李煜　望江梅　詩詞世界　碇豊長の詩詞

私感注釈

※望江梅：詞牌の一。謝秋娘、望江南、夢江南、憶江南ともいう。単調と双調の二体がある。双調は、単調の繰り返し。但し、この作品や馮延巳の双調・憶江南では、上片と下片とでは換韻している。詳しくは下記「◎構成について」を参照。なお、この作品は、双調ではなく、単調二首とみるのもある。ここでは、双調として採りあげる。この詞は、制作時期に異論があるが、作品が南唐時代のものか、或いは北宋時のものかによって、意味の解釈が微妙に異なってくる。以下はそのどちらにとっても好いような註記にした。

※閑夢遠：のんびりとした夢は遠のいて。　・閑夢：のんびりとした夢。　：閑：しずか。のどか。おっとり。　・夢：ここでは、本当に夢を見たというのではなく、思いを馳せているということ。　・遠：はるかである。もし、この詞が北宋時代の作ならば、「遠」は思い響きを持ってくる。その場合、「閑夢」は「見果てぬ夢」となる。閑夢遠は、「のどかな夢」か「見果てぬ夢」か。

※南國正芳春：南国である江南の地は、ちょうど花が咲き乱れて美しい春だ。　・南國：ここでは、李煜の故郷である江南、南唐を指す。作られた時期が早ければ、故郷である南国になる。北宋期だと江南の南唐。　・正：ちょうど。　・芳春：花が咲き乱れて美しい春。　・芳：かぐわしい、で花を暗示している。花。

※船上管絃江面淥：船の上の管楽器と弦楽器（の音色が）、川の水面の清らかに澄んだ上に（響いている）。　・管絃：管弦。管楽器と弦楽器。楽器の演奏をいう。　・江面：川の水面。　・淥：水が澄んで清らかなさま。綠とするのもあるが、その場合はみどり。

※滿城飛絮輥輕塵：街全体に飛び交う柳絮は、車で舞い上げられる塵のようなものだ。　・滿城：街全体。城は都市、街を指す。城市。中国は城郭都市のため。蛇足になるが、「城」はひろく使われ、例えばＵＳＪ（ユニバーサル　スタジオ　ジャパン）は“日本環球影城”、「書店街」は“圖書城”という具合になる。　・飛絮：柳絮。柳の実が綿のようになり、まるで雪のように舞う柳絮。春の到来を告げるものとして詩詞でよく採りあげられる。　・輥：車輪の回転の速いさま。ここでは、混と同義で使っている。混、渾とするのもある。　・輕塵：風で舞い上がるような軽いチリ。王維の「渭城朝雨

輕塵」は有名。塵はチリ、ホコリだけでなく、ゴミも指す。軽塵で小さな砂埃状のものを指す。

※忙殺看花人：花見客に慌ただしい思いをさせる。　・忙殺：極めて忙しい。春光をあれこれと味わうのに慌ただしい。「－殺」用言の後に附いて、意味を強める働きをする。「極めて…」の意で、「愁殺」「笑殺」等。なお、ここを「愁殺」ともする。　・看花人：花見の客。花見の人。

※閑夢遠：のんびりとした夢は遠のいて。

※南國正淸秋：南国である江南の地は、ちょうどすがすがしい秋だ。・清秋：すがすがしい秋の気節。新秋とするのもある。

※千里江山寒色暮：ずっと遥か彼方まで祖国の山河は、晩秋の気配で暮れようとしている。　・千里：ずっと。はるばると。距離、面積の著しい表現。　・江山：祖国の山河。祖国の地。ただの「山河」の意ではない。ここでは南唐を指す。　・寒色：肌寒い晩秋の気配。秋色。　・暮：第一義的には一日の終わりの夕暮れ。また、秋が深まってゆく一年の黄昏時でもある。

※蘆花深處泊孤舟：蘆（あし）の花が深く生い茂っているところに、（この世の中と隔絶して、）一艘だけになって舟を泊める（と）。　・蘆花深處：あしの花が深く生い茂っているところ。あしは二メートル近くの高さになり、視界を防ぐかのように密生して水際を彩る。その中に、という意味。　・泊孤舟：一艘だけこの世の中と隔絶して、（アシの花の茂みの中に）舟を泊める。・孤舟：ぽつんと一つだけある舟。一人だけで生きている人生の譬喩でもある。　・泊：（舟を）とめる。とまる。舟を一時的に停（と）める場合、また、そこに長時間留（とど）まって泊（と）まる場合の両義がある。ここは、前者の意。

※笛在月明樓：（蘆の茂みに泊まっている）月明かりの下の高殿から笛の音が聞こえてくる。　・笛在：（のびやかでどこか寂しげな）笛の音が聞こえてくる。　・月明樓：月明かりの下の高殿。

◎　構成について
　
　双調。五十四字。平声換韻。この作品の韻式は「AAA　BBB」。韻脚は「春塵人　秋舟樓」で第六部平声と第十二部平声。
　

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●●○○（A韻）。

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○○●●，

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●●○○（A韻）。

●●○○（A韻）。

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●●○○（B韻）。

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○○●●，（B韻）。

●●○○（B韻）。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　