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DB in お江戸でござる

楽屋にて第一幕第二幕第三幕第四幕第五幕第六幕舞台挨拶


第五幕

 あまりの展開になすすべを知らず呆然としている手下どもを前に、フリーザ衛門は怒鳴りつけた。
「ええい、役に立たない人たちですねっ。こうなったらあの男を呼ぶのですよ! ザーボンさん」
 我に返ったザーボンはあわててその場を去り、再び戻って来た。
「呼んで参りました。お代官さま」
 音もなく襖が開け放たれた。そこに立っていたのはあの流れ者の浪人、ベジー太である。

「あなたにはいろいろと目をかけてあげましたよね。さあ今こそわたしから受けた恩を返すのですよ、ベジー太さん」
 フリーザ衛門が口から泡を飛ばして叫ぶ。
「言われなくてもやってやる」
 ベジー太は口元にニヤリと笑いを浮かべ、悟空に向き直った。
 その隙にこそこそ逃げだそうとするフリーザ衛門とセルを横目で捉え、悟空は言った。
「どうやら口で言ってもわからねえらしいな」
 ベジー太の眉がぴくりと動く。悟空は足を開き、両手で構えをとった。

「かーーめーーはーーめーー波――――――――――っっっっっっ!!!」

 突きだした悟空の両掌から、おびただしい数の一ゼニー硬貨が噴出され、放射状に散らばった。ひとつひとつの硬貨が激しい勢いでバチバチバチッとフリーザ衛門やセルたちにぶちあたり、みな体中を押さえてのたうち回る。
 フリーザ衛門が度を失ってわめき散らした。

「い、痛かったぞーーー! 今のはほんとに痛かったぞーーーーーーっ!!!」

 涙目になったフリーザ衛門とセルたちが怒り狂って悟空に飛びかかろうとする。
 危うし、悟空!


 その時、おチチが血相変えて飛び込んできた。
「みんなっ、その場を動くんじゃねえだっ」
 「はじめの一歩」のように、思わず固まってしまった一同の足元を、壷を抱えたおチチが、ぼやきながら硬貨を拾ってはその中に落として歩く。
「まーったく悟空さときたら、いっつもいつも気前よく銭をばらまくもんだから、おらんちは貧乏から抜け出せねえだよ――――ほらっ、ボケッと突っ立ってねえで足上げるだよっ―――そうだ、最初からおとなしく言うことを聞いてりゃいいだ―――これで全部かな」
 おチチは腰を伸ばし、「やれやれ」とばかりに拳でトントンたたくと、硬貨の入った壷を抱えて座敷のど真ん中に座り込み、一枚ずつ数え始めた。
「いちまーい……にまーい……さんまーい……」
 全部数え終えたとたん、その顔が般若のように変わり、うらめしげな声で彼女は袖を絞ってしくしくと泣き始めた。
「一枚足りねえだ〜〜〜」
 最後の一枚に悟飯が気づき、母に知らせた。
「お母さん、そこですよ。フリーザ衛門が踏んでいます」
「おめえかっ」おチチはフリーザ衛門をにらみつけた。
「ひっ」フリーザ衛門が飛び上がる。
「ネコババするつもりだったんじゃねえだろな」と、すごまれて、フリーザ衛門はぶんぶんかぶりを振った。
 最後の一枚を拾い上げ、大事そうに壷を抱えたおチチは、やがて満足げに帰っていった。

 こうして、毒気を抜かれたセルとフリーザ衛門一味は、脱力している間に悟空たちによって捕縛され、番屋にしょっぴかれたのである。
「オ、オレはいったい何しに出てきたんだ……」
 ベジー太のつぶやきが虚しく江戸の空に吸い込まれてゆく。


「罪人をこれへ」
 お白洲の前にセルとフリーザ衛門たちは引き出された。警備のため、悟空は片膝を立ててつくばいに控えている。吟味与力の十七号が文机に両肘を乗せ、頬杖をついて大あくびをしながら、めんどくさそうに罪状を読み上げた。
「ご禁制の仙豆の密輸か。ちゃちなことやってんじゃねえよ。死罪、死罪。吟味終わりっ」
「ま、真面目にやれ」セルが怒りに震えながら怒鳴った。
 フリーザ衛門も同調する。「そうですよ。第一、わたしたちがやったという証拠はあるんですか、証拠は」

「証拠はある」
 その声と共に麻裃あさがみしもを身にまとった南町奉行が現れ、一番高いところに座した。その顔を見て思わず悟空が声をあげた。
「お、おめえは―――」
 町人まげから侍の髷に結い直した遊び人のピッコ郎がそこにいた。彼は悟空に向かって鷹揚おうようにうなずいて見せると重々しく口を切り、
「ある時は謎の宣教師、またある時は遊び人のピコさん、しかしてその実体は――――」

 裃を跳ね上げ、だだだだだんっ、とお白洲への階段を踏み降りる。諸肌脱いでかえりみれば、背なに一面、アジッサの花吹雪――――


「遠山のピコさんこと、南町奉行 遠山ピッコ郎左衛門尉景元さえもんのじょうかげもととはオレのことだ。――――やいやいやい、てめえらの悪事は何もかもお見通しなんだよ! このアジッサ吹雪に見覚えがねえとは言わせねえぜ!!」

 言われたセルとフリーザ衛門はきょとんと顔を見合わせる。
「見覚えありますか、お代官さま」
「さあねえ……」
 ピッコ郎は冷や汗を流して叫んだ。
「し、しまったあ、どさくさに紛れて見せておくのを忘れていたあーーー!!」
 おチチが呆れながら夫の肩越しに訊いた。「悟空さ、おめえ、あんなやつの下で働いてたのけ」


第四幕に戻りやがれ!  / 第六幕はこっちだぜ!
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