ミステリ&SF感想vol.241

2020.10.18
『時空旅行者の砂時計』 『或るエジプト十字架の謎』 『時を壊した彼女』 『潮首岬に郭公の鳴く』 『九孔の罠』



九孔の罠 死相学探偵7  三津田信三
 2019年発表 (角川ホラー文庫 み2-7)ネタバレ感想

[紹介]
 超能力者を極秘で養成する〈ダークマター研究所〉では、経費削減のために、これ以上の成長が見込めない「年長組」の一部リストラが囁かれていた。そんな中、「年長組」の一人・沙紅螺{さくら}が帰宅中に、背後に現れた不気味な黒い影に追われる事件が発生する。そして死相学探偵・弦矢俊一郎が、事務所に依頼に訪れた沙紅螺の“死視”を行ってみると、目、耳、鼻、口から血が流れ出す、何とも凄絶な死相が表れたのだ。かくして黒捜課とともに研究所に乗り込む俊一郎だったが、なぜか新垣警部は不在。そして警備をあざ笑うかのように、第一の事件が……。

[感想]
 〈死相学探偵シリーズ〉の第七弾となる本書では、“死相学探偵”弦矢俊一郎が〈ダークマター研究所〉なるうさんくさい名称の(苦笑)超能力研究施設での事件に挑むことになりますが、いよいよシリーズも大詰めに近づいてきたようで、恒例の呪術が絡んだ事件の解決に加えて、宿敵“黒術師”の右腕として暗躍してきた“黒衣の女”との対決が大きな見どころとして盛り込まれています。

 舞台となる〈ダークマター研究所〉には(意外にも?)、“黒術師”の呪術に対抗できるほどではない*1とはいえ、予知や読心術など各種の能力を操る“本物”の超能力者が存在する様子で、それぞれにくせのある超能力者たちに加えて、俊一郎の祖母・愛染様をして“互角かもしれん”と言わしめる“女傑”の会長まで登場するなど、事件関係者たちは多士済々。しかし“本物”であっても、成果が期待できなければリストラ候補になってしまうというのは、何とも世知辛いところではあります。

 リストラの“ライバル”たちの皆殺しという事件にふさわしく、犯人が使う呪術〈九孔の穴〉は総勢九人もの標的を対象とするもの。暫定的に犯人自身を標的に含めて“数合わせ”ができる*2一方、殺害を遂げるには標的に二度近づく必要がある*3という微妙な仕様には、作者の都合――前者は“死視”で犯人が特定されるのを防ぎ、後者は“次の犠牲者”を早々に確定させることで、被害者に焦点を当てたホラー/サスペンス的な描写を充実させてあります*4――が透けてみえるのが若干気になりますが、これはやむを得ないところでしょうか。

 さて、新垣警部の不在もあって黒捜課の警備も今ひとつ精彩を欠き*5、相次いで犠牲者が発生していく中、事件は急転直下の解決を迎えます。そこでまず明かされる真相だけをみると拍子抜けですが、そこから先が本書の真骨頂で、俊一郎による謎解きが進むにつれて明らかになっていく、作者の企みには脱帽せざるを得ません。とりわけ――いくつかある類似の前例との決定的な違いとして――ある意味で“ホラーミステリならでは”の仕掛けになっているのが非常に秀逸です。

 最後には前述のように“黒衣の女”との対決が用意され、事態が大きく進展をみせるのはもちろんのこと、終盤には“ある人物”が思わぬ形で再登場してくるなど、シリーズとしての醍醐味も十分。他の作品よりもだいぶ短めですし、最終的には――前作『八獄の界』とはまた違った意味で――定型を外れた異色作となっているのですが、それでも期待に違わぬ充実の一冊といっていいでしょう。

*1: したがって“超能力バトル”が展開されることはなく、いつものように話が進んでいきます。
*2: “好きなところで呪術を止めることができる”という都合のいい(?)設定により、犯人自身に危害が及ぶのは避けられます。
*3: 一度目の接近で標的の“防御”を破壊し、二度目の接近で標的を攻撃する、という二段階の手順になりますが、これによって“呪術を途中で止める”操作が納得しやすくなっているところもあるでしょう。
*4: 本書では、被害者視点の描写にそれぞれ一章が割かれています。
*5: 代わりに指揮を取る曲矢刑事としては不本意でしょうが。

2020.01.30読了  [三津田信三]
【関連】 『十三の呪』 『四隅の魔』 『六蠱の躯』 『五骨の刃』 『十二の贄』 『八獄の界』


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