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イクシーの書庫・過去ログ(2004年1月〜2月)

<オススメ度>の解説
 ※あくまで○にの主観に基づいたものです。
☆☆☆☆☆:絶対のお勧め品。必読!!☆☆:お金と時間に余裕があれば
☆☆☆☆:読んで損はありません:読むのはお金と時間のムダです
☆☆☆:まあまあの水準作:問題外(怒)


逆説の日本史5 中世動乱編 (歴史ノンフィクション)
(井沢 元彦 / 小学館文庫 2000)

新たな視点から日本史を見つめなおす『逆説の日本史』シリーズ第5巻。
今回のテーマは鎌倉幕府と武家政治の確立です。
鎌倉幕府の設立を源平の対立という視点から教えられていた身には、当時の日本の状況を三国志時代の中国になぞらえる本書の解釈は実に新鮮で、目からウロコが落ちまくり。
歴史の教科書ではさりげなく触れられて終わっている「承久の乱」の真の意味とか、御成敗式目の背景にある“道理”の理念とか、現代の政治(特に憲法改正論)にも関わってくる、深く考えさせられるネタが揃っています。

オススメ度:☆☆☆☆

2004.1.2


妖かしの宴 (ホラー:アンソロジー)
(水木しげる:監修 / PHP文庫 1999)

日本に昔から伝わる「わらべ唄」をテーマに、ホラー作家さんたちがそれぞれ短編を書くという趣向のアンソロジー。
テーマになっているわらべ唄は、郵便屋さん、花いちもんめ、たこ凧あがれ、蛍こい、ひらいたひらいた、かごめ、今年の牡丹、通りゃんせ、ずいずいずっころばし――と9編ですが、「郵便屋さん」と「今年の牡丹」って、知りませんでした。育った時代や地域によって違うんでしょうね。
内容としては、前半はありがちなワンパターンの因果応報譚が多くて、これが水木さんの趣味かい?と思っていましたが、後半はかなりバラエティに富んできて、まあそれなりに楽しめました。でも全体的な作品レベルとしては『異形コレクション』に比べて劣っているような気がします。
できれば、それぞれのわらべ唄に関する水木さんの薀蓄がひとくさり聞きたかったところですが。まさかと思うけど、水木さんは名前を貸しただけで、その名前を餌に読者を釣ろうという魂胆じゃあるまいね?
パチンコネタがユニークな「ひらいたひらいた」(藤 水名子)、これぞ水木しげるワールドというイメージの「籠女」(高瀬美恵)、凄惨な展開に見せかけて読後感がさわやかな「ずいずいずっころばし」(秋月達郎)などがお勧めでしょうか。

<収録作品と作者>「郵便屋さん ―タイムカプセル」(新津 きよみ)、「花いちもんめ ―そして誰もいなくなる」(矢島 誠)、「たこ凧あがれ ―とむらい凧」(西谷 史)、「蛍こい ―まぼろしの渓奇譚」(樋口 明雄)、「やまたのおろち」(水木 しげる)、「ひらいたひらいた ―一番初めは」(藤 水名子)、「籠女 ―鳥の祝ぎ歌」(高瀬 美恵)、「今年の牡丹 ―花影」(加門 七海)、「通りゃんせ ―夏、訪れる者」(霜島 ケイ)、「ずいずいずっころばし ―茶壺」(秋月 達郎)

オススメ度:☆☆☆

2004.1.2


サイコメトリック・キラー (サスペンス)
(ダイナ・グラシウナス&ジム・スターリン / ハヤカワ文庫NV 1999)

タイトルの通り、サイコホラーです。ただし、前半は。
主人公デイヴィッドはサイコメトラー。つまり、持ち物や本人の身体に触れただけで、相手の身の上や心の中がわかってしまうという超能力の持ち主です。普通のこのネタのホラーだと、主人公は殺人鬼の目を通して現場を目の当たりにしてしまったりしておののき、結局はその殺人鬼に命を狙われるというのが定番ですが(J・ハーバートの「ムーン」とかK・グリーンの
「ブラック・ドリーム」とかB・ウッドの「人形の目」とか)、本作はちょいとひねってありまして、デイヴィッド自身も連続殺人犯なのです。
もっとも、ただのキ●ガイではなく、妻子を猟奇殺人魔に殺され、復讐のために自分の超能力を使って、それがきっかけで、アメリカ全土の連続殺人鬼の犯行を暴いては犯人を次々と殺していくという次第。
そして、もうひとりの主人公はデイヴィッドを7年に渡って追い続けるFBI捜査員アイラと、相棒の女性捜査員ヴィーダ。
新たな連続殺人鬼の後を追ってニューヨークへ赴いたデイヴィッドですが、被害者の遺族の女性アンジェラに心惹かれます。しかし、今度の相手はこれまでのような単なるキ●ガイ殺人鬼とは違っていました。
敵の正体が明らかになる後半は、サイコ・ホラー風味から謀略サスペンスに様変わりして、デイヴィッドの超能力もいつの間にかどこかへすっ飛んでいってしまいます(笑)。
テンポはいいし、キャラは立っているし、さくさく読み進められるのですが、ラストのどんでん返しのきっかけになるエピソードが前半の設定をあっさり無視した展開になるところが残念。さりげなく書いてごまかしたつもりなのか、本人も気付かず筆が滑ったのかは不明ですが。ちょっと結末への持って行き方が強引だったのかなあ。
でも面白いですよ。

オススメ度:☆☆☆

2004.1.3


トキシン (サスペンス)
(ロビン・クック / ハヤカワ文庫NV 1999)

おなじみロビン・クックのメディカル・サスペンスです。
今回のテーマは、O157です。覚えてますか? 世間ではSARSだBSEだと騒いでいますが、数年前に日本でも流行して大問題になった病原性大腸菌です。タイトルの“トキシン”とは毒素という意味で、O157が出す強力なベロ毒素(腸壁を破壊して出血させ、全身に回れば多臓器不全を引き起こす)のことです。
主人公キムは心臓外科医ですが、勤務先の病院の経営母体が代わり、利益・効率優先の病院運営となったことに不満を持っています。また私生活では離婚した妻トレイシーとの間に一人娘のベッキーがいます。ベッキーがO157に感染してしまうところから、物語は進んでいきます。感染の原因は、汚染された牛肉を原料とするハンバーガー(しかも生焼け!)を食べたことでした。しかし、その背後には権益優先の食品業界と政治との醜い癒着があったのです。
というところで、中盤から展開は社会派ミステリ風味に。キムの頼みを受けて食肉処理会社を調査に赴いた農務省の女性職員が行方不明となり、キム自身の身にも危険が降りかかります。
巨悪を前に立ち上がるキムとトレイシー。ふたりの運命は・・・。
相変わらずテンポもいいし、さくさく読み進められます。若干、ラストが弱いような気がしますが、まあ好みの問題でしょう。フィクションだと断り書きは付いていますが、現実にありそうなお話で怖いです。

オススメ度:☆☆☆

2004.1.5


いさましいちびのトースター (ファンタジー)
(トーマス・M・ディッシュ / ハヤカワ文庫SF 2000)

SF文庫から出ていますけれど、これはメルヘンです。おとぎ話です。
作者のディッシュは、SFやらダーク・ファンタジーやらをいろいろ書いている人です。破滅SFの古典「人類皆殺し」とか、ブラックな味わいのダーク・ファンタジー
「M・D」とか、一癖ある作風だと思っていたのですが、こんな素敵なお話も書く人だったのですね。
ご主人が寄り付かなくなった郊外の別荘に置き去りにされた電気器具たち。主人が訪れなくなって2年半、ついにしびれを切らした器具たちは、“いさましいちびの”トースターの指揮の下、ご主人探しの旅に出ます。メンバーはトースター以下、ラジオ、掃除機、電気毛布、卓上スタンド。もちろん電気がなければ動けませんから物置からバッテリーを探し出し・・・と、論理的整合性(?)もばっちり。
森を抜け、雨に降られ、動物と触れ合い、災難を切り抜け、町のご主人の自宅を目指す電気器具たちの行く手には待っていたのは――。
ここから先はご自分でお読みください。損はしません。
続編「いさましいちびのトースター火星へ行く」も出ています。

