ミステリ&SF感想vol.124

2006.05.23
『ゴーストなんかこわくない』 『矢の家』 『トリックスターズD』 『不思議の国のアリバイ』 『オルガニスト』



ゴーストなんかこわくない マックス・カーニイの事件簿 Ghost Breaker  ロン・グーラート
 1971年発表 (浅倉久志訳 扶桑社文庫 ク20-1)

[紹介と感想]
 カリフォルニアの広告代理店で働くマックス・カーニイには、幽霊退治人というもう一つの顔があった。趣味のオカルトの知識を生かし、幽霊や魔術による様々なトラブルを解決するのだ……。
 広告代理店に勤務するアマチュアのゴーストハンター、マックス・カーニイを主役とした連作短編集です。ゴーストハンターものとはいっても、ウィリアム・ホープ・ホジスン『幽霊狩人カーナッキ』などのようなシリアスな怪奇小説ではなく、ちょうどマイク・ レズニック『一角獣をさがせ!』をさらに軽くしたような、ミステリ風味のドタバタファンタジーになっています。
 肩の力を抜いて楽しめる軽妙な作品ではあるのですが、やや軽すぎて物足りない印象が残ってしまうのは残念。

「待機ねがいます」 Please Stand By
 友人のダンがカーニイのもとに相談にやってきた。なぜかダンは、祝祭日のたびにMサイズの象に変身してしまうというのだ。このままでは恋人と結婚することもできないと嘆くダンだったが……。
 “悪役”の企みのせこさ(?)が笑えます。そして“Mサイズの象”の活躍も。

「アーリー叔父さん」 Uncle Arly
 毎週火曜日になると、ティムのテレビの中に幽霊が現れるという。それは、ティムが以前に付き合っていたジーンの叔父らしく、ティムにジーンと結婚するようしきりに薦めてくるのだ……。
 ひたすら結婚を薦めるというお間抜けな幽霊に思わず苦笑。

「撮影所は大騒ぎ」 Help Stamp Out Chesney
 ドラマを撮影中のスタジオで様々な怪奇現象が相次ぎ、撮影が一向に進まない。出演していた女優に話を聞いてみると、どうやら脚本家である彼女の叔父に呪いがかかっているらしいのだが……。
 幽霊の言い分にはなるほどと思わされるところがありますが、何ともビジネスライクな結末がユーモラスです。

「人魚と浮気」 McNamara's Fish
 友人夫妻を訪ねたカーニイは、二人からこっそり相談を受ける。夫は妻と隣人の仲を疑い、妻は夫が人魚と浮気しているのではないかと疑っているのだ。それぞれの後をつけたカーニイは……。
 疑惑のぶつかり合いの結末は、なかなか意外なものになっています。ただ、行き当たりばったりにも感じられるラストは疑問。

「カーニイ最後の事件」 Kearny's Last Case
 結婚を控えて幽霊退治人をやめようとするカーニイだったが、友人の恋人がオカルト会社に就職してしまい、辞めるに辞められないという騒ぎに巻き込まれてしまう。しかも婚約者のジリアンが……。
 オカルト会社をめぐるドタバタ以外には、あまり見るべきところがありません。

「新築住宅の怪異」 Breakaway House
 新築の住宅を買った友人夫婦が、ポルターガイストに悩まされているという。カーニイは地の精{ノーム}によるものだと考えるが、友人はなぜかそれを認めようとしない。そうこうするうちに……。
 結婚を機にオカルト探偵から手を引こうとしているカーニイに対して、ジリアンの方が積極的なのが何とも。

「あの世からきたガードマン」 The Ghos Patrol
 ホームレス無料診療所を開いた友人のところへ、寄生行為防止運動家が抗議に押しかけるが、それに対抗して騎馬警官やらマッチョな上院議員やらの幽霊が出現し、困った友人はカーニイに……。
 登場してくる幽霊が、いずれもある人物の趣味を強く反映しているところが面白いと思います。

「幻のダンス・パビリオン」 Strawhouse Pavilion
 ジリアンの友人夫妻のもとには、妻の父の幽霊が現れるという。しかも、生前に音楽家だったためか、巨大なダンス・パビリオンと楽団ごと出現し、音楽を演奏し続けるのだ……。
 何ともど派手な幽霊がインパクト十分。ただし、最後があっさりうまくいってしまうところが物足りなく感じられます。

