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舞台挨拶
ちょーん、ちょんちょんちょんちょん……(拍子木の音) 舞台はきれいに片付けられ、正面には某歌劇団と見まごうばかりの、何十段にも及ぶ大階段がしつらえてある。 と、「笑点」のテーマソングが鳴り響き、舞台袖から最初に手に手を取って現れたのは、ヤムチャ之介と天津飯、餃子の3人である。天津飯は片腕を目に当てて泣いている。 ヤムチャ之介と餃子が観客に向かって手を振ると、一部のマニアックなファンからおひねりが投げ込まれた。 「天さん、気を落とすなよ。ほら、オレたちにだってファンはいるんだ」 ヤムチャ之介が両手のひらに乗せたいくつかのおひねりを見せると、ちらと目をやってからまた天津飯は腕に顔を伏せて 「し、しかし……ヤムチャ之介よ。オレは楽しみにしていたのだ。ひっ、久しぶりの登場を……。そ、それがたったあれっぽっちの……」 餃子が横でしきりにうなずきながら、もらい泣きしている。 ヤムチャも目をうるませた。 「わかるぜ。オレだって、もうちょっとかっこよく立ち回りができると思って期待してたんだ。それがあのざまだ。ブルマ太夫は結局ベジー太のものになっちまうし……。プーアルのやつ、ちゃんと脚本書き換えてくれたのかぁ!?」 3人はお互いに肩を抱き合い、おいおい泣きながら反対側の袖に引っ込んだ。 そして亀仙人、クリリン、十八号、トランクス、ブルマ太夫、おチチと、次々にキャラたちが現れ、観客の声援に応えては去ってゆく。ピッコ郎は宣教師の格好で出るか遠山奉行の格好で出るかと迷っているうちに、順番を飛ばされてしまったようである。 脇役のラストを飾ったのは、細胞屋セルと悪代官フリーザ衛門の二人だ。但し、二度と悪事が働けないようにと、さっさと刑罰を執行されてしまった後だったので、獄門になった首だけの登場であった。 観客席の女性ファンが悲鳴を上げ、ブーイングの嵐が起こる。 「細胞屋さん、わたしたちの人気もたいしたものですねえ」と、フリーザ衛門の首が笑った。何か勘違いしているようである。 返事をする代わりに、セルはいきなり首からズルッ、ズルッと体を生やし始めた。あまりの気持ち悪さに、場内は 「およしなさい、細胞屋さん。 こんなところで。節操のない人ですね!」 フリーザ衛門が止めるのにも耳を貸さず、セルは生えた体から手足をにょっきり伸ばして叫んだ。 「ふっかーつ!!」 とたんにガードマン姿のサイヤ人戦士たちが、舞台の上にバラバラと飛び出してきてセルを取り押さえた。「無礼者!」とわめくフリーザ衛門の首を蹴飛ばしながら、二人一緒に舞台袖へと無理やり退場させる。 気を取り直して、さあ、いよいよ真打の登場である。大階段のてっぺんにスポットライトが当たった。熱狂的ファンの大歓声に迎えられ、悟空とベジー太が登場する。二人ともリボンを長く垂らした花飾りを持っている。 「行くぜ、カカロット。勝負だ!」 花飾りを振り回しながら、ずんずんと大階段を下りてゆく二人。観客席のファンから、けたたましい悲鳴と歓声が湧き起こる。失神者まで出たようである。 悟空とベジー太の名を叫びながら、客席の最前列へと大勢の女性ファンが駆け寄って来る。慌ててサイヤ人のガードマンたちが押さえにかかるが、恐るべしマニアのパワー、サイヤ人の剛力も軽く蹴散らして前へ前へと押し寄せる。 と、そのうちにファンの群が二つに分かれ始めた。一つは長身のガードマンに向かっている。どうやらガードマンの中にバーダックが混じっていたようである。バーダックは取り巻いたファンにキャーキャー言われながら、満更でもなさそうにサインに応じている。 ベジー太は怒りにわなわなと震えながら言った。 「お、おのれ、下級戦士の分際で。カカロット、きさまの親父だろう。分をわきまえろと言いやがれ!」 「そんなこと言ったってよ」 悟空は殺到するファンに向って手を振ってみせた。何人かのファンが舞台へ駆け寄り、山のようなプレゼントを渡し、札ビラのレイを悟空の首にかける。 「ははは。これもらうとおチチが喜ぶんだ」 「あんまりいい気になるなよ、カカロット。原作やアニメではきさまがナンバーワンかもしれんが、ファンの女どもの間ではオレがナンバーワンだ」 「あっ、ベジー太おめえ、オラが食いもん一杯もらったんで悔しいんだな」 「ちっ、違――」 「しょーがねえな〜。ほら」 悟空はプレゼントの中から、ちくわとカマボコの詰め合わせをベジー太に手渡した。 「食うか?」 「いらんわっっっ!!!」 ベジー太は足取りも荒々しく前へ進むと、ぎこちなく微笑みながら、舞台の端から端まで歩いた。今度は彼のファンが絶叫して押し寄せる。客席の前に陣取る悟空のファンと入り乱れ、押し合いへし合いの大騒ぎとなってしまった。 「見やがれ、カカロット。これがオレの人気だ」 その時、ファンのキャーキャーいう声に恍惚の表情を浮かべていたベジー太の足が、舞台の縁でつるりと滑った。 「!!!!!!!!」 一瞬の静寂のあと、ベジー太の悲鳴とファンの歓声がホールの中にこだました。 「おーい、ベジー太、大丈夫……じゃなさそうだな」 群なすファンのど真ん中に転落し、絶叫を残してあっという間に飲み込まれてしまったベジー太の姿は、今や完全に悟空の視界から消えた。 「あ〜あ」 「父さん!」 舞台袖からトランクスが飛び出して来た。父を救うためにそのまま客席に身を投じようとした彼を、悟空が静かに止めた。 「だめだ。あの中に落ちたら骨も残らねえ」 「そんな……!! と、父さん……」 トランクスは涙をこらえて合掌した。 次の瞬間、髪の毛をむしられ、キスマークだらけにされたベジー太が、突如としてファンをかきわけ、舞台へ踊り上がった。 「てめえら、いいかげんにしやがれーーーーーーー!!!」 「うわっ、ベジー太!!」 「父さん、生きてたんですね! ――――うわあっ、その姿は!!」 ベジー太は着物をむしられて全裸だった。 「とっ、父さん! この舞台のジャンルは『健全』なんですよ。なんということを――――」 「オレのせいじゃねえー!!!」 悲鳴と歓声と怒号の中、慌てて幕が引かれた。今度こそ本当の終演である。 ―― 完 ―― |