2008ミステリ&SFベスト |
2009.01.03 by SAKATAM |
2008年に読んだ本(再読を除く)の中から、個人的に面白かったもの(国内新刊・海外新刊・国内旧刊・海外旧刊を3作品ずつ)を挙げておきます(2008年はJ.D.カーの再読を進めた分、特に海外作品の読了数がだいぶ少なくなっていますが……)。 題名のリンク先は、もう少し詳しい内容紹介と感想です。 |
国内新刊 | ||
1 | 『エコール・ド・パリ殺人事件』 深水黎一郎 | “エコール・ド・パリ”についての美術書を著した有名画廊の社長が、密室状態の自室で刺殺された……。 一見地味で手堅い雰囲気の陰に大胆で意欲的な仕掛けを潜ませた傑作。 |
2 | 『山魔の如き嗤うもの』 三津田信三 | “忌み山”に入り込んでしまった男が遭遇した様々な怪異。そして六地蔵様をめぐる殺人事件が……。 傑作ホラーミステリ・シリーズ第4弾。大量の伏線が回収される怒涛の解決が圧巻。 |
3 | 『官能的――四つの狂気』 鳥飼否宇 | 事件に巻き込まれた“変態学者”増田助教授は、天才科学者に“変態”して超絶推理を繰り広げる……。 増田助教授の変態ぶりと、“変態の論理”に基づく超絶推理が凄まじい、文句なしのバカミス。 |
1位の深水黎一郎は、オペラを題材とした次作『トスカの接吻』もなかなかの佳作。2位の三津田信三は、シリーズ前作『首無の如き祟るもの』よりはやや落ちるものの、依然として高水準。 次点は、一風変わった倒叙ミステリ第2弾の石持浅海『君の望む死に方』か、“ジョン・ディクスン・カー+ボーイ・ミーツ・ガール”という飛鳥部勝則『堕天使拷問刑』。純粋な新作ではない山田正紀『神獣聖戦 Perfect Edition(上下)』は、別格ということで。 |
海外新刊 | ||
1 | 『ロジャー・マーガトロイドのしわざ』 G.アデア | 吹雪のクリスマス。集った人々の秘密を握ったゴシップ記者が、密室で殺害されたが……。 黄金時代の古典本格に対するオマージュにしてパロディ。そして作者の周到な企み。 |
2 | 『七番目の仮説』 P.アルテ | 高名な劇作家と友人の俳優が密かに企む、驚くべき計画を耳にしたツイスト博士は……。 突拍子もない発端から、一転してスリリングな展開、そして底の見えないどんでん返し。 |
3 | 『ウォリス家の殺人』 D.M.ディヴァイン | 過去の秘密が記された日記を出版しようとする人気作家が、脅迫を受けた末に行方不明に……。 ひたすらいやな感じの人間模様と、シンプルで大胆な決め手が出色。 |
P.アルテ、D.M.ディヴァインという好みの作家の新刊を上回ったのは、G.アデアの一筋縄ではいかない作品。強烈なバカトリック(あるいは前例のあるもう一つのトリック)に気を取られてあまり評価していない方もいらっしゃるようですが、麻耶雄嵩作品並みのくせものだと思います。 読んだ数が少ないので、次点はなしで。 |
国内旧刊 | ||
1 | 『向日葵の咲かない夏』 道尾秀介 | まったく別の姿に生まれ変わって僕の前に現れたS君は、“自分は誰かに殺された”と訴えた……。 不条理な物語世界の“少年探偵団”。サプライズと救いのなさが強烈。 |
2 | 『マイナス・ゼロ』 広瀬 正 | 東京大空襲の夜から昭和38年へ、さらには昭和7年の東京へ……。 時間SF的側面と歴史小説的側面をバランスよく併せ持つ、タイムトラベルSFの名作。 |
3 | 『老ヴォールの惑星』 小川一水 | 地下の迷宮、熱風の惑星、異星被造物の母星、そして無人惑星の途方もなく広大な海の上……。 SFならではの特異な状況において、“生きる”ということを真摯に、かつ力強く描いた中編集。 |
1位の道尾秀介は、間違いなく好みが分かれるものの、圧倒的な傑作。3位の小川一水はSFにあまりなじみのない方にもおすすめ――最後の「漂った男」だけでもぜひ。 次点は、書物が禁じられた世界を描いた幻想的なSFミステリの北山猛邦『少年検閲官』か、全編にわたって密室と推理をひたすら追求した柄刀一『密室キングダム』。 |
海外旧刊 | ||
1 | 『ハローサマー、グッドバイ』 M.コーニイ | 夏休暇で港町を訪れたぼくは、思いを寄せる少女に再会して……。 青春、恋愛、戦争、そして“最後の一撃”――必読の傑作SF。 |
2 | 『ライノクス殺人事件』 P.マクドナルド | 経営危機に瀕するライノクス社に、共同経営者の一人が殺害されるというさらなる危機が……。 「結末」に始まり「発端」に終わる特異な構成のサスペンス。 |
3 | 『最後の審判の巨匠』 L.ペルッツ | “最後の審判”という謎の言葉を残して自殺した著名な俳優。相次ぐ不可解な“自殺”との関連は……? 骨格は紛れもなくミステリでありながら、無茶苦茶な展開をみせる怪作。 |
1位と2位はいずれも長らく復刊が待たれていた“幻の作品”です(紛うことなき傑作と、万人向けとはいいがたい作品との差はありますが……)。 海外新刊と同様、読んだ数が少ないので次点はなし。 |
黄金の羊毛亭 > 雑文 > 2008ミステリ&SFベスト |