「姿なき妨害者」 Fill in the Blank
 カーニイの友人の舞台が、怪奇現象によってたびたび妨害されていた。一方、ジリアンの友人が住み込みで家庭教師をしている家でも、ポルターガイストらしき現象が。相談を受けたカーニイは……。
 ドタバタは他の作品と同様ですが、その裏で淡々と料理に失敗し続けるブースロッド氏がいい味を出しています。

2006.04.27読了  [ロン・グーラート]



矢の家 The House of the Arrow  A.E.W.メイスン
 1924年発表 (福永武彦訳 創元推理文庫113-1)ネタバレ感想

[紹介]
 富豪のジャンヌ=マリ・ハーロウ夫人が急死し、その遺産はすべて養女のベティに残されることになった。ところが、それに不満を持つ夫人の義弟・ワベルスキーは、恐喝を試みて失敗した後、ベティが夫人を毒殺したと警察に告発する。窮地に追い込まれたベティはハーロウ家の顧問弁護士・フロビッシャーに救いを求め、パリ警視庁からはアノー探偵が派遣される。折しも現地では、匿名の手紙による脅迫事件が続いていたが……。

[感想]
 『薔薇荘にて』に続いてパリ警視庁のアノー探偵が登場する作品で、黄金期を代表する古典ミステリとしてしばしば名前が挙げられているようです。しかし、今となっては残念ながら、謎解きを重視したミステリとして読むにはいささか難があるように思います。

 というのは、トリックなどがあまりにも古すぎるために、ほとんどの読者にとって真相の大半が早い段階で見え見えになってしまっている上に、真相そのものもさほど面白いとはいえないからです。また同様に、手がかりを基にしたアノーの推理にもあまり見るべきところはありません。

 とはいえ、本書がまったく面白くないかといえばそうではなく、予め犯人の目星をつけた上で、倒叙ミステリよろしく犯人と探偵の心理的な対決に着目して読めば十分に楽しむことができます。特に、物語が客観視点ではなく微妙な立ち位置の弁護士ジム・フロビッシャーの視点で描かれているところが絶妙で、犯人と探偵の直接的なやり取り――いわばジムの頭越しに繰り広げられる“空中戦”――に加えて、ジムに対するそれぞれの言動の影響――どちらがジムを“占領”するかという“地上戦”の戦況――までもがつぶさにうかがえるところが非常によくできています。

 作者が本来意図していた面白さが一部失われてしまっているのは確かですが、その優れた心理描写(間接的なものも含めて)によって、今なお佳作として生き続けている作品、といったところでしょうか。

2006.05.02読了  [A.E.W.メイスン]



トリックスターズD  久住四季
 2006年発表 (メディアワークス文庫 く3-3/電撃文庫 く6-3入手困難ネタバレ感想

[紹介]
 三日連続で行われる城翠大学の学園祭、その一日目の開始直後。突然、講義棟の一つが突然正体不明の深い闇に包まれ、天乃原周と三嘉村凛々子は推理小説研究会の面々とともに、その中に閉じ込められてしまった。一同は必死で外部への出口を探し求めるが、闇は壁となって脱出を阻む。さらに、 展示物の一つ、厳重に封印されていたはずの幻の魔器〈ロセッティの写本〉がなぜか発動し、恐るべき“もの”が召喚されてしまったらしい。憑依されたのは一体誰なのか? 疑心暗鬼の中、閉じ込められたメンバーたちが一人、また一人と姿を消し始めて……。

[感想]
 『トリックスターズ』『トリックスターズL』に続くシリーズ第三弾で、「まえがき」にも書かれているように、先の二作を読んでからの方が間違いなく楽しめると思いますので、ぜひとも最初の『トリックスターズ』から刊行順にお読みください。

 シリーズ第一作『トリックスターズ』では魔学部の日常が(ある程度)描かれ、第二作『トリックスターズL』では学外に舞台が移されていましたが、本書と『トリックスターズM』『トリックスターズC PART1/PART2』の三作は学園祭の物語となっています。序盤から、学園祭を精一杯楽しもうと盛り上がる佐杏先生のテンションの高さに苦笑を禁じ得ませんが、にぎやかな祭の雰囲気も束の間、いよいよ学園祭が開始されたその直後に異変が発生し、物語に文字通りの“暗転”*1が訪れます。

