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急雨初過天宇濕, 大星磊落纔數十。 飢鶻掠簷飛磔磔, 冷螢墮水光熠熠。 丈夫無成忽老大, 箭羽凋零劍鋒澀。 徘徊欲睡還復行, 三更猶凭欄干立。 |
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夏夜寐 ねずして賦する有り
急雨 初めて過ぎ 天宇 濕ほひ,
大星磊落 として纔 かに數十。
飢えし鶻 は簷 を掠 めて 飛ぶこと磔磔 として,
冷やかなる螢は 水に墮 ちて 光熠熠 たり。
丈夫 成る無くして忽 ち老大 となり,
箭羽 凋零 して劍鋒 澀 なり。
徘徊 して睡 らんと欲して還 ほ復 た行き,
三更 猶 ほ欄干に凭 って 立つ。
◎ 私感訳註:
※陸游:南宋の詩人。宣和七年(1125年)~嘉定二年(1209年)。山陰 (現・浙江省紹興県)の人。字は務観。号して放翁。夔州通判、厳州権知事、軍器少監、礼部郎中兼実録院検討、宝謨閣待制などを歴任した。尤袤、楊万里、范成大とともに南宋四大家と称された。祖国を憂うる愛国詩人といわれるとともに、日常の生活をもこまやかに歌い上げた。
※夏夜不寐有賦:夏の夜、寝ないでいて、詩が出来た。 ・不寐:寝ない。 ・有賦:詩ができる。
※急雨初過天宇湿:にわか雨が、たった今、通過したが、大空は(まだ)湿っており。 ・急雨:にわか雨。夕立。=驟雨。 ・初:たった今。 ・過:通り過ぎる。通過する。 ・天宇:大空。天界。天下。都。
※大星磊落纔数十:(その大空には)わずかに数十の大きな星が、ばらばらと入り組んでいる。 ・磊落:〔らいらく;lei3luo4●●〕多くて入り組んでいるさま。石などが多く積み重なっているさま。また、心が広く快活で、小事にこだわらないこと。ここは、前者の意。 ・纔:わずかに。やっと。
※飢鶻掠簷飛磔磔:腹を空(す)かせたハヤブサが軒先をかすめて、チッチッと鳴き声を立てて飛び。 ・鶻:〔こつ;gu3●〕ハヤブサ。クマタカ。また、シラコバト。ジュズカケバト。はと科の鳥の名。 ・掠:〔りゃく;lüe4〕かすめ飛ぶ。「掠簷」で:軒先をかすめ飛ぶ ・磔磔:〔たくたく;zhe2zhe2●●〕鳥の鳴く声。チッチッ。物の音。また、爆竹の音。ここは、前者の意。
※冷蛍墮水光熠熠:冷たい光を放つホタルは、水に落ちて、光は鮮やかである。 ・墮:落ちる。 ・熠熠:〔いふいふ;yi4yi4●●〕光の鮮やかなさま。
※丈夫無成忽老大:一人前の男子が成功することが無く、たちまちのうちに年をとった。 ・丈夫:〔ぢゃうふ;zhang4fu1●○〕一人前の男子。成人した男子。周の制で、一丈を男子の身長としたところから謂う。ますらお。 ・無成:成功することが無い、意。 ・忽:たちまち。 ・老大:年をとる。漢・古樂府『長歌行』に「青青園中葵,朝露待日晞。陽春布德澤,萬物生光輝。常恐秋節至,焜黄華葉衰。百川東到海,何時復西歸。少壯不努力,老大徒傷悲。」とあり、盛唐・賀知章の『回鄕偶書』に「少小離家老大回,鄕音難改鬢毛衰。兒童相見不相識,笑問客從何處來?」
とあり、盛唐・劉長卿の『七里灘重送』に「秋江渺渺水空波,越客孤舟欲榜歌。手折衰楊悲老大,故人零落已無多。」
とある。
※箭羽凋零剣鋒渋:(矢から)矢羽根は落ちて、剣(つるぎ)の切っ先(きっさき)は鈍化してしまった。 ・箭羽:矢羽根。 ・凋零:〔てうれい;diao1ling2○○〕おとろえる。落ちぶれる。草木がしぼみ衰える。 ・剣鋒:〔けんぽう(ほう);jian4feng1●○〕つるぎの穂先。つるぎのきっさき。剣先。=剣鋩。 ・渋:〔しふ(じふ);se4●〕しぶる。とどこおる。もののすらすらと運ばないさま。
※徘徊欲睡還復行:ぶらぶら歩いてから眠ろうとするが、(やはり眠れないので)なおもまた行く。 ・徘徊:〔はいくゎい;pai2huai2○○〕さまよう。うろつく。ぶらぶら歩きまわる。行ったり来たりする。 ・欲:…しようとする。 ・還:なお。まだ。やはり。依然として。持続・未変化の表現。 ・復:再び。また。
※三更猶凭欄干立:午前零時ごろ、欄干に凭(よ)りかかって立っている。 ・三更:午前零時ごろ。「更」は夜間を五等分したもの。三更はその三番目。なお、初更は午後八時前後、二更は午後十時、三更は午前零時、四更は午前二時前後、五更は午前四時前後となる。 ・猶:まるで…のようである。なお。なお…ごとし。 ・凭:よりかかる。もたれる。「凭…立」で:「…に凭(よ)りかかって立つ」意。 ・欄干:てすり。
◎ 構成について
2018.9. 9 9.10 9.11 9.12 |