ミステリ&SF感想vol.238

2019.12.31
『魔眼の匣の殺人』 『白魔の塔』 『悪意の夜』 『予言の島』 『第四の暴力』



魔眼の匣の殺人  今村昌弘
 2019年発表 (東京創元社)ネタバレ感想

[紹介]
 “十一月最後の二日間に、真雁で男女が二人ずつ、四人死ぬ――神紅大学ミステリ愛好会の葉村譲と剣崎比留子は、紫湛荘での事件の遠因となった〈班目機関〉の手がかりを求めて、人里離れた真雁地区にある〈班目機関〉のかつての研究施設、通称〈魔眼の匣〉を訪ねる。超能力の研究が行われていたというそこには、“予言者”と恐れられる老女が住んでいたが、彼女は目前に迫る死の予言を九人の来訪者たちに告げる。その直後、外界とつながる橋が燃え落ちて一同は真雁地区に閉じ込められ、さらに予言が成就したかのように一人が命を落としてしまった。そして……。

[感想]
 2017年のミステリ界を席巻して映画にもなった*1デビュー作『屍人荘の殺人』に続く待望のシリーズ第二弾で、前作で事件の背景として名前が出てきた〈班目機関〉の元研究施設を舞台に、不吉な予言をめぐる事件の顛末を描いた予言ミステリです。前作とはやや趣が違うところがあるものの、引き続いて“特殊設定+クローズドサークル”が大きな見どころとなっています。

 実際のところ、さすがに前作ほどの派手なインパクトこそありませんが、特殊設定とクローズドサークルを組み合わせた手際は前作に勝るとも劣らないもので、クローズドサークルができあがった経緯も、そして逃げ場がない状況で犯行に及ぶ理由もなかなかユニークです。また、前作と違って(!)誰が犠牲になるのか予断を許さないところまでは常道ですが、“予言者”に加えてもう一人の“予知者”*2が登場するのが効果的で、“四人死ぬ”という予言が事件の結果だけで具体性に乏しい*3一方、“予知者”が変事の直前に*4ある程度具体的な予知をみせることが、サスペンスを高めるのに一役買っています。

 かくして事件が起こるわけですが、それに対して、前作で語られた比留子の“資質”を踏まえたかのように、犯人の手を逃れながら犯人を追い詰めるために探偵側が仕掛ける作戦が目を引きます。その一方で、前作で獲得した幅広い読者層を意識したものか、ミステリとしてはいささか親切にすぎるきらいがなきにしもあらずではありますが、それでも“探偵vs犯人”の対決がそのまま続いて異様な緊張感をはらんだ“解決篇”では、見事な謎解きが展開されます。とりわけ、犯人特定の決め手は実に鮮やかです。

 ただし個人的な好みをいえば、予言が登場人物の行動に影響を与える“前提条件”にとどまる*5あたり、特殊設定ミステリとして前作よりもやや後退した感があるのが残念。また、近い時期に発表された未来予知/予言ミステリ――未来予知をSF的に組み立てて“不可能犯罪”まで作り出してみせた阿津川辰海『星詠師の記憶』や、逆にオカルト的な予言の成就を前面に出してホラー風味で押し切る澤村伊智『予言の島』と並べてみると、本書はあくまでも“予言の存在下でのオーソドックスなミステリ”という印象*6で、少々物足りなさも残ります。

 しかしながら、事件が解決された後に補足的な謎解きが用意されて、若干弱いように感じられた部分もしっかり補強されるなど、最後までよく考えられた作品であることは確かではないでしょうか。私見では前作には及ばないものの、期待された水準は十分にクリアしているといっていいでしょう。最後に予告(?)されている次作も楽しみです。

*1: 映画は観ていませんが……。
*2: これはカバーのあらすじでも明かされています。
*3: よく考えてみると、ミステリ的に都合がよすぎる予言のようにも思えますが、まあそこはそれ。
*4: 変事を阻止できそうにない、絶妙なタイミングで発動する設定になっているのがうまいところです。
*5: そもそも、現象としての予言が“未来の情報の提示”にすぎないので、やむを得ないところではありますが。
*6: これはこれで、裏を返せばミステリ読者には受け入れやすいということになりそうなので、決して瑕疵というわけではありません。

2019.03.14読了  [今村昌弘]


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