詩詞世界　碇豊長の漢詩　燦爛陽光之歌　文化大革命期の詩歌葉徳輝　絶命詞

　　　　　　　　　　絶命詞

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　葉德輝

會
場
廣
闊
，

馬
牛
羊
，
鷄
犬
豕
，

都
是
畜
生
。

農
運
宏
開
，

稻
粱
菽
，
麥
黍
稷
，

盡
皆
雜
種
。

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　　　　　　　　　　　　　　　　　　絶命詞

農運　宏開なれど，　稻粱菽，麥黍稷，　盡(ことごと)く皆(みな)　雜種；

會場　廣闊なれど，　馬牛羊，鷄犬豕，　都(すべ)て是(こ)れ　畜生。

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◎　私感註釈：

※葉德輝：１９２７年、長沙農民協会を痛烈に批判し、結果、人民裁判で死刑判決、斬首されて、その首はさらされた。古来、闘争心旺盛といわれる湖南省の湘潭の人。字は煥彬。この聯は、正確に言えば、文革が始まる四十年前に作られたものであり、当時の農村における共産主義運動の犠牲者のもの、ということになる。当時の毛澤東の表現では「土豪劣紳」（後出：『湖南農民運動考察報告』）として打倒された。この場合も一応この篇章に入れておいた。

※農運宏開：農民運動は、盛んである（が）。　・農運：農民運動。ここでは長沙農民協会が中心となった運動。この頃、国民革命軍が組織され、北伐が始まり、南方各地では、動乱が起こっている。天下大乱の時期である。この時期、地方での中心となっているのが農民運動で、それを批判した対聯で、このために打倒（殺）されたともいう。葉德輝が殺された１９２７年に、毛沢東は全国農民協会の主席で、湖南農民協会の代表でもあり、この年１９２７年３月に『湖南農民運動考察報告』を書き上げた。そこでは次のように述べている。「農民が土豪劣紳を倒すというこの件のできごとは、完全に革命的な行爲であり、なんら、批判されるところはない。」“農民打土豪劣紳這件事完全是革命行爲，併沒有什麼可指摘。”「革命は、客を招いてごちそうすることでもなければ、文章をねったり、絵をかいたり、刺繍をしたりすることでもない。そんなにお上品で、おっとりした、みやびやかな、そんなにおだやかで、おとなしく、うやうやしく、つつましく、ひかえ目のものではない。革命は暴動であり、一つの階級が他の階級をうち倒す激烈な行動である。」“革命不是請客喫飯，不是做文章，不是繪畫繍花，不能那樣雅致，那樣從容不迫，文質彬彬，那樣温良恭儉讓。革命是暴動，是一個階級推翻一個階級的暴烈的行動。”（ともに『毛沢東選集』第１巻「湖南省農民運動の視察報告」）と言っている。　・宏開：盛大である。盛んである。

※稻粱菽麥黍稷：イネ、アワ、豆類（の穀物類）。　・稻：〔たう；dao4●〕イネ。　・粱：〔りゃう；liang2○〕アワ。　・菽：〔しゅく；shu1●〕豆類。麥藜稷：ムギ、アカザ、ウルチキビ（の穀物類）。　・麥：〔ばく；mai4●〕ムギ。　・藜：〔れい；li2○〕アカザ。　・稷：〔しょく；ji4●〕ウルチキビ。　＊ここは「麥黍稷」ともする。「黍」は〔しょ；shu3●〕モチキビ。ここの配列は、「稻粱菽，麥藜稷」のほかに「農運宏開，稻粱菽麥黍稷」とするのがある。なお、これら農作物の名は、漢字を換えれば漢民族の姓となる可能性もある。

※盡皆雜種：ことごとくみな雑種である。盡皆：ことごとくみな。みなすべて。「都是」ともする。　・都是：すべてが…である。すべてこれ。　・雜種：雑種。ここでは、三流のもの、劣ったものの意で使われている。

※會場廣闊：（農民運動の）会場は、広々として（立派だが）。　・會場：農民運動に関係する何らかの会場。人民裁判？　・廣闊：広々としている。ここは「廣潤」ともする。同義。

※馬牛羊鷄犬豕：馬、牛、羊、ニワトリ、犬、ブタ（と家畜である）。　*これら家畜の呼び名は、一部の漢字を換えれば漢民族の姓になる。蛇足になるが、「犬」「豕」は書面語で、口頭語では“狗”“猪”となる。　・豕：〔し；shi3●〕ぶた。いのこ。

※都是畜生：すべてがケダモノである。　*「都是畜生」を「無非畜生」ともする。　・畜生：家畜。動物。獣。「農運宏開，稻粱菽，麥藜稷，盡皆雜種。會場廣闊，馬牛羊，鷄犬豕，都是畜生。」を、或いは「農運宏開，稻粱菽麥黍稷，都是雜種。會場廣潤，馬牛羊，鷄犬豕，無非畜生。」ともする。おそらくこちらの方が原型か。

◎　構成について：

　　押韻はしない。この作品の平仄は次の通り。

○●○○，●○●，●○●，●○●●；
●●●●，●○○，○●●，○●●○。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　

２００３．１０．２４完
　　　　　１１．　５補
２００８．１０．２１
２０１１．　７．１１