DB in お江戸でござる
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第四幕
広大な屋敷の奥座敷にふたりの男が向かい合って座っている。細胞分裂の模様をリアルに描いた着物を着たセルと、こちらも負けじと惑星爆発の派手な図案を金糸銀糸で彩った着物のフリーザ衛門だ。 セルが小さな袋の口を開け、中身をフリーザ衛門に見せている。フリーザ衛門がうなずきながら白い紙に包んだ小判の包みを三つ、セルの方へと押す。 「細胞屋さん、あなたもワルですねえ」 「お代官さまこそ」 ![]() ![]() 「ほぉーっほっほっほ」 「はぁーっはっはっは」 と、二人がハモっているその時。 「誰だっ」 フリーザ衛門は叫び、刀受けにあった長刀で天井の一角をぶすりと突いた。 「どうかなさいましたか、お代官さま」 「ふん、逃がしたようですね。ネズミですよ」 「ドドリアさん!」と、フリーザ衛門は手下の名を呼び、顔を出したあばた面の男に屋敷内の警備を強固にするよう命じた。 「ビーデルさん、大丈夫ですか」 天井裏を並んで忍び足で走り抜けながら悟飯がビーデルに声をかけた。 「平気よ。女の子を長刀で刺そうとするなんて、あのフリーザ衛門って代官、なんてやつかしら」 忍び装束のビーデルはプンプン怒っている。 「でもこれで尻尾はつかんだわね。悟飯くん、早速城に戻って父上に報告よ」 ご禁制の仙豆をヤジロ兵衛を脅して江戸に持ち込んだのは細胞屋セル、それを売りさばき、暴利を貪っていたのは悪代官フリーザ衛門。ふたりはその金で幕府転覆を企んでいたのだった。 徳川第@代将軍サタンに拝謁し、彼らの悪企みを知らせた悟飯は、ビーデルとともに長屋に戻り、父であり岡っ引きでもある悟空にもそれを打ち明けた。 「今まで黙っていてすみませんでした。実はボクはこのビーデル姫と一緒に、ご公儀の隠密を務めていたんです」 「サタンも甘えもんが好きだからな〜」 「え?」 「だから、ご公儀のあんみ―――」 「おめえは黙ってるだ。悟空さ」おチチがぴしゃりとさえぎった。 「兄ちゃんカッコイイ!」悟天が目を輝かせた。 「いつもその娘っ子と出かけていくのは、逢い引きしてたんじゃなかっただな」おチチは前掛けで目頭を押さえかけ、ハッとして若いふたりの顔を交互に見る。「姫ってことは……将軍家の……。身分違いでも結婚って出来るんだったべか」 「や、やめてくださいよ、お母さん」 ビーデルの方をはばかりながら、赤くなった悟飯が気の早い母を止めた。ビーデルは頬を染めて台所のへっついを眺め、聞こえなかったふりをしている。 悟空が両拳を握りしめて立ち上がる。 「よしっ、これからフリーザ衛門の屋敷に踏み込んでやつをお縄にする!」 「ボクらもお供します。今なら細胞屋セルも一網打尽に出来ますよ」 「何言うだ。これ以上危ねえことに手を出すんじゃねえぞ、悟飯! おめえは闘いなんてやめて、寺子屋に通って立派な人になるだ」 追いすがる母の手を悟飯は非情に振りほどいた。 「止めないで下さい、お母さん。これがボクの使命なんだ。死して屍拾う者なし……」 悟天が目を丸くした。「ノリやすいなあ、兄ちゃんは」 悟空、悟飯、ビーデル、それに人造人間八号に踏み込まれ、悪代官フリーザ衛門と細胞屋セルは、襖を次々とシッポでなぎ倒しながら奥座敷へと逃げ込んだ。 「観念しろ、フリーザ衛門、セル! きさまたちの悪行はとうにお見通しさ!」 「もう逃げられねえぞ。神妙にお縄を頂戴しろ!」 「ふふん、飛んで火にいる夏の虫とはあなたがたのことですよ。それっ、やっておしまいなさい!」 フリーザ衛門のかけ声に、ザーボン、ドドリア、ギニュー特戦隊の面々が現れ、たちまち悟空たちを取り囲んだ。