也)、「水の牢獄」(森 真沙子)、「ほえる鮫」(井上 雅彦)、「海の鳴る宿」(竹河 聖)、「水妖記」(倉阪 鬼一郎)、「水の記憶」(菊地 秀行)、「Zodiac and Water Snake」(ヴィヴィアン佐藤)
オススメ度:☆☆☆
2003.3.30
怪獣文学大全 (怪奇:アンソロジー)
(東 雅夫:編 / 河出文庫 1998)
裏表紙には「あらゆる分野に登場するとびきりの《怪獣》たちを集大成した、空前絶後の大アンソロジー」と書いてありますが・・・。
それほどのものではないです(笑)。
収録されている13編のうち“マタンゴ”ネタが5編もあるのは、さすがというべきか。
やっぱりあの映画は地味ながらインパクトがあったんですね。
“マタンゴ”の元ネタとなったW・H・ホジスンの「闇の声」が再録されているのも嬉しいです。でも収録されるたびに邦題が違うってのはどういうことよ(笑)。この本では「闇の声」、創元推理文庫版では「夜の声」、角川文庫版(「怪奇と幻想2」に所収)では「闇の海の声」。原題は“The Voice in the Night”。まあどれでもいいか。
また、映画「モスラ」の原作「発光妖精とモスラ」も収録されていて、初めて読みました。面白さというよりも、資料的価値が高いアンソロジーかと。
なお、姉妹編(?)「恐竜文学大全」も同文庫から刊行されています。
<収録作品と作者>「「ゴジラ」の来る夜」(武田 泰淳)、「発光妖精とモスラ」(中村 真一郎・福永 武彦・堀田 善衛)、「闇の声」(ウィリアム・ホープ・ホジスン)、「マタンゴ」(福島 正実)、「マタンゴを喰ったな」(橋本 治)、「更にマタンゴを喰ったな」(橋本 治)、「マタンゴ」(大槻 ケンヂ)、「科学小説」(花田 清輝)、「ガブラ――海は狂っている」(香山 滋)、「マグラ!」(光瀬 龍)、「日本漂流」(小松 左京)、「レッドキングの復讐」(井上 雅彦)、「ゴジラの来迎」(中沢 新一)
オススメ度:☆☆☆
2003.4.11
死霊たちの宴(上・下) (ホラー:アンソロジー)
(ジョン・スキップ&クレイグ・スペクター:編 / 創元推理文庫 1998)
これは、世界初の“ゾンビ・ホラー”アンソロジーです。ジョージ・A・ロメロが序文を書いてます。どの作家も気合入りまくってます。
もう全篇、どろどろぐちゃぐちゃ、ぬめぬめべっちょり、がぶりはぐはぐ。(いや、そうじゃない作品もありますが)
食前食後ないしは食事中には読まない方が良いかと(←でも、お昼食べながら読みふけってたやつ)。
もともと視覚に訴えるショッカー(仮面ライダーに出てくる暗黒組織ではない)系映像は苦手で、中でも特にゾンビ系はダメ。だから、ロメロもトム・サビーニもすべてご遠慮させていただいています(あ、でも「クリープショー」は面白かったな)。ところが、同じスプラッター系でも、小説となると全然平気なのが不思議ですね。
このアンソロジーを読むと、ゾンビ系ホラーも、すでに死者が生き返って歩き回って生身の人間を食らうという原初的な恐怖を描くことから脱皮して、新たなテーマを目指している(例えば死者が生き返るのが常識となっている世界で何が起こるか)ということがよくわかります。
掲載作品の中では、マキャモンの「わたしを食べて」が出色。まさかゾンビ小説で感動するとは思わなかったよ・・・。
ちなみに日本の作家さんのゾンビ・テーマのホラーアンソロジーとしては、『異形コレクション』の中の「屍者の行進」というのがあります。ここの書庫にも近日登場予定。
また、本書を編纂したスキップ&スペクターが共作した長編ホラー「けだもの」や「闇の果ての光」が最近、文春文庫から刊行されています(書庫に登場するのは当分先(^^;)。
<収録作品と作者>上巻:「花盛り」(チャン・マコンネル)、「森のレストラン」(リチャード・レイモン)、「唄え、されば救われん」(ラムジー・キャンベル)、「ホーム・デリヴァリー」(スティーヴン・キング)、「始末屋」(フィリップ・ナットマン)、「地獄のレストランにて、悲しき最後の逢瀬」(エドワード・ブライアント)、「胴体と頭」(スティーヴ・ラスニック・テム)、「選択」(グレン・ヴェイジー)、「おいしいところ」(レス・ダニエルズ)
