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DB in お江戸でござる

楽屋にて第一幕第二幕第三幕第四幕第五幕第六幕舞台挨拶


第三幕

「どいたどいたどいたあーーーーーーっ」
 威勢のいい声が大門の方から聞こえてくる。ブルマ太夫が目を輝かせた。
「孫くんだわ!」
「ちっ……面倒なやつが来やがった」
 ベジー太は舌打ちすると、今まさに踏みつぶそうとしていたヤムチャ之介の上から足をどかし、大猿の姿のまま、空を飛んでいずこともなく去って行った。

「ふう、助かった」
 ヤムチャ之介は大きく息をついた。そこへ十手を振りかざした悟空が、手下の人造人間八号を従えて駆けつけてきた。
「ケンカはここか? 大猿の化け物はどこ行ったんだ」
「もうどこかへ行っちゃったわよ」
「しまった。遅かったか。ちぇ―――なあ、強えやつだったか?」
「孫くん、あんたワクワクしてない?」

 ブルマ太夫やヤムチャ之介と共に、悟空が大猿の去った方向を残念そうに見上げていると、後から頓狂とんきょうな声がした。
「チョットイイデスカ〜ア?」
 振り向くと、宣教師の格好をしたピッコロが立っていた。
「アナタハ神ヲ信ジマ〜スカ? 神ハ偉大デェ〜ス」
「何やってんだ、おめえ」
「いやちょっとデンデに頼まれて……布教活動をな」
 ピッコロはうつむいてぼそぼそとつぶやいた。
「どうでもいいけどこの時代、キリシタンとか異教徒は御法度よ」
 ブルマ太夫の言葉にピッコロは驚愕し、頭を抱えてわめいた。
「おおぅ、マイガーーーーーーーッ!!」


 ところ変わってここは東海道。旅姿の亀仙人とクリリンがのんびりと歩いている。
「ご隠居、いい天気ですねえ」
「そうじゃな。ところでクリさんや、ワシはのどが渇いた。そろそろひと休みせんか」
「じゃ、あの峠の茶屋で休憩しましょうか」
 ふたりが遠くに見える茶屋目指して歩いて行く途中、松の根方でひとりの女がしゃがみ込み、苦しんでいた。身なりからしてどこかの腰元のようである。クリリンが駆け寄る。
「もし、お女中、どうなされた」
「じ、持病の(しゃく)が……」
 振り向いた女を一目見てクリリンはぼうっとなった。金髪に切れ長の青い瞳の、目もくらむばかりの美女だったからである。
「か、かわいい〜。き、きみ、名前は?」
「十八号」
 離れたところから亀仙人がクリリンを手招きしている。「なんですか?」とクリリンが戻ってみると、じいさんは懐から一星球を出し、ひそひそ声で言った。
「ほれ、このドラゴンボールの印籠を見せて、あの女にワシが天下の副将軍じゃと言うて来い」
「そんなことしてどうするんスか」
「おそれいったところで、パイパイをちょっとつつかせてもらう」
「ご、ご隠居、それって犯罪なんじゃ……;;」

 クリリンが再び女を振り返ると、いつの間にか女の姿は消えていた。
「あれ? 十八号? 十八号さん? ……どこ行っちゃったのかなあ」
 頭をひねりながら茶店についたふたりは、団子とお茶で休憩を取った。さて代金を払って出発しようと懐に手をやったところで、クリリンは青ざめた。
「財布がない―――さっきの女、スリだったんだ!」
 その声を聞きつけて、茶店の奥から占いババが水晶玉に乗って飛び出してきた。
「金がないじゃと!? おまえたち無銭飲食か!!」
「ね、姉ちゃん」
「姉ちゃんではない。わしはこの茶店の主」占いババは突然歌い始めた。
「♪ わっ、わっ、わたしは占いババ!! キュートなキュートな占いババ!! ♪」
「相手が悪い。逃げるんじゃ。クリさん」
 一目散に駆けて行く亀仙人とクリリンのあとを、水晶玉に乗って歌いながらどこまでも占いババは追いかけてゆく。
「知りたいことは何かしら〜 ちょっぴりセンチな尋ねごと〜♪」


「よござんすか、よござんすね―――勝負!」
 壷振りのギニューが勢いよく壷を振ると、四方八方から「丁!」「半!」の声がかかる。ギニューはゆっくりと周りを見回し、壷を上げた。
「四六の丁!」
 悲喜こもごもの声が、わっと周囲から上がる。その中に口元を歪めて笑みを浮かべつつ、黙々と金をかき集めるベジー太の姿があった。

 遊び人のピッコ郎は柱の陰からそっとベジー太をうかがった。
「よう、ピコさん」
 声をかけられて振り向くと悟空が立っている。
「あいつか、この頃賭場に出入りしてる流れ者って」
「ああ」ピッコ郎はひとつうなずいて声をひそめた。「無宿人のくせにずいぶんと金回りがいい。後に誰かついているらしいな」
「臭うな」

「ところで悟空、ご禁制の仙豆がこの江戸へ持ち込まれているという噂を知っているか」
「ああ。ここしばらくの間にヤジロ兵衛を脅しては、カリン塔から持ち出させていたやつらがいるらしい。カリンさまが気づいた時には、すんげえたくさんの数の仙豆がなくなってたそうだ。……そいつら、よっぽど腹が減ってたんだろうな」
 仙豆のことを話題にしているうち、条件反射で悟空の腹がぐるぐるぎゅうと鳴った。
「いや。そいつの狙いは別にある」懐手をしてピッコ郎が答える。
「別に?」
「金だ。仙豆は闇市場でべらぼうな値段がつく。その金でやつらは何かどでかいことを企んでいるらしい」
「どでかいこと?」
 ピッコ郎は悟空の耳に口を寄せ、声を潜めて何か言った。
「幕府を!?」
「しっ」
 ピッコ郎は油断なくあたりに目を配りながら、声を抑えたままで言った。
「今、仲間に探らせている。何かつかんだらおまえに知らせる」
「うん」

 緊張した面持ちで考え込んでから、悟空はふとピッコ郎を見上げて目を見張った。
「そういえばおめえ、ゆうべ吉原にいた宣教師に似てんな」
 ピッコ郎は乾いた笑い声をたてた。「HAHAHAHAHA……何ノコトカ、ワカリマセ〜ン」
「…………;」
 真顔に戻るとピッコ郎は言った。
「ところで悟空、さっきから気になっていたのだが、ピコさんというのは誰のことだ」
「おめえに決まってんだろ。『遊び人のピッコ郎』だから『ピコさん』じゃねえか」
「しまらん名だ」
 ピッコ郎は憮然としてつぶやいた。


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