Xin Qiji ci


        辛棄疾詞
辛棄疾詞
       生査子
              題京口郡治塵表亭

悠悠萬世功,
矻矻當年苦。
魚自入深淵,
人自居平土。

紅日又西沈,
白浪長東去。
不是望金山,
我自思量禹。

******

生査子
京口の郡治 塵表亭に題す


悠悠たり 萬世の功,
 
矻矻
(こつこつ)たり 當年の苦。
 
魚は自
(おの)づから 深淵に入り,
 
人は自
(おの)づから 平土に居す。



紅日は 又も 西に沈み,
 
白浪は 長
(とこし)へに東に去る。
 
是れ 金山を望むにあらずして,
    ひと
我 自り 禹を思量すればなり。

      **********

私感注釈


※生査子:詞牌の一。詞の形式名。詳しくは下記の「構成について」を参照。

※題京口郡治塵表亭:京口(現・鎮江)の郡の役所内の塵表亭で詩を作る。 ・京口:地名。現・鎮江市のこと。鎮江市は現・江蘇省の中南部、南京の東70キロメートルの地点で、長江と大運河が交わる地点の長江南岸側にある。(右下地図の長江南岸の都市)。地図上では江寧(=建康)の東に位置している町。三国時代、呉の孫権が都とした所。『中国歴史地図集』第六冊 宋・遼・金時期(中国地図出版社)24−25ページ「北宋 両浙路 江南東路」の丹徒。辛棄疾は嘉泰四年から開禧元年の間、鎮江の知府に任ぜられていた。 ・郡治:郡の政治をする役所(のあったところ)。 ・塵表亭:そこにあった建物の名。不詳。


大きな地図で見る
長江南部が鎮江。中央のやや北寄りに金山寺。


※悠悠萬世功:無窮の功労者(は)。 *最後の句と呼応して、禹の業績と治世を讃えている。禹は、中国の治水を完成させ、国と国民に幸せをもたらした開国の祖。 ・悠悠:遠くはるかなさま。限りないさま。長く久しいさま。悠久の時間の流れ。

※矻矻當年苦:当時、こつこつと努力した。 *ここも禹の業績とその労苦を讃えている。 ・矻矻:〔こつこつ;ku1ku1●●〕励み、努力を積み重ねていくさま。せっせと働くさま。禹の治水に対する労苦のことについて『史記・夏本紀』に「禹傷先人父鯀功之不成受誅,乃勞身焦思,居外十三年,過家門不敢入。薄衣食,致孝于鬼神。」とあり、その労苦の様子を伝えている。 ・當年:〔たうねん;dang1nian2○〕かの年、往年。昔。蛇足になるが、dang4nian2では、別の意味になる。平仄からいっても、ここはdang1のところ。 ・深淵:深い池。

※魚自入深淵:魚は自然と深い池に入っていき。 *『老子』に「魚不可脱於淵」がある。やはりここも禹の治水の業績を讃えている。

※人自居平土:人は自然と平らかな土地で(のどかに)暮らしている。 ・平土:二つの見方がある。一つは、険阻の逆の「平らかな地」であり、もう一つは、「平安な地」である。ここは「深淵」と 「平土」が対句になっており、そこから考えると「平らかな地」が自然か。また『孟子・滕文公下』に 「禹掘地而注之海,………險阻既遠,鳥獣之害人者消,然後人得平土而居之。」とある。ここは、平らかな土地でのどかに暮らしたの意。

※紅日又西沈:紅い夕陽が、またしても沈んでいく=過ぎ行くときの流れに対する感懐である。 ・又:またしても。

※白浪長東去:河の流れは永遠に東に向かって流れる。=真理・大自然の摂理。これは、中国の川は(例外を除いて)全て、 西から東に向かって流れることからきている。北宋・蘇軾『念奴嬌』「大江
東去,浪淘盡、千古風流人物。故壘西邊,人道是、三國周カ赤壁。亂石穿空,驚濤拍岸,卷起千堆雪。江山如畫,一時多少豪傑。   遙想公瑾當年,小喬初嫁了,雄姿英發。註綸巾,談笑間檣櫓灰飛煙滅。故國~遊,多情應笑我,早生華髪。人間如夢,一樽還酹江月。」や李Uの『虞美人』「…自是人生長恨,長東。」や『烏夜啼』の「…恰似一江春水 東流。」などもこれに同じ。

※不是望金山:(わたしは)金山を眺めているのではない。 *わたしは、景色を眺めているのではなくて。 ・不是:これ…にあらず。(…は、)…ではない。 ・是:…は…である。これ。主語と述語の間にあって述語の前に附き、述語を明示する働きがある。〔A是B:AはBである〕。 ・金山:鎮江のそばを流れる長江の(当時の)中州にある山の名。嘗て浮玉といった。現在は土砂の堆積で陸続きとなる(上の地図参照)。金山寺は、京口(現・江蘇省鎮江市)の長江沿岸にある寺院。『中国歴史地図集』第六冊 宋・遼・金時期(中国地図出版社)24−25ページ「北宋 両浙路 江南東路」の丹徒の北寄りの長江沿岸に金山がある。(右上地図の中央北寄りの長江南岸)。

※我自思量禹:(実は佇(たたず)みながら漢民族にとっての古代の聖王である)禹のことに思いを馳せて(我が漢民族の行く末に心を致して)いるのである。 ・思量:思量する。懐かしく思う。 ・禹:堯、舜に次いで王となった漢民族の伝説上の人物で、洪禹水を治めて九州(中国全土)を統治した。漢民族にとって、炎帝・黄帝、堯・舜、等と共に、精神上の建国の父であり、祖先でもある。中原(漢民族の故地)を金に奪われたことから、民族の祖先を思い起こし、祖国の行く末を案じることばである。








◎ 構成について
双調。四十字(前後)。韻式は、「aa aa」。韻脚は「苦土禹去」で、詞韻「第四部上声。(「去」は第四部去声にもある。また現代語でも去声である)。この作品は、標準の生査子と異なる。『漢語詩律学』では、対応する形式のものが見あたらないので「詞譜」をみるが、生査子には別体が多い。一体に似通ったのがあったが、完全に同一でない。この作品は、句の字数からだけいえば、五言律詩(仄韻)になっているように見えるが、平仄や粘法、また用字からみると、近体詩とするのは、完全に無理である。次に一番近い形のものを『詩詞格律綱要』からあげておく。

○○●○,
●○○●。(韻)
●●○○,
●○○●。(韻)


○○●○,
●○○●。(韻)
●●○○,
●○○●。(韻)
                              

***********************
2000. 2. 4
      2. 8
      2. 9
      2.13
      2.14
      2.16完
     11.19補
2001. 1. 2
      4.11
2011. 3.22
     11.12 




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