オススメ度:☆☆☆☆

2004.1.6


いさましいちびのトースター火星へ行く (ファンタジー)
(トーマス・M・ディッシュ / ハヤカワ文庫SF 2000)

「いさましいちびのトースター」の続編です。
短いし読みやすいので、1日に2冊読みきってしまいました(笑)。
前巻のラストで安住の地を見つけた電気器具たちですが、そこに新たな事件が。
新たな住処で仲間に加わった電卓や補聴器のおかげで、受信性能が飛躍的に高まったラジオが、妙な放送を受信するようになりました。なんと、それは火星からの電波で、「人類や生物を倒して電気器具の世界を作ろう!」というスローガンだったのです。
火星の電気器具が地球を侵略しようとしている! それを止められるのは自分たちしかいない! と決断したトースター(なんでそう思い込めるんだ?というツッコミは置いておきましょう(^^;)、ご主人が長期旅行に出かけた晩、宇宙へ飛び立ちます。
なんで単なる家電に宇宙旅行ができるのかというと、ちゃんとSF的裏づけがあって、新たに仲間になった補聴器が、実はアインシュタイン博士が発明した試作品だったという次第(アインシュタインが補聴器を発明したというのは事実らしいです)。宇宙飛行中にも「冷たい方程式」のパロディのエピソードがあったり、どうして火星に家電文明(笑)が築かれていたのかという謎にもちゃんと説得力のある説明があったり、前作よりもこちらの方が本格SFの香りが横溢しています。
2作合わせて、ぜひ書棚に一組(別に早川さんからなにかもらっているわけではありません)。全編に散りばめられたイラストもかわいいですよ。

オススメ度:☆☆☆☆

2004.1.6


タンブーラの人形つかい (SF)
(竹本 健治 / ハルキ文庫 2000)

SFアクション、『パーミリオンのネコ』シリーズの第2弾です。
とはいえ、第1弾の「殺戮のための超・絶・技・巧」を徳間文庫版で読んだのは8年も昔のこと。続きが出るか気にはしていたのですが、どうやら出なかったようです(そりゃ徳間だからねえ)。
そして、ハルキ文庫が第4巻まで復刊させてくれたという次第。ありがたやありがたや。
“ネコ”という通り名で呼ばれるヒロインは、プロの暗殺者。政府機関に雇われて、極悪の犯罪者を狩り出し、始末するのが任務ですが、その任務が失敗する確率は100万分の1――だから“パーミリオン”と呼ばれるわけです。
その“ネコ”の今回の任務は、惑星タンブーラの惑星連合加盟阻止をもくろむテロリスト、ドゥーガーを始末すること。ドゥーガーは女性ばかりを洗脳しては手足のように使って暗殺を繰り返し、本人は決して表舞台に現れません。相棒の凄腕ハッカー、ノイズ(このおっさんは冴えない中年男で、ネコに惚れています)と共に休暇を装ってタンブーラに下り立った“ネコ”と“人形つかい”ドゥーガーとの対決の行方はいかに!?
快調なテンポで、二重三重のどんでん返しもあり、楽しめると思います。
第3巻
「兇殺のミッシングリンク」、第4巻「“魔の四面体”の悪霊」もハルキ文庫から出ています。当コーナーにも近日登場。

オススメ度:☆☆☆

2004.1.7


闇へ降りゆく (ホラー)
(ディーン・クーンツ / 扶桑社ミステリー 2000)

クーンツの中短編集『ストレンジ・ハイウェイズ』の第2巻です。
今回はSF風味、ファンタジー風味、ミステリ風味とバラエティに富んだホラー短編が7つ収録されています。
愛はすべてに勝つという臆面のなさが清々しい「フン族のアッチラ女王」、SFとハードボイルドとメルヘンとギャグのミスマッチが絶妙な「ブルーノ」、超能力者の悲哀をあふれるペーソスで描く「オリーの手」、モダンホラーの王道「罠」など、キングと違ってどれも読後感がよく、安心して読めます。

<収録作品>「フン族のアッチラ女王」、「闇へ降りゆく」、「オリーの手」、「ひったくり」、「罠」、「ブルーノ」、「ぼくたち三人」

オススメ度:☆☆☆

2004.1.8


メタ心理戦争 (SF)
(クラーク・ダールトン&H・G・フランシス / ハヤカワ文庫SF 2004)

“ペリー・ローダン・シリーズ”の第297巻です。もうすぐ300巻ということで、そろそろ内容もこのサイクルの締めに入ってきましたね。
前半のエピソードでは、グッキーとイホ・トロトが偶然にも(笑)事故で11万年の過去へ送られ、偶然に恵まれて(笑)驚くべき事実に気付きます。グッキー自身が「ぼかぁこんなに偶然が続くのは納得できないんだけどなぁ」と自分でツッコミを入れていたりします。ダールトンさん、苦労してるなあ。
でもこのエピソードのおかげで、区切りの
300巻に向けてオチ(違)が見えてきました。かなり強引ですが、よく考えられています。

<収録作品と作者>「メタ心理戦争」(クラーク・ダールトン)、「パラマグの戦い」(H・G・フランシス)

オススメ度:☆☆☆

2004.1.9


ワンダフルライフ (マンガ)
(清原 なつの / ハヤカワ文庫JA 2004)

ハヤカワ文庫版の清原なつのさん作品集、新刊が出ました〜。わーい、嬉しいお年玉です。しかもこれは未読だった作品なので、嬉しさもひとしお。
まさに“なつのワールド”全開のSFホームドラマです。雰囲気は「奥様は魔女」(笑)の逆バージョンでしょうか。
女性漫画家の山田錦さん、ある晩、道に全裸で倒れている酔っ払いの青年を拾って帰ります(ちょっと違う)。この青年、天下太平は実は宇宙人で、正義のヒーロー。でも超能力を使うと体内にアルコールが蓄積されて、泥酔してしまうという代謝の持ち主。
そんなふたりが夫婦となって、一人娘の小学生みずほちゃんと楽しく暮らしています。そこに同じく宇宙人の舅や姑が転がり込んで二世代生活になったり、みずほちゃんの学園生活とか漫画家と担当者の苦悩とか、ありがちなネタではあるのですが、そこの底流をなすのはさりげないセンス・オブ・ワンダーの精神なのですね。そこが何とも言えず素晴らしい。宇宙人と地球人の間で受胎できるのはなぜかといった点で、ちゃんとSF的な考証がなされているのには、にやりとさせられます。わかる人にはわかるSFガジェットがふんだんに散りばめられているのも吉。
これを読んで思い出したのは、伝説の(?)OVA「プロジェクトA子」のオチでした。

<収録作品>「ワンダフルライフ」、「ある晴れた日に」

オススメ度:☆☆☆☆☆

2004.1.10


999 ―妖女たち―  (ホラー:アンソロジー)
(アル・サラントニオ:編 / 創元推理文庫 2000)

「20世紀最後にして最大のホラー・アンソロジー」と銘打たれた大冊の1冊目(文庫版では三分冊で刊行されています)。
なぜタイトルが「999」なのかというと、アメリカでの出版年が1999年だったことと、もうひとつは逆さにすると例の数字になるからだそうです。まあいいんですけど(笑)。
さて、内容ですが、書き手は粒揃いですが、やはり好みに合うのと合わないのがいろいろですね。その点では、編者が目標にしたアンソロジー「闇の展覧会」(ハヤカワ文庫NV)と同じ。
古典的な幽霊屋敷テーマのバリエーションでありながら独特の不気味さが横溢する「コントラカールの廃墟」(J・C・オーツ)、相変わらず達者な「道路ウイルスは北にむかう」(S・キング)、さりげない不気味さが抜群の「増殖」(T・E・D・クライン)、久々に読んだけれどこんな感動的な作品が書けるんだと見直した「妖女たち」(E・V・ラストベーダー)などがお気に入り。逆に、好きな作家のはずなのにわけがわからなかったのが「遍歴」(T・パワーズ)だったり。

<収録作品と作者>「モスクワのモルグにおける死せるアメリクァ人」(キム・ニューマン)、「コントラカールの廃墟」(ジョイス・キャロル・オーツ)、「フクロウと子猫ちゃん」(トーマス・M・ディッシュ)、「道路ウイルスは北にむかう」(スティーヴン・キング)、「形見と宝:ある愛の歌」(ニール・ゲイマン)、「増殖」(T・E・D・クライン)、「《新十二宮クラブ》議事録とヘンリー・ワトスン・フェアファクスの日記よりの抜粋」(チェット・ウィリアムスン)、「ロープ・モンスター」(アル・サラントニオ)、「遍歴」(ティム・パワーズ)、「劇場」(ベントリー・リトル)、「妖女たち」(エリック・ヴァン・ラストベーダー)