 講義棟を包み込んで脱出を阻止する“闇”というあからさまな怪現象など、発端からこれまでになく魔術が前面に出されているのが目を引きますが、その一方で、内部に閉じ込められる人物の大半は推理小説研究会の会員たちであり、名探偵を気取る(失礼)会員がクローズドサークル内で“犯人”探しに挑もうとするあたりは、綾辻行人『十角館の殺人』などにも通じるところがあります*2。このように、魔術とミステリとが全力でぶつかり合ったような、堂々たる“魔術+ミステリ”の状況設定がまず大きな魅力です。
 
 閉鎖空間から脱出できないだけではなく、その中で幻の魔器〈ロセッティの写本〉の召喚魔術が発動しているのが重要なところ。この召喚魔術に関する説明がなかなか面白いのですが、要するに、魔術で召喚された“もの”は誰かに憑依することで機能するという設定になっています。やがて、その機能から危惧されていたた通りに、閉じ込められた人物たちが一人ずつ不可解な消失を遂げるに至って、残された人々の中にいるはずの“憑依された人物”は誰なのか、という一種の“犯人”探しが展開されるのが大きな見どころです。

 もう一つ面白いのが、佐杏ゼミのメンバーにして推理小説研究会所属の扇谷いみなによる、天乃原周や三嘉村凛々子が実名で登場する作中作〈トリックスターズ〉の存在によるメタフィクション的な趣向です。『トリックスターズ』『トリックスターズL』はすでに発表されて会員たちに批評され*3、さらに会誌の最新号には学園祭を舞台にした新作『トリックスターズD』の序盤が掲載されている状態ですが、実名小説とはいえ作中の“現実”そのままではないことが示されており、外部の“現実”から切り離された閉鎖空間の中にあって、作中作と作中の“現実”とが錯綜して*4さらに現実感が危うくなっていくのが印象的です。

 “そして誰もいなくなった状態”に近づいていくスリリングな展開の中、クライマックスでついに明らかにされる驚愕の真相は、これ以上ないほど強烈。手がかりは十分に用意されていると思いますが、強力なミスディレクションが実に効果的ですし、トリックの扱い方/謎の作り方が秀逸です。やや都合がよすぎるように思われる部分もないではないですが、舞台設定を巧みに生かしたシリーズ中随一の仕掛けを味わうことができる、トリッキーな傑作であることは間違いないでしょう。

*1: それまでの「in the "D"aylight」から、「in the "D"ark」に転じる章題もしゃれています。
*2: このあたりについての言及ではありませんが、メディアワークス文庫版の「あとがき」での、“三作目というタイミングで“作中作”をモチーフとして取り入れたのは、綾辻行人氏の〈館シリーズ〉に倣ってのことでした。”(→綾辻行人『迷路館の殺人』を参照)という記述にニヤリとさせられました。
*3: 意外に厳しい評価もあったりしますが、『トリックスターズ』派と『トリックスターズL』派に分かれているところなど、なかなか面白いものになっています。
*4: 残念ながらメディアワークス文庫版には掲載されていませんが、電撃文庫版228頁〜229頁の甘塩コメコ氏によるイラストではこのあたりが意外な形で鮮やかに表現されており、一見の価値があると思います。

2006.05.02 電撃文庫版読了
2016.02.26 メディアワークス文庫版読了 (2016.03.07改稿)  [久住四季]
【関連】 『トリックスターズ』 『トリックスターズL』 『トリックスターズM』 『トリックスターズC PART1/PART2』



不思議の国のアリバイ  芦辺 拓
 1999年発表 (青樹社)ネタバレ感想

[紹介]
 製作途中でスタッフが大量に引き抜かれるという危機を、素人監督の遠野聖滋をはじめ、無名ながら有能な若手スタッフの奮起により乗り越え、ようやく完成間近にこぎつけた特撮映画『大怪獣ザラス』。ところが、“乗っ取り屋”として業界で知られる青蓮院文彦が監督に名乗りを上げ、スポンサーやスタッフは大いに揺れる。しかもその話には、引き抜きの首謀者だった業界ゴロ・熱川一朗が絡んでいるらしいのだ。新たな危機に撮影も滞る中、その熱川が殺害され、監督の遠野が容疑者として逮捕されてしまう。プロデューサーの光岡潤子に事件の解決を依頼された弁護士・森江春策は……。

