妖かしの宴 (ホラー:アンソロジー)
(水木しげる:監修 / PHP文庫 1999)
日本に昔から伝わる「わらべ唄」をテーマに、ホラー作家さんたちがそれぞれ短編を書くという趣向のアンソロジー。
テーマになっているわらべ唄は、郵便屋さん、花いちもんめ、たこ凧あがれ、蛍こい、ひらいたひらいた、かごめ、今年の牡丹、通りゃんせ、ずいずいずっころばし――と9編ですが、「郵便屋さん」と「今年の牡丹」って、知りませんでした。育った時代や地域によって違うんでしょうね。
内容としては、前半はありがちなワンパターンの因果応報譚が多くて、これが水木さんの趣味かい?と思っていましたが、後半はかなりバラエティに富んできて、まあそれなりに楽しめました。でも全体的な作品レベルとしては『異形コレクション』に比べて劣っているような気がします。
できれば、それぞれのわらべ唄に関する水木さんの薀蓄がひとくさり聞きたかったところですが。まさかと思うけど、水木さんは名前を貸しただけで、その名前を餌に読者を釣ろうという魂胆じゃあるまいね?
パチンコネタがユニークな「ひらいたひらいた」(藤 水名子)、これぞ水木しげるワールドというイメージの「籠女」(高瀬美恵)、凄惨な展開に見せかけて読後感がさわやかな「ずいずいずっころばし」(秋月達郎)などがお勧めでしょうか。
<収録作品と作者>「郵便屋さん ―タイムカプセル」(新津 きよみ)、「花いちもんめ ―そして誰もいなくなる」(矢島 誠)、「たこ凧あがれ ―とむらい凧」(西谷 史)、「蛍こい ―まぼろしの渓奇譚」(樋口 明雄)、「やまたのおろち」(水木 しげる)、「ひらいたひらいた ―一番初めは」(藤 水名子)、「籠女 ―鳥の祝ぎ歌」(高瀬 美恵)、「今年の牡丹 ―花影」(加門 七海)、「通りゃんせ ―夏、訪れる者」(霜島 ケイ)、「ずいずいずっころばし ―茶壺」(秋月 達郎)
オススメ度:☆☆☆
2004.1.2
999 ―妖女たち― (ホラー:アンソロジー)
(アル・サラントニオ:編 / 創元推理文庫 2000)
「20世紀最後にして最大のホラー・アンソロジー」と銘打たれた大冊の1冊目(文庫版では三分冊で刊行されています)。
なぜタイトルが「999」なのかというと、アメリカでの出版年が1999年だったことと、もうひとつは逆さにすると例の数字になるからだそうです。まあいいんですけど(笑)。
さて、内容ですが、書き手は粒揃いですが、やはり好みに合うのと合わないのがいろいろですね。その点では、編者が目標にしたアンソロジー「闇の展覧会」(ハヤカワ文庫NV)と同じ。
古典的な幽霊屋敷テーマのバリエーションでありながら独特の不気味さが横溢する「コントラカールの廃墟」(J・C・オーツ)、相変わらず達者な「道路ウイルスは北にむかう」(S・キング)、さりげない不気味さが抜群の「増殖」(T・E・D・クライン)、久々に読んだけれどこんな感動的な作品が書けるんだと見直した「妖女たち」(E・V・ラストベーダー)などがお気に入り。逆に、好きな作家のはずなのにわけがわからなかったのが「遍歴」(T・パワーズ)だったり。
<収録作品と作者>「モスクワのモルグにおける死せるアメリクァ人」(キム・ニューマン)、「コントラカールの廃墟」(ジョイス・キャロル・オーツ)、「フクロウと子猫ちゃん」(トーマス・M・ディッシュ)、「道路ウイルスは北にむかう」(スティーヴン・キング)、「形見と宝:ある愛の歌」(ニール・ゲイマン)、「増殖」(T・E・D・クライン)、「《新十二宮クラブ》議事録とヘンリー・ワトスン・フェアファクスの日記よりの抜粋」(チェット・ウィリアムスン)、「ロープ・モンスター」(アル・サラントニオ)、「遍歴」(ティム・パワーズ)、「劇場」(ベントリー・リトル)、「妖女たち」(エリック・ヴァン・ラストベーダー)
オススメ度:☆☆☆
2004.1.11
イエスの遺伝子(上・下) (伝奇)
(マイクル・コーディ / 徳間文庫 2000)