「カプセル楼」や賭場の陰の運営者とは、実はフリーザ衛門だったのである。 「お代官さま、闘いの前に例のポーズをとってもよろしいでしょうか」 ギニューがおごそかに尋ねた。 「す、好きになさい」 特戦隊のメンバーは定位置につき、構えをとった。 「リクーム!」 「バータ!」 「ジース!」 「グルド!」 「ギニュー!」 「みんなそろって―――」 「ギニュー特戦隊!!」 「た、隊長、着物の裾がからんで……」 「うーむ。やはりこの格好では無理があるか。ポーズを改良せんといかんな」 居合わせた他の者はみな、度肝を抜かれてただ見つめるのみである。 ようやくフリーザ衛門が口を開いた。 「……さ、さあ、やっておしまいなさい」 「はっ」 「待てっ!」と、悟飯が片手を突き出して制した。 「お返しにボクらもやらせてもらう。ビーデルさん、用意はいいですか」 「いいわよ!」 「悪は―――絶対―――許さない―――」 悟飯とビーデルのポーズが終わるなり、厳しい表情で食い入るように見つめていたギニューは、人差し指を突きつけて鋭く指摘した。 「腰のキレが甘いッ!」 「な、何を言う!」 「ひどい! 一生懸命練習したのに!!」 ギニューは怒りに青ざめている悟飯とビーデルの前に踊り出た。 「きさまらのポーズには華がない。いいか、こうやるのだ。右へウヮン・ツウ・ステップ、パン(手を打つ)、左へウヮン・ツウ・ステップ、パン、ターン! あ・く・は――ぜーったい――ゆ・る・さ・な・い(腰を振る)。イェイ♪ だ。やってみろ」 半信半疑のまま、言われた通りにステップを踏んでみた悟飯とビーデルは、顔面蒼白になってその場に崩折れた。 「そ、そんな……」 「こっちの方がステキだわ。悔しいけど……」 「ボクらの負けだっ」 ふたりは抱き合って号泣した。 「だ、誰でもいいから、さっさとこいつらをやっつけてしまいなさい!!」 口を開けて見ていた一同は、フリーザ衛門のわめく声で我に返った。 「待て! オレも助太刀するぜ」 ![]() 遊び人のピッコ郎が駆け込んでくる。泣きやんだ悟飯が目を輝かせてピッコ郎を振り向くと、ピッコ郎は力強くうなずき返した。 セルがあざ笑った。「ザコが何匹寄って来ても同じだ!」 と、その時! かぽぽぽぽぽぽぽぽーん。 かっぽん、かっぽん、かっぽん、かっぽん、 かぽぽぽぽぽぽぽぽぽ…………………ぽぉん。 鼓の音が響きわたり、女物の衣をかぶって鬼の面をつけたトランクスが現れた。 「桃太郎侍!?」 唖然として凍りつく一同の前で、トランクスは朗々と口上を述べ始めた。 「ひとぉ〜つ、人の世の生き血をすすり、ふたぁ〜つ、 「みっつ、三日月ハゲがある。よっつ、横ちょにハゲがある」 「ご、悟空さん」鬼の面を外したトランクスが、ふるふる震えながら言った。「横合いから茶々を入れるのはやめていただけませんか」 心外そうに悟空は眉をしかめた。「違うんか? ハゲの数え唄じゃねえんか?」 「……みっつ醜いこの世の鬼を、退治てくれよう桃太郎―――きさまら、オレが相手だ!!」 「おい、無視すんなよ。暗えやつだな」悟空はぶつぶつ言った。 ギニュー特戦隊の面々は顔を寄せ合い、とまどってひそひそと囁きあっている。その後ろから、若草児童合唱団のかわいらしい歌声が聞こえてきた。 振り向けば、子連れ狼の格好をした天津飯が、BGMに合わせて乳母車を押して歩いてくる。風車を手に乳母車に揺られているのは餃子だ。 「やっとオレたちの出番が回ってきたか……」天津飯は感激を噛み締めながら涙ぐんだ。 |
※「ハゲの数え唄」の文字をクリックすると歌詞が見られます(^^;)
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