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漫成 | |
楊維楨 |
西鄰昨夜哭暴卒,
東家今日悲免官。
今日不知來日事,
人生可放杯酒乾。
さこのバー
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漫成
西鄰 昨夜暴卒 を哭 し,
東家 今日 免官を悲しむ。
今日 知らず來日 の事,
人生杯酒 の乾 くに放 す可 し。
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◎ 私感註釈
※楊維楨:〔やうゐてい;Yang2 Wei2zhen1〕元末の文学者。1296年~1370年。維楨とは、楨(もと)を維(つなぎとめ)る意。字は廉夫。号は、はじめ梅花道人、また鉄崖、東維子、鉄笛道人、抱遺老人等。会稽(現・浙江省諸曁)の人。官は建徳路総管推官に至る。元末文壇の領袖で、一代の詩宗とされ、大きな影響力を持った。その楽府は李賀に学び、その艶冶な詩体は鉄崖体と呼ばれた。詩を論じて気の趨くままを強調し、「詩品は人品に異なるなし」とした。音楽・詞曲に精通し、南戯の曲調に改良を加えて「崑山腔」を作った。著書に『東維子文集』、『鉄崖先生古楽府』がある(中国歴史文化事典)。
※漫成:いいかげんにできた詩。現代語にもある。 *この詩、このように現代語に通じる語彙も多いため、そちらの註も加える。これは、気楽に作られた、リズミカルな詩。唐・杜甫の『絶句漫興』に「二月已破三月來,漸老逢春能幾囘。莫思身外無窮事,且盡生前有限杯。」とあるのに、趣が似ている。魏・曹操の『短歌行』「對酒當歌,人生幾何。譬如朝露,去日苦多。慨當以慷,憂思難忘。何以解憂,唯有杜康。」
や陶潜の詩
に多い詩意である。唐・崔敏童に『宴城東莊』「一年始有一年春,百歳曾無百歳人。能向花前幾回醉,十千沽酒莫辭貧。」
がある。
※西隣昨夜哭暴卒:西隣の家では、昨夜、急に死者が出て、(悼み悲しんで)声をあげてないていた。 ・西隣:西どなり。 ・哭:大声をあげて悲しみなく。(感情を露わにして、声をあげて)なく。 *死を悼むのに多く用いられる。 ・暴卒:〔ばうそつ;bao4zu2●●〕急死する。にわかに亡くなる。蛇足になるが、現代語で“暴卒症”は、ポックリ病。 ・暴:にわかに。たちまち。
※東家今日悲免官:東隣の家では、今日(きょう)、官を免職になって、悲しんでいる。 ・東家:東隣。蛇足になるが、現代語では、(召使いに対する)主人(側)の意。 ・今日:きょう。本日、この日。 *この詩では「今日」を「昨夜」と対置して使い、また、後半では「今日」を「来日」と対置して使っている。これらの「今日」の語義の幅は、現代語(現代中国語)や現代日本語に引き継がれているのに同じ。 ・免官:免職になる(こと)。
※今日不知来日事:今(いま)から、将来のことは分かりはしない(ので)。 *「今日不知来日事」は「今日不知来日時」ともするが、この句の七字目に「時」という平韻字を使うということは(仄韻詩は別として、近体詩であるなしに関わらず)極めて珍しい。「今日不知来日事」が自然だ。ただし、この詩は平仄に考慮していない(◎構成について)ようと謂えるが、やはり「時」という平韻字では、極めて稀な例になろう。 ・今日:今、の謂いで使う。ここでは、「来日」に対比させて使う。 ・不知:分からない。 ・来日:将来の日。未来の日。今より後に来る日。 ・事:ことがら。出来事。前出・杜甫の『絶句漫興』「莫思身外無窮事,且盡生前有限杯。」
でもある。
※人生可放杯酒乾:人生、恣(ほしいまま)に、さかづきに注(つ)いだ酒を飲み乾(ほ)していいんだ。 *人生、楽しめるうちに楽しまなければだめだよ、ということ。 ・可:…してよい。…すべきである。…に値する。…べし。また、…できる。ここは、前者の意。 ・放:まかす。ほしいまま。 ・杯酒:さかづきに注(つ)いだ酒。 ・乾:飲み乾(ほ)す。蛇足になるが、「かわく」は、国語(日本語)の歴史的仮名遣いでも「かわく」。 ・杯酒乾:さかづきの酒を飲み干(ほ)して、さかづきが空っぽになる。蛇足になるが、現代語で“乾杯”とは、さかづきの酒を飲みほすことで、中国の宴会では、“乾杯”と言った後、ぐっと酒を飲み干(ほ)し、その後、空(から)になったさかづきを傾けて「ちゃんと飲み乾(ほ)しましたよ」とばかりに、さかづきの底を相手に示し見せることをする。
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◎ 構成について
韻式は、「AA」。韻脚は「官乾」で、平水韻上平十四寒。この作品の平仄は、次の通り。
○○●●●●●,
○○○●○●○。(韻)
○●●○○●○,
○○●●○●○。(韻)
2011.1.17 |
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