オススメ度:☆☆☆

2004.1.11


イエスの遺伝子(上・下) (伝奇)
(マイクル・コーディ / 徳間文庫 2000)

イエス・キリストの血筋とか聖母マリアの復活とか、欧米の伝奇小説にはよくあるネタです。これまで紹介した中にも、「聖なる血」(T・モンテルオーニ)とか「聖母の日」(F・P・ウィルスン)とか。
本作は、その中でもオーソドックスかつ現代的。
主人公トムは遺伝子学者で、同僚の天才的コンピュータ学者ジャスミンと共同で、人間の全遺伝子を読み取る装置を開発しました。その功績でノーベル賞を授与されますが、受賞パーティ後、銃撃され、妻が身代わりとなって亡くなります。
暗殺者の正体は、2000年にわたって原始キリスト教の教義を守って連綿と続いてきた秘密教団ブラザーフッドが差し向けた殺し屋でした。教団は、画期的な遺伝子治療を実現したトムを、神を冒涜する者として暗殺の対象としていたのです。
司法解剖された妻の脳から遺伝性の悪性腫瘍を発見したトムは、ひとり娘ホリーの遺伝子を解読し、彼女が1年以内に悪性の脳腫瘍を発病して死に至る可能性が高いことに気付きます。現代医学の限界を知ったトムは、イエス・キリストが聖書の記述の通り奇跡を成し遂げたとしたら、その遺伝子を受け継いだ人物が現代にも生き残っているのではないかと思い、絶望的な探索を始めます。
一方、新たなる救世主が生まれているという“しるし”を得たブラザーフッド教団は、救世主を見つけ出すためにトムの技術を利用することを計画し、暗殺計画は棚上げにします。しかし、狂信的な暗殺者マリアは教団幹部の命令に反して単独行動に走ります。
古代から続く秘密結社が世界を影で支配するという陰謀史観がしっかり息づいていたり、トムのスタッフに元FBIの腕利き捜査官や凄腕ハッカー(現代を舞台にしたサスペンスでは、今や凄腕ハッカーというのはなくてはならない役柄のようですね)がいたり、道具立ては伝奇小説と謀略小説の王道を行っています。ストーリーを追ううちに、「人の数だけ正義はある」という真理に気付かされて複雑な気持ちにされ、しかし現実的で納得のいく結末にほっとします。

<ご注意>これからこの作品を手にとってみようという方は、絶対に下巻の裏表紙の紹介文を読んではいけません。ストーリーの根幹をなす大ネタが、あっさりと暴露されています。目にしたら最後、読む気が半減します。許せん。

※追記:2005年8月、ハヤカワ文庫NVから出た「メサイア・コード」は同一作品です。もう少しで間違って買っちまうところでした(汗)。

オススメ度:☆☆☆☆

2004.1.13


太陽の王と月の妖獣(上・下) (ファンタジー)
(ヴォンダ・N・マッキンタイア / ハヤカワ文庫SF 2000)

作者のマッキンタイアは90年代に「スター・トレック」のノベライゼーションを多く書いて知られていますが、もともとは前向きな女性がけなげに人生を切り拓いていくお話を書かせれば抜群の人でした。マキャフリイの描くヒロインよりも繊細でリリカル(笑)。
サンリオSF文庫から出ていた「夢の蛇」や「脱出を待つ者」(前者はハヤカワからも出てますな)、ハヤカワ文庫SFの「星の海のミッキー」(残念ながらこれは未読)とか。
さて、本作はSF文庫から出ていますが、17世紀を舞台にした歴史ファンタジーです。帯には“歴史改変SF”と銘打ってありますが、そのイメージで読むと裏切られます(いや、いい意味でね)。この作品がなぜFTではなくSF文庫で出たのか、よくわかりません。編集者が血迷ったか?(笑)
“太陽王”と呼ばれたルイ14世が君臨するヴェルサイユ宮殿に、カリブ海に浮かぶマルチニーク島育ちの二十歳の女性マリーが王弟妃の侍女としてやって来ます。マリーの兄イヴは、イエズス会士にして自然哲学者で、古来の伝説を元に海の妖獣の存在を突き止め、ひとつがいを捕えて宮殿に持ち帰ります。
雄の妖獣は死んで解剖されますが、雌は生きており、マリーが世話をすることになります。醜い姿をした妖獣ですが、人の言葉を真似するように歌い、なぜかマリーにはその意味が伝わるのでした。
一方、宮中には貴族や王族の権謀術数が渦巻き、純真なマリーはその中で翻弄されます。ルイ14世の信頼篤い侏儒の貴族リュシアン伯、好色なロレーヌの騎士、ヴェルサイユを訪れた法王インノケンティウス、トルコ人の女奴隷オドレットなど、様々な人間模様の中でマリーは真実に目覚め、妖獣を解放しようと立ち上がります。
当時の風俗習慣がこと細かに描かれ、華麗な宮廷絵巻と、SF風に言えばファースト・コンタクト・テーマが交じり合い、独特の雰囲気とコクが味わえます。後半ははらはらどきどきの展開。「ベルサイユのばら」がお好きな人にはお勧めです。

オススメ度:☆☆☆☆

2004.1.16


遙か南へ (ホラー)
(ロバート・R・マキャモン / 文春文庫 2000)

次々と大作ホラーを世に送り、ファンを震撼させてきたマキャモン。
そのマキャモンが「超自然的ホラーはもう書かない」と宣言したと聞いた時は相当なショックで、もうマキャモンのホラーは読めないのかと絶望的な思いに沈んだものでした(ちょっと大げさか)。でも、マキャモンは超自然要素がなくても、やっぱりマキャモンでした。
この「遙か南へ」は、宣言から3作目。
主人公ダンは、ベトナム戦争への従軍経験があり、枯葉剤を浴びた影響で白血病に冒され余命数年になっています。ダンは、些細なことから銀行の融資担当者を死なせてしまい、逃亡します。銀行はダンに15000ドルの賞金をかけ、三本腕の賞金稼ぎフリント(なぜ“三本腕”なのかは本文を参照のこと。なかなかホラーっぽい設定です)と相棒のペルヴィス(彼はなんとエルヴィス・プレスリーのそっくりさん。こういう人、アメリカには多いらしいですね)が賞金目当てにダンを追います。南へ南へと逃げるダンは、ドライブインで顔の半分が醜い赤あざでおおわれている女性アーデンを道連れにします。彼女はどんな病も癒してくれるという“ブライト・ガール”という女性を探して旅をしているところでした。
メキシコ湾につづく沼沢地帯で、追う者と追われる者、さらに第三者もからんできて、息をもつかせぬ逃亡・追跡劇が展開されます。
とにかく精緻なプロットとストーリーテリングがマキャモンの真骨頂ですが、この作品も例外ではありません。
「マイン」のスピーディでサスペンスフルな展開と「スワン・ソング」の叙情性が合体し、読ませる小説に仕上がっています。登場人物がみな、重荷を背負っていて(過去であったり病気であったりetc.)、それと正面から対決し克服していくという設定も説得力を持って胸に響きます。

オススメ度:☆☆☆☆

2004.1.19


豹頭王の誕生 (ヒロイック・ファンタジー)
(栗本 薫 / ハヤカワ文庫JA 2000)

“グイン・サーガ”の70巻です。
今回は、キリ番と言いますか記念の巻と言いますか。シリーズ序盤から予告されていたタイトルですね。
内容的には、ケイロニアでグインが即位している頃、パロではナリスの一党が密談し、モンゴールではイシュトヴァーンが鬼畜となる・・・という次第で、まあ三者三様に今後へ向けてじわじわと事態が動き始めております。
グインとシルヴィアの●●シーンがあって度肝を抜かれたり(なんか、この展開を納得させるためにシルヴィアを●●●●に誘拐させて好き放題させたんかい、と邪推したくなるくらい説得力があります)、
前巻で出てきた彼女はチョイ役でそのまま消えるのかと思っていたら、意外に重要な役で今後も生き残るのかなと期待してみたり。
パロではついにXデーが決まりましたね。でもまあこれからひと波乱ふた波乱あるのかと思いますが。

