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我愛山中月,
烱然掛疎林。
爲憐幽獨人,
流光散衣襟。
我心本如月,
月亦如我心。
心月兩相照,
淸夜長相尋。
山中の月
我は愛す 山中の月,
烱然(けいぜん)として 疎林に掛かる。
幽獨(いうどく)の人を 憐れむが爲に,
流光(りうくゎう) 衣襟(いきん)に 散ず。
我が心 本(もと) 月の如く,
月も亦(ま)た 我が心の如し。
心と月と 両(ふた)つながら 相(あ)ひ照らして,
清夜 長(とこしな)へに相(あ)ひ尋(たづ)ぬ。
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◎ 私感註釈
※真山民:南宋の遺民。我が国では『真山民詩集』が翻刻されている。写真は文化十年に平安書肆から出版されたもの。全百六十首載せられている。その内訳は、五言古詩十首、長短句二首、五言律詩六十六首、七言律詩五十三首、五言絶句十首七絶十九首になる。
※山中月:『真山民詩集』では第二丁に『山中雲』『山中月』『山中梅』『山中松』の四首がある。(写真:上)これはその第二番目。表現は似通っており、連作になろう。山中にある『-雲』『-月』『-梅』『-松』を歌うが、「月雲梅松」は倶に隠逸の気節を讃えるものである。山中の風光に託して、自分の心を発露している。
※我愛山中月:わたしは(隠棲している)山の中で(見える)月を愛する。 ・我愛:わたしは…を愛する。前出『山中雲』『山中月』『山中梅』『山中松』の四連作はそれぞれ「我愛山中雲」「我愛山中月」「我愛山中梅」「我愛山中松」から始まる五言四聯の詩。 ・山中月:(隠棲している)山の中で(見える)月。
※烱然掛疎林:光り輝いて、枝がまばらな木の茂みに、かかっている。 *第一聯「我愛山中月,烱然掛疎林」を「我愛(山中月烱然掛疎林)」として「我愛」が第一聯全てにかけて「山中月,烱然掛疎林」(「我は愛す山中の月,烱然として疎林に掛かるを」=我は山中の月が烱然として疎林に掛かるさまを愛する)と読み下すことがある。しかし、この四連作『山中雲』『山中月』『山中梅』『山中松』では第一句「我愛山中雲」「我愛山中月」「我愛山中梅」「我愛山中松」をそれぞれの詩の命題のように出している。ここは第一句だけで独立して読んだ方がよい。文化十年の版本もそうしている。 ・烱然:〔けいぜん;jiong3ran2●○〕ひかり輝くさま。明白なさま。 ・掛:かかる。 ・疎林:〔そりん;shu1lin2●○〕枝がまばらな木の茂み。まばらな林。
※為憐幽独人:ひとり、人目につかずに静かにしている隠棲の人に、(月は)心を動かしてきている。 ・為:ために。 ・憐:あわれむ。心が動かされる。 ・幽独:〔いうどく;you1du2○●〕ひとり、人目につかず静かである。ここでは、隠棲を指している。 ・人:ここでは作者のことになる。
※流光散衣襟:月光(や時代の流れ)は、衣服を纏ったこの身に降りかかり。 ・流光:〔りうくゎう;liu2guang1○○〕月光等が射すことの喩え。また、月日の経つこと。流れてゆく年月。流年。ここは両義。 ・散:ちらす。ふりまく。はなつ。 ・衣襟:〔いきん;yi1jin1○○〕衣服のえり。転じて作者の身上(に降りかかること)をいう。
※我心本如月:わたしの心は、本来、月のようであり。 ・我心:わたしの心。 ・本:本来。もともと。 ・如:…のようである。 ・月:中国の伝統では、月とは運命を問いかけ、家族を思う心の陰翳に働きかけてくるものである。唐・李白『把酒問月』「靑天有月來幾時,我今停杯一問之。人攀明月不可得,月行卻與人相隨。皎如飛鏡臨丹闕,綠煙滅盡淸輝發。但見宵從海上來,寧知曉向雲閒沒。白兔搗藥秋復春,娥孤棲與誰鄰。今人不見古時月,今月曾經照古人。古人今人若流水,共看明月皆如此。唯願當歌對酒時,月光長照金樽裏。」
、李白『月下獨酌』「花間一壼酒,獨酌無相親。舉杯邀明月,對影成三人。月既不解飮,影徒隨我身。暫伴月將影,行樂須及春。我歌月徘徊,我舞影零亂。醒時同交歡,醉後各分散。永結無情遊,相期
雲漢。」
、宋・蘇軾『水調歌頭』丙辰中秋,歡飮達旦,大醉,作此篇,兼懷子由。「明月幾時有?把酒問靑天。不知天上宮闕,今夕是何年。我欲乘風歸去,又恐瓊樓玉宇,高處不勝寒。起舞弄淸影,何似在人間! 轉朱閣,低綺戸,照無眠。不應有恨,何事長向別時圓?人有悲歡離合,月有陰晴圓缺,此事古難全。但願人長久,千里共嬋娟。」
と、多い。
※月亦如我心:月もまた、わたしの心のようである。 ・亦:…もまた。
※心月両相照:わたしの心と月とが照応しあって。 ・心月:わたしの心と天の月。 ・両:両方とも。ふたつながら。 ・相照:照らしかける。照らしてくる。王維の『竹里館』「獨坐幽篁裏,彈琴復長嘯。深林人不知,明月來相照。」詩詞での「相-」は「相互に」の意よりも。対象に働きかけていく用例が多い。
※清夜長相尋:澄みわたった静かな夜に、いつも訪ねてきて(ほしい)。 ・清夜:空気が澄んで静かな夜。月が澄んで静かな夜。涼しく爽やかな夜。
・長:いつも。とこしえに。≒常。 ・相尋:訪ねてくる。
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◎ 構成について
韻式は「AAAA」。韻脚は「林襟心尋」で、平水韻下平十二侵。「人」は韻脚でない。次の平仄はこの作品のもの。
●●○○●,
●○●●○。(韻)
●○○●○,
○○●○○。(韻)
●○●○●,
●●○●○。(韻)
○●●○●,
○●●○○。(韻)
2005.7.18 |
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