イエス・キリストの血筋とか聖母マリアの復活とか、欧米の伝奇小説にはよくあるネタです。これまで紹介した中にも、「聖なる血」(T・モンテルオーニ)とか「聖母の日」(F・P・ウィルスン)とか。
本作は、その中でもオーソドックスかつ現代的。
主人公トムは遺伝子学者で、同僚の天才的コンピュータ学者ジャスミンと共同で、人間の全遺伝子を読み取る装置を開発しました。その功績でノーベル賞を授与されますが、受賞パーティ後、銃撃され、妻が身代わりとなって亡くなります。
暗殺者の正体は、2000年にわたって原始キリスト教の教義を守って連綿と続いてきた秘密教団ブラザーフッドが差し向けた殺し屋でした。教団は、画期的な遺伝子治療を実現したトムを、神を冒涜する者として暗殺の対象としていたのです。
司法解剖された妻の脳から遺伝性の悪性腫瘍を発見したトムは、ひとり娘ホリーの遺伝子を解読し、彼女が1年以内に悪性の脳腫瘍を発病して死に至る可能性が高いことに気付きます。現代医学の限界を知ったトムは、イエス・キリストが聖書の記述の通り奇跡を成し遂げたとしたら、その遺伝子を受け継いだ人物が現代にも生き残っているのではないかと思い、絶望的な探索を始めます。
一方、新たなる救世主が生まれているという“しるし”を得たブラザーフッド教団は、救世主を見つけ出すためにトムの技術を利用することを計画し、暗殺計画は棚上げにします。しかし、狂信的な暗殺者マリアは教団幹部の命令に反して単独行動に走ります。
古代から続く秘密結社が世界を影で支配するという陰謀史観がしっかり息づいていたり、トムのスタッフに元FBIの腕利き捜査官や凄腕ハッカー(現代を舞台にしたサスペンスでは、今や凄腕ハッカーというのはなくてはならない役柄のようですね)がいたり、道具立ては伝奇小説と謀略小説の王道を行っています。ストーリーを追ううちに、「人の数だけ正義はある」という真理に気付かされて複雑な気持ちにされ、しかし現実的で納得のいく結末にほっとします。
<ご注意>これからこの作品を手にとってみようという方は、絶対に下巻の裏表紙の紹介文を読んではいけません。ストーリーの根幹をなす大ネタが、あっさりと暴露されています。目にしたら最後、読む気が半減します。許せん。
※追記:2005年8月、ハヤカワ文庫NVから出た「メサイア・コード」は同一作品です。もう少しで間違って買っちまうところでした(汗)。
オススメ度:☆☆☆☆
2004.1.13
震える血 (ホラー:アンソロジー)
(ジェフ・ゲルブ&ロン・フレンド:編 / 祥伝社文庫 2000)
ある意味、画期的なホラー・アンソロジーです。
表紙からして『エロチック・ホラー』と飛ばしてます。これまで、歪んだ愛をテーマにしたホラー・アンソロジーはいろいろ出ていましたが(「ゴーサム・カフェで昼食を」とか「レベッカ・ポールソンのお告げ」とか「筋肉男のハロウィーン」とか)、どれもまあ、即物的な描写は抑え気味でした。
でも、今回は確信犯のエロ・ホラー尽くし(笑)。確かに、「ポルノとホラー(特にスプラッター)は同根である」と評論家のどなたかがおっしゃっていましたが(要するに、普段は隠されているものをひん剥いて露わにするところが似ている、と(^^;)、まさにその通りですね。
しかも、面白いです。それもそのはず、執筆メンバーはそうそうたる顔ぶれで、マシスン親子、R・R・マキャモン、F・P・ウィルスン、H・エリスン、R・ブロックなど、これでハズレだったら怒るよ、という豪華版。みんな吹っ切れているというか、伸び伸び書いてます。どの作品にも、ほとんど18禁のシーンが出てきます。読んでみようという方はお気をつけください。
内容を(タイトルすら)具体的に紹介するのもはばかられますが(笑)、古典的なホラーネタをエロと結びつけると新鮮な作品に仕上がるのだと感心します。
このアンソロジー、続編が2冊、邦訳されています。近日登場。