オススメ度:☆☆☆

2004.1.20


震える血 (ホラー:アンソロジー)
(ジェフ・ゲルブ&ロン・フレンド:編 / 祥伝社文庫 2000)

ある意味、画期的なホラー・アンソロジーです。
表紙からして『エロチック・ホラー』と飛ばしてます。これまで、歪んだ愛をテーマにしたホラー・アンソロジーはいろいろ出ていましたが(
「ゴーサム・カフェで昼食を」とか「レベッカ・ポールソンのお告げ」とか「筋肉男のハロウィーン」とか)、どれもまあ、即物的な描写は抑え気味でした。
でも、今回は確信犯のエロ・ホラー尽くし(笑)。確かに、「ポルノとホラー(特にスプラッター)は同根である」と評論家のどなたかがおっしゃっていましたが(要するに、普段は隠されているものをひん剥いて露わにするところが似ている、と(^^;)、まさにその通りですね。
しかも、面白いです。それもそのはず、執筆メンバーはそうそうたる顔ぶれで、マシスン親子、R・R・マキャモン、F・P・ウィルスン、H・エリスン、R・ブロックなど、これでハズレだったら怒るよ、という豪華版。みんな吹っ切れているというか、伸び伸び書いてます。どの作品にも、ほとんど18禁のシーンが出てきます。読んでみようという方はお気をつけください。
内容を(タイトルすら)具体的に紹介するのもはばかられますが(笑)、古典的なホラーネタをエロと結びつけると新鮮な作品に仕上がるのだと感心します。
このアンソロジー、続編が2冊、邦訳されています。近日登場。

<収録作品と作者>「変身」(グレアム・マスタートン)、「わが心のジュリー」(リチャード・マシスン)、「三角関係」(F・ポール・ウィルスン)、「魔羅」(ロバート・R・マキャモン)、「サディスト」(リチャード・クリスチャン・マシスン)、「再会」(マイクル・ギャレット)、「跫音」(ハーラン・エリスン)、「イーディス伯母の秘術」(ゲイリー・ブランナー)、「モデル」(ロバート・ブロック)、「おしゃぶりスージー」(ジェフ・ゲルブ)、「お仕置き」(レイ・ガートン)、「赤い光」(デイヴィッド・J・ショウ)

オススメ度:☆☆☆(自己責任の下でお読みください)

2004.1.22


猿の惑星 (SF)
(ピエール・ブール / ハヤカワ文庫SF 2000)

言わずと知れた映画「猿の惑星」の原作です。
この有名な作品を初めて読むのか〜と、いささか自分にあきれながら読み始めたのですが、最初の1ページを読んで、記憶がよみがえってきました。
これ、読んだことある!!
どうやら、中学時代に図書館でハードカバーを借りて読んでいたようです(汗)。
でも、いいか、ほぼ四半世紀ぶりだし(笑)。
作者のピエール・ブールが「戦場にかける橋」の原作者だったとは、解説を読んで初めて知りました。あああ、不勉強でした〜。
主人公のジャーナリストは、他のふたりの乗組員と共に人類初の恒星間飛行をなし遂げ、ベテルギウス星系に到達します(この辺は、映画とは設定がちょっと違いますね)。その惑星のひとつは地球によく似た星で、そこへ着陸した一行は未開状態の人間たちと、それを狩る知性ある猿に遭遇して唖然とすることになります。
そこから先は、だいたい映画と同じストーリーなので、詳しくは書きません。ラストは違いますけど。 映画では、あっと驚くショッキングな結末が待っていましたが、小説の方のラストもなかなかパンチが効いています。
ちなみに、創元SF文庫から出ている「猿の惑星」は同じ内容(翻訳者が違うだけ)ですが、角川文庫版の「猿の惑星」は映画のノヴェライゼーションですから内容が違います。ご注意。

オススメ度:☆☆☆

2004.1.23


兇殺のミッシング・リンク (SF)
(竹本 健治 / ハルキ文庫 2000)

SFアクション『パーミリオンのネコ』シリーズの第3弾。
今回、主人公の凄腕スナイパー、ネコと相棒のノイズは、惑星ヌーバスを訪れます。この星の情報局員リンメイが、続発する原因不明の事故を調査するために応援を依頼したのです。しかし、到着してみると、リンメイもシャトルの事故に巻き込まれて死亡していました。
独自に調査を始めるネコとノイズですが、遅々として進みません。街を捜索するうちに、ストリートキッズのリーダーでケンカの名手ビュインと知り合いますが、彼は謎の組織に命を狙われているようでした。
相変わらずのアクションもてんこ盛りですが、今回は謎解きもなかなか凝っています。でも、ひねた読者なら、中盤を過ぎたところで真犯人(?)の見当はつきますが(笑)。でも、なぜそのような事件が起きたのかということに関しては、なかなか見事にSF的な真相が準備されています。

オススメ度:☆☆☆

2004.1.24


999 ―聖金曜日―(ホラー:アンソロジー)
(アル・サラントニオ:編 / 創元推理文庫 2000)

「妖女たち」に続く、ホラー・アンソロジー「999」の2分冊目。
これも同じく、バラエティに富んだメンバー、作品が集められています。
さすがと思うものから、わけわからんものまで(汗)。
『ソーニャ・ブルー』とは一味違ったホラ話風味の「ナマズ娘のブルース」(N・A・コリンズ)、正統派吸血鬼譚「聖金曜日」(F・P・ウィルスン)、心理サスペンス「アンジー」(E・ゴーマン)、いかにも現代的で実際にありそうな「ICU」(E・リー)、キングの「スニーカー」を連想する奇抜な発端から始まる謎解きアクション「リオ・グランデ・ゴシック」(D・マレル)あたりがお勧めでしょうか。
ホラーっぽくない作品も多いなあ、と思っていたのですが、原題を見ると“Supernatural”と“Suspense”が併記されていました。納得。

<収録作品と作者>「聖金曜日」(F・ポール・ウィルスン)、「ナマズ娘のブルース」(ナンシー・A・コリンズ)、「ザ・エンターテインメント」(ラムジー・キャンベル)、「ICU」(エドワード・リー)、「墓」(P・D・カセック)、「ノックの音」(リック・ホータラ)、「紛う方なき愚行」(ピーター・シュナイダー)、「アンジー」(エド・ゴーマン)、「木は我が帽子」(ジーン・ウルフ)、「愛につぶされて」(エドワード・ブライアント)、「無理数の話」(マイケル・マーシャル・スミス)、「リオ・グランデ・ゴシック」(デイヴィッド・マレル)

オススメ度:☆☆☆

2004.1.25


宇宙生物ゾーン (ホラー:アンソロジー)
(井上 雅彦:編 / 廣済堂文庫 2000)

テーマ別ホラーアンソロジー『異形コレクション』の第15弾。
・・・と書いてて、ふと14弾を読んでないことに気がつきました。
先日、ここで書いた
「俳優」は13弾ですよね。で、あわてて購入済み未読本リストを当たってみましたが、該当なし。わ〜、「世紀末サーカス」買って来なきゃ(汗)。
で、本題です。今回のテーマはタイトルの通り“宇宙生物”。BEMだったり不定形だったり目に見えなかったり、昔からSF映画や特撮ドラマで扱われて来た題材です。ホラーというよりSF畑ですよね。昔、怪奇SFと呼ばれたジャンルは、現在の視点から見ればまさにホラーですし。
作者のラインアップも、普段よりSF畑の人が多いように思います。堀晃さんとか森岡浩之さんとか眉村卓さんとか谷甲州さんとか。
「星を継ぐもの」のような設定でわくわくさせられる「月に祈るもの」(野尻抱介)、あのウルトラQシリーズの傑作へのオマージュ「バルンガの日」(五代ゆう)、60年代の学生運動にSF的新解釈を持ち込んだ「懐かしい、あの時代」(友成純一)、リリカルで叙情あふれる「来訪者」(横田順彌)と「安住氏への手紙」(菊地秀行)、異星生物の意外な生態が明かされる「緑の星」(谷甲州)や「キガテア」(眉村卓)など、粒揃い。
まあ途中でネタが割れちゃうのもありましたけど(「破滅の惑星」とか)。
このシリーズには、毎回たいていマンガが1作か2作収録されているのですが、どれも前衛的というかよくわからんものが多かったです。ですが、今回の本シリーズ初登場のとり・みきさんのマンガ「宇宙麺」は出色。これを読んだ後でラーメンは食えるけど、●●ッ●や●●●は食べる気になれません(笑)。

