ミステリ&SF感想vol.104 |
2005.04.23 |
『地球間ハイウェイ』 『戻り川心中』 『銃、ときどき音楽』 『レイニー・レイニー・ブルー』 『殺意のシナリオ』 |
地球間ハイウェイ Down the Bright Way ロバート・リード |
1991年発表 (伊藤典夫訳 ハヤカワ文庫SF1466) |
[紹介] [感想] パラレルワールドを扱ったSFですが、異世界の地球の様子を詳細に描くのではなく、〈輝き〉をたどり地球から地球へと移動していく〈巡りびと〉たちの旅そのものが中心になっているところが非常にユニークです。謎の存在が構築した地球間ハイウェイ〈輝き〉は、F.ポール『ゲイトウェイ』やR.J.ソウヤー『スタープレックス』などのパラレルワールド版といった印象ですが、複数の世界が直線状に連なっているという構造は特徴的といえるかもしれません。
物語は、〈巡りびと〉を率いるジュイやその右腕クェンセ、〈巡りびと〉と付き合うことにあこがれるビリーなど、複数の人物の視点で進んでいきます。これによって、〈巡りびと〉という存在、その活動や使命などが多角的に描かれている反面、物語がなかなか動き出さないという難点もあります。興味深くはあるのですが、序盤がやや冗長に感じられるのは否めません。 中盤になって事件が起こると、物語は次第に加速していきます。〈創建者〉を探し出すという使命のもとに組織された〈巡りびと〉に対して、その使命そのものを脅かす危機が迫る展開は、なかなかスリリングです。しかもそこには、〈輝き〉の直線的な連結という設定がうまく取り入れられていたり、ある登場人物によるトリッキーな反撃が行われたりするなど、面白いアイデアも盛り込まれています。 終盤には“善”と“悪”とが激しく交錯し、重いテーマが浮かび上がってきます。しかし、あくまでもエンターテインメントらしく、最後は清々しく希望の持てる場面で終わっています。前述のようにやや難はありますが、ユニークなアイデアを壮大なスケールで展開した快作といえるのではないでしょうか。 2005.03.31読了 [ロバート・リード] |
戻り川心中 連城三紀彦 | |
1980年発表 (講談社文庫 れ1-1・入手困難) | ネタバレ感想 |
[紹介と感想]
|
銃、ときどき音楽 Gun, with Occasional Music ジョナサン・レセム | |
1994年発表 (浅倉久志訳 早川書房・入手困難) | ネタバレ感想 |
[紹介] [感想] 近未来の管理社会を舞台にしたSFハードボイルドです。SFといっても、(“進化療法”を除けば)現代よりもそれほど進んだ科学技術が登場するわけではなく、一種異様な文化/社会を描き出すことに重点が置かれています。
“カルマ・ポイント”を通じた管理、蔓延する様々な合法ドラッグ、そして“進化療法”による知能増大、といったあたりがこの社会の特徴ですが、個々をみるとどこか既視感があります。しかしそれらが一つにまとまって、何ともいえない悪夢的なディストピアが生み出されているところが印象的です。また、検問局の検問官と免許を持つ民間検問士以外は他人に質問することすら許されないという設定も、管理の厳しさをうかがわせます。 その世界の中で、検問局勤めに嫌気が差して民間検問士に転じた主人公・メトカーフの立場や言動は、ハードボイルドとしてオーソドックスなものといっていいでしょう。ドラッグに耽溺し、うだつの上がらない日々を送りながらも、しゃれたやり取りも交えつつきっちり筋を通そうとするあたりは魅力的です。 終盤には思わぬ展開もあり、また事件の謎解きも思いのほかよくできています。ユニークなSFハードボイルドとして、一読の価値はある作品です。 2005.04.07読了 [ジョナサン・レセム] |
レイニー・レイニー・ブルー 柄刀 一 | |
2004年発表 (カッパ・ノベルス) | ネタバレ感想 |
[紹介と感想]
|
殺意のシナリオ The Last of Philip Banter ジョン・フランクリン・バーディン | |
1947年発表 (宮下嶺夫訳 小学館) | ネタバレ感想 |
[紹介] [感想] J.F.バーディンの長編第2作ですが、第1作『死を呼ぶペルシュロン』と第3作『悪魔に食われろ青尾蝿』という2大怪作に比べると、衝撃度という点でやや落ちるのは否めません。これはあくまでも相対的なものですが、あまりにも独特で異様な世界が構築されていた前述の2作とは違って、本書のように不可解な手記を中心に据えたミステリが、今となってはかなり見慣れたものになっているためだと思われます。もちろん、本書が50年以上も前に書かれたことを考慮すべきなのでしょうが、訳文にも内容にも古めかしいところがほとんど感じられず、現代の作品といっても通用しそうなことがかえって仇となっているようにも思えます。
とはいえ、謎めいた発端は十分に魅力的ですし、フィリップが“告白”に記された未来の予言から逃れようと四苦八苦しながらも、結果的に大筋ではそれに従うことになってしまうというあたりもなかなかよくできています(個人的には、ある種の時間テーマSF――歴史を改変しようとする努力が無に帰してしまう類のもの――にも通じるところがあるように思います)。また、フィリップが少しずつ“壊れて”いく様子は、異様な心理描写を得意とする作者の本領発揮といったところでしょう。 少々残念なのが終盤で、やや仕方ない面もあるとはいえ、冒頭の謎のつじつま合わせに終始しているような感があります。さらに、犯人や動機がかなり見え見えな割に、謎解き役の手際がよくないところも釈然としません。前半がなかなかの出来だけに、もったいないところです。 2005.04.13読了 [ジョン・フランクリン・バーディン] |
黄金の羊毛亭 > 掲載順リスト/作家別索引 > ミステリ&SF感想vol.104 |