<収録作品と作者>「変身」(グレアム・マスタートン)、「わが心のジュリー」(リチャード・マシスン)、「三角関係」(F・ポール・ウィルスン)、「魔羅」(ロバート・R・マキャモン)、「サディスト」(リチャード・クリスチャン・マシスン)、「再会」(マイクル・ギャレット)、「跫音」(ハーラン・エリスン)、「イーディス伯母の秘術」(ゲイリー・ブランナー)、「モデル」(ロバート・ブロック)、「おしゃぶりスージー」(ジェフ・ゲルブ)、「お仕置き」(レイ・ガートン)、「赤い光」(デイヴィッド・J・ショウ)
オススメ度:☆☆☆(自己責任の下でお読みください)
2004.1.22
999 ―聖金曜日―(ホラー:アンソロジー)
(アル・サラントニオ:編 / 創元推理文庫 2000)
「妖女たち」に続く、ホラー・アンソロジー「999」の2分冊目。
これも同じく、バラエティに富んだメンバー、作品が集められています。
さすがと思うものから、わけわからんものまで(汗)。
『ソーニャ・ブルー』とは一味違ったホラ話風味の「ナマズ娘のブルース」(N・A・コリンズ)、正統派吸血鬼譚「聖金曜日」(F・P・ウィルスン)、心理サスペンス「アンジー」(E・ゴーマン)、いかにも現代的で実際にありそうな「ICU」(E・リー)、キングの「スニーカー」を連想する奇抜な発端から始まる謎解きアクション「リオ・グランデ・ゴシック」(D・マレル)あたりがお勧めでしょうか。
ホラーっぽくない作品も多いなあ、と思っていたのですが、原題を見ると“Supernatural”と“Suspense”が併記されていました。納得。
<収録作品と作者>「聖金曜日」(F・ポール・ウィルスン)、「ナマズ娘のブルース」(ナンシー・A・コリンズ)、「ザ・エンターテインメント」(ラムジー・キャンベル)、「ICU」(エドワード・リー)、「墓」(P・D・カセック)、「ノックの音」(リック・ホータラ)、「紛う方なき愚行」(ピーター・シュナイダー)、「アンジー」(エド・ゴーマン)、「木は我が帽子」(ジーン・ウルフ)、「愛につぶされて」(エドワード・ブライアント)、「無理数の話」(マイケル・マーシャル・スミス)、「リオ・グランデ・ゴシック」(デイヴィッド・マレル)
オススメ度:☆☆☆
2004.1.25
宇宙生物ゾーン (ホラー:アンソロジー)
(井上 雅彦:編 / 廣済堂文庫 2000)
テーマ別ホラーアンソロジー『異形コレクション』の第15弾。
・・・と書いてて、ふと14弾を読んでないことに気がつきました。
先日、ここで書いた「俳優」は13弾ですよね。で、あわてて購入済み未読本リストを当たってみましたが、該当なし。わ〜、「世紀末サーカス」買って来なきゃ(汗)。
で、本題です。今回のテーマはタイトルの通り“宇宙生物”。BEMだったり不定形だったり目に見えなかったり、昔からSF映画や特撮ドラマで扱われて来た題材です。ホラーというよりSF畑ですよね。昔、怪奇SFと呼ばれたジャンルは、現在の視点から見ればまさにホラーですし。
作者のラインアップも、普段よりSF畑の人が多いように思います。堀晃さんとか森岡浩之さんとか眉村卓さんとか谷甲州さんとか。
「星を継ぐもの」のような設定でわくわくさせられる「月に祈るもの」(野尻抱介)、あのウルトラQシリーズの傑作へのオマージュ「バルンガの日」(五代ゆう)、60年代の学生運動にSF的新解釈を持ち込んだ「懐かしい、あの時代」(友成純一)、リリカルで叙情あふれる「来訪者」(横田順彌)と「安住氏への手紙」(菊地秀行)、異星生物の意外な生態が明かされる「緑の星」(谷甲州)や「キガテア」(眉村卓)など、粒揃い。
まあ途中でネタが割れちゃうのもありましたけど(「破滅の惑星」とか)。
このシリーズには、毎回たいていマンガが1作か2作収録されているのですが、どれも前衛的というかよくわからんものが多かったです。ですが、今回の本シリーズ初登場のとり・みきさんのマンガ「宇宙麺」は出色。これを読んだ後でラーメンは食えるけど、●●ッ●や●●●は食べる気になれません(笑)。