<収録作品と作者>「火星ミミズ」(江坂 遊)、「月に祈るもの」(野尻 抱介)、「アカシャの花」(山下 定)、「黒洞虫」(森下 一仁)、「緑の星」(谷 甲州)、「パートナー」(森岡 浩之)、「言の実」(岡本 賢一)、「一匹の奇妙な獣」(山田 正紀)、「魅の谷」(梶尾 真治)、「夜を駆けるものたち」(大場 惑)、「破滅の惑星」(石田 一)、「三人」(田中 啓文)、「宇宙麺」(とり・みき)、「話してはいけない」(ひかわ 玲子)、「古いアパート」(竹河 聖)、「バルンガの日」(五代 ゆう)、「懐かしい、あの時代」(友成 純一)、「占い天使」(笹山 量子)、「内部の異者」(かんべ むさし)、「来訪者」(横田 順彌)、「探検」(井上 雅彦)、「安住氏への手紙」(菊地 秀行)、「時間虫」(堀 晃)、「キガテア」(眉村 卓)

オススメ度:☆☆☆

2004.1.27


新・天狼星ヴァンパイア(上・下) (ミステリ)
(栗本 薫 / 講談社文庫 2000)

怪人シリウスと名探偵伊集院大介の対決を描く「天狼星」シリーズ。
今回は、前作
「天狼星3 蝶の墓」の5年後(くらい?)です。あの事件に巻き込まれた時に中学生だった竜崎晶は20歳になり、兄の弘志と共に東京へ出て来て、役者を目指して修行中。
ところが、たまたまオーディションで出会ったニューヨーク帰りの少女から、『ビッグアップル・ヴァンパイア』と呼ばれた連続猟奇殺人事件の話を聞きます。ニューヨークで全身の血を抜かれた死体となって発見される若い男女。
そして、同じような事件が東京でも発生します。
一方、演劇界に影響を持つ謎の人物・野島に認められた晶は、野島の口利きで大きな舞台のキャストに加えてもらいます。が、劇場側とプロダクションのもめごとから、役を降りたアイドルの代わりに準主役に抜擢。先輩役者のねたみややっかみを受けながらも公演に向けて稽古を積んでいました。
そこへ、かつて怪盗シリウスの手先として連続殺人を引き起こした異常殺人鬼・刀根が収容先の精神病院から脱走、さらに相手役の少女が晶の家のそばで殺され、現場には刀根の姿が・・・。
複雑なプロットや、前3作の内容を引きずっている部分もあるため、いくら書いても紹介しきれないのですが、とりあえず以前のシリーズ作品を読んでいなくても、独立した作品として楽しめます。もちろん、読んでいるに越したことはありませんが。
作者の栗本さんは実際に劇団を主宰し演出も手がけていらっしゃる人ですので、物語の舞台が劇場とあって、まさに水を得た魚のようにスピーディに、ドラマティックに書き進んでいます。作者にとっては常識ということなのでしょうが、業界用語が説明もなくぽんぽん出てくるのにはちょっと閉口しますが(笑)。ゲネプロとかマチソワとか言われても、素人にはわからん(笑)。想像力で補って読み進めましたけど。
とりあえずの事件は解決するのですが(まあ動機も犯人も王道ですな)、真の謎は解かれぬまま。そして“引き”というにはあまりにショッキングな(予想されていたことでもあるんですが)ラストは、次作(真・天狼星ゾディアック)への期待十分です。

オススメ度:☆☆☆☆

2004.1.30


スクリーンの異形 ―骸骨城― (ホラー)
(井上 雅彦 / 角川ホラー文庫 2000)

映画とホラーと言えば、その結びつきは古く、また映画や映画館を題材にしたホラー小説も多いわけですが、この作品はまさに両者のエッセンスを混ぜ合わせた極上のカクテルのような連作短編集です。
どことも知れぬ町の場末の映画館で、伝説の怪奇映画の巨匠と呼ばれる監督の作品が連続上映されます。そこに集まって来た観客は、新婚夫婦に少年ふたり組、ギャングの一味に口うるさい老婦人・・・と、B級スプラッタ映画なら真っ先に犠牲者になりそうな面々(笑)。
そして、上映される4本の映画がそれぞれ4つの独立した短編として読者に紹介されることになります。
描かれるネタは、おなじみの吸血鬼、ミイラ男、人狼、ゾンビ、ゴーレム、フランケンシュタインの怪物、フリークスと、多士済々。中でも、さる有名映画(ホラーではない)の続編をホラータッチで描いた「ライム・ライム」は秀逸でした。
ただの連作短編ではなく、短い幕間のエピソードを積み重ねることで、全体を通すと4編の幕間劇を包含したひとつの長編としても読めるところがミソです。
ホラーにどっぷり浸かったファンであればあるほど楽しめると思います。

<収録作品>「スクリーンの異形 ―骸骨城―」、「解剖学者の城」、「ライム・ライム」、「没薬香る海」、「踊るデンキオニ」

オススメ度:☆☆☆

2004.1.31


飛翔せよ、閃光の虚空へ! (SF)
(キャサリン・アサロ / ハヤカワ文庫SF 1999)

問答無用。とにかく読め(笑)。
・・・これだけで終わりたかったですが、もう少し語りましょう(笑)。
舞台は24世紀、人類は宇宙に広がり、ユーブ帝圏とスコーリア王圏という2大勢力に分かれて覇権を争っています。ちなみに地球連合は中立勢力。この辺の星間文明の成り立ちにもいろいろといわくがあるのですが、それは省略。
ともかく、ユーブの支配層は他者の苦痛を至上の快楽として受け止める生来のサディストで、それに対してスコーリア人は共感能力者(エンパス)。生理的にも両者の対立は必然的なわけです。軍事力では圧倒的に勝るユーブ軍に対抗しうるのは、スコーリア人の情報伝達能力でした。時空の外に存在する“超感空間”を利用して、スコーリア人は距離を問題にしない即時情報伝達が可能なのです。
さて、主人公ソズは、スコーリア宇宙軍のエリート士官にして王位継承権者のひとり(平たく言えばスコーリア王女です)。最上級のエンパスで、生体改造を施されたサイボーグ戦士、しかも寿命延長処置を受けているから実年齢48歳でも外見は碧眼巻き毛の美少女(でもバツ2だったり)。絵に描いたようなヒロインです(カバーイラストをご覧あれ)。でもかつてユーブの捕虜となりはずかしめられた記憶が心に深い傷となって残っています。
連合の中立惑星デロスで部下と共に休暇を過ごしていたソズは、ユーブの高位の貴族と思われる青年を見かけ、身辺を探るうちに、彼がユーブ皇帝の世継ぎ(つまり敵方の王子)であることを知ります。しかも、彼はソズと同じ遺伝子を持つ最上位のエンパスでした。ふたりは互いに惹かれあうものの、互いの立場を優先して別れるのでした。
しかし・・・(ここから先は実際に読んでください)。
歴史背景や技術の説明も物語の進行に合わせてスムーズになされるため、自然にこの独特の宇宙に入って行けます。しかも登場するガジェット(超光速飛行にしても武器にしても電脳空間にしても)はきっちりと科学的裏付けが。それもそのはず、作者アサロはUCLAで化学と量子力学を学んで首席で卒業したバリバリの現役科学者。
解説者の言葉を借りれば大銀河恋愛浪漫本格空想科学冒険活劇『スコーリア戦史』、ハードSFと冒険活劇が見事に融合した最上の物語です。
物語はいったんは結末を迎えますが、語り残されたことは多く・・・。
Show must go on. シリーズはまだまだ続きます。

オススメ度:☆☆☆☆☆

2004.2.2


稲妻よ、聖なる星をめざせ! (SF)
(キャサリン・アサロ / ハヤカワ文庫SF 2000)

