遇南廂園叟感賦八十韻 | ![]() |
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呉偉業 |
薄暮難再留, 暝色猶靑蒼。 策馬自此去, 悽惻摧中腸。 顧羨此老翁, 負耒歌滄浪。 牢落悲風塵, 天地徒茫茫。 |
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南廂の園叟に遇ひ 感じて八十韻を賦す
薄暮 再び留まり難く,
暝色 猶ほ靑蒼たり。
馬に策ちて 此自り 去れば,
悽惻として 中腸を摧く。
顧って 羨む 此の老翁,
耒を負ひて 滄浪を歌ふを。
牢落として 風塵を悲しめば,
天地 徒らに茫茫たり。
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◎ 私感訳註:
※呉偉業:明末清初の人。号して梅村。新王朝である清に出仕するも、すぐに退隠する。詩は二朝に仕えた複雑な感情を詠ったものが多い。
※遇南廂園叟感賦八十韻:(明代に南京の国子監にあった建物の一の)南廂の庭園で、(明代から引き続いて居る)庭番の男性の老人に、思いがけなく出逢った感慨を八十聯の詩に詠った。 *これは作者が清朝に仕えたとき、南京に戻ってきた折に、(旧王朝となった明朝の時代に)勤めていた国子監の廃墟を訪ね、そこで、明朝の時代から引き続いて住んでいる庭番のおじいさんに出逢った、その感慨を詠ったもの。これはその最後の七十七韻~八十韻の部分。 ・遇:思いがけなく出逢う。出逢う。逢う。 ・南廂:〔なんしゃう;nan2xiang1○○〕明代、南京の国子監にあった建物の一。国子監司業で、南脇の建物の意。 ・園叟:庭番の男性の老人。男性の老人の庭師。 ・賦:詩を作る。 ・八十韻:八十聯。百六十句のことになる。
※薄暮難再留:夕暮れになってきて、これ以上、(この庭番のおじいさんの家に)留まることは難しく(なってきたが)。 ・薄暮:ゆうぐれ。たそがれ。「薄」はせまる意。 ・難:しがたい。難しい。 ・再:これ以上。その上。
※暝色猶靑蒼:黄昏の迫ったおもむきは、まだなおひきつづいて、深い青々とした色だ。 ・暝色:〔めいしょく;ming2(4)se4◎●〕暗いようす。闇の迫ったおもむき。黄昏のありさま。 ・猶:ひきつづいて。なおも。なおも…ごとし。 ・靑蒼:〔せいさう;qing1cang1○○〕深いあおあおした色。濃く重々しい青い色。
※策馬自此去:馬をむちで責めてせきたてて、ここより立ち去ってゆくが。 ・策馬:馬をむちで責めてせきたてる。 ・策:むちうつ。馬を責めてせきたてる。 ・自此去:ここより立ち去ってゆく。
※悽惻摧中腸:悲しみいたむ思いは、心の奥底を覆っている。 ・悽惻:〔せいそく;qi1ce4○●〕悲しみいたむさま。 ・摧:〔さい;cui1○〕くだく。はばむ。おおう。ほろぼす。おとろえる。かなしむ。進む。〔さ;cuo4●〕まぐさ飼う。ここは、前者の意。 ・中腸:〔ちゅうちゃう;zhong1chang2○○〕はらわた。心の奥底。
※顧羨此老翁:(わたしの心情からは謂えば、)かえって、この(庭番の)老人が羨ましい。 ・顧:かえって。反対に。乃(すなわ)ち。但(ただ)。おもうに。考えてみると。 ・羨:うらやむ。動詞。 ・老翁:男の老人。作者が出逢った南廂の園叟(庭番の老人)のこと。ここでは後出・『楚辭・漁父』に出てくる『滄浪之歌』
、『孺子歌』
を歌う漁父に比している。
※負耒歌滄浪:すきを担(かつ)いで『滄浪の歌』を歌って(社会の変化に順応している)。 ・負:背負う。 ・耒:〔らい;lei3●〕すき。田畑を耕す道具。なお「負耒」は『漁父』では「鼓枻」(後出・紫字)。 ・歌:歌う。動詞。滄浪の歌を歌う。孺子の歌を歌うこと(「世の推移につれて、自分自身の世の中への対応も変えていく」という主旨の歌)を指す。『孟子』の『孺子歌』「不仁者,可與言哉。安其危而利其災,樂其所以亡者。不仁而可與言,則何亡國敗家之有。」有孺子歌曰:『滄浪之水清兮,可以濯我纓;滄浪之水濁兮,可以濯我足。』
孔子曰:『小子聽之,自取之也。』夫國必自伐,而後人伐之。」や、『楚辭・漁父』「屈原既放,游於江潭,行吟澤畔,顏色憔悴,形容枯槁。漁父見而問之曰:「子非三閭大夫與?何故至於斯?」屈原曰:「舉世皆濁我獨淸,衆人皆醉我獨醒,是以見放。」漁父曰:「聖人不凝滯於物,而能與世推移。世人皆濁,何×不其泥而揚其波?衆人皆醉,何不餔其糟而×其×?何故深思高舉,自令放爲?」屈原曰:「吾聞之:新沐者必彈冠,新浴者必振衣。安能以身之察察,受物之××者乎?寧赴湘流,葬於江魚之腹中,安能以皓皓之白,而蒙世俗之塵埃乎?」漁父莞爾而笑,鼓枻而去。乃歌曰:「滄浪之水淸兮,可以濯我纓,滄浪之水濁兮,可以濯我足。」遂去,不復與言。」
(「×」字部分は原ページ参照
)を指す。 ・滄浪:川の名で、湖北省にある漢水の部分名称。なお、「滄浪」という固有名詞の場合の「浪」は○となるが、「なみ」という普通名詞の意味の場合には●になる。蛇足になるが、現代語(北京語)では、前者・固有名詞の場合でも去声になる。
※牢落悲風塵:心がうつろでさびしく、浮き世の兵乱を悲しく(思うが)。 ・牢落:心がうつろなさま。さびしいさま。 ・風塵:〔ふうぢん;feng1chen2○○〕兵乱。浮き世。世間の俗事。わずらわしい物事の喩え。風と塵。砂ぼこり。
※天地徒茫茫:天と地の間の世界は、ただ、いたずらにとりとめもなく広々として遙かであることよ。 ・天地:天と地。世界。世の中。 ・徒:ただ。いたずらに。 ・茫茫:〔ばうばう;mang2mang2○○〕広々として遙かなさま。とりとめもなくぼんやりとしているさま。草などが多く生えて、乱れているさま。
◎ 構成について
2008.2. 8 2. 9 2.11 2.12 |