李煜　浣渓沙　詩詞世界　碇豊長の詩詞：漢詩

　浣溪沙
liyu LiYu 漢詩

紅日已高三丈透，
金爐次第添香獸，
紅錦地衣隨歩皺。

佳人舞點金釵溜，
酒惡時拈花蕊嗅，
別殿遙聞簫鼓奏。

******

浣溪沙
　　　　　　　　　　　　　

紅日　已に高く　　三丈　透る，
金爐　次第に　　香獸に添ふ，
紅錦の　地衣　　歩に隨ひて皺む。

佳人　舞ひ點ずれば　　金釵　溜り，
酒惡（あ）しくして　時に　　花蕊を拈りて　嗅ぐ，
別殿　遙かに聞こゆ　　簫鼓の　奏づるを。

　　　　　　　　　　　　　　　　**********

私感注釈

※浣溪沙：詞牌の一。単調。平韻。詳しくは下記「構成について」を参照。
※紅日：盛んな紅い太陽。
※已高：とっくに上って。
※三丈透：三丈ほども。うんと高く上がった形容。　・透：過ぎる。
※紅日已高三丈透：盛んな紅い日は、とっくに三丈ほども上って。
※金爐：黄金製の香炉。金属製の香炉。
※次第：逐次。次第に。
※添：火に入れる。火を継ぐ。炭をくべる。
※香獸：香料を混ぜて獣の形にこね上げて作った炭。書道の墨に似た感じになるか。「晋書巻九十三・羊琇伝」に「（羊）琇性豪侈，費用無復齊限，而屑炭和（和：こねる）作獸形以温酒，洛下豪貴咸競效之。」とあり、羊琇が獣の形に炭の粉をこねて作り、酒の燗をしたところ、都の金持ちたちは皆真似をしたという故事による。
※金爐次第添香獸：黄金の香炉に少しずつ獣の形をした香の炭をつぐ。
※紅錦：紅いにしきの。
※地衣：絨毯。
※隨歩皺：歩みに随ってしわができる。歩くにつれて、ジュウタンが波打つ。
※紅錦地衣隨歩皺：紅い錦のじゅうたんは歩みと共に皺ができ。
※佳人：美人。ここでは、舞姫を指す。
※舞點：拍子を取って舞う。太鼓の打つ音に合わせて舞う。舞い極める。激しく舞う。
※金釵：金のかんざし。
※溜：滑り落ちる。
※佳人舞點金釵溜：美人が舞い踊れば金の髪飾りが滑り落ちて。
※酒惡：酒に酔う。悪酔いする。金陵（建康）の方言。
※時拈：ときおり…をつまみ。　・拈：つまむ。ひねる。
※花蕊嗅：花のズイを（つまんで）かぐ。
※酒惡時拈花蕊嗅：酔って気分が思わしくない時は、時おり、花のズイをつまんでかぐ。
※別殿：宮殿の正殿ではない建物。別の棟。
※遙聞：遙かに聞こえてくる。
※簫鼓奏：簫や鼓演奏する（音色）。　・簫：管楽器。竹笛を横にハーモニカ状に二十四管程並べた管楽器で吹き口は管の数だけあるもの。　・鼓：打楽器の総称として使われている。
※別殿遙聞簫鼓奏：別殿から遙かに管楽器や打楽器の演奏の音が聞こえてくる。

◎　構成について

　双調。四十二字。脚韻は、平声韻一韻到底。韻式は「ＡＡＡ　ＡＡ」。この作品は平韻ではない。去声韻。韻脚は「透獣皺　嗅奏」で、第十二部去声二十六宥。

　　　●○○●●○，（韻）
　　　○●●○○。（韻）
　　　○●●○○。（韻）

　　　●○○●●，
　　　○●●○○。（韻）
　　　○●●○○。（韻）

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　