物語は、女の話、不思議の話、仏教の話、の3つのセクションに分かれています。登場人物は、同じ平安時代を代表する『源氏物語』や『枕草子』とちがって、天皇や貴族や僧侶だけでなく、武士や相撲取りや盗賊、漁師や糸を紡ぐ女などのふつうの人々、さらに鬼や天狗や水の精、そして大蛇の姿の神・・・と多彩です。さまざまなテーマのおもしろい物語を選びました。
中世の闇にうごめくもののけや妖怪の力、小さいものにも宿る霊魂、人間の理解を超える不思議と神秘を受け入れる人々の生き方、そして貴族社会の中で武士が台頭していく様子などが描かれます。一方、女たちは、たおやかな姿ながら神秘的な力を持ち、あるいは大自然のふしぎな恵みをあたえられ、あるいは激しい恋や煩悩に苦しむ生身の人間として、読者の共感をとらえます。
当時は仏教が支配的だったので、み仏の教えの力や経典のご利益をたたえる物語が多いのですが、その背後にある、百鬼夜行の恐ろしさ、女の執念、色好みの男のこっけいさなどが、現代の私たちにはたいへん興味深く思われます。 |