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DB in お江戸でござる

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楽屋にて

「よう、どうしてもちょんまげってのにしねえといけねえのか?」
 悟空がびんづけ油を手に、あっちこっち飛び跳ねる毛を苦労して押さえつけながら言った。なんとか形がついた……と思うと、すぐに彼の毛は引力に逆らって好き勝手な方向に飛び出してしまうのだ。
「悟空さん、いいものがありましたよ」
 トランクスがハード用のムースを持って来た。
「おう、サンキュー。おめえは仕度しなくていいのか? トランクス」
「はい。オレの出番はもっと後ですから、その時に」
「そっか。身軽そうでいいな」
 悟空は普段着のトランクスをうらやましそうに見てから辺りを見回し、楽屋の隅で着流しに懐手をして所在なげに立っているピッコロに気づくと近寄って行った。
「よお、ピッコロ。おめえはカツラか。いいな〜、楽そうで」
「仕方あるまい。ちょんまげを結おうにもオレには髪がない」
「オラもおめえみてえに、いっそハゲてた方が最初っからカツラにしてもらえてよかったのになあ」
 ピッコロは目をむいて反論した。
「言っておくが、オレはハゲではない。そもそもナメック星人というのはだな――」
 半分も聞かないうちに、悟空は反対側の隅で同じく退屈そうに突っ立っているベジータを見つけてさっさと行ってしまった。
「よお、ベジータ。おめえは月代さかやきを剃ってんのか。いなせじゃねえか」
「……これは自前だ」
 悟空をにらみつけた後、ベジータは吐き捨てた。
「何が時代劇だ。ふざけやがって。だいたいオレは最初から気に入らなかった。こんなくだらんことをしている暇があったら、重力室で汗を流していた方がずっとマシだ!」
 足音も荒々しく楽屋を出ていこうとするベジータの前に、トランクスが両手を広げて立ちはだかった。
「ま、待ってください。父さん!」
「邪魔だ、どけっ」
「舞台に穴を開ける気ですか!? 父さんはメインキャストの一人なんですよ」
「メインキャストだと!? ……主役じゃないのか」
(なんだかんだ言っといて、結局出るつもりなんですね……)
 父の性格は把握していたはずなのに、思わず脱力するトランクスであった。


「なんでブルマさが花魁おいらんで、おらが長屋のおかみさんなんだべ!?」
 楽屋の真ん中で地味なまげに着物のチチが声を張り上げている。
「しょうがないでしょ。そういう設定なんだから」
 あでやかに着飾り、島田に結った髪に平打ちの長いかんざしを左右3本ずつ刺したブルマが、勝ち誇ったように笑った。
「おまけにブルマさは16歳だっていうでねえか。すんんんんんんんっっっっげえサバ読んでるだべ! おらなんて実年齢のぴー歳だってのに。ブルマさはおらよりぴー歳も年上だから、ほんとはぴー歳のはずだべ! 不公平でねえか!!」
 まくしたてているチチを尻目に、楽屋の隅で衣裳合わせをしていたクリリンが、音響係のウーロンを呼びつけて小声で訊いた。
「おい、何なんだ? あのピーピーいう音は」
「トシの話が出たらピー音入れろって、女性陣がうるさいんだよ。チチなんて、中華包丁両手でじゃらんじゃらん擦り合わせて、『言うこときかねえと酢豚にしてやるからな』って凄むんだぜ。オレ、この舞台が終わったらきっとやつれちまうよ」
 ウーロンの溜息をかき消すようにブルマの大声がかぶさった。
「すんげえサバ読んでるって、失礼ね! ほんのちょっとじゃないの。ほんのちょっと。ご愛敬ってもんよ」
「まあまあまあまあ」
 チチとブルマの間にトランクスが割って入った。
(開演前からこれじゃ、先が思いやられるよ……)
 トホホな気分で彼は楽屋全体を見回した。

 衣裳合わせが済んだのか、「カツラがツルツル滑って頭に乗らないんだ。どうしよう。どうしよう」とうろたえて走り回っているのはクリリンだ。セルやフリーザ、18号といったわがままな面々は、帯がきついと文句を垂れているし、ギニュー特戦隊は楽屋の隅でいつの間にか花札に興じている。ナッパがこっちの隅で「カツラは蒸れていけねえ」と言いながら「不老林」を手にブラシで頭を叩いているかと思えば、あちらの隅ではザーボンが鏡に見とれながら、化粧の乗りを気にしている。
 亀仙人のじいさんはあっちこっちで女優たちの着替えを覗いてはどつかれて鼻血を出しているし、ヤムチャは鏡の前で決めポーズを研究し、天津飯は「久々の出演だ」と感激のあまり三つの目からそれぞれ滂沱ぼうだと涙を流している。

 収拾のつかない騒ぎの中、トランクスはメガホンを口に当てて叫んだ。
「まもなく開演です。みなさん、用意はいいですか!?」
 やがて開演ベルが鳴り響き、幕が上がった。


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