[感想]
 単独で活動してきた探偵役の森江春策ですが、本書ではついに助手の新島ともかが初登場。先に読んだ『三百年の謎匣』で言及されていた通りの、コメディ風の採用の経緯が笑えます。ただ、少なくとも本書に限っては、彼女の存在があまり有効に機能しているとはいえないのが残念なところです。

 本書では、特撮映画の製作が題材とされていますが、製作に当たる登場人物たちの情熱もさることながら、作者自身の特撮映画に対する強い思い入れが随所に見て取れるところは好感が持てます。それもあって、製作スタッフに感情移入しやすく、引き抜きというトラブルを乗り越えた達成感や“乗っ取り屋”の登場による危機感が、切実に伝わってきます。

 事件の方は、いきなり顔を焼かれた死体が登場するという、なかなか猟奇的なもの。この“顔のない死体”の扱いも非常に面白く感じられますが、中心となるのは題名に示されているように東京―大阪―福岡をまたいだアリバイトリックで、若干気になる部分もあるものの、全体的にみてよくできていると思います。特に、いくつかのネタをうまく組み合わせて一つのトリックにまとめ上げているあたりは秀逸です。

 リーダビリティも高く、最後までスムーズに物語が進んでいくところにも作者の手腕がうかがえますが、残念ながらラストはいただけません。作者が書いているのが“探偵小説”という名のファンタジーだということは十分に承知しているのですが、本書のように“現実”をベースとした作品には、このような現実離れした結末はそぐわないと思いますし、作者が物語世界に強引に介入しているように感じられて興醒めです。

2006.05.03読了  [芦辺 拓]



オルガニスト  山之口 洋
 1998年発表 (新潮社・入手困難ネタバレ感想

[紹介]
 ニュルンベルク音楽大学で教鞭をとるヴァイオリニストのテオは、ある日同僚から相談を受ける。友人の音楽雑誌記者がブエノスアイレスの教会で、ハンス・ライニヒという名の天才的なオルガニストに遭遇したらしいのだ。記者はその演奏を録音したディスクを送ってよこし、専門家によるコメントを求めていた。その演奏を聴いて感銘とともに奇妙な感覚を覚えたテオは、世界屈指のオルガニストであるラインベルガー教授と9年ぶりに連絡を取る。そのハンス・ライニヒは、9年前に忽然と姿を消してテオと教授の断絶の原因となった、かつての友人ヨーゼフの再来ではないのか……?

[感想]
 第10回日本ファンタジーノベル大賞を受賞した作品ですが、その実態はいわゆるファンタジーとはだいぶ異なっており、音楽をテーマとしたミステリ風味のSFといったところでしょうか。特に前半はミステリ的な手法が前面に押し出され、うまく読者の興味を引きながら物語を進めることに成功しています。

 物語の中心となるのはオルガニストとパイプオルガンですが、オルガニストを友人に持ちながらも自身はオルガンを演奏しないテオを主人公とすることで、パイプオルガンとその演奏に関する様々な知識が読者にスムーズに伝わるようになっているところがうまいと思います。また、テオが友人のヨーゼフやラインベルガー教授、あるいはハンス・ライニヒといった天才の域には達しない、どちらかといえば凡庸な音楽家として描かれているところも、物語に深みを与えています。

 物語は謎の天才オルガニストの出現を発端としていますが、テオはそこにかつての友人ヨーゼフのあり得ない再起を見出し、一方のラインベルガー教授はその演奏にどこか不快なものを感じ取る、といったように、不可解な謎をはらんだまま進んでいきます。やがて起こる事件の裏側に浮かび上がってくるのは、音楽に対するはかり知れないほどの情熱と、なかば妄執とも思えるほどの強い意志です。自分に音楽(特にオルガン音楽)の素養がないのが残念ですが、それでもその迫力には圧倒されます。

 ラストがやや唐突に感じられる部分もないではないのですが、幕引きとしてはこれ以外に考えられないかもしれません。すべてに共感できるわけではありませんが、ひたすら純粋で強い想いにあふれた、印象深い作品です。

 なお、本書は文庫化にあたって大幅に改稿されているようなので、可能ならばそちらを読んだ方がよさそうです。

2006.05.04読了  [山之口 洋]


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