下巻:「レス・ザン・ゾンビ」(ダグラス・E・ウィンター)、「パヴロフの犬のように」(スティーヴン・R・ボイエット)、「がっちり食べまショー」(ブライアン・ホッジ)、「キャデラック砂漠の奥地にて、死者たちと戯るの記」(ジョー・R・ランズデール)、「サクソフォン」(ニコラス・ロイル)、「聖ジェリー教団VSウォームボーイ」(デイヴィッド・J・ショウ)、「わたしを食べて」(ロバート・R・マキャモン)
オススメ度:☆☆
2003.4.18
爬虫館事件 (怪奇:アンソロジー)
(角川ホラー文庫 1998)
大正から昭和初期にかけて一世を風靡した雑誌『新青年』。
そこから怪奇・幻想色の強い作品(だってホラー文庫だし)を選りすぐった作品集です。
この時期のこの種の作品って、とっても肌に合います。ですから、最近になって春陽文庫やちくま文庫から作家別の作品集が出ているのが、とても嬉しいです(ちくまは高すぎるけどな(^^;)。
この作品集もかなりの粒揃い。中には「なんだこりゃ」ってのもありますけど。
正統派幽霊譚「逗子物語」(橘 外男)、怪奇探偵小説の正道を行く「爬虫館事件」(海野 十三)、エキゾチック・サスペンス「タヒチの情火」(香山 滋)、ロマンチック幻想譚「水色の目の女」(地味井 平造)など、古めかしさは否めませんが、どこか懐かしく郷愁をそそる逸品です。
<収録作品と作者>「面影双紙」(横溝 正史)、「七つの閨」(水谷 準)、「血笑婦」(渡辺 啓助)、「+・−」(城 昌幸)、「灯台鬼」(大阪 圭吉)、「火星の運河」(江戸川 乱歩)、「柘榴病」(瀬下 耽)、「人の顔」(夢野 久作)、「爬虫館事件」(海野 十三)、「水色の目の女」(地味井 平造)、「恐水病患者」(角田 喜久雄)、「蛞蝓綺譚」(大下 宇陀児)、「本牧のヴィナス」(妹尾 アキ夫)、「氷れる花嫁」(渡辺 温)、「氷人」(南沢 十七)、「タヒチの情火」(香山 滋)、「猫柳の下にて」(三橋 一夫)、「黒い手帳」(久生 十蘭)、「逗子物語」(橘 外男)
オススメ度:☆☆☆☆
2003.4.22
屍者の行進 (ホラー:アンソロジー)
(井上 雅彦:編 / 廣済堂文庫 1998)
ジャンル別ホラー・アンソロジー『異形コレクション』の第6巻。
今回のテーマは“屍体”です。
先日読んだ「死霊たちの宴」と好一対かな? と思って読み始めましたが・・・。明らかにこっちの方が広くて深いです。
「死霊たちの宴」に収録された作品はすべてロメロ映画の延長線上にあって、あのイメージの制約から離れられない(もっとも、そういう趣向で集められたという事情もある)のに対して、こちら「屍者の行進」はもっとイメージが多彩で豊か。キリスト教文化に影響された思考体系に限定されているアメリカ作家よりも、日本人作家の方が明らかに死に対するタブー(意識的、無意識的を問わず)が少ないのかも知れません。
ホラーと言うよりは泣かせるファンタジーの逸品「脛骨」(津原 泰水)や「語る石」(森 奈津子)、ビジュアル・イメージが後を引く「屍蒲団」(神宮寺 秀征)、ネクロフィリアの極致「黄沙子」(村田 基)など、粒揃いです。
<収録作品と作者>「昔恋しい」(早見 裕司)、「春の妹」(安土 萌)、「薔薇よりも赤く」(篠田 真由美)、「部屋で飼っている女」(小中 千昭)、「草笛の鳴る夜」(倉阪 鬼一郎)、「楽園」(森 真沙子)、「屍蒲団」(神宮寺 秀征)、「三次会まで」(中井 紀夫)、「晴れない硝煙」(江坂 遊)、「壁、乗り越えて」(かんべ むさし)、「僕の半分の死」(本間 祐)、「虫すだく」(加門 七海)、「ジャンク」(小林 泰三)、「脛骨」(津原 泰水)、「肉食」(北野 勇作)、「黄沙子」(村田 基)、「語る石」(森 奈津子)、「地獄の釜開き」(友成 純一)、「死にマル」(岡本 賢一)、「青頭巾」(井上 雅彦)、「農園」(竹河 聖)、「豊国祭の鐘」(朝松 健)、「ちょっと奇妙な」(菊地 秀行)
オススメ度:☆☆☆
2003.4.27