二十年來鄕里歸, 舊友零落事多非。 夢破上方金鐘曉, 空床無影燈火微。 |
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暁
二十年來 鄕里に歸る,
舊友 零落して 事 多くは 非なり。
夢は破る 上方 金鐘の曉,
空床 影 無く 燈火 微(かす)かなり。
◎ 私感註釈 *****************
※良寛:江戸後期の禅僧。寶暦八年(1758年)~天保二年(1831年)。漢詩人。歌人。越後国(現・新潟県)出雲崎の人。俗姓は山本。名は栄蔵、後、文孝と改める。号は大愚。諸国を行脚、漂泊し、文化元年、故郷の国上山(くがみやま)
の国上寺(こくじょうじ)に近い五合庵に身を落ち着けた。晩年、三島(さんとう)郡島崎に移った。高潔な人格が人々から愛され、子供達も慕ったが、人格の奇特さを表す逸話も伝わっている。ただ、遺されている漢詩は陰々滅々として、類例を見ないほど暗いものである。
※暁:あかつき。韋應物の『上方僧』「見月出東山,上方高處禪。空林無宿火,獨夜汲寒泉。不下藍溪寺,今年三十年。」に趣は似ていようか。
※二十年來鄕里歸:二十年ぶりに故郷へ帰ってきた(が)。 ・二十年來:郷里を離れて再び郷里に帰ってくるまでの二十年の歳月。 ・-來:…以後。続いて。…以来。 ・鄕里:〔きゃうり;xiang1li3○●〕ふるさと。ここでは、越後の郷本のことになる。 ・歸:〔き;gui1○〕かえる。本来の居場所である自宅や郷里、祖国、墓所へもどる時に使う。
※舊友零落事多非:旧友は亡くなっていて、出来事は、多くは不利な情況である。 ・舊友:〔きういう;jiu4you3●●〕昔の友だち。古くからの友人。旧知。 ・零落:〔れいらく;ling2luo4○●〕死ぬ。落ちぶれる。ここでは、前者の意。東晉・陶潛の『歸園田居』五首其二「野外罕人事,窮巷寡輪鞅。白日掩荊扉,虚室絶塵想。時復墟曲中,披草共來往。相見無雜言,但道桑麻長。桑麻日已長,我土日已廣。常恐霜霰至,零落同草莽。」や、陸游の『卜算子』詠梅「驛外斷橋邊,寂寞開無主。已是黄昏獨自愁,更著風和雨。 無意苦爭春,一任羣芳妬。零落成泥碾作塵,只有香如故。」
とある。 ・事:事柄。 ・多:多くは。 ・非:常でないこと、病気や死など、不利な状態にあるさまを謂う。白居易の『商山路有感』には「萬里路長在,六年身始歸。所經多舊館,大半主人非。」
とある。
※夢破上方金鐘曉:上の方の寺院からの明けの鐘の音のために、眠りから覚めた。 ・夢破:夢から覚める。目覚める。 ・上方:〔しゃうはう;shang4fang1●○〕上の寺院。寺院。また、上の方。韋應物は寺院の意で使う。『天長寺上方別子西有道』、『登寶意寺上方舊遊』、『藍嶺精舍』「道人上方至,清夜還獨往。」、前出『上方僧』「見月出東山,上方高處禪。」とある。 ・金鐘:お寺の鐘の音。「金」は美称。貫休に「翠金鐘曉,香寶林月孤。」とある。 ・曉:〔げう;xiao3●〕明け方。夜明け。
※空床無影燈火微:がらんとした誰もいない床には、人影がなく、燈火がかすかである。 ・空床:誰もいないねどこ。がらんとした床。 ・無影:人影がない。ものの姿がない。 ・燈火:ともしび。 ・微:〔び;wei1○〕かすかである。ほのかである。
◎ 構成について
韻式は「AAA」。韻脚は「歸非微」で、平水韻上平五微。次の平仄はこの作品のもの。
●●○○○●○,(韻)
●●○●●○○。(韻)
●●○○○○●,
○○○●○●○。(韻)
平成18.1.3 |
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