<収録作品と作者>「火星ミミズ」(江坂 遊)、「月に祈るもの」(野尻 抱介)、「アカシャの花」(山下 定)、「黒洞虫」(森下 一仁)、「緑の星」(谷 甲州)、「パートナー」(森岡 浩之)、「言の実」(岡本 賢一)、「一匹の奇妙な獣」(山田 正紀)、「魅の谷」(梶尾 真治)、「夜を駆けるものたち」(大場 惑)、「破滅の惑星」(石田 一)、「三人」(田中 啓文)、「宇宙麺」(とり・みき)、「話してはいけない」(ひかわ 玲子)、「古いアパート」(竹河 聖)、「バルンガの日」(五代 ゆう)、「懐かしい、あの時代」(友成 純一)、「占い天使」(笹山 量子)、「内部の異者」(かんべ むさし)、「来訪者」(横田 順彌)、「探検」(井上 雅彦)、「安住氏への手紙」(菊地 秀行)、「時間虫」(堀 晃)、「キガテア」(眉村 卓)
オススメ度:☆☆☆
2004.1.27
スクリーンの異形 ―骸骨城― (ホラー)
(井上 雅彦 / 角川ホラー文庫 2000)
映画とホラーと言えば、その結びつきは古く、また映画や映画館を題材にしたホラー小説も多いわけですが、この作品はまさに両者のエッセンスを混ぜ合わせた極上のカクテルのような連作短編集です。
どことも知れぬ町の場末の映画館で、伝説の怪奇映画の巨匠と呼ばれる監督の作品が連続上映されます。そこに集まって来た観客は、新婚夫婦に少年ふたり組、ギャングの一味に口うるさい老婦人・・・と、B級スプラッタ映画なら真っ先に犠牲者になりそうな面々(笑)。
そして、上映される4本の映画がそれぞれ4つの独立した短編として読者に紹介されることになります。
描かれるネタは、おなじみの吸血鬼、ミイラ男、人狼、ゾンビ、ゴーレム、フランケンシュタインの怪物、フリークスと、多士済々。中でも、さる有名映画(ホラーではない)の続編をホラータッチで描いた「ライム・ライム」は秀逸でした。
ただの連作短編ではなく、短い幕間のエピソードを積み重ねることで、全体を通すと4編の幕間劇を包含したひとつの長編としても読めるところがミソです。
ホラーにどっぷり浸かったファンであればあるほど楽しめると思います。
<収録作品>「スクリーンの異形 ―骸骨城―」、「解剖学者の城」、「ライム・ライム」、「没薬香る海」、「踊るデンキオニ」
オススメ度:☆☆☆
2004.1.31
喘ぐ血 (ホラー:アンソロジー)
(ジェフ・ゲルブ&マイクル・ギャレット:編 / 祥伝社文庫 2000)
「震える血」に続くエロティック・ホラー・アンソロジーの第2弾。
前巻の原題が“Hot Blood”で今回が“Hotter Blood”と比較級になっているように、題材も内容も描写も更にエスカレートして突っ走っています(ちなみに次巻の原題は“Hottest Blood”)。
腹上死ネタに変態ネタ、SMネタ、妄想ネタと何でもありの18禁オンパレードですので、取り扱いにはご注意ください。
スケベなオタク妄想全開の「改竄」(ドン・ダマッサ)、普通は比喩的に用いられる形容詞を臆面もなく現実のものとして描いた「魔性の恋人」(ナンシー・A・コリンズ)、SF的なオチが意外な「ベッドルーム・アイズ」(マイクル・ニュートン)などが比較的まともでしょうか(笑)。作者紹介で知ったのですが、マイクル・ニュートンってドン・ペンドルトン(「マック・ボラン・シリーズ」の作者)と同一人物なのだそうです。びっくり。
<収録作品と作者>「浴槽」(リチャード・レイモン)、「虚飾の肖像」(レイ・ガートン)、「魔性の恋人」(ナンシー・A・コリンズ)、「ベッドルーム・アイズ」(マイクル・ニュートン)、「女体」(ゲイリー・ブランナー)、「底なし」(ポール・デイル・アンダースン)、「最上のもてなし」(グレアム・マスタートン)、「改竄」(ドン・ダマッサ)、「硬直」(R・パトリック・ゲイツ)、「真珠姫」(ジョン・シャーリイ)、「淫夢の女」(カール・エドワード・ワグナー)
オススメ度:☆☆
2004.2.21