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春寒惻惻掩重門, 金鴨香殘火尚温。 燕子不來花又落, 一庭風雨自黄昏。 |
絶句
春寒惻惻 として重門 を掩 し,
金鴨 香 殘 れて 火尚 ほ温かし。
燕子 來 らず 花又 た落ち,
一庭 の風雨自 づから黄昏 なり。
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◎ 私感訳註:
※趙孟頫:〔てうもうふ(ちょうもうふ)Zhao4 Meng4fu3〕南宋~元の政治家、文人。南宋の王室の一族・趙家の出であるが、元朝に仕えた人物。1254年(寶祐二年)~1322年(至治二年)。字は子昂。号して松雪道人。呉興(現・浙江省湖州)の人。
※絶句:取り立てての詩題は無いこと。 *春はなお浅く、環境は寒く厳しい折、晩春の鳥であるツバメはまだ来ないが、花は既に散った。風や雨の中に黄昏(たそがれ)を迎えたわたし…。と、情景を詠うと共に、亡国の嘆きの自分自身をも詠う。 *この詩、「金鴨(香炉)」「香」「残」「燕子」等、宋の婉約詞によく出る語彙が使われている。
※春寒惻惻掩重門:春の冷え込みを悲しみ、(防寒のため、)幾重(え)にも重(かさ)なった門を閉ざし。 ・春寒:春の寒い天気。春の冷え込み。春になってから、ぶり返した寒さ。中唐・白居易の『長恨歌』に「漢皇重色思傾國,御宇多年求不得。楊家有女初長成,養在深閨人未識。天生麗質難自棄, 一朝選在君王側。回眸一笑百媚生,六宮粉黛無顏色。春寒賜浴華淸池,温泉水滑洗凝脂。侍兒扶起嬌無力,始是新承恩澤時。」とある。 ・惻惻:〔そくそく;ce4ce4●●〕悲しみいたむさま。また、ねんごろ。懇切。ここは、前者の意。晩唐・韓偓の『夜深』に「惻惻輕寒翦翦風,小梅飄雪杏花紅。夜深斜搭鞦韆索,樓閣朦朧煙雨中。」
とあり、北宋・王安石は『夜直』で「金爐香盡漏聲殘,翦翦輕風陣陣寒。春色惱人眠不得,月移花影上欄干。」
とした。 ・掩:閉(と)じる。閉(し)める。また、おおいかくす。おおう。ここは、前者の意。「掩門」で門を閉ざす意、戸を締める意。南唐後主・李煜の『烏夜啼』に「無言獨上西樓,月如鈎。寂寞梧桐深院鎖淸秋。 剪不斷,理還亂,是離愁。別是一般滋味在心頭。」
とある。 ・重門:〔ちょうもん;chong2men2○○〕幾重(え)にも重(かさ)なった門。また、二の門。ここは、前者の意。「重」は〔ちょう;chong2○=動詞:かさねる/かさなる〕で、〔ぢゅう;zhong4●=形容詞:おもい〕。この句は「○○●●●○○」とすべきところで、第五字目は○(=平声)とする。つまり、ここでの「重」の原義は:〔ちょう;chong2○=動詞:かさねる/かさなる〕の意。
※金鴨香殘火尚温:香炉の香りはすたれたが、火の気(け)はまだあって、温かい。 ・金鴨:香炉。北宋・晏殊の『連理枝』に「玉宇秋風至。簾幕生涼氣。朱槿猶開,紅蓮尚拆,芙蓉含蕊。送舊巣歸燕拂高簷,見梧桐葉墜。 嘉宴凌晨啓。金鴨飄香細。鳳竹鸞絲,清歌妙舞,盡呈遊藝。願百千遐壽此神仙,有年年歳歳。」とある。 ・殘:すたれる。両宋・李淸照の『一翦梅』に「紅藕香殘玉簟秋。輕解羅裳,獨上蘭舟。雲中誰寄錦書來,雁字回時,月滿西樓。 花自飄零水自流。一種相思,兩處閑愁。此情無計可消除,才下眉頭,却上心頭。」とある。 ・火尚温:火の気(け)はまだあって、温かい意。
※燕子不來花又落:ツバメは来ないが、(季節は移り行こうとして、)花は(今)またしても散り。 ・燕子:ツバメ。「-子」は接尾語。名詞の接尾字で、特段の意味はなく、「こども」の意はない。北宋・晏殊の『浣溪沙』に「一曲新詞酒一杯,去年天氣舊亭臺。夕陽西下幾時回? 無可奈何花落去,似曾相識燕歸來。小園香徑獨徘徊。」とあり、両宋・左緯の『春日晩望』に「屋角風微煙霧霏,柳絲無力杏花肥。朦朧數點斜陽裏,應是呢喃燕子歸。」
とあり、南宋・文天祥の『金陵驛』に「草合離宮轉夕暉,孤雲飄泊復何依。山河風景元無異,城郭人民半已非。滿地蘆花和我老,舊家燕子傍誰飛。從今別卻江南路,化作啼鵑帶血歸。」
とある。 ・不來:来ようとはしない意。来る気はない意。 ・花又落:花が(以前にも散って、今)またしても散る意。
※一庭風雨自黄昏:(我が家の)この庭の風雨の中(うち)に、自然とたそがれになってしまった。 ・自:自然と。 ・黄昏:たそがれになる。動詞としての用法。
◎ 構成について
2016.8.16 8.17 |