珍しく、シリーズ連続読みです。
実はこの本を先に買ってしまい、あわてて後から1巻目の「飛翔せよ、閃光の虚空へ!」を買って先に読んだというのが真相です。
さて、『スコーリア戦史』の第2巻。
ストーリーは第1巻との直接のつながりはありません。
ヒロインのティナは、20世紀地球のアメリカ連邦(あれ、合衆国じゃないの?)ロサンゼルスの下町で暮らす17歳の少女。メキシコからの移民でマヤ族の血を引いています。
ある晩、ティナは帰宅途中に奇妙ないでたちで、奇妙ななまりの英語を話す青年に出会います。町のギャングに嫌がらせをされていたティナを救った青年は(この辺は、ボーイ・ミーツ・ガールの王道。あ、逆か)、「自分は宇宙から来たが、どうやらここは目的地の地球とは違うようだ」と意味不明のことを話しますが、ティナは青年に心惹かれ、数日後には恋に落ちます。オルソーというその青年はスコーリア王圏の王族の一員だったのです。
前半は、20世紀の地球(実はここにも仕掛けがある)に迷い込んだオルソーが、ティナと共に恒星間宇宙船を取り戻して脱出するまで、後半は、ふたりが悪辣な陰謀に巻き込まれて・・・(以下略)。
第1巻では、スコーリアの生体改造技術や超感空間については、ソズの視点なので当たり前のこととして描かれていましたが、本巻では20世紀の地球人ティナの視点なので、最初はわけがわからず物語が進むに連れて徐々にわかって来るあたりが秀逸。
どうやらアサロが描く宇宙には、いろいろと複雑な裏設定が張り巡らされているようで、どうということもないセリフや描写の端々に、後で考えるとあっというような事実がさりげなく提示されています。 シリーズが進むにつれて、いろいろと明らかになって来るのでしょう。1巻の最後で●●に●●したソズとジェイブリオルも、ほんの数行だけ触れられていますが、こういうのは嬉しいです。

オススメ度:☆☆☆☆

2004.2.5


双頭の悪魔 (ミステリ)
(有栖川 有栖 / 創元推理文庫 1999)

英都大学推理小説研究会の面々が活躍する本格ミステリシリーズの3作目。
今回は、前作
「孤島パズル」から数ヵ月後。事件で心に傷を負ったマリアは幼馴染を頼って旅に出て、四国の山間部にある芸術家のコミュニティ、木更村に身を隠しています。
連絡も満足につかないマリアを心配した父親の依頼を受け、江神部長や記述者のアリスを初めとする研究会4人組は木更村へ。しかし、面会を断られた4人は、折からの大雨と夜陰に乗じて村への侵入を試みます。アリス他の3人が追い払われる隙に江神はマリアとの接触に成功しますが、その翌朝、鉄砲水が発生して村と外界をつなぐ唯一の橋が流され、電話も通じないという事態に。同時に住人のひとりが鍾乳洞の奥で他殺死体で発見されます。
一方、ふもとの夏森村に戻ったアリスたちも、殺人事件に遭遇。互いの状況がわからないまま、川の両側で真相究明が始まります(つまり、タイトルの由来ですな)。
マリアの視点から語られる木更村の個性あふれる面々が織りなす人間模様と不可解な殺人、アリスが語る平穏な夏森村に降ってわいた殺人。このふたつは果たして関連があるのか? クイーンばりの「読者への挑戦」が3回も挿入され、本格パズラーとしての複雑なプロットと構成は読み応え十分です。
過去2作では推理は江神部長の独壇場でしたが、今回は部長不在の夏森村で、アリス、織田、望月の3人も三者三様の頭を絞り、真相に近付いていきます。そういえば、警察官が登場したのもこのシリーズでは初めてですね(過去2作は二つとも“吹雪の山荘”テーマでしたし、今回の木更村パートもそうですが)。
作者によると、このシリーズは全5部作の構想だそうです。寡聞にして、次作が出たということを知らないのですが、楽しみです〜。

オススメ度:☆☆☆☆

2004.2.8


悪霊の館 (ミステリ)
(二階堂 黎人 / 講談社文庫 2000)

名探偵・二階堂蘭子が活躍する本格ミステリ第4弾。
過去3作以上のボリュームで、因縁と秘密が渦巻く大邸宅で起こる連続猟奇殺人事件が描かれます。
国分寺市の閑静な郊外にそびえ立つ、戦前からの西洋館。昔から幽霊が出るとの噂もあり、“悪霊館”と呼びならわされていました。そこで暮らす旧家の志摩沼家(なんとなく語感からして「黒死館」の降矢木家と照応しているような)は女系家族。齢106歳の老婆の遺言が、一族を陰惨な悲劇に巻き込みます。内部から鍵をかけられた密室、黒ミサを思わせる魔法陣の中で、西洋甲冑に囲まれて発見された双子姉妹の片割れの首なし死体。だが、双子のもう一方も行方不明となっており、殺されたのは双子姉妹のどちらかわからないというミステリファンには堪えられない謎。
戦時中に行方不明になった初代主人一家、何人もの飛び降り自殺者を出した呪いの時計塔など、道具立ても十分で、作者も本文中で述べているようにカーと横溝正史とヴァン・ダインと江戸川乱歩のエキスが散りばめられています。
フェアプレイのミステリでありながら、カーの「火刑法廷」を意識した幕間やエンディングで、怪奇小説の逸品としても読むことができます。
あ、でも●●の片割れが●●だったこととか、●●に●●された●●が実は●●だってことは、読んでてわかりましたけど(←作者が狙うミスディレクションを、裏読みをして解いてしまうというのが習慣になってしまっている)。

オススメ度:☆☆☆☆☆

2004.2.11


神竜光臨3 ―夢幻世界へ― (ファンタジー)
(ロバート・ジョーダン / ハヤカワ文庫FT 1999)

大河ファンタジー“時の車輪”の第3シリーズ『神竜光臨』の第3巻。
2巻を読んでから、かなり時間が経過していたので、ストーリーのつながりがよくわからなくなり、書庫の過去ログを読み返してみたり(笑)。
前巻で、闇王に仕える黒アジャの探索を命ぜられたエグウェーン、ナイニーヴ、エレイン王女の3人娘。新たな手がかりを求めて“夢見人”の才能がある(かも知れない)エグウェーンは夢の世界へ入り込みます(これが副題の由来ですね)。エグウェーンは夢の世界で、行方不明のアル=ソアやペリンの姿を垣間見、さらに魔剣カランドアが置かれた広間に行き着きます。
一方、古代都市で手に入れた短剣の呪いから解放されたマットは、異能者の都からの脱出を試み、アル=ソアを追うペリンやモイレインの行く手には新たな謎が・・・。
とまあ、5分冊の3冊目ですから、内容が宙ぶらりんなのも致し方ないかと。

オススメ度:☆☆☆

2004.2.12


牧師館の殺人 (ミステリ)
(アガサ・クリスティ / ハヤカワ・ミステリ文庫 1999)

時々、無性にクリスティが読みたくなることがあります。
何と言いますか、ほっとするんですね。ハズレがないから、安心して読み進められると言いますか。
とはいえ、言うほどクリスティは読んでいません。数えてみたら20冊ちょっとです。少ないですね。他の20世紀前半の黄金時代の作家たち――クイーン、カー、クロフツ、ヴァン・ダインは邦訳のほぼ8〜9割は読んでいるんですけど。
で、この「牧師館の殺人」はミス・マープルが登場する長編第1作。
そういえばミス・マープルの登場作品も、これまで「予告殺人」しか読んでいませんでした。
さて、平和な村セント・メアリ・ミードの牧師館で殺人が発生します。牧師の家族がそれぞれ留守にしている間に、訪れた治安判事が拳銃で頭を撃ち抜かれて死んでいるのが発見されたのです。被害者はいろいろな人から恨みをかっていた人物で、ミス・マープルは即座に「この犯行をやりそうな人は7人いるわ」とつぶやきます。
翌日、判事の娘と恋仲という噂のあった画家が自首して(犯行に使われた拳銃も画家のものだった)一件落着・・・かと思いきや、新たに明らかになる証拠から画家は犯行を実行できなかったことが判明。噂が噂を呼び、村は蜂の巣をつついたような騒ぎになります。
そんな混乱の中、ミス・マープルは村の人間関係の機微を抜群の観察力と直感で読み解き、見事な解決をもたらします。
すごいトリックがあるわけでもなく、それほど意外な犯人でもないですけれど、いかにもクリスティらしく、楽しく読むことができました。

オススメ度:☆☆☆

2004.2.13


失われた宇宙の旅2001 (SF)
(アーサー・C・クラーク / ハヤカワ文庫SF 2000)

「2001年宇宙の旅」と言えば、S・キューブリックの有名な映画でクラークが原作(というか、映画と同時進行に執筆した、今で言えばノヴェライゼーション)を書いているわけですが。
この「失われた宇宙の旅2001」というのは、続編ではなく(続編は「2010年」とか
「2061年」とか「3001年」があります)、クラークが書いていながら、映画と小説では最終的に削除された部分をまとめたものなのです。
それプラス、クラークが語る映画制作の裏話でもあります。失われたストーリーが8割、裏話が2割という構成になっています。そもそもの原案となった短編「前哨」も再録されています。
映画では省略されてしまった、原始時代に地球を訪れたエイリアン(モノリスの創造主ですな)とか、ディスカバリー号打ち上げ準備のディティールとか、搭載されたコンピューター(なんと名前はHALではありません)の原型とか、スターゲートの果ての世界の描写とか。映画よりもよほどハードSFっぽい(クラークらしいと言いますか)。
ちなみに、HALという名前の由来は巷で言われているようにIBMを揶揄しているものでは決してない、とクラークは力説しています。
これを読む前には、「2001年宇宙の旅」の映画を見て小説を読んでおくべきかと思います。

オススメ度:☆☆

2004.2.15


殺人摩天楼 (サスペンス)
(フィリップ・カー / 新潮文庫 1998)

完全コンピュータ制御の超ハイテク・インテリジェントビルを舞台にしたパニック小説です。
この手の小説の嚆矢としては、ちょうど20年前に邦訳が出た「忠誠の誓い」(L・ニーヴン&J・パーネル)あたりでしょうか。
ただ、「忠誠の誓い」では、ビルに侵入したテロリストが事件を引き起こすのに対して、こちら「殺人摩天楼」では、パニックを引き起こす原因になるものが違います。
ロサンゼルスに建設中のインテリジェントビルは、最新のスーパーコンピュータにより完全自動制御されるものでした。しかも、このコンピュータには学習能力・自己増殖能力が組み込まれています。
ビルも完成間近で、設計会社の社長レイ(この男、部下の手柄は自分の手柄、自分のミスは部下のミス、という典型的な憎まれ社長です。部下はみな彼を嫌っているけれど、給料がいいのでなんとか我慢しているという次第)をはじめ、幹部連はぴりぴりしていました。クライアントは華僑系の大物で、風水を理由にやたらと無理な設計変更を要求されていたのです。
そんな中、コンピュータ技師が変死しているのが発見されます。結局は突発的な痙攣発作による病死と片付けられますが、その直後、今度は警備員が頭を割られて死亡。今度は明らかに他殺なので、ロス警察も介入してきます。
ビル内で事情聴取の最中、なんとビルの出入り口がすべて閉鎖され、外部との連絡も取れないという事態が発生。そして、次々と不可解な死を遂げる関係者。
犯人は・・・って、裏表紙の紹介文でもうネタバラシされとるやん!(汗)
まあ、そこを見ずに読んだ方が、前半のサスペンスは増すと思いますが、知っててもそれなりに楽しめます。
●●が●●しちゃったきっかけがアレだったというのは、ばかばかしいようでいて、実は現実に起こりそうでぞっとしたり。
ただ、大元となるネタはF・ブラウンのショートショート「回答」ではないかと思うのですけどね(笑)。
あと、思わせぶりなプロローグとか、前半にいろいろと張ってあった伏線が、途中から完全にストーリーから消えてしまってそれっきりなのが残念と言えば残念です。

オススメ度:☆☆☆

2004.2.17


エサウ 封印された神の子 (冒険)
(フィリップ・カー / 徳間文庫 2000)

フィリップ・カーの作品が2冊続きますが、急にファンになったとかそういうわけではありません。ただの偶然です。
たまたま、面白そうだなと思って作者の名前もろくに見ずに同時に買った本が、後でよく見たら同じ作家の本だったというだけのことです。普段は、同じ作家の本が続かないように意識しているんですけどね。
で、カー2冊目の「エサウ」。「殺人摩天楼」に続いて書かれたカーの第7作だそうです。「殺人摩天楼」は、面白いけどどこか不満が残ったのですが、この「エサウ」は文句なしに面白いです。
ネパール・ヒマラヤのマチャプチャレ峰を登山中の世界的登山家ジャックは、突然の雪崩に襲われ、パーティが全滅した中でただひとり生き残ります。浅いクレバスに落ちたおかげで九死に一生を得たわけですが、クレバスの奥に伸びる洞窟内でジャックはひとつの巨大な頭蓋骨を発見、持ち帰ります。
ジャックの昔の恋人で古人類学者のステラが鑑定した結果、頭蓋骨は未知の類人猿または原人のものではないかと判定されますが、化石というにはあまりに新しいものでした。ヒマラヤの奥地に新種の類人猿が生息しているのではないか(つまり“雪男”は実在するのではないか)と考えたステラはジャックと共に調査隊を結成し、ネパールに赴きます。
一方、インド・パキスタン国境が政治的緊張の度を増し、調査の必要を感じたCIAはステラの調査隊を隠れ蓑にして腕利きの工作員を送り込みます。
“雪男”探索のサスペンスと同時に、この工作員の正体は誰なのかという謎も興味をそそります(工作員の行動が描かれる時はコードネームでしか呼ばれない)。いかにも思わせぶりに描かれている登場人物もいたりするのですが、さてどうなのか(謎)。
テンポはいいしキャラは立ってるし(「殺人摩天楼」と違って)伏線は生きてるし、600ページを越える長さもまったく苦になりません。
ただ、副題の「封印された神の子」というのは原題にもなく、こちらの出版社が付けたのでしょうがまったく大きなお世話(本文を読めば、なぜ“大きなお世話”なのかわかります)。また、紹介文で“神の視点で描かれた傑作冒険ミステリー”と書いてあったので、どんな視点なのかわくわくしていたら、これがまったく意味不明。ついでに“Copyright 1966”になっているのは“1996”の誤植でしょ。せっかくいい作品なのに興ざめですよ徳●さん。

オススメ度:☆☆☆☆

2004.2.19


嵐のルノリア (ヒロイック・ファンタジー)
(栗本 薫 / ハヤカワ文庫JA 2000)

グイン・サーガの第71巻です。
実は、また危うくやっちまうところでした。
読む順番が回って来た
「パロの苦悶」を何気なく読み始めたら、なんとなく話がつながらない。もしやと思って確かめたら、72巻でした。買う順番を間違えてたのね(汗)。基本的に文庫本は買った順番に読んでいますので(ぺりー・ローダン・シリーズだけは例外)、時々こういうことが起こります。
あわてて順番を入れ替えて、さて「嵐のルノリア」。
前巻で、嵐の前の静けさという雰囲気だったパロ。意外なくらいあっさりと事態が急展開します。
そりゃあ、彼に取り憑いてたのがヤツだったということなら、すべてお見通しだったのも納得できるわけで。あの人とあの人は●●されちゃうし、けっこう重要な役だった人があっさり死んじゃうし(でも死んだから即退場ではないところがスゴイ)。
静かな流れは激流となり、次巻へ!

オススメ度:☆☆☆

2004.2.20


喘ぐ血 (ホラー:アンソロジー)
(ジェフ・ゲルブ&マイクル・ギャレット:編 / 祥伝社文庫 2000)

「震える血」に続くエロティック・ホラー・アンソロジーの第2弾。
前巻の原題が“Hot Blood”で今回が“Hotter Blood”と比較級になっているように、題材も内容も描写も更にエスカレートして突っ走っています(ちなみに次巻の原題は“Hottest Blood”)。
腹上死ネタに変態ネタ、SMネタ、妄想ネタと何でもありの18禁オンパレードですので、取り扱いにはご注意ください。
スケベなオタク妄想全開の「改竄」(ドン・ダマッサ)、普通は比喩的に用いられる形容詞を臆面もなく現実のものとして描いた「魔性の恋人」(ナンシー・A・コリンズ)、SF的なオチが意外な「ベッドルーム・アイズ」(マイクル・ニュートン)などが比較的まともでしょうか(笑)。作者紹介で知ったのですが、マイクル・ニュートンってドン・ペンドルトン(「マック・ボラン・シリーズ」の作者)と同一人物なのだそうです。びっくり。

<収録作品と作者>「浴槽」(リチャード・レイモン)、「虚飾の肖像」(レイ・ガートン)、「魔性の恋人」(ナンシー・A・コリンズ)、「ベッドルーム・アイズ」(マイクル・ニュートン)、「女体」(ゲイリー・ブランナー)、「底なし」(ポール・デイル・アンダースン)、「最上のもてなし」(グレアム・マスタートン)、「改竄」(ドン・ダマッサ)、「硬直」(R・パトリック・ゲイツ)、「真珠姫」(ジョン・シャーリイ)、「淫夢の女」(カール・エドワード・ワグナー)

オススメ度:☆☆

2004.2.21


人形館の殺人 (ミステリ)
(綾辻 行人 / 講談社文庫 2000)

謎めいた建物で事件が起こる“館”シリーズの第4弾。
今回は、京都の外れに建っている“人形館”というお屋敷が舞台です。主人公は、芸術家だった父親が亡くなったのをきっかけに、母(実母の妹で、早世した実母の代わりに主人公を育ててくれた女性)と共に静岡から父の遺した“人形館”で暮らすためにやって来ます。
“人形館”には、父が作っていた不気味なマネキン人形が並び、不気味な雰囲気。またアパートになっている別館には、いわくありげな住人たちがいます。
引っ越して来て間もなく、近所では連続幼児殺人事件が起こり、主人公も何者かに脅迫され、やがては命も狙われるようになります。同時に、断片的でおぼろげな幼い日の記憶が主人公を悩ませるようになります。
物語は主人公の一人称で進められ、途中途中に主人公をつけ狙う人物の行動が挿入され(もちろん正体はわからない)、サスペンスをいや増します。
深読み裏読みをすると、真相は中盤あたりで想像がついてしまいます。でも、綾辻さんのことだから
「迷路館の殺人」の時みたいにこちらの予想を超える大どんでん返しを用意してくれているだろう・・・と思って、エピローグへ。
う〜む、意外といえば意外ですが・・・。

オススメ度:☆☆☆

2004.2.23


コズミック 流 (ミステリ)
(清涼院 流水 / 講談社文庫 2000)

長いこと、読みたいと思っていた四部作(なのか?)、ついに順番が回って来ました。
その1冊目。
とにかく型破りのミステリだと聞いていたのですが、確かにその通り。
1994年の年が明けた瞬間、警察庁とマスコミ各社に届いた破天荒な殺人予告状。
そこには「密室卿」という署名と共に、「1年間で1200人を密室で殺す」と書かれていました。
予告通り、その日のうちに、初詣でにぎわう神社の境内、タクシー車内、マンションの一室で、それぞれ首を切断されて殺された被害者。犯人の出入りや犯行の機会すら皆無と思われる状況でありながら、被害者の背中には血文字でナンバリングが残されていました。
警察と共に事件を推理するJDC(日本探偵倶楽部)。この団体は優れた推理力を有する人材が集った犯罪捜査集団で、警察に順ずる公的権力も与えられています。でも登場シーンはほんのさわり程度。
その代わり、この「コスミック 流」においては、このような密室(物理的密室もあれば心理的密室もある)での不可解な殺人シーンが19回繰り返されるのです。それだけで終わり。日本各地で発生する事件にもほとんど共通項はなく(ただ、8番目と15番目の事件に微妙な背景の関連がほのめかされているのみ)、読者はただ混沌に突き落とされるのみ。
さて、この物語「コズミック」は「流」と「水」の二部作で、それだけでも完結した物語として読めるそうですが、もうひとつの作品「ジョーカー」(これも「清」と「涼」の二部作から成る)と組み合わせて読むことで、すごい趣向が明らかになるとのこと。
ですから、これから指示通りに「ジョーカー 清」「ジョーカー 涼」「コズミック 水」の順番で読んでみることにします。

単体としてのオススメ度:オススメ度:☆☆☆☆
※まとめての評価は、4冊すべて読み終わってからということで。

2004.2.24


ジョーカー 清 (ミステリ)
(清涼院 流水 / 講談社文庫 2000)

というわけで、指示通り「ジョーカー 清」に取り掛かりました。
一応「コズミック」とは独立した物語のようです。
時系列的には「コズミック」の事件が起こる2ヶ月あまり前。京都府内の山奥にたたずむ湖上に建てられた“幻影城”を舞台に、“芸術家”と称する姿なき殺人鬼が跳梁します。
『関西本格の会』という団体に属する一流の推理作家8人とその家族、そしてJDC(日本探偵倶楽部)の探偵のひとりが滞在する“幻影城”。ここで作家の一人が提示した“推理小説の構成要素30項”を網羅するかのような連続殺人が起こります。JDCの一流の探偵たちも次々と現場に到着、推理を進めますが、それを嘲笑うかのように増え続ける被害者。しかも、一歩間違えば、読者を愚弄するばかばかしい悪ふざけに堕してしまいそうな臆面もないネタを平気で提出してくる、計算しつくされた(と思われる)作者の演出。キャラと雰囲気でねじ伏せて納得させてしまう力技です。
とにかく、冒頭から「読者よ、あなたは必ずダマされる!」と挑発的な挑戦状が付されているのですから、読む方も深読み裏読みをしなければなりませんので、普通の小説を読む3倍くらい疲れます。新たな人物が登場する度に「コズミック」の登場人物との関連性をチェックしたり(もちろん関連性・共通性は大いにあります)。でも、この疲労感が心地よいんですよね。
叙述トリックやミスディレクションも満載で、「わ、だまされた!」と地団太を踏むネタやら「わーい、見破ってやったぜ」と満足できるネタやら、いろいろです。人物トリックにはだまされたけど動物トリックは看破してやったぜ!(と言いながら、作者の手のひらで踊らされている予感がひしひし)
過去の事件や登場人物の過去も少しずつ明かされて来て、後半へ続きます。

単体としてのオススメ度:オススメ度:☆☆☆☆
※まとめての評価は、4冊すべて読み終わってからということで。

2004.2.26


ジョーカー 涼 (ミステリ)
(清涼院 流水 / 講談社文庫 2000)

「ジョーカー」の下巻です。
“幻影城”(ちなみにここのオーナーは平井太郎といいます ←江戸川乱歩の本名)で幕を切って落とされた“芸術家”による連続殺人はやむことを知らず、更なる犠牲者が発生します。JDCメンバーも増員され、かれらの推理によって遂に真相が暴かれる!・・・かに見えましたが、はてさて(以下自粛)。
作者も言っているように、この作品には「日本の四大ミステリ」と呼ばれる名作が脈々と息づいています。「黒死館殺人事件」(小栗虫太郎)のペダントリー、「ドグラ・マグラ」(夢野久作)の狂気、「虚無への供物」(中井英夫)の推理の競演、「匣の中の失楽」(竹本健治)の作中作――どれもが効果的に盛り込まれ、謎の中核を形成しています。そして、特筆すべきことは、この4作はすべて(「黒死館」はちょっと違うか)アンチ・ミステリ、メタ・ミステリとして高い評価を受けているということです。
作者が意図しているのは、それらメタ・ミステリ、アンチ・ミステリの再現というばかりでなく、それを更に超えて、ミステリというブラックホールの事象の地平線の向こう側へ飛翔しようとしているのではないかと思います。論理的で自己完結する正統パズラーを好む読者ならば、「なんじゃこりゃあ!!」と憤慨するようなとんでもない展開。所詮、読者はどこまで行っても作者の手のひらの上で踊らされているのだ(実は裏もあるのですが)と明言する作者に、腹立ちを覚えることも。
しかし、パズルというにはあまりに緻密に、そしてひねくれて構築された言葉の迷宮には、「よくもまあここまで・・・」とあきれ果て、感服するしかありません。
ただ、これを受け入れることができるかどうかで、大きく好みが分かれる作品であることだけは、間違いないでしょう。
さて、いかなる展開が待ち受けていることか、
「コズミック 水」へ取り掛かります。

単体としてのオススメ度:オススメ度:☆☆☆
※まとめての評価は、4冊すべて読み終わってからということで。